お題イラスト ●●● 「橇犬選択ミス」 by 井上斑猫
第51代くましろ
南極の旅の最大の問題は食料だ。アムンゼンそれで頭を悩ました。しかし、犬はそんな事は頓着しない。常に人間という奴隷が考えてくれるものだからだ。
その犬『チョビ』は主人の出す食事に飽きていた。秋田にいた頃はグルメとまでは云わなくても毎日異なるものを食べていた。しかし、南極は違った。毎日毎日同じ食事だ。全ては御者の精に違いない。
そう思っていた矢先に、遠くに紳士風の男が見えた。黒のスーツと白のパンツを格好よく決めて(犬は色盲なのだ)、どうみても御者より格好良い男だ。こんな男なら素晴らしい食事を振る舞ってくれるに違いない。
愛する乙女の目つきで近づいて来る犬というものを見たペンギンは彼が世界で初めてかも知れない。
海仙
我らが00κことジェン・ムー=凡愚の諜報工作本部『みろく』は、王国の上に奇妙な物体が着陸したのを探知した。
「ペンギン星人がついにやって来たか!」
『みろく』本部の誰もがそう思い、戦慄した。しかし早計は禁物である。さっそく、ペンギン星人に不審に思われない姿で、白い大陸の上に偵察隊を出す事にした。
(1)オプション1
ペンギンに変装した諜報員00λが見たのは、トナカイならぬドッグーソッリである。ドッグーソッリと云えば、シラセ中尉で有名なアキタ星人に違いない。そう、思いを巡らした次の瞬間、ナビゲーターの先頭ドッグーがめざとくペンギンに変装した00λを見つけて駆け寄って来た。
『すわ、戦闘モードか』
そう緊張した次の瞬間、ドッグーは00λの目の前でキューブ・レーキして、
『おねだり』
を始めた。不審に思って、ドッグーソッリの後続をみると、、、、、、。
その瞬間、00λは全てを理解した。
アキタ星人は人の良い事で知られる。先頭ドッグーのコントロールに失敗して不時着したに違いない。
(2)オプション2
諜報員00μは犬ぞりの御者に変装した。犬がペンギンを見て近づくのは自然の理だから、犬ぞりの姿なら戦闘モードを保ちながら敵に近づく事が出来る。しかし、00μは先頭犬の選択を誤った。
* 確かに先頭犬は体が大きい。
* 確かに先頭犬は見境無く走る事の出来る体力がある。
* 確かに先頭犬は何でも食べる
* 確かに先頭犬は人間になつく。
だが、その先頭犬の好奇心が旺盛過ぎる事を00μは見逃していた。そして、白い大陸には、犬の好奇心をそそる人間もどきの生物・・・ペンギン・・・が大量に棲息している。
先頭犬『チョビ』は、当然のように、全てのペンギンに見境無く挨拶して回った。00μはけっして敵にたどり着かないだろう。
第37代筆吟
捕鯨船のお陰で健康な脂肪を取り戻し無事白い大陸に着いた銀二郎が、久しぶりに故郷の雪を踏みしめていると、妙なものが目についた。それは猛烈な速度で南極点に向かっていたが、銀二郎を見つけるなり急に向きを変えて彼に近づいて来た。
『こいつ、食えるのだろうか?』
『こいつ、何か変わったモノを持っているのかな?』
それが遠くから見たときの、それぞれの第一印象である。
両者はお互いの思惑を秘めて接近した。
『こいつ、大食い競争の挑戦に来たのか?』
『こいつ、主人より手強そうだ!』
さすが漢は漢を識る。こうして某ペンフェス参加者のネタ犬『チョビ』はペンギン界にもその名を轟かす事になったとかならなかったとか。
BUTAPENN
赦釈爵執酌爵は、ペンギンの皇帝だ。
彼の治める帝国の反対側の極地には、不思議な翁が住むという。
シュレーターペンギンのような白いりっぱな眉とあごひげ、真っ赤な服を着て、ソリという乗り物で空を飛び、良い子にプレゼントを配って歩くらしい。
見たこともない翁の存在を、彼は信じた。皇帝というのは、おしなべて皆ロマンチストなものなのだ。
皇帝は宮殿の外に立ち空を見つめて、毎日ワクワクしながら夢見た。
プレゼントのオキアミが空から舞い落ち、南極の白い大地が薄紅色に染まる美しい光景を。
