あっかんべー
第51代くましろ



(1)

 温暖化対策に、家を太陽光システムにする工事に半額補助を出してウン十年、それをあざ笑うかのように日本のヒートアイランドはますます加速していた。二酸化炭素の対策をいくら施したところで、東アジア全体の都市化による温暖化が止まる筈も無い。30度を猛暑と云っていた1960年代、35度を猛暑と云っていた1990年代、40度を猛暑と云っていた2010年代を、人々はそれぞれ一昔、大昔、伝説の時代と呼んで懐かしんだ。
 そうこうするうちに、太陽電池の買い換え時期となった。半永久的に使用出来ると思われていたダムや地熱や風車ですら耐用年数というのがある。ましてや太陽電池。家屋の耐用年数より遥かに短い。
 もはや補助の付かなくなった太陽電池ハウスに、人々はアッカンベーをして代わりに北方領土に移住したそうな。


(2)

 悟空が八戒に、悪戯を思いついた。なんせ不老不死は暇である。三蔵の旅は余りに鈍い。悪戯でも思いつかないとやってられない。
 八戒を馬鹿にするには食べ物と女、これで充分だ。早速、金箍棒を山菜ご飯に変え、自ら女に化けて、昼寝の八戒を揺り起こしにかかった。目を覚ました八戒が、よだれを垂らして襲おうとした瞬間に
『アッカンベー』
と云って消えるという寸法だ。八戒が欲求不満になること間違いなし。
 悪戯の結果は決まっている。欲求不満の八戒が女と食べ物の話を大声で話し続けて、それを座禅瞑想中の三蔵が聞きつけるという案配だ。そこで八戒の話から悟空の仕業と分かり、怒った三蔵は
『修行中の者が何ごとだ!』
と、罰として、世界全体の為になる事をすぐさまやるように申し付けた。
 当時の良い事といえば、農産物の収穫を増やす事に他ならない。そこで、2人は相談して、地球を暖めるべく、火炎山の燃え残りを世界中にばらまいたそうな。その結果は皆さん御存知の通り。
 悟浄はというと、その全てを黙って横で見るだけ。もしかすると一番のワルかもしれない。


(3)

 今年のハローインは昨今のブームにのって『温暖化対策記念』仮面舞踏会だ。会場に行くと、さすが、寒い衣装が続々でてくる。トナカイにペンギン、シロクマ、アザラシ。或いは白い服で、これは雪です氷です。おいおい、その発想がお寒いぞ。
 とその時、入り口からのっそり現れたのは、雪男かフランケンシュタインか、4メートルの図体で
『ガオー!』
 皆の肝が一瞬冷えた。いやいや、これは仮面舞踏会だから、と一同が気を取り直したその矢先、奴は近くの参加者・・・雪女の衣装だ・・・をつまみ上げて、口にスーっと近づける。キスでも奪うつもりなのか?
『ぎゃー』
という悲鳴を雪女があげれば、それはまぎれも無く男の声。フランケンシュタインの雪男、思わず雪女男を取りこぼして
『アッカンベー』
そのまま、本物の雪女を捜しに行ったとさ。



超短編小説会の「同タイトル部門・あっかんべー」に投稿した作品の改稿です。

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