2012年9月26日

第31回阪神女性の集い

キリスト教会、特にプロテスタントと言えば、漠然と「多くの教派に分かれて争っている」というイメージをお持ちの方も多いと思います。
実際に、多くの教派に分かれてもいるのですが、それは争った結果ではなく、むしろ自由さのゆえであると感じます。つまり、人間にも、外向的内向的など多くの性格があるように、教会にも多様性があるということです。

幕末以降、日本に入ってきたキリスト教の宣教師たちは、英国、米国などそれぞれの国に属する団体から遣わされていたために、礼拝のスタイルには、民族の性格や歴史が色濃く表れました。
第二次世界大戦のときは、無理やりひとつに統合され、治安維持法のもと国家の弾圧を受けましたが、戦後になると、ふたたびいくつもの団体に分かれました。
しかし、分かれているからと言って互いに争っているわけではなく、ときには協力し、交流をもちます。

その典型的な例が、今年で31回を数える「阪神女性の集い」です。阪神間六市の、50近いプロテスタント教会が分担協力して、毎年十月に、誰でも参加できる音楽と講演の集会を開いています。

これまでは、各地から有名な講師を招くことが多かったのですが、今年は、48年のあいだ西宮の地で伝道してこられた下條末紀子先生(活けるキリスト一麦西宮教会 主任牧師)を講師として迎えます。
地元出身の講師ということで、準備の集まりにも熱がこもります。

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案内のチラシです。画像は、一麦教会のホームページからお借りしました。

BUTAPENNは、今年も聖歌隊として参加します。お近くの方、よかったら覗いてみてください。



第31回阪神女性の集い
日時:10月4日(木) 午前10:15から12:00まで
会場: 芦屋市民センター・ルナホール
  阪急芦屋川駅下車南へ徒歩約7分、JR芦屋駅下車西へ徒歩約6分、阪神芦屋駅下車北へ徒歩約7分

講師: 下條末紀子先生(活けるキリスト一麦西宮教会 主任牧師)
音楽ゲスト: デュオ・フィリア(マリンバアンサンブル)
主催: 阪神協力キリスト教会
手話通訳、託児もあります。入場無料(席上自由献金あり)

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2012年9月21日

「本のまくら」マイバージョン

少し前に、紀伊国屋書店の新宿本店で「ほんのまくら・書き出しで選ぶ100冊」フェア、別名「本の闇鍋状態」と題した企画が催されたことをご記憶の方も多いと思います。

本に、「まくら」(=出だしの文章)のみをプリントしたオリジナルカバーをかけ、本の著者もタイトルも分からず、客はカバーに印刷された文章だけをたよりに購入するという試みでした。
さすがに著名な作品ぞろいだけあって、ぱっとわかるものもあれば、出だしだけではわからないよというものも多いです。

ツイッターでも、ひところその話題で持ちきりでした。
いまさらの感はありますが、遅ればせながら、わがサイトの長編小説の「まくら」を集めてみました。

これで、何の小説かすべて当てられた方は、ABOUNDING GRACE通。と言っても、人生で何も得なことはないのですが。


それでは、いきます。


★ 春は引越しの季節。

★ 何と表現すればいいのだろう。 彼を見たときの私の驚きを。

★「地球にようこそ。こちら、クシロ航宙ポート管制ステーション。白鳥管制官です」

★ それは、なんとも奇妙な三人連れだった。

★ うらぶれた街のうらぶれた路地で、俺は死んだ。

★ どれくらい逃げ続けただろうか。

★ 大陸を貫くラトゥール河に面した交易の町ポルタンスは、水路の町として知られている。

★ さびしい……。 いとしい……。 にくい……。

★ 冬の青空にむかって伸びている巨大なノズルの先が、もわりと透明な湯気を吐き出している。

★「たとえ何千年、何万年かかったとて、必ずおまえに復讐してやる。精霊の女王」

★「今のところ、紹介できるのは、これだけかな」


        答えは、「続き」をクリックしてください。

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2012年9月 6日

CLOSE TO YOU第4章あとがき

「夏休み企画」と題しておきながら、すっかり9月にずれこんでしまいましたが(あ、でも、大学生はまだ休みだよね)、やっとどうにか「CLOSE TO YOU」の第4章が完結しました。
まず、すばらしいお題を提供してくださった、ひょーたんさんにお礼を申し上げます。
数年前に、このお題を三里さんのブログで最初に見たとき、都市に関するお題がいくつかあったので、ちょうど考えていた彩音のニューヨーク滞在編に使いたいなと思っていたのですが、なかなか果たせずにいました。

