伯爵家の秘密/番外編


5. 王太子の孤独



(1)

 『王の庭』は、政務に疲れた歴代の王が、人目を逃れて休息を取り、思索に耽るために作らせた庭だ。それゆえ、王のほかは、少数の侍従たちしか立ち入れないことになっている。
 フレデリク三世も若いころから、自然の森を模したこの庭の静けさを、こよなく愛していた。この世のすべてから逃避するために、朝から晩までこもりきりになることもあった。
 それが、どうだ。目の前のこの賑やかさは。
「うわーん、ちちうえーっ」
 飼っている小犬に指をかまれたらしく、一粒種のシャルル王子が、顔をくしゃくしゃにして悲鳴をあげながら駆けてくる。
「おやおや、あなたが耳をひっぱろうとするから、仕返しされるのですよ」
 王妃のテレーズは、動じた様子もなく、ころころと笑っている。
「それくらいで、ぴいぴい泣くなっ。うちのガキは、まだ一歳にもならねえのに、仔馬から落ちるわ、森でクマに遭遇するわ、生傷の絶えない毎日を送ってるぞ」
「それって、あまり人さまに自慢することではないと思いますけど」
 睦まじく言い合いながら草の上に腰をおろしているエドゥアールとミルドレッドの間には、ようやく伝い歩きを始めた幼子が、まとわりついている。
 ラヴァレ伯爵夫妻の長男ジョエルは昨年の夏の終わりに生まれた。父親ゆずりの明るい金髪と、母親ゆずりの薄茶色の目を持つ愛らしい男の子だ。
 遠いラヴァレの谷からの長旅にも耐えられるほど成長し、雪溶けを待ちかねるように、命名の儀のために王都ナヴィルの王宮にあがったのだった。
 そして、もう一組の家族が、この場にいる。昨年秋に花嫁が隣国から輿入れて、記憶に残る壮麗な華燭の典を挙げたリンド侯爵夫妻。まだ17歳の新妻を助けて椅子に座らせる23歳の新郎の姿は、一幅の名画のように美しかった。
 ヒルデガルトのお腹には、すでに新しい命が宿っている。
「計算が合わねえ。もしかして、こいつユルギス産か」
 と、エドゥアールにからかわれてもセルジュは素知らぬ顔を通していたが、ふたりがすでに婚姻の儀の前から片時も離れず慈しみ合っていることは、誰の目にも明らかだった。
「ヒルデ。具合はいかがなのですか。来月が産み月と聞いていますが」
 心配げな王妃の問いに、姫は朗らかに答える。「はい。リンド候領との往復もそろそろ負担になると医者に言われ、出産まで王都の居館で過ごすことにしましたの」
「それがよいわ。侯も、そのほうが安心でしょう」
「はい。離れていると、かえって執務に身が入らぬと申しております」
「ホホ……。さりげなく、のろけられてしまったわ」
 彼らのほかにも、それぞれの従者や侍女たちが入り乱れて、幼な子を追いかけて走り回り、王の庭は下町の居酒屋さながらの喧噪ぶりだった。
「これが……余が長いあいだ無聊(ぶりょう)をかこっていた、同じ庭なのだな」
 感慨深くつぶやくと、隣に座っていたテレーズが「わかっています」とでも言うように片手を彼の手の上に乗せ、にっこりと微笑む。その手を軽く握り返しながら、クライン国王は人々の一点の曇りもない笑顔を見渡した。
 ふと、その中のひとりと視線がかち合った。
 先代ラヴァレ伯爵、エルンスト・ド・ラヴァレ。目立たぬようにあずまやの片隅に座っていた彼は、王をじっと見つめたあと、ゆっくりと白髪まじりの頭を下げた。あたかも、彼とまったく同じことを考えていたと言わんばかりに、両目をうるませて。
 ――このにぎやかで幸福な王の家族の中に、あともうひとりだけ、加わっていてくれれば。
 フレデリクとエルンストが見ていたのは、同じひとりの女性の幻影だった。