「ひゃああ。チョビ。停まれーっ!」
背後から猛速度の物体が彼に飛びつこうとしていることを、彼はまだ知らない。
赦釈爵執酌爵が人間を滅ぼすことを決意したのは、このときが最初だった。
チャバ・ヤーシー
常日頃より人間を尻尾のように使役し、悠々自適の生活を送っているあたくしが橇を牽くことに志願したのは、今のあたくしの周囲にある変わらぬ日常に飽き、退屈したからだ。
あたくしはいつも刺激を求めている。だがあたくしの一の召使いである眼鏡女はあれをするな、これをするなと煩わしく、あたくしは召使いたちの主人が許容する範囲の内でのみ新たな興味や退屈しのぎを見出さなければならない。またそれをしている限りにおいて、召使いのブラッシングや、美味しい食事や、暖かい寝床を享受できる。
そんな世界において、今回の橇牽きの依頼は、あたくしにとって今まで知らなかった世界へ飛び出す大きなチャンスだったのだ。
眼鏡女は反対したようだったが、あたくしがこの女の言うことを聞く必要はないし、実際聞いたこともない。
あたくしの想像の翼は、すでに氷原を駈けていた。
もしも時が戻せたなら、あたくしはあのときの決断を撤回したかもしれない。
橇を牽くのは思っていたよりも大変だった。それは召使いたちがあたくしをバスに投げ込もうとするのから逃げ回り、庭の灌木に丸一日身を潜めることよりも苦しい作業だった。
寒いし、美しく飾った毛は汚れるし、革ひもで締め付けられた身体はあちこちが悲鳴を上げた。こんなのだと知っていたら、志願なんてしなかったのに! 眼鏡女が捲し立てていた言葉をもう少し注意深く聞いておけばよかったのかもしれないが、それはあたくしの高度な頭脳に正確に物事を伝えられない、あの女が悪いのだ。
でも、よいことも少しだけあった。それは、あたくしが橇を牽いて進む世界は確かに別天地で、見るもの聞くもの嗅ぐものすべてが新しく、刺激に溢れていた。少なくとも、橇を牽いている間あたくしは、退屈だけはしなかった。
このような機会が二度と来るわけはないのだから、あたくしは興味の惹かれるものを見つける度に、そちらへ向けて邁進する。その度毎に眼鏡女が何やら叫ぶが、もちろん無視した。
氷山の一角に、珍しい生き物を見つけた。白と黒に彩られた、のっぺりとしたフォルムをしている。だがそれは、この一面の銀世界においては何と神々しく見えることか!
あたくしは当然興味を持って近付いてみた。
「何やねん、こら」
あたくしと彼の、はじめての出会いは最悪だった。
(ハーレークイン・アニマルNo001/愛は肉球と鰭の触れ合い)
北
進んでいく、真っ白い海原は雨を生む雲のように冷たい。
赤い服のめがねを掛けたfairyは小さな船に乗って、小さな船は小さな風たちに乗って、旅をする。その一団は、小さな、丸い青い星の中で。ころんと、ミルクのような白い雲の掛かったキャンディのような星。それはもう、昔々あるところにあった夜空に銀の針穴のように瞬くお星様ほど小さい。赤い服のめがねを掛けたfairyと風たちの一団は相談しながら、新しい幸せに会いに、巡り行く。
一団は色々な幸せに居合わせた。
十分間でX二乗+5X−14他十九問を括弧でくくり終えた幸せ。
おしゃべりの好きな友人から解放されて一人になれた幸せ。
休んだ子を除くクラスのみんなと地元の山のてっぺんまでたどり着けた幸せ。
三対二、2アウトランナー二塁の九回の裏をしのぎきった幸せ。
七月二十五日、ローソンへ足を踏み入れた幸せ。
はたまた、北半球の東経139度近辺の十二月一日午後八時過ぎにこたつに足を入れた幸せ。
苺をはさんだスポンジケーキを包む生クリームの上に乗っかった苺の幸せ。
続いて、生クリームのついたフォークを乗せて、ショートケーキのなくなった皿の幸せ。
見つけた虹を、水たまりに夢中になっていた息子に、消える前に教えてあげられた幸せ。
今回もまた一匹たりとも釣れなかった幸せ。
まだ叶わぬ恋の、後ろ姿を目で追う幸せ。