「彩音がニューヨークで新作の絵に熱中するあまり、琴音さんのことを忘れてしまう」という大筋は、そのときから決まっていたのですが、そのドキドキ感を表わすようなお題もあって、それをどうストーリーにはめこむか。ジグゾーパズルのような楽しさがありました。

版画に関しては、西宮にある版画家・笹倉鉄平の美術館に二度ほど通いました。A.P.や、P.Pの意味についても館員の方に親切に教えていただきました。
すっかりシルクスクリーンものを透明な美しさに惚れ込んでしまい、一枚買いたいなと思っているところです。私にとってはかなり高い買い物になるので、二年計画くらいでがんばります。

アンジーとのキスシーンの回では、彩音に轟々たる非難をいただきました(笑)。
みなさん、やはり浮気がお嫌いなのだなと思いました。もちろん私もですが。
実は、わがサイトの小説には、ヒーローがヒロイン以外の女性に言い寄られる場面が、とても多いのです。一作品に一回は出てくるのではないでしょうか。
でも、言い寄られて多少は心が揺れるものの、きっぱりと拒否する。時には相手への気遣いも忘れない。これが私的には、萌えポイントなのですね。

恋をしても結婚しても、異性との接触はあります。まったく誘惑がないというのは現実的なことではありません。魅力的な男女である限り、誘惑、互いへの疑惑や嫉妬とは、決して無縁ではいられないでしょう。
そういう葛藤にどう対処するかに、人間の本性が試されるのだと思います。

彩音も、まだ二十歳になったばかり。今回の過ちは赦していただいて、これからに期待してくださいますように。いつか、また第五章でお会いできればうれしいです。

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暁の真ん中で

 部屋に入ったとたん、なつかしい匂いに包まれた。
 甘やかな、琴音さんの匂い。俺はようやく、自分の居場所に帰ってきたんだ。
「疲れたー。もう飛行機なんか、二度と乗らねえ」
「はいはい。とりあえず、ご飯にしようか。受賞祝いのご馳走よ」
 台所に立とうとする彼女を、俺は引き戻して、背中から抱きしめた。
「ただいま」
 記憶にあるより細くて小さな体に愕然とする。琴音さんは、この一カ月でこれだけ痩せたんだ。
 電話の向こうの泣きそうな声を思い出す。俺はちゃんとその声を聞いたはずなのに、頭の隅に追いやった。絵に夢中になって、大事なことを忘れていた。
 一生離れないって約束したのに、俺は約束をやぶった。琴音さんがいなければ生きていけないのは、俺のほうなのに。
「ごめん」
「彩音。泣いてるの?」
「ひとりぼっちにして、ごめん」
 彼女の良い香りのする髪にキスした。存在を確かめるように、うなじを幾度もたどった。
「いいの、ちゃんと帰ってきてくれたから。それに」
 琴音さんは背中をのけぞらせ、両手を伸ばして、俺の髪をくしゃくしゃに乱した。
「ふたりでいるときは、全然回りを見ようとしていなかったのだと思う。面倒なことは全部うやむやにして放っておいて、そのツケが、いっぺんに押し寄せてきた感じの一ヶ月だった。でも、ひとりで問題に立ち向かうために、私には必要な時間だったの」
 彼女は魚みたいに体をするりとひるがえし、俺をまっすぐに見上げて毅然と、女王のようにほほえんだ。
「彩音。おかえりなさい」

 俺たちはそのまま体を重ね、琴音さんの用意したご馳走を腹いっぱい食べて、それでも満たされない飢えを満たすために、もう一度体を重ねた。
 琴音さんの寝物語は、何度も俺を崖の底へと突き落とした。
 たとえば、智哉に電車の中で偶然会って、昔話がはずんだこととか。ご両親と和解して、久しぶりに実家に帰った席で、結婚は当分しないと宣言したこととか。
 俺はまだまだ、智哉の幻影に勝てない。結婚にふさわしい男じゃない。暗黙のうちに、そう宣言されているようだった。
 琴音さんの心と体を完璧に自分のものにするまで、俺はあとどれだけ崖をよじのぼり続けることになるんだろう。

