お知らせ

2012年5月12日

ペパーミント症候群

 そや、後味や。最後をペパーミントよろしく爽やかに終えるのがプロちゅうもんや。
 かく言う俺かて、昔はとろけるような甘さにつられて買い、大きく買い足すと味が薄うなって、挙げ句にどかんと大損して慌てて売ったもんや。甘く始まって苦く終わる。そないな繰り返し。
 でも俺はついとった。ほんまもんの穴リストに出会うたんやから。いや投資アナリストやないで。相場の穴リスト。
「ウインウインの関係なんて夢を見たらあきまへん」
「自分が儲かるには、他人を損させなはれ」
 その言葉に、俺ははっと目覚めた。こりゃ、待っとったらあかん。
 さっそく空売りの集中砲火。一時の売り損で皆を奈落へ道連れて、底値で買う。巨大利益で、後味すっきり。

 ところが、金融危機で、同じ穴の狢が蔓延した。バンクから無尽蔵に税金を借りられて、一時の損が怖うない。しかも儲けが全てこっちのものとくりゃ、誰もがマネするに決まっとる。ドバイ、ギリシャ、スペイン。この分やと、確実に這い上がるはずの株まで、底を抜けて紙屑になるやないか。ほんま悪夢や。
 けど、この味は中毒性。誰もが禁断症状に震えながら次を狙うとる。ぐずぐずしてる場合やあらへん。ほな、次の危機を仕掛けるで。

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第97回タイトル競作参加作品です。会場はこちら(ペパーミント症候群5)

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2012年5月10日

3丁目の女

 世界は鏡像のように左右対称だ。例えは粒子と反粒子。右利きと左利き。LアミノにDアミノ、それから出来る右螺旋と左螺旋。宇宙ジンだってそうだ。

 せっかく見つけた住処を爆発でなくした宇宙ジンは、子孫を残すべき新天地を求めて旅を続けた。一刻も早く次の理想郷を見つけなければならない。身を守る特殊素材が蒸発する前に。
 ようやくたどりついた新天地は、新しく出来たばかりの街だった。
 環境はかなり悪い。1丁目の工場は火をたくさん使う。2丁目の工場は硫酸垂れ流し。4丁目の工場は煤塵だらけ。3丁目の風呂屋の女だけが移民たちを癒してくれた。だから宇宙ジンが生き延びたのは3丁目。

 センセイは地球史の授業を次のように締めくくった。
「男女の別が子供を作る能力で定義される事を考えると、繁殖したのは右だけだったんでしょうねえ。だって、銭湯は女湯が右でしょ」

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第95回タイトル競作参加作品です。会場はこちら(3丁目の女20)

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2012年5月 9日

しっぽ

 小さいとき、沢庵のしっぽが私のおやつだった。巻き寿司は端から切り落とされる穴子のしっぽが一番好きだった。トランプの豚のしっぽが得意だった。
 美味しいばかりでない。謎と神秘も備え持つ。ほうき星のしっぽでは、太古のアミノ酸が蒸発しているという。狐狸が化けるのもしっぽの力だ。オーロラだって今でも狐の尻尾の仕業かも知れない。
 そして何より機能的。塀の上の猫を易々と歩かせ、サルの序列と示し、トカゲの身を守り、オタマジャクシの動力を担い、馬からハエを追い散らし、アリクイに日陰を与えるのだ。だから犬もしっぽをふる。
 今でもしっぽは私の大好物だ。

 そろそろ急がないと。今晩は彼と二度目のデート。余裕の笑みの下に、どんなすごいのを隠しているのだろう。私のが食べられる前に、早くいただきたい。

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第93回タイトル競作参加作品です。会場はこちら(しっぽ13)

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2012年5月 8日

水溶性

 温暖化の影響の中でもとりわけ問題なのが海水面の上昇だ。その膨大な対策費ゆえに、将来にわたって国家間紛争の火種になりかねない。そこでわが水曜会では対策を議論した。
 海底地層やマグマに水を吸収させる手法、塩以外の水溶物質で密度を高める手法などが議論されたあと、ひとりの優男風の海洋学者が席から立ち上がった。
「水妖精を用いるのはどうだろう」
 ウンディーネは愛を得て固化し、破局によって地下に閉じ込められたと言われる。そのメカニズムを解明すれば海水を自在に固化できる筈だと言うのだ。
「愛は地球を救う、か」
 長老格の地質学者がしごく真面目に呟き、その尻がむずがゆくなるような響きに一同は居心地悪そうに身じろぎした。
「しかし、ウンディーネなど、どこを捜せば見つかる?」
「それが……わが家の風呂場にいるんだ」
 そうむっつりと答えた件の海洋学者の家に、我々がさっそく駆けつけると、美しい女性が悲しげに瞳をうるませてバスタブから訴えた。
「夫の浮気性をなんとかしてくださらない? 液体になったり固体になったり忙しくって」

