2012年5月20日

 SPEEDIの隠匿が問題になった際、放射能を煙のように可視化すれば大本営発表に騙されないのにと多くの人が思ったことだろう。
 それから三十年、ついに研究は実り、透明無臭の危険ガスが次々に有煙化された。放射能は発見者の名前にちなんでキュウリ色、一酸化炭素COはコバルト色だ。それ以来、煙に色を付ける事が流行った。もちろん屁に色が付いたが、それだけは新しい習慣を生んだ。
「ねえねえ、あの狐色、なんだか生活力がありそうじゃない?」

 煙草も、アイディアをこらした新製品が続々と発表された。
「この色はどうかね」
目の前を金色の煙が立ち上っている。なんでも、禁煙すると煙の色が金色にかわるのだそうだ。
『先生、金煙というしゃれは分かりますが、そもそも禁煙したのなら煙は立ち上らないのでは』
「いや、これは煙ではないのだよ。禁煙を決意した『息込み』さ」

 もっとも、悪い奴はいるもので、可視化技術を逆手に取って、今まで見えていた煙を無色にする技術が開発された。膨大な有害物質の処理費用に悩んでいた企業が、有害物質を海と空にまき散らす事で膨大な利益をあげたのも不思議はない。かくて透明化が流行した。影響は入浴シーンにも及んだ。
「番組打ち切り!」
温泉の湯煙すら消えてしまったからだ。

 煙の透明化は物語の世界も変えた。浦島の玉手箱から煙は出なくなり、アラジンのランプに至っては魔神までも透明になってしまったからだ。そして、いま綴っている、このお話も。

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第111回タイトル競作参加作品です。サイトにアップするにあたって、改稿しました。元のバージョンはこちら(煙9)

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