2012年8月20日

読書の残骸

 どうしても眠れないので、本を読むことにした。
 はらり。
 ページを繰る音が好き。一枚めくるたびに、違う世界へ行けるような気がする。過去あるいは未来へ。それとも、どこにもないステキな場所へ。
 けれど、今はその恩恵も受けられない。

 昨日、電車の中で偶然智哉と再会してからずっと、三年前のあの地獄のような日々のことが頭を離れない。
 彼を愛していた。同時に彼を恐れてもいた。だから、ああいう手段で逃げるしかなかった。
 けれど、挙式二週間前の突然の失踪という無責任きわまりない行動の結果、智哉と彼の両親、まして当事者である私の両親は、どれほど招待客に頭を下げて回っただろう。どれほど周囲の好奇と非難の目に耐えなければならなかっただろう。
 私のしたことは今でも、私の一番大切だった人たちを苦しめている。

 地図も道標もない迷路から抜け出すために、またページを繰る。
 この三年間、私の生活は彩音で満たされていた。彼がいれば何も怖いものはなかった。なのに、今の私はすっかり穴だらけになって、すきまからどんどん昔なじみの苦い思いが染み込んでくる。
 そのたびに、私の一部が雲母のように剥がれ落ちていく。
 はらり。
 はらり。


 「CLOSE TO YOU 第4章」
 お題使用。「瓢箪堂のお題倉庫」http://maruta.be/keren/3164

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