2011年10月31日

ハロウィン小話(5)

ああっ。もうあと7時間を切りました。ハロウィン早書きタイムレース(違)。
こうなったら、できるだけがんばります。
次は新連載の「ご主人さまのお好きなレシピ」からです。まだ本編では主人公の正体を明かしていないのに、ネタバレになりそうなのですが…。

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「ご主人さま。今日は何の日かご存じですか」
 私はにっこり笑って、特大のアップルカスタードパイを食卓にでんと置いた。
「ハロウィーンです。またの名を万聖節前夜。アイルランドで発祥し、アメリカ合衆国で国民的行事となったお祭りです。人々が思い思いの仮装をし、『お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ』でおなじみの、あの日です」
「そなたの場合は、『お菓子を食べてくれなきゃ、いたずらするぞ』であろう?」
 相変わらずの皮肉めいた笑いを口元に浮かべて、ミハイロフ伯爵さまは、せっかくの私の朝からの労作を完全無視し続けている。
「まあ、よくおわかり。だったらどうぞ思う存分召し上がってください」
「ちなみに聞いておこう。ルカ。そなたのいたずらとは、どんなものかな」
「え? ええと」
 ……考えてなかった。
 ご主人さまは立ち上がった。
「万聖節はカトリックの典礼暦で、すべての聖人と殉教者を祭る日。そして、その前夜には悪霊と精霊が解き放たれると言われている」
 私のほうにゆっくりと近づいてくる。蜀台の明かりのせいなのか、唇は血で濡れたよう、髪は銀色の月を映したように見える。
「生者でもなく死者でもない、呪われた者たちの祭り。暗闇にまぎれ、その穢れたはらわたの欲望を心ゆくまで満たそうとする夜に、そなたは俺に何のいたずらをなそうと言うのだ?」
「いえ、いえ。わたしは別に――」
 ご主人さまは私の前に立つと、私の首筋に顔を寄せた。
 チクリと小さな痛み。
「十月も末だと言うのに、まだ蚊が飛んでおったぞ」
 眉間にしわを寄せて、ご主人さまは、小さなものを指でつまみあげた。「地球が温暖化しているというのは、本当らしいな」
 私が呆然としている隙に、ご主人さまはさっさと食堂を出て行った。
「あーっ。また、逃げられた!」
 結局、ご主人さまのいたずらのほうが、一枚上手だ。まるまる残ってしまったアップルカスタードパイを見下ろして、私はため息をついた。
「来栖さん。いっしょに食べてくださいよう」
 ちょうど出勤してきた通いの執事に、私は懇願した。
「おや、榴果さん、首筋が赤くなっていますよ」
「蚊にかまれた痕です。ご主人さまが取ってくださいましたけど」
「ほう」
 来栖さんは、意味ありげな声を上げて、静かに笑ったように見えた。