 笑顔をふりまきながら、駆け込んでくる可憐な十八歳の少女。
 フレデリクにとっては長い間、この世でただひとつの希望だった。王宮の闇を太陽のように照らしてくれた、かけがえのない妹だった。
 笑い声の満ちている庭から、たちまち音がしりぞく。
 その代わりに、頭の片隅へ追いやっていた思い出が、湖面の泡のように静かに、あとからあとから浮かびあがった。


「お兄さま! フレデリクお兄さま」
 はあはあと息を切らして、侍女のお仕着せの服を着たエレーヌが、庭のあずまやに駆け込んできた。また人々の目を盗んで、窓から抜け出してきたのだろう。
 そろそろ、行儀作法の教師を変えねばなるまい。
「今度は何だ。エドゥアールの新しい話でもできたか」
 読んでいる本から目も上げずに、王太子フレデリクは問うた。
 【エドゥアール】は、エレーヌが昔、可愛がっていたハツカネズミの名だ。ある日、飼っていた籠から逃げ出してエレーヌを大泣きさせたあと、今度は彼女の書く童話の主人公におさまった。世界中を旅しながら、とてもネズミとは思えぬ才覚と腕力を発揮して、悪をくじき、人々を救う大活躍をしているらしい。
 紐で綴じた手作り本は、もう三十数巻に及ぶ。
 エレーヌは片膝を軽く曲げて、おざなりに挨拶すると、息せき切って答えた。
「ただ今、執筆中です。もう少しお待ちくださいませ」
「今度はどこを旅している」
「北の果てです。氷に行く手を阻まれ、背後からは敵が迫り、絶体絶命中ですの」
「いいから、ここにお座り」
 フレデリクがみずからが座していた長椅子の隣をポンと叩くと、エレーヌは素直に指示に従った。
 あずまやにさっと陽光が射して、少女の金髪はそれと同化し、ふわりと形をなくしたように見えた。まん丸に見開いて彼を見つめる瞳は、雲ひとつない澄み切った秋の空のよう。
 自分も同じ血を引いている。同じ色を持っているはずだ。なのに、この明るさと暗さはどうだろう。妹と兄はどこまでも違っている。
「では、何の用だ。何か話したいことがあったから来たのだろう?」
 本を卓の上に置くと、フレデリクはわざと、とがめるような目つきで彼女を見た。
 エレーヌは、もじもじと指でドレスのひだを探っていたが、とうとう白状した。
「あの、明日の祝賀舞踏会に、お兄さまはお出にならないの?」
「舞踏会?」
「侍従たちがたいそう困っています。ギョームが今年の担当なのだそうです」
 ギョームと聞いても、フレデリクの頭には、その者の姿がさっぱり浮かんでこなかった。話からすれば、侍従のひとりらしいのだが。
「それで、出席するように説得してくれと頼まれたのか」
 大臣や侍従たちの中には、偏屈な王太子に接触するのを避け、エレーヌに厄介な頼みごとを持ち込む輩もいるという。
「いいえ、そんな」
 エレーヌはあわてて、せいいっぱい首を振る。
「わたくしはただ、ギョームが困っている顔を見たくなかったのです。とても親切で、いい人なんですもの」
「いい人?」
 フレデリクは鼻先で笑った。
 いい人などがいるはずはない。もし仮にそんな者がまぎれこんだとしても、半年も経たぬうちに暇を取らされて、姿を消しているだろう。
 この王宮では誰も彼もが、敵だ。プレンヌ公爵の息のかかった奴らばかりなのだ。
 冷え冷えとした目で虚空をにらみつける兄に、エレーヌは、三日月の形に整った金色の眉をひそめた。
「ごめんなさい、どうしてもおいやなら、わたくし……」
「わかった」
「え?」
「舞踏会に出よう」
「お兄さま!」
 エレーヌは椅子から飛び上がって、四歳年上の兄の首にしがみついた。「うれしい」
