2012年6月26日

「500文字の心臓」正選王をいただきました

「ぶた仙」名義で、山仙さんとの共作を「500文字の心臓」に投稿し始めて、はや数年(←何年か調べないヤツ)。
ついについに、正選王をいただきました。
今まで二度ほど逆選王をいただいていたのですが、正選王は初めてです。

ちなみに、「500文字の心臓」のシステムを知らない方に説明すると、
参加者は、共通のお題に基づいて500文字以内の作品を匿名で書き、読者は選評掲示板において選評とともに記名投票を行ないます。
正選は「もっとも良いと思う作品」に投じるもので、○でふたつ。あるいは◎をひとつでも可(◎は二点と数えられる)。
逆選は「もっとも悪いと思う作品」に投じるもので、×がひとつのみ。
次点は△で最大二つ。
このシステムの面白いところは、逆選は正選に次ぐ栄誉だとたたえられることで、逆選王はお題案を提示し、正選王がその中から次回のお題を決定するという権限を、それぞれ賞として与えられます。

で、今回「ぶた仙」は「鈴をつける」というお題の作品で、○5、△1 ×0をいただきました。
もうおひとり、○5、△1、×1を取られた方がいましたが、同数ならば逆選の少ないほうというルールにより、わたしどもが正選王を得ることができました。

受賞作品を掲載します。
すでにペンギンフェスタで頭がいっぱいだったことがよくわかります。


***

「鈴は可愛い生き物がつけるものと相場が決まっている。もっとも、それは地上を移動する対象に限られ、魚や鳥は対象外だ。ペンギンはどうなのか? それが私の実験動機だ」
 黙々と歩く彼らから、雪片が体の動きに合わせて零れ落ちる。しゃらしゃらと。
「黄色い識別リングの代わりに、ちろちろと」
 生死をかけた行軍には、およそその軽やかな音色は似合わない。
「ヨチヨチ歩くたびに、楽しげな音が聞こえてくる」
 身体をすり合わせ、互いの体温でわずかな暖を取る。零下60度の吹雪の中では呼吸すら困難だ。立ち止まるな。さもなくば死。個の死、子孫の死、種族の死。意識が遠のくたびに、高く鋭利な音色が、倒れずに歩けと鼓舞する。
「やがて、音が海に飛び込む。ちろりん、ちろちろ。餌を求めて、矢のように泳ぐ、泳ぐ、泳ぐ」
 嵐が止み、太陽の昇らない空から星くずが零れ落ちる。しゃらしゃら。沈黙の中で響くのは、
「南極海は、何千、何万もの天上の音色に満たされた。時速十キロの高速が作り出す奇跡」
 清かな鈴の音。


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このブログでおこなっていた「500文字作品短編・中篇化」構想ですが、投票いただいた結果、「水溶性」がトップ、「ドミノの時代」「天空サーカス」が次点で、このうちから、山仙およびBUTAPENNがリライトすることになりました。
ペンフェスに掲載する予定ですので、しばらくお待ちください。

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2012年5月20日

 SPEEDIの隠匿が問題になった際、放射能を煙のように可視化すれば大本営発表に騙されないのにと多くの人が思ったことだろう。
 それから三十年、ついに研究は実り、透明無臭の危険ガスが次々に有煙化された。放射能は発見者の名前にちなんでキュウリ色、一酸化炭素COはコバルト色だ。それ以来、煙に色を付ける事が流行った。もちろん屁に色が付いたが、それだけは新しい習慣を生んだ。
「ねえねえ、あの狐色、なんだか生活力がありそうじゃない?」

 煙草も、アイディアをこらした新製品が続々と発表された。
「この色はどうかね」
目の前を金色の煙が立ち上っている。なんでも、禁煙すると煙の色が金色にかわるのだそうだ。
『先生、金煙というしゃれは分かりますが、そもそも禁煙したのなら煙は立ち上らないのでは』
「いや、これは煙ではないのだよ。禁煙を決意した『息込み』さ」

 もっとも、悪い奴はいるもので、可視化技術を逆手に取って、今まで見えていた煙を無色にする技術が開発された。膨大な有害物質の処理費用に悩んでいた企業が、有害物質を海と空にまき散らす事で膨大な利益をあげたのも不思議はない。かくて透明化が流行した。影響は入浴シーンにも及んだ。
「番組打ち切り!」
温泉の湯煙すら消えてしまったからだ。

 煙の透明化は物語の世界も変えた。浦島の玉手箱から煙は出なくなり、アラジンのランプに至っては魔神までも透明になってしまったからだ。そして、いま綴っている、このお話も。

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第111回タイトル競作参加作品です。サイトにアップするにあたって、改稿しました。元のバージョンはこちら(煙9)

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2012年5月19日

K

「古き絵や 逢わず
         −K」
 空き巣の残したメッセージはそれだけだった。いや、怪盗というべきか? というのも、大学生の娘の部屋に入った形跡は明らかなのに、盗まれたものが見つからないからだ。メッセージからすると、なにやら古い絵を捜したと思われるが、心当たりはない。