桜の花びらの、地へと落ち行く幸せ。
ふう。すう。
fairyも幸せだった。いや、fairyこそが幸せだった。小さな風たちもしっぽを叩き合わせて祝福した。
さて、幸せと同じように一団の風の中にも色々いて、(ほとんど透明ではあるが、ごく)淡く茶色をした、fairyと一番仲良しの風がいるのだが、その風の見つけた幸せについての相談の仕方はちょっと変わっていて、いつも決まって他のみんなを戸惑わせる。つまり何か見つけると、速度がトンと上がる、またはいきなり立ち止まる、もしくは突然方向を変えるのだ。風たちはぐるぐるとつむじになってしまって、赤い服のめがねを掛けたfairyはずっこけることになる。(それでもfairyは薄茶色の風が大好きだ。)で、今回もまたずっこけた。
「なにコレ? なにコレ?」とは薄茶色の口癖。
対してこのたび返された挨拶は「やるかテメ」、だった。
薄茶色の風は素敵なものに目がないのだ。そして目敏い。一番多く幸せを見つけてくる。だから一番好きなのかも。
ずっこけから早くも立ち直ったfairyは、薄茶色が見つけた幸せを叫ぶ。
「ああ、こんなのがいた!」
そうしてそれから息を呑んだ。しっぽたちの祝福。「おうおう、そっちの赤いのもやるかテメ!」「ねえねえ、なにコレ? なにコレ?」無数の星の欠片が日を浴びてキラキラと笑う。
小さな一団は、色々なのがいる小さくて賑やかな星のあちこちを今日もまた進んでいく、次の幸せへと。
...See you again, nanycole-nanycole yaluca teme!
井上斑猫
「何ひとを盾にしてるんだあーっ!!」
……駄犬はへたれなのです。
プチトマト
帰巣本能が弱いという点でチョビ嬢は優れたソリ犬であったが、あまりに知能が高いため好奇心も強く、何もない雪原を走るにはいいのだが、これはいいと連れてこられた南極で、見たことのないあれやこれやに気が散って、ソリ走者ハンミョウは、チョビ嬢が捕らえてくるペンギン類を肴に体を温めるためのジンを摂取していたらしい。おかげで本来なら足りなかった食料で生き延びることができたのだから、やっぱりチョビ嬢は優れたソリ犬なのであろう。
文字ゲリラ
この逸話に真っ先に飛びついたのはラビン髭の男だった。
Butapenn女史がペンフェステキスト部門で記した『江戸化』騒動は、いまや外国にも飛び火して、アメリカでは、古き良きアメリカを取り戻そうと、
『禁酒法時代よもう一度』
というチャッチフレーズが流行っていた。但し、このキャッチフレーズは、必ずしも禁酒を薦める事を目的としているのではない。寧ろ、禁酒法時代の方が酒の消費量が増えたという事実に基づき、
「酒を飲む→車を運転しない→温暖化抑制」
という効果を狙ったものだ。
もっとも、この高等な政治を、警察組織が理解していたかとなると、これもまた疑問である。政府首脳と末端が相反する事をするのは、この国では日常茶飯事だろう。実際、
「禁酒→飲酒運転の取り締まりでは金にならない」
と短絡して、馬鹿正直に飲酒運転の取り締まりを辞めてしまい、その結果、やみ飲酒ばかりか、やみ飲酒運転すら増えてしまった。これにはアメリカ政府は頭を悩ませた。
アメリカ政府の悩み乗じて一儲けしようと、ラビン髭の男は、ジンと犬ぞりをペアで売り込む事を考えた。つまり、
「酒+犬ぞり=生き延びる」
「酒+車=死ぬか、もの凄い罰金」
という宣伝をアメリカ政府に売り込んだのである。その宣伝のロイヤリティーであぶく銭を得ようという魂胆だった。
彼の売り込みは成功し、アメリカ政府は、有名なペンフェスの絵板絵をポスターに採用した。だが、ラビン髭の男の目論みは自体は空振りに終った。
というのも、著作権に煩いアメリカは、ロイヤルティーを、ラビン髭の男でなく、そのモデルのチョビとオリジナル発案者のプチトマト氏に払う事にしたからだ。
こうしてプチトマトのもとには女王様紅茶が大量に届けられたとか届けられなかったとか。