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2011年3月15日

南極から

 太平洋のむこうがわの島が大変だという波のたよりを、イワシたちが伝えてくれたので、南極のペンギンたちはおうえんに出発した。
 とちゅうで、おなかがすいたり、子ペンギンがはぐれたり、道にまよったり、さんざん苦労して。
 その島についたら、北極からはシロクマたちが来ていたし、クジラも、ほかの海のなかまもあつまって来た。
 けれど、海岸はゴミがいっぱい浮いてちかよれないし、地面は赤茶けて、あかりは消えていた。
 魚をとる船は、いっせきも見あたらないし、おまけにコンクリートの四角いたてものからは、からだに悪そうな風がふいてきた。
 とても静かだった。
 ペンギンたちは泣いた。シロクマも、ほかの海のなかまたちも、みんな泣いた。
 おみまいにと持ってきたオキアミやイカたちを置いていくから、元気になったら、また船で魚をとりに海においでよ。
 彼らはいつまでも、いつまでも、海から陸地を見つめていた。





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2011年3月14日

希望送付時刻

 悲惨な事故のニュース画面から放たれる光を片頬に浴びながら、私は必死で夫にメールしていた。
 あそこにいるかも。まさか。でも。でも、通じない。
 最後に交わした言葉。今朝、彼が玄関で靴を履いてから「マフラー忘れた。とってきて」と言われたのだ。
 何よ。自分で取りに行けば。あからさまに不機嫌な顔でマフラーを渡し、彼を送り出した。
 どうして、にっこり笑えなかったんだろう。どうして、今日にかぎって、あんな別れ方をしたんだろう。あなたの網膜に焼きついているのは、私のどんな顔?
 突然、携帯の画面が切り替わって、レモン色の光があふれる。
「あなたのメッセージをお届けします」
 送付先アドレス、タイトル。メッセージ。
 そして一番最後にあったのは、【希望送付時刻】という欄。「過去にも送れます?」
 私は、震える指で文字を打った。
「さっきはごめんね。愛してるよ。早く帰ってきて」
 そして、夫の出勤した時刻を入れ、OKボタンを押した。
 携帯をにぎりしめ、突っ伏している私に、どこからか夫のやさしい声が聞こえてきた。
「どうしたの?」
「あなたにもう一度会いたい」
「うん。だから早めに帰ってきた」
 ふわりと空気が動いて、コロンの匂い。私は彼のコートの襟をつかみ、マフラーの温もりに懸命にすがりついた。




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