「その代わり、褒美がほしい」
 耳元に小声でささやくと、妹は愛くるしく「はい」とうなずき、彼の頬に唇を押し当てた。
 王太子はエレーヌの小さな顎に手を当てた。そして、従者から見えない位置に自分の身があることを確かめると、絹のドレスの上から、鎖骨に、胸に、そして腹のほうへと、自然な仕草で指をすべらせた。
 妹は、くすぐったさに身じろぎしそうになるのを、ただじっと堪えている。
 十八になり、背丈も伸びたというのに、エレーヌの体には女性らしい丸みがほとんど感じられなかった。胸のふくらみも、ふくよかな腰の張りもない。まるで幼い少女のまま成長が止まったかのように。
 脚の付け根にまで這わせていた指を名残惜しく離すと、エレーヌも首にしがみついていた腕をほどき、兄の顔を見つめた。その瞳に、かすかな不安が生まれている。
 男女のことなど何も知らないはずなのに、今のが背徳的な行為であることがわかるのだろうか。兄妹の親しさの範囲を、完全に逸脱していると。
 だが、次の瞬間、エレーヌは何もなかったかのように、にっこりと笑った。
「お兄さま。舞踏会の出席、約束しましたよ。絶対に気を変えてはだめよ」
「ああ」
「じゃあ、みなに知らせてきます。きっと、とても喜ぶわ」
 勢いよく駆け出していくエレーヌの後ろ姿を見送ると、フレデリクは笑顔を消し、沈黙のとばりの中にもどった。そして、卓の上から本を取り上げ、続きを読むふりをした。
 だがとても集中などできない。妹の唇の感触が頬に残り、熱くたぎる血が体じゅうをめぐっているようだ。
(エレーヌ)
 フレデリクは、どれほど勧められても、生涯妻をめとるつもりはなかった。
 家臣たちは彼の顔を見れば、こう言う。
『近隣諸国と好(よしみ)を結ぶための政略結婚は、クライン王国の次期国王としての義務でございます』
 そして、
『何よりも、お世継ぎを設けなければ、ファイエンタール王朝は絶えてしまいますぞ』
(それこそ望むところだ。ファイエンタールの血統は、わたしの代で絶やす)
 父王であるフレデリク二世が、このことに関して口を差し挟まないのも、彼の思いが理解できるからだろう。それは父の処世術でもあったからだ。
 国の政治には一切関わらない。完全な孤立の中に身を置く。誰とも心を通わせない。生きているのに死んでいるのと同じ生活。
 だが、ただひとり。
 この王宮でひとりだけ、フレデリクには心を許せる者がいた。
 彼と同じ色の髪と瞳を持つ少女。血を分けた妹。エレーヌがそばにいるときだけ、自分の凝った体に血が通うようだった。妹の目を通してだけ、世界は彼にやさしく微笑みかけ、自然界は生命に沸き立つ。
 一度も女性に焦がれた経験のない若者にとって、その気持ちは恋とどこが違っただろうか――たとえ、それが神の教えに背く劣情だと呼ばれようと。
 王太子フレデリクは確かに、妹に恋をしていたのだ。


 王の庭から外に飛び出し、エレーヌは中庭の茂みの中にうずくまって、身をよじりながら大きく息を継いだ。何度呼吸しても、肺が満たされない。
 先ほど兄に与えられた辱めを思いだして、いたたまれぬ気持ちになり、思わず立ち上がろうとした。
 突然、視界が暗くなり、体が前に傾ぐ。
「あ……」
 枝につかまろうと必死で腕を伸ばした。
 その腕を誰かの手が、しっかりとつかんだ。
「だいじょうぶですか」
 声の持ち主は、ぐにゃりと崩れ落ちそうな彼女を背中に手を回して支え、暴力的な太陽から隠してくれる。ひんやりと心地よい影に向かって、エレーヌはうっすらと目を開けた。
(大きな人――)
