「セフィロトの樹の下で」
胡桃とセフィロト
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 胡桃はしばし黙り込んで、唇をゆがませようとする力になんとか抵抗していた。

「樹は研究室で何日か泊り込んだあとに、倒れた。
もう全身の細胞が死滅を始めていて、手のほどこしようがなかった。髪の毛が真っ白になって、死ぬ前の日には、百歳の老人のようだった。

弱々しい声で、最後に私にこう言ったの。
『胡桃。泣くな。俺はずっとおまえと一緒にいるから。おまえをひとりにしないから』
それから、2時間ほどして彼は息をひきとった。
私は、葬儀の支度をするために家に戻ったの。今みたいに真っ暗な夜だった。薄明かりの中で、棚に置いてあったこのオルゴールが見えて、青い鳥たちが幸せそうに寄り添っていて……。
嘘つき。一緒にいるって、ひとりにしないって言ったくせに。

私はどうしようもない怒りに囚われて、そう叫びながらオルゴールを床に叩きつけてしまったの。 オルゴールが悪いわけじゃないのに。樹が悪いわけじゃないのに……。自分でも何に怒っているかわからなかった」
「胡桃……」

    (第4章「追憶のリフレイン」より)
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