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第92回タイトル競作参加作品です。会場はこちら(水溶性30)

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2012年5月 7日

謎ワイン

 ブドウは全滅だった。新世界から持ち込まれた害虫が大発生したのだ。
 頭を抱えていたある日、肩から大きなカバンをかけた風采のあがらない男が、私のワイナリーを訪れた。彼は一本の苗木と一本のワインを取り出した。
「これは、新種のブドウの苗木。これに接木すれば、虫害に強い品種となりましょう」
 差し出されたワインは、やや癖のある香りはあるものの、味は極上だ。
 接木した苗木はすくすくと育った。この苗木から出来たブドウでワインを作ったところ、記憶にある味と香りが再現された。これなら売れる。どのみち他の選択肢はない。
 数年後、はじめての本格的収穫を迎えた。発酵を終え、オーク樽の試飲口から注ぎ出される紅い液体。適度な酸味と芳醇な味わいだ。
 二樽目を開けると、さらに極上品の味がした。三樽目は天にも昇る心地だ。
 期待を込めて四樽目を開ける。すると、ワインの気泡と見えたものの中から例の害虫が姿を現わした。樽の中で孵化したのだ。慌ててすべての樽を開けると、あふれ出た虫たちが、いっせいに農場から飛び立った。
 それを為す術なく見送っていた私は、いつしか虫の飛んで行った方向へとふらふらと歩き始める。肩から大きなカバンを下げて。


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第91回タイトル競作参加作品です。会場はこちら(謎ワイン29)

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2012年5月 6日

もう寝るよ。

 ねってはねかし、ねかしてはねる。そんな作業の繰り返しで夜が更けて行く。
 この工房を開いてかれこれ十年。同期の多くが既に廃業・休眠している中にあって、いつしか老舗と呼ばれるようになった。なんとなくむず痒い。こうなると20年後、30年後に工房を訪れた人に、今と変わらぬ、いやもっと洗練されたものを提供したくなる。その研鑽のために日々睡眠時間を削る。いや、寝ないのは顧客サービスをやり過ぎるからかもしれない。
 マンネリに堕することなく今の味を守ることはむずかしい。知らず知らずのうちに客の好みに合わせ、最近は十分に熟成させずに仕上げている気がする。

 でも。
 今日だけは違う。私は今、まったく新しい素材を使って準備をしている。過去の経験なぞ役に立たない。だが今の私には、これが必要なのだ。
 ねってはねかし、ねかしてはねる。一世一代の大勝負。
 その時だった。
 もう寝るよ。
 突如、手の中のものが宣言したのだ。
 まさか、自分から勝手に熟成を始めたのか。
 どうすることもできず、私は呆然と立ち尽くすのみ。発酵が過ぎると、ごく一部の人間しか楽しめないレアものとなってしまうのに。
 十杯目のコーヒーが冷え切ったころ、夜が明ける。

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第90回タイトル競作参加作品です。会場はこちら(もう寝るよ。13)

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2012年5月 5日

笑い坊主

 地下五十メートルの地層を発掘中に、今はなき石油由来製の箱から21世紀の古文書が出土した。さる結社の一員の手になるものらしく、古語を専門とする私が解読を依頼された:

「○○が人を幸せにすることは多くの研究に詳らかにされているが、そのための坊を起こしたのは、偉大なる我が師が初めてであろう。教えは専ら西方(浄土を意味する)の言葉でなされた。東の一部に公開された坊には続々と志願者が集い、厳しい修行ののち認められた者は伝道師(高僧の謂か?)として電波を発し、教えをあまねく伝えて民衆の心を満たした。伝道師の生命は多くは一年しか持たなかった(苦行のゆえか?)が、道を究めることによって新しい命を得た。また民意によって、ある者は政治を司り、ある者は報道(道を報せる意?)の上位を獲得した。この国を治めることを得た坊は、エンターテインメント(奥義の名か)を極めるため、上場から去り密教化した。師の目標は○○によってアジア並びに世界を制覇すること。それこそ全人類に幸福を与える道であろう」