 夜が明けるころ、旅の荷物を開けた。
「ニューヨークって、何もないところなんだ。踏切もないし、飛行船がビルのてっぺんに引っかかって、ときどき落ちてくるし」
 俺は持ち帰った版画を取り出し、体を椅子がわりにして、彼女を座らせた。
「でも、この朝焼けを見たとき、これだけは絶対に琴音さんに見せたいと思った」
「きれい」
 と琴音さんは、うっとりとため息をつきながら丹念に見てくれる。「自分で見るよりも、彩音の目を通して見たほうが、きっと何倍もすてきよ」
 ああ。俺のこの絵は、やっと今ここで完成した。
「いつか、本物のセントラルパークを、いっしょに見に行きたいな」
「さあ、いつのことかしら」
「いつだっていい。俺たちは一生いっしょなんだから」
 琴音さんは、俺の腕の中にゆったりと身を預けた。「うん、一生いっしょだね」

 俺は彼女の手の甲に口づけてから、版画にサインするように、指文字を書いた。


            『Zion/K   1/1』


 「CLOSE TO YOU 第4章」
 お題使用。「瓢箪堂のお題倉庫」http://maruta.be/keren/3164

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2012年9月 5日

第5回ファンタジー大賞ご紹介

夏休み企画があと一回で終わるというときに、ぶったぎって申し訳ないのですが、ここで、9月1日から始まった「アルファポリス第5回ファンタジー大賞」の記事をはさみます。
BUTAPENNは今回参加していないのですが、お知り合いの方がたくさん参加していらっしゃるので、せめて、ここでご紹介することで応援させていただこうと思います。

相互リンクの方はもちろんですが、過去の企画でご一緒しただけ、ツイッターでフォローさせていただいているだけという片思いの方も含みます。もちろんペンフェスに参加してくださった方も、せいいっぱい応援したいと思います。

ページ移動するたびに順位が入れ替わるので、かなり見落としもあるかと思いますが、気が付いたら追加していきます。
なお、ご紹介は、お名前のアイウエオ順です。タイトルからリンクしています。


加上鈴子さん
海女神 ムイ・ヤハィタ」 ファンタジー長編 連載中 
【内容】海(ムイ)には人間を脅かす、化け物が棲んでいる。王子の願いは化け物の殲滅、海の平和である。が。

勇者で候」 ファンタジー長編 完結
【内容】異世界の、しかもマッチョな爺に取りついちゃったデブオタニート珍道中、トホホな完結でございます。おまけ話いっこ追加。


鹿の子さん
ブライド」 ファンタジー短編 連載中 
【内容】天使のティムは、とある事情から悪魔のバートンにお金を借りた。そしてその返済のために、自らも高利貸しを生業とすることに。


GBさん
天穹に詩う」 ファンタジー短編 完結 
【内容】癒やし手見習いの娘が出会ったのは、落ちこぼれの魔術師だった。

夜風は囁く」 ファンタジー短編 完結
【内容】ひょんな事から礼拝堂の屋根に登る羽目になった警備隊員が、そこで見たものは。


小高まあなさん
調律師」 ファンタジー長編 完結 
【内容】人外と人の間を調律する“調律師”沙耶に助けられ、一目惚れした龍一。でも沙耶には龍が憑いていて封じるため記憶が必要となる。

ひとでなしの二人組」 ファンタジー長編 連載中
【内容】神山隆二が拾ったのは、自称記憶喪失の幽霊少女だった。そして、その幽霊には秘密があって。現代オカルトファンタジー。


Julesさん
Paradise FOUND」 ファンタジー長編 連載中 
【内容】王に命を捧げると予言された少女と、冷徹なその王。決して相容れるはずのない二人の不器用な恋の行方。

太陽と月の終わらない恋の歌」 ファンタジー長編 連載中
【内容】夜を駆ける謎の義賊、『黒の怪盗』と、彼に拾われた少女マノンの繰り広げる、年の差プラトニック純愛活劇。