 軍人だろうか。黒い髪を短く刈って、軍服の色である濃緑色のコートを着ている。
 彼は、彼女の顔を覗き込むと、もう一度「だいじょうぶですか」と訊ねた。
「ええ、ありがとうございます」
 自分の声がひどく弱々しく、どこか遠くから聞こえるようだった。
「失礼」
 彼はコートを脱ぐと、彼女の背中にかけ、あっと言う間もなく軽々と抱き上げた。
 木漏れ日が万華鏡のようにくるくると回ったあと、そっと木陰のベンチに横たえられるのを感じた。
「大至急、医者を呼んできてください」
 通りかかった者に、そう頼む声が聞こえる。命令することに慣れた、深みのある、よく通る声。
 エレーヌは彼の顔を見たいと思ったが、目の焦点が定まらなかった。しばらく、かたわらに無言で立っていた男は、膝をつき、彼女の体をすっぽりとコートでくるんだ。心地よいぬくもりといっしょに、ふわっと森の香りが立つ。
「医者が来ます。もう安心です」
 うなずくと、彼の気配はすっと離れた。コートを残したまま、行ってしまったのだ。
「まああっ。姫さま!」
 女官長のきんきんした悲鳴が聞こえる。その後の大騒ぎは、収まりかけた悪寒をふたたび悪化させるものだった。


「エルンストさま」
 回廊の円柱の陰から、黒衣をまとった金髪の騎士が彼に呼びかけた。
「大事はなかったようですね」
「ああ」
「侍女見習いでしょうか。ひどく幼い少女に見えましたが」
「幼い?」
 ラヴァレ伯爵は騎士を振り返った。ふたりの間に交わされる視線は、身分の隔てを越えた気安さと信頼に満ちている。
「幼いどころか、あれは立派に成熟した女性だよ。アンリ」
「そうは見えませんでしたが」
「晒布か何かできつく体を縛りつけている。あれでは貧血を起こすのも無理はない」
「驚きますね。なぜそんなことを?」
「さあな」
 黒髪の伯爵は、琥珀色の瞳を柱の隙間に覗く青空にたゆたわせた。「何か事情があるのだろう。ひどく思いつめた表情をしていたな」
(この方が、これほどあからさまに女性に興味を持たれるとは、珍しい)
 騎士が心の中でつぶやいていると、「それより」と主は険しい表情で向き直った。
「プレンヌ公への伝手が、ようやく見つかった」
「ほんとうでございますか」
「とりなしてくださるスーリエ侯爵は、プレンヌ公の覚えめでたき方だ。この前のように無碍に追い払われることはあるまい」
 黙りこんでしまった近侍の顔色を見て、伯爵は口元をゆるめる。
「おまえは、どうあってもプレンヌ公が好かぬようだな」
「おそれながら、とうてい好きにはなれませんね。四年の留守のあいだにも、この国のゆがんだ状況はさらに悪化しているようです」
「ティボー公とプレンヌ公の溝も、ますます深くなったというからな」
 ユルバン・ド・ティボー公爵は、陸軍元帥であり、ラヴァレ伯爵が陸軍を退役するときの直接の上官であり、また多くの軍人や騎士に慕われる人柄の持ち主だ。このティボー公とプレンヌ公は従兄弟の関係ながら、昔から犬猿の仲だった。
「だが、私情はこの際捨てねばならん。このクライン王国を実質的に支配しておられるのは、プレンヌ公なのだ。今度のことで協力を仰ぐとなれば、この方しかいない」
 伯爵はゆっくりと回廊を歩き出し、騎士もそれに従う――十四年のあいだに体に染みついた、つかずはなれずの距離。どんな不慮の事態にも対処できるように。
「しかし、共和主義嫌いで有名なプレンヌ公が、リオニアのために協力してくださいましょうか」
「革命政府を転覆させるためと言えば、お気持ちも少しは動こう」
 アンリは、つのる懸念に灰緑色の目を細めた。「公をだますことに、なりはしませんか」