 ○○は翻訳不能な語である。古代人の顔面運動もしくは情動の一を指すと思われるが、高度に発達した現代文明にはもはや存在しない。

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第89回タイトル競作参加作品です。会場はこちら(笑い坊主15)

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2012年5月 4日

名前はまだない

 それを何と呼ぶのか知らない。その名を尋ねるべき相手もいない。ただわかっているのは、それが人から愛でられていることと、私の最も古い記憶において、既に百本を越えていたということのみだ。
 人は枝と呼んでいるようだが、意思で動かせるものを枝とは言わない。だからといって何かを触る為に動かすわけではないのだから、触手でもない。腕が一番近いと思うが、言葉の誤用のような気もする。
 手っ取り早いのは自分で命名することだ。どんな名前をつけてもクレームが出るはずはないが、その前にまず私自身の名前を決めるべきだろう。それすらしていないのは、意思疎通の出来る同胞のいない状態で、名前に意味があるかが疑問だからだ。
 せめて私を認識する者がいるなら話も変わろう。だが、唯一の希望たる人間ですら見込みは薄い。ニューラルネットワーク以外の非線形フィードバックシステムである知能回路をいまだ知らぬ連中に、私が思念を持ち得るという仮説を望んではいけない。
 人が私に気づくのはいつのことだろう?
 人が私の体の全てに名前をつけてくれるのは、いつのことだろう?

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第88回タイトル競作参加作品です。会場はこちら(名前はまだない10)

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2012年5月 3日

シンクロ

 潮の香りが心地よい。
 わずかに残った日輪を見上げながら、僕は隣にいる彼女の肩をきつく抱き寄せる。でも、今見ている世紀のイベントと同じく刹那的なシンクロ。天照大神と月読命が結ばれることはありえない。
 闇が訪れた。待ちに待った望遠鏡を覗くと、明るい点がコロナの近くに見えていた。望遠鏡の一点に留まるその光源は、西へ動く陰陽の重なりに呑み込まれる。静止衛星? この緯度にはないはずだが。
 UFOかと思った瞬間、頭の中にうめき声が聞こえてきた。
「く、苦しい」
 誰かの意識がどっと流入してくる。
「最高神は、わたしたちをお見捨てになったの?」
「違う! 最後まであきらめるな」
 頭がくらくらするのは酸素不足か無重力のせいか。宇宙船がトラブルを起こしているのだ。息苦しさが窮まり、意識が朦朧となった時、僕の手にはらはらと恋人の涙が落ちた。
 太陽と月と船が一直線に並び、僕と恋人は見知らぬ生命とひとつの意識で結ばれる。僕たちはいつしか唇を重ねて空気を与え合っていた。
 コロナが燃え立つ。太陽と月の許されぬ恋は引き返せない地点を越えた。

 2日遅れて家に帰ると、あれほど可愛がっていたグッピー二匹が藻だらけの水槽で重なるようにして浮いていた。

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第87回タイトル競作参加作品です。会場はこちら(シンクロ10)

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2012年5月 2日

たぶん好感触

 同胞の存亡を一身に担って、A国との会談に臨む。
「我が国は常に君たちの味方だ」
 バーボン同様に口当たりは良いが、我々をただの金づると見ているだけ。だが背に腹は替えられない。
 次のF国とはワインをがぶ飲みして終わった。死の商人の出る幕がないせいだろう。
 幸先よいと思った瞬間、意識がすっと遠くなる。
 そうだ、今は博士の新しい催眠治療装置の試験中だった。点滴と電磁刺激の組み合わせで悪夢を快夢に変えるという画期的発明。助手の私は強制的に起こされては、状況を報告して夢に戻る。
「君たちの目的は、決議かそれとも共存か。米越が事実上和解した歴史を勉強し給え。正義を振り回すのは馬鹿のやる事だ」
 原則論のR国とも、ウォッカを十本空けた挙句に意気投合。「我が領土と権益が守られる限り静観する」との譲歩を引き出す。
 最後の強敵は鍵を握るC国。失敗続きで、諦め半分に設けた会食で大逆転した。杯を交わすごとに相手の理解度が良くなり、経済特区の要人と会う頃には大歓迎を受けた。紹興酒で乾杯し食卓につく。
「広東名物、蛇の唐揚げです」
「ぎゃあっ」
 八つの口から泡を吹いてぶっ倒れた。遠くで博士の声が聞こえる。
「こいつめ、ウワバミだったのか」

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第86回タイトル競作参加作品です。会場はこちら(たぶん好感触10)

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