招夏さん
魔緑幻話―Maryoku Genwa―」 SF短編 完結 R15 
【内容】突然勃発した植物の爆発的増殖は、首都圏を中心として同心円状に拡大していった。街を呑みこむ緑の津波。一体何が起こったのか…


スイさん
蒼穹、その果て」 ファンタジー長編 連載中 
【内容】領主一族の少年橘雪瀬は手負いの少女を拾う。無表情・無知・拙い言葉の少女は逃げ出してきた帝の夜伽であった。和風恋愛FT。

ユグドラシル」 ファンタジー長編 連載中
【内容】「あなたは私のものなのよ」名無しの青年と、彼を拾った勝気王女ルノの織り成す西洋主従FT


鈴鹿美雪さん
猫耳巫女はオオカミ男とお受験します」 ファンタジー長編 連載中 
【内容】現代で高校生をやっている猫神社の跡取り、猫又少女の曜子と、絶滅危惧種の人狼こと仁さんのお受験の日々


芹沢優希さん
封印の守護皇家・1 真実は全て闇の中」 ファンタジー長編 完結 R15
【内容】神の血を引くアウストレイラ皇国の新皇帝アレクサーはヴィゼット公国のフィアナ公女に求婚。だがそれは謀反のきっかけになった

封印の守護皇家・2 闇に生きる者たち」 ファンタジー長編 連載中 R15
【内容】帝の命を狙う動きあり──帝を影から守護する御所忍びと、他国の忍びが人知れず戦いを繰り広げる。

失われた記憶」 SF短編 完結
【内容】その少年は空から突然現れ海に落ち記憶を失った。少年に接触する謎の美少女は、驚くべき事実を告げた─。5/12 最終話 更新


茶林小一さん
バブルダイバー」 SF長編 完結 
【内容】ロボット海洋SF冒険譚。海に沈んだ世界。残された者たちは生きるため、着繰身(シェラフ)と呼ばれる潜行艇を身につけ深海へ潜る。


tomoyaさん
二輿物語」 ファンタジー長編 連載中 
【内容】「おまえたちは俺が怖いのか」悪魔と呼ばれる王子と政略結婚することになった世間知らずの姫様。最初は彼を拒絶しましたが……


ぷんにゃごさん
ビースト・ラヴァー 野人の恋人」 SF長編 連載中 R18  
【内容】近未来の異世界。見た目はやや派手だけど真面目な研究者の娘と野人との、異種間の恋と冒険! SF要素は薄いです。


ページのPさん
これが出会いのチャンスですか?」 ファンタジー短編 完結 
【内容】彼氏いない歴=年齢の20代女子。占い師のお告げに従ってみたらとんでもないことに。見料返せ。

護符」 ファンタジー短編 完結 R18
【内容】【R18】女が護符に込めた願いとは。異類婚譚風の薄暗いファンタジーです。原稿用紙19枚で完結。


モギイさん
モギイ童話集」 ファンタジー短編 連載中 
【内容】『童話』と呼べるほど子供向きではありませんが、民話をモチーフにしたお話や、作者が気ままに創作したお話を集めてみました。


由紀さん
月の白さを知りてまどろむ」 ファンタジー長編 連載中 
【内容】神話を継承する享楽街。妓館の主でもある巫女と外から来た剣士の出くわす事件譚。和洋異能ファンタジー。


吉田和代さん
バディ・システム」 SF長編 連載中 
【内容】ブライアンの計略で護衛任務を引き受けざるを得なくなったエリニュスたち。その裏で暗躍するテロリストたちは……

ノルグ村の吸血鬼」 ファンタジー長編 連載中 
【内容】お人よしなアーレンの前に現れたのは武闘執行官のマイア。彼女の目に映るのはお人よしな吸血鬼だった!?

ガンダールヴ」 ファンタジー長編 完結
【内容】永遠の新人と揶揄される闘剣士のクレイは、最後の望みをかけて「魔法を使わない魔法使い」に会いに行くが……

咎人は腕を広げ」  ファンタジー長編 完結
【内容】奇跡の魔術師の弟子であるリンデ。しかし奇跡の魔術師は、すべてを裏切る行動に出る。残された弟子たちは師を討つ覚悟をする。

星宿照らす道なれど」 ファンタジー長編 完結
【内容】維摩皇国にやって来た吟遊詩人のタツキ。傭兵集団炎儀団の蓮華たちとタツキは再会を果たす中、意外な人間を匿うことに!?