 翌日、娘に菊の花が贈られてきた。カードには、

『老いしある 永遠を問う わが肝に』

と書かれてある。娘が参加しているボランティアサークルの関係だろうか? ともかくも、この十七文字を見て、それまで怯えていた娘が急に元気を取り戻した。
 夜、ふと見ると、軒先に短冊が吊るされている。

『恋敵は 秋駆けて 彼方に聞く』

 絵柄はキウイ。恋敵とは穏やかでないな。そう思った矢先、今度は芭蕉の花が贈られて来た。

『酔えれば 夏憂さの苦 七色に射て』

 翌日、娘は突然旅に出かけた。旅先から届いた世界遺産の絵ハガキには三句だけが書かれてあった。

『恋いしかる 経験を説く わが妹に』 
『追い難いは愛 敢えて貴方に言う』
『よければ 夏草の 卯七キロに来て』 

 なるほど、キウイは「行く気」という意思表示だったのか。
 何も気付かなかった私は、娘の幸せを祈るしかない。


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第110回タイトル競作参加作品です。会場はこちら(K6) 逆選王をいただきました。
難解だというご意見をいただいたので、解題を書いてみました。
続きからどうぞ。

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続きを読む "K"

2012年5月18日

結晶

 ここに人間が入ったのは何年ぶりなのだろうか。
 白い埃の積もった床に足跡を印し、切断されたコードが垂れ下がる聖域を行くと、奥から規則的な機械音が響いてきた。立ち入り禁止の筈なのに、という疑問は、わざわざここに潜入した私にはない。
 そんな私も、無数の青い小人たちがせっせと働いているのを見たときは少し驚いた。彼らが病的なほどに美し過ぎるから。しかもベルトコンベアーに乗って流れていくのは、鮮やかな濃紺の結晶だ。
 六シアノ鉄酸塩、本来は微毒ながらも非常に有用な物質だ。日本でも古来から顔料として用いられ、紺青、ベロ藍などと呼ばれた。動物がそれを摂取したあとの糞を小人たちが長い年月をかけて精錬し、結晶させる。それは、この地域にしかない力を持っている。
 一糸乱れぬ動きが止まった。右往左往する小人たちを蹴散らして、一番大きな結晶を素手でつかむ。
 私にとっては、至高の宝石。迷うことなく飲み込んだ。
 体が熱い。結晶が脈動を始め、腹のあたりが衣服を透かして、ぼうっと青く光っている。
 禁止区域の外へと、ゆっくり歩き出す。
 もう私を止めることのできるものはない。まず最初の行先は、隠れてのうのうと生きているあいつらだ。

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第106回タイトル競作参加作品です。会場はこちら(結晶15)

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2012年5月17日

スイーツ・プリーズ

 目覚まし代わりのラジオが鳴った。
「想定外の……」
 最悪の可能性から目を背けるなんて、ダチョウと同じ。……それは私もか。
 冷蔵庫に入っていた残りのチーズケーキを手づかみで食べる。

 近所の奥さんたちのティータイム。
「一年分買っちゃった……」
 買いだめも風評被害も、自分の頭で考えないから起こるのよね。
 でも、考え過ぎると気分が悪くなる。思わずプリンとアップルパイを追加注文。

 新聞の見出しが目に入る。
「積算量は……」
 データがないからって過去は無視するのね。
 じゃあ、昨日空にした饅頭のカロリーも積算しなくて良いんだ。

 耳が勝手にテレビの音声を拾う。
「パニックを避けるため……」
 男の隠しごとって、言い訳はいつもこれ。要するに騙したんでしょ。
 チョコレートを衝動買いする。

 パソコン画面に文字が踊る。
「濃縮・蓄積はほとんどなく……」
 コンセントを抜いた。
 甘い。甘すぎ。高濃度の甘さは、もううんざりよ。
 私は変わる。
 
 不要な過去を全部消した携帯に、着信が一通。
「現地はまだまだ大変だ……」
 こんな時だからこそと、危険を顧みずに出かけたあの人。
 無事に帰って来てね。今度は素直に食べられてあげるから。

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第105回タイトル競作参加作品です。会場はこちら(スイーツ・プリーズ5)

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2012年5月15日

天空サーカス

 落ちるかと思えば落ちず、ぶつかるかと思えばすれすれでかわし、要所要所で噴煙をたなびかせ、極め付きは分身の術、あっという間に数万、数億の光を作り出して夜空にちりばめる。お立合いの方々、とくとご照覧あれ!

