絵板合作 『新白雪物語』
第51代くましろ+絵師

(これは絵描き掲示板に絵師の皆さんが独自のアピールを持って書いて下さった
絵の数々に対し、別のイマジネーションで絵のアップから数時間以内に
即興物語を付けたものです。絵は絵として、文は文としてお楽しみ下さい)


 俺が誰かって? そりゃ、みりゃ分かる。北極熊だ。温暖化で大変だって騒がれている、心やさしい動物だ。え、獰猛だって? とんでもない。金持ち喧嘩せず、俺たちみたいに天敵のない動物が獰猛になる必要なんかないじゃないか。少なくとも人よりは心やさしいな。その証拠に俺の日常生活を見るが良い。その様子を絵師の方々が描いてくれたから、説明しよう。


井上斑猫 ●●● どうしよう、なポーラベア

 ・・・ちょいまて、これは大問題だぞ!

 だいたいだ、同胞の癖に、こんな「媚び」体勢をするとは、なんちゅう奴だ。これはヒト科のニホンオジンとか云う頽廃種族が好む姿勢ではないか!
 そりゃ、間違って、漂流する氷山の乗ってしまった未熟さには若干の同情もする・・・温暖化だからな。だが、だからといって、自己破壊種族の真似をするとは許し難い! まっとうな白熊なら、氷山がこんなに小さきなるまで何もせずに助けを待つばかり、というようなサバイバル本能ゼロという事はありえないのだ。
 正しい反応というのは、何処かの漫画のビーグル犬みたいに氷山の上でうろうろしたあげく、海を覗き込んで、その海に落ち込むべきなのだ。一体、俺たちゃ、最後まで「あがき」を忘れない健気な種族であって、ニンゲンみたいに、己に悪い事を知っていながら、それを加速する行為を無為に続ける生命本能ゼロの種族とは違うんだぞ!


井上斑猫 ●●● 逞しきポーラベア

 ・・・そう、俺がぶつぶつ言っていると、突然
『これ、お願いね』
という声が聴こえた。あれは確か、と期待して振り返ると、やっぱりそうだ。皆のアイドルの白雪だ。美人だから、もちろん子供も沢山いるが、残念ながら俺の子供はまだ居ない、というかその機会を得ていない。
 その白雪が長ったらしい妙なものをくわえて立っている。
「なんだい、そりゃ」
『うちの子供を助けて欲しいの』
と例の妙な座り方をしている同胞を指差した。あんな馬鹿を生むとは、いったいどんな能天気が父親なのだろうかと訝しがった・・・もちろん、父親でも情夫でもない俺にこんな事を頼む女だって相当な能天気ではないかと言う者もいるだろうが、俺は違う意見だ。能天気な父親に愛想を尽かせた白雪が今シーズンのパートナーに俺を選ぶ兆候と見た。えっ、そういう希望的観測の方が余程能天気じゃないかって?
 黙れ外野席!
 その証拠に、白雪の次の言葉は
『あなたの、そのクマ一倍大きな体じゃないとだめなのよ』
やっぱりな。そう合点して、おれも当然こう応えた
「白雪さんの為なら火の中水の中」
『嬉しいわ』
そう言われるとこっちも嬉しいぞ。
 そこで、彼女から長ったらしいもの(これを縄と呼ぶ事はこの時知った)を受け取って、くだんの能天気小熊を曳航した。ふっふっふ、これで今シーズンの白雪は俺のもの♪
 俺が鼻歌まじりに曳航しながら白雪の方を見ると、、、ありゃりゃ、すたこらさっさと氷原の彼方に歩いて行く。変だと思って行き先には、、、げげげ、あの二枚目野郎が待っている! おい。俺は召使いかよー


茶林小一 ●●● 祝開催!

 よほど能天気ガキどもをほったらかしにしようかと思ったが、いや、これは試験なのかも知れないと思いとどまって、岸まで曳航する事にした。というのも、あの二枚目野郎が、なんとなく同胞でないかも知れない予感がしたからだ。その証拠に、奴め
「ちちが好きだ」
などという同胞とは思えない言葉を発している。我々の種族には「ははが好きだ」はありえても「ちちが好きだ」は有り得ない。
 と、ここまで考えたところで、奴が何かを手に持っているのが見えた。
 げ!
 シャケ!!
 白雪が近づくのも無理は無い。