ロード・オブ・ヘブン」 SF短編 完結
【内容】イヴァンが国境警備隊として初めて配属された場所は国道326号線国境検閲所。通称ロード・オブ・ヘブンと呼ばれる場所だった。

幻影綺譚1 光神子」 ファンタジー
【内容】素質だけはあるのに、おちこぼれ状態の光神子候補の陽雲は、最後の望みを託して降臨の儀に挑もうとするが……

ウィズ・ロボット」 SF長編 完結
【内容】手先の器用なフェイが、人間の女の子そっくりのアンドロイドを拾った日から、フェイの周りでは様々な事が起こり始めて……


綿子さん
宮廷舞踏会 -芙蓉-」 ファンタジー長編 完結 
【内容】東方王宮総取締役として東方王宮に入宮した芙蓉。逸材と名高い王宮人達に悪戦苦闘しながら、彼女は宮廷で独自の地位を築いていく

MAGNA MATER (マグナ・マター)」 ファンタジー長編 完結
【内容】モンスターが蔓延る〈バイオ〉と、守護者に護られた〈ノウア〉二つの星の狭間で、彼女達の覚悟の真価は問われる




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2012年9月 4日

増殖する愛

『琴音さん、今ニューヨークの空港に着いたところ。愛してる』
『今、成田に着いた。すぐ電車に乗るから、あと一時間。愛してる』
『機内食、ゲロまずかった。琴音さんの作ったご飯が死ぬほど食べたい。愛してる』
「愛してるの大安売りだね。版画だって、印刷枚数が多いと、それだけ値打ちが下がるんでしょう?」
『限定枚数一枚、絶対にそれ以外は刷らないから』
「あ、そうそう。新作の版画を全部向こうの工房に譲ったって聞いて、若林さん悲鳴あげてたわよ。工房には、別刷りを渡す契約になってるんだって」
『あー。そういえば、P.P.(プリンターズプルーフ)っていうのにサインした』
「すぐにニューヨークに飛んで、取り戻してくるって。彩音、そういうの、もっと慎重にならなきゃダメだよ」
『どうでもいい。琴音さんさえ、そばにいてくれれば』
「調子いいんだから」
『愛してる、愛してる、琴音さん、愛してるーっ!』
「ちょっと待って……そこ、どこ?」
『東京駅のど真ん中』


 「CLOSE TO YOU 第4章」
 お題使用。「瓢箪堂のお題倉庫」http://maruta.be/keren/3164

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2012年9月 2日

最後の楽団

 工房へ入ると、アンジーとドルーが製図台にもたれ、抱き合ってキスしていた。
 ああ、そうなんだと思った。そう言えば、最初にドルーが言ってたっけ。
『サイオン。僕たちの女神、アンジーを紹介するよ』
 彼女は、ここにいるみんなの女神だったんだな。
「俺、今夜の飛行機で東京に帰ることにした」
 彼女は俺を見て、困ったような顔をした。
「まだ絵の引き渡しはできないよ。乾くのに、しばらくかかるから」
「一枚だけ、持って帰れればいい。あとは全部、きみにあげる」
 俺は、ナンバー1と書き入れた版画を見つけ出して、慎重に梱包して、バッグにしまいこんだ。
「世話になった」
「さよなら」
「元気でな。サイオン」
 彼らの声は、ひどくよそよそしく、他人めいていた。俺はもう彼らの仲間じゃない。
 あれほど笑い合い議論し合い、活気に満ちて輝いていた工房の中は、朝の光の中で妙に白っぽく色あせて見えた。
 ミューズたちのかけた魔法は、解けたのだ。もうこの街に、俺を引き留めるものは何もない。
「じゃあ」
 オーケストラの最後のひとりがステージから降りるように、俺は静かにドアを閉めた。

 「CLOSE TO YOU 第4章」
 お題使用。「瓢箪堂のお題倉庫」http://maruta.be/keren/3164

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