 エルンストは立ち止まり、重々しい声で答えた。「あの方の協力を仰がねば、リオニアの無血革命は、歴史に汚点を残す大虐殺の惨劇に終わってしまう。それだけは絶対に避けたいのだ――たとえ、どんな手段を使っても」
「わかりました」
「とりあえず」
 エルンスト・ド・ラヴァレ伯爵は、生来のおおらかで豊かな表情にもどった。「明日の夜の王宮舞踏会が、公との最初の顔合わせになる」
「舞踏会、ですか」
「面倒くさいことこの上ないが、仕方あるまい」
「はてさて、今回は、何人の女性を捕虜にするご所存ですか」
「人聞きの悪いことを言うな。おまえは明日の夜は暇をとらせる。たまには、息子の顔を見てきてやれ」
「とんでもありません。火の粉のように降りかかる主の女難をはらうのも、近侍の騎士のだいじな務め」
「わたし以上の女難に会っているくせに、よく言う」
 最後は笑いを含んで、軽口を終える。もうすぐ三十歳になる同い年の主従は、しばし、それぞれの思いにふけりながら、歩みを進めた。


 翌日の夜、エレーヌは侍女たちの助けを借り、夜会用のドレスに身を包んでいた。
 選んだのは、子どもっぽい薄桃色。いつものように、首元までレース飾りで隠し、胸と腰には、きつく晒布を巻いている。
 鏡に映った自分の姿を見つめながら、彼女の心は哀しみでいっぱいになる。
(子どものままでいたいのに)
 日々、丸みをおびていく自分の体がいとわしい。おぞましい。どんなに来ないでと願っても、月のものは決まった頃に訪れる。そのたびに、おのれが子を産む者であることを思い知らされる。
(女になど生まれたくなかったのに)
 会場には、きらびやかな礼服をまとった大勢の貴族たちが集っていた。
 今宵の舞踏会は、国王フレデリク二世の誕生日を祝うための祝賀だ。だが、父王は最初の挨拶に顔を出しただけで、すぐに自室に引きこもってしまった。年を取ったせいもあるが、気鬱が年々ひどくなっているのだ。もう何年も、父が王宮の外に出るのを見たことがない。貴族会議にさえ欠席することが多くなったと聞く。
 そして、兄であるフレデリク王太子は、父に輪をかけて公の場所に出ることを嫌っていた。だが、今日は妹の頼みを聞いて出席してくれている。隣の席にいる兄の横顔をちらりちらりと見るたびに、エレーヌは幸福な思いに包まれた。
 この世で一番好きな人。
 兄さえ、そばにいてくれれば、もう何も望みはない。決して、誰かのもとに嫁いだりはしたくない。一生……たぶん一生、兄とともに暮らすのだから。
 会場の空気がさわっと動いた気がした。
 視線をやると、入り口に見慣れぬ黒髪の男性が立っている。背が高く、たくましく、伯爵の礼装に身を包んでいる。
 エレーヌは首をかしげた。誰だったろう。つい最近、会ったことがあるような気がするけれど。
「あの御方は誰?」
 そばにいる侍従に聞くと、「エルンスト・ド・ラヴァレ伯爵でございます。殿下」と答える。
「エルンスト……ラヴァレ伯……」
 ぼんやりとつぶやいていると、その声に引き寄せられたかのように、伯爵が顔をこちらに向けた。
 「あっ」と口の中で叫び、驚愕の表情を浮かべる。
 エレーヌは、彼のまっすぐな視線を受けて、いっそう激しく心がざわめくのを感じた。
「あの方は……もしや」
 大きなホールを隔てて、王女と伯爵が互いに見つめ合っていることを、舞踏会場に居合わせた人々は誰も知らない。ただ、王太子フレデリクの刺すような目だけが、ふたりを貫いていた。




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