 それにしても、せっかくのシャケを他人に与えるなんて、恋人どおしでも有り得ないのが俺たちの世界だ。となれば、奴は、外見はともかく、中身はヒトと云う事になる。それなら、この「縄」も分かる。ヒトのうちで変装・・・ペンネームとかいうらしい・・・を好む連中には、3ダイ縛りとかいうのを好むものが多く、そのダイ縛りとかいうのに縄が不可欠だと誰かから聞いた、、、あ、白雪からだ。なるほど、俺が曳航に使っているこの「縄」も奴がくれたのだろう。それで、奴がヒトの変装らしい事は分かった。それにしても、見事な変装ではないか。どう見ても同胞に近い。これが着ぐるみというものだとは後日知った。
 その変装野郎が、シャケに続けて奇妙なものを取り出している。四角くて小さくて、時々光を発して・・・。こいつは危険そうだ。白雪の危機を感じた俺は、岸に駆け寄るや、一気に奴に向かって駆けて行った。
「ガオー」
といううなり声と共に。
 奴め、そうとうに泡食ったのだろう。すぐ横の奇妙なもの(アザラシを大きくしたぐらいかな)に乗って、轟音と白煙を立てて逃げていった。その逃げ足の速さたるや、まるでゴキブリだ。これは凄い。ヒトというのはアザラシに乗っかる動物なのか! そう、大いに感心したが、直後に白雪が、これがアザラシでは無くてスノーモービルとかいうものである事を教えてくれた。
 暫く追いかけて、こいつのスポードには敵わないと思ったので引き返すと、白雪が例の変な物体を眺めている。奴が落として行ったらしい。俺が近づいても白雪がそいつから目を離そうとしないので、白雪と一緒に見たら、小さなスクリーンで世界が動いている。その中には動物が沢山いて、大抵は俺の知っている種族だったが、ひとつだけ、どうしても理解出来ないのがあった。これがペンギンと云うものを見た見始めだろう。


井上斑猫 ●●● どうしよう、なポーラベア〜アザラシの逆襲〜

 ビデオカメラは小さいから、俺と白雪はどうしても身を寄せ合う事になる。なんという至福であろう。ここ5年ぐらい夢見ていた念願が叶ったような気がする・・・が、いよいよ白雪の体に触れるか触れないかというところで邪魔がはいった。例の能天気ガキが不意にじゃれついて来て、俺はひっくり返ってしまったのだ。馬鹿ガキめ、さっきの氷曳航事件で白雪との仲を取り持ってくれていなかったら張り倒すところだぞ!
 そう憤慨して、やおら起き上がろうとすると、氷原の彼方に、さっき逃げて行ったモービルアザラシ、じゃない、えーっとスノースクーターとかいう云う奴だったか、それが点々と見える。どうやら我々を包囲しているようだ。その上に乗っておるのは、もはや着ぐるみでない防寒着のニンゲンどもで、それぞれのモービルアザラシに2匹(ニンゲンのサイズなら二頭っていうのかしらん)ずつ乗っておる。そして、うしろの奴がやたらとビデオカメラらしきものを上げたり下げたりしている。
 そう云えば、先代(第50代だ)が云っておった。最近は、俺たちの縄張りにもカンコウカクとかいう種族が出没するようになって、来るだけなら良いが、プラスチックだの空き缶だの危険なものを捨てていくから、カンコウカクの臭いがしたら、威嚇して追い出さなければ、我々の縄張りが無くなってしまう、と。そこで俺は白雪に尋ねた。
「おい、俺たちを囲んでいるのはカンコウカクか?」
「ちがうわ、サファリキャクって小耳にはさんだけど」
さすが、言いよる男が多いだけあって、情報には早い。白雪によると、要するに、生活に必要もないのに、金とガソリンを沢山使って、まず飛行機とかいうものに乗り、それから車というものに乗り、そして、モービルアザラシに乗って、極地の温暖化を推進する奴らだそうだ。
 そこで俺は考えた。極地が暖かくなったら、植物も植物性プランクトンも増えるから、俺たちの好物の魚も、好物までは云わないが腹を満たさせてくれるアザラシも増える筈だ。悪い話ではない。なんたって俺たちは氷山ピラミッドの頂きに君臨する食物連鎖の最上位なのだ。極地の生物が増える事は無条件で歓迎だ。となれば、このサファリキャクは、先代が警告した悪い奴らでなく、俺たちに食べ物をもたらす良い奴って事になる。よし、追い返すのはやめよう。
 だが、と思った。考えてみれば、白雪の話がどこまで信憑性があるかは分からない。ここは、このサファリキャクとかいう連中を注意深く観察したほうが無難だろう。そこで、近くの小山に登る事にした。もちろん行く手に立っているサファリキャクとモービルアザラシは、俺が近づくや奇麗に逃げて行く。その様子はまるでフナムシだ。たしかフナムシとゴキブリは仲間で、そのゴキブリを飼っているのが人間だったっけ?
 俺の後ろには、あの邪魔っけな能天気ガキも付いて来て、そのガキに白雪が付いて来る。父親でも継父でもないのに、と妙な気分だ。くだんのモービルアザラシは遠巻きから俺たちを囲んでいろ。これはジッと連中を睨む。ガキは遊び回り、白雪はビデオばかり見ている。こうして、しばらく膠着状態が続いたが、やがて、能天気ガキが昼寝を始めるや、一斉に視界から消えた。なんだ、連中は俺でなくガキが目当てだったのか。精神年齢の低い連中よ。