「彗星ブランコの次は、オーロラによる演舞です」

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第103回タイトル競作参加作品です。会場はこちら(天空サーカス5)

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2012年5月14日

ドミノの時代

 全ての言動が狩られる時代、始めることは常に難しい。巷には閉塞感が満ちている。だからこそ誰かが最初の一歩を踏み出さなければならない。
 そこで俺は、空港カウンターで僕の後ろに並んでいた女に振り向いた。
「好きだ。結婚してくれ」
「あんた誰よ」
 女は俺から逃げ出すと、別の便のキャンセルを見つけて行ってしまった。
「申し訳ありません。今のが最後のお席でしたので」
 女の直後に飛び込んで来た男は飛行機に乗れずに、デートをすっぽかすハメになり、彼の恋人は怒って、不細工な上司とのデートをOKした。
 上司は鼻息も荒く、妻に離婚をつきつけ、慰謝料をもらった妻は「こんな金、宇宙の塵にしてやる」と火星に土地を買った。
 妻が火星を望遠鏡で覗いていると、植民のため飛来した宇宙船が宇宙ゴミとぶつかる様子が、ちょうど映った。
「大変!」
 妻の通報でさっそく救助ロケットが差し向けられ、八本と二本の手は固く結ばれ、宇宙戦争は未然に防がれた。宇宙人たちが地球人に次々と恋してしまったからだ。

 この話の教訓は、要するに、誰だって世界の運命を変えられるってことだ。
 そして、この話の最も不幸な点は、俺が今でも独身のままだってことだ。

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第102回タイトル競作参加作品です。会場はこちら(ドミノの時代17)

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2012年5月13日

あおぞらにんぎょ

 透き通る冬空に雲のメッセージがぽっかり浮かんだ。
「フク ムリョウハイフ」
 さっそく出掛けたところ、福々しい男は「もう福は残ってないねん、服で我慢してくれや」と言って、下半身魚の着ぐるみを舟から放り投げた。おれは男だぞ。まあ男の人魚がいたっていいか。
「オープン ブンコ」
 男に教えられた呪文を唱えると、着ぐるみは俺を青空へいざなった。
「気持ちいい。これぞまさしくオープンスカイだ」
 声を出したのが失敗だった。いきなり小槌で叩かれる。
「電波でまき散らすのは、おやめ」
 見ると美しい女が柳眉を逆立てて俺を睨んでいた。その向うでは好々爺が何人か集まり「ゲホゲホ、飛行機が増えてかなわんわ」と喚く。
 しぶしぶ海辺に戻った俺は、今度は白波のメッセージを発見した。
「△×◎ リークス」
 メッセージの主らしき白髪の男が富士をバックに嵐を従えている。何だろうかと思う隙もあればこそ「敵はホークスだ!」という怒号と共に大風が吹いて、茄子で出来た7体のにんぎょうが宝船と共にバラバラと落ちて来た。

 うん、良い初夢を見た。今年の運は開けそうだ。

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第101回タイトル競作参加作品です。会場はこちら(あおぞらにんぎょ29
 逆選王をいただきました。

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2012年5月12日

ペパーミント症候群

 そや、後味や。最後をペパーミントよろしく爽やかに終えるのがプロちゅうもんや。
 かく言う俺かて、昔はとろけるような甘さにつられて買い、大きく買い足すと味が薄うなって、挙げ句にどかんと大損して慌てて売ったもんや。甘く始まって苦く終わる。そないな繰り返し。
 でも俺はついとった。ほんまもんの穴リストに出会うたんやから。いや投資アナリストやないで。相場の穴リスト。
「ウインウインの関係なんて夢を見たらあきまへん」
「自分が儲かるには、他人を損させなはれ」
 その言葉に、俺ははっと目覚めた。こりゃ、待っとったらあかん。
 さっそく空売りの集中砲火。一時の売り損で皆を奈落へ道連れて、底値で買う。巨大利益で、後味すっきり。

 ところが、金融危機で、同じ穴の狢が蔓延した。バンクから無尽蔵に税金を借りられて、一時の損が怖うない。しかも儲けが全てこっちのものとくりゃ、誰もがマネするに決まっとる。ドバイ、ギリシャ、スペイン。この分やと、確実に這い上がるはずの株まで、底を抜けて紙屑になるやないか。ほんま悪夢や。
 けど、この味は中毒性。誰もが禁断症状に震えながら次を狙うとる。ぐずぐずしてる場合やあらへん。ほな、次の危機を仕掛けるで。

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第97回タイトル競作参加作品です。会場はこちら(ペパーミント症候群5)

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2012年5月10日

3丁目の女

 世界は鏡像のように左右対称だ。例えは粒子と反粒子。右利きと左利き。LアミノにDアミノ、それから出来る右螺旋と左螺旋。宇宙ジンだってそうだ。

 せっかく見つけた住処を爆発でなくした宇宙ジンは、子孫を残すべき新天地を求めて旅を続けた。一刻も早く次の理想郷を見つけなければならない。身を守る特殊素材が蒸発する前に。
 ようやくたどりついた新天地は、新しく出来たばかりの街だった。
 環境はかなり悪い。1丁目の工場は火をたくさん使う。2丁目の工場は硫酸垂れ流し。4丁目の工場は煤塵だらけ。3丁目の風呂屋の女だけが移民たちを癒してくれた。だから宇宙ジンが生き延びたのは3丁目。

 センセイは地球史の授業を次のように締めくくった。
「男女の別が子供を作る能力で定義される事を考えると、繁殖したのは右だけだったんでしょうねえ。だって、銭湯は女湯が右でしょ」

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第95回タイトル競作参加作品です。会場はこちら(3丁目の女20)

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