篁頼征 ●●● 惚れるな危険 イワトビペンギンの、名前はロックで!

 かのビデオを見て以来、白雪の様子がおかしい。どうおかしいのかって、雪の上に線を引いては消す、はあっとため息をつく、目の視点が合っていない、挙げ句に、俺が声を掛けようものなら、
『ねえ、あなた、ニシンとシャケとどっちが男は喜ぶかしら』
などという彼女らしからぬ質問をして俺を驚かせる程だ。普段の白雪はこんな事は決して云わない。俺だろうが誰だろうが声を掛けると
『煩いわね』
と邪見に袖を振るか
『ねえ、うちの子供と遊んでくれる?』
と甘ったれた要求をするか
『あなたって、誰だっけ』
とボケるかのどれかに決まっているのだ。
 恐らく彼女は「恋するバツ2乙女』状態(って子持ちなのに乙女かいな)に違いなく、その目つきは天使のように美しい。やはり白雪は永遠のマドンナだ。バツ2だろうがバツ4だろうが、俺には関係ない。だが、その目つきの先となるといささかの利害が入る。いったいライバルは誰だ?
 千夜一夜物語だったか源氏物語だったかによると、ここで彼女の恋に手を貸す事によって、彼女の尊敬と思慕を得るのか、本物の、漢とか長者とか政治家とか云うものらしい。これでも俺は第51代の名を張っているから、政治家に徹する義務がある。誰だ、こんな第**代とかいう窮屈な襲名を考えついた奴は! と、憤ったところで宣も無い。ここは彼女への思いをすっぱち断って、白雪の恋の成就に手を貸す事にした。
「誰か好き奴がいるなら、俺が取り持ってやるぜ」
なあに、どうせ浮気者の彼女だから1年で破局するに決まっている。その時こそ・・・
 白雪は
『そう、今すぐ食べたいぐらいに好きなの』
と天使の瞳で俺を見上げる。おいおい『今すぐ』だと? それって俺の事かい、と一瞬有頂天になりかけたが、いやいや、ここは冷静さが必要だ。念のために
「何処に住んでいる』
と尋ねたら
「知らない」
と白雪らしい答えが返ってきた。やっぱりな。これで俺でないらしい事は99%確実だが、だからと言って何かが分かった訳ではない。俺は、俺の踏み台になって、向こう1年だけ白雪の相手をする奴を知りたいのだ。居所をきいてダメなら、次は姿かたちだ。これでも第51代、大抵の奴なら知っている。
 彼女の答えはこうだった。
『まず、頭がスパイシーな感じで、お腹がふっくらと柔らかく、それに対して背中は如何にも歯ごたえがありそうで、きっと全身楽しめるとおもうの』
まただ。ここまで抽象的な言葉を並べられては、からかわれているのかボケなのか分からない。白雪だから後者に決まってはいるが。
 ともかく、これではどうにもならないと思っていたところに、白雪の能天気餓鬼がやって来た。
「ねえ、お母さん、ニシンもシャケも飽きたー」
『分かっているわ』
ん? もしかして、さっきの男って・・・
「ねえ、イワトビペンギンって、いつ食べさせてくれるのー?」
『このオッさんが捕って来てくれるって』
「わー、ありがとう、保父のおじさん!』
えっ、今、なんて云った?


Copyright(c) 2007 Kumashiro the 51th., Hanmyou Inoue,Koichi Chabayashi, Yoriyuki Takamura.
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