絵板合作 『南遊記ペンギン編』
続編
文字ゲリラ+絵師

(これは絵描き掲示板に絵師の皆さんが独自のアピールを持って書いて下さった
絵の数々に対し、別のイマジネーションで即興物語を付けたものです。
絵は絵として、文は文としてお楽しみ下さい。
なお、この作品にはペンフェス参加者のHNが遊びとして出る事がありますが、
HNの本人とは全く無関係ですので、混同為さらないようお願いします)



夜野 月 ●●● ●●● 斑猫さんとこのうさ子

 butapennのペンギンをペット筒に閉じ込めた銀丸、
『ふふふ、光瀬龍仕込みの恍惚瓶、そこで夢を見て静かにおねんねしなさい』
 とほくそ笑えんだ。そうして、ペット筒を持ち帰ろうとすると
『重い!』
 当たり前だ。いくら体積を縮小させたと言え、質量保存の法則によって、重さは変わらない。
『えい、悟空なんぞ放っておけ』
 とその場に打ち捨て、雪のアジトに戻った。

 銀丸の姿が消えるのを見計らったかのように、ラビン髭の九尾狐が現れた。
『女将さん、こんなところで、何、ぼけーっとしているんですか?』
「だって若い美男子と一緒にいられるなんて、夢でもあり得ない事よ。あんなシショウ品なんてどうでもいいわ」
『そんな、一人で勝手に極楽を味わっていちゃ困りますよ、ほら、さっさと出て』
「ちょっと待って、九尾狐と云えば銀角の仲間の筈じゃない? 悟空を助ける理由は無くてよ」
 そう、西遊記では、金角銀角は狐一族に投胎した事になっている。
『だって、このままじゃ僕の出番のないまま劇が終ってしまうじゃないですか』
「しょうがないわねえ。でてやるか、よっこらしょ」
 重い腰を上げたbutapennは消しゴムを取り出した。小説アップの前に散々書き直す彼女の事である。消しゴムは必須アイテムだ。その消しゴムさえあれば筋なんていくらでも変えられる・・・という失礼な真似はさすがに物書きの端くれとしてやらない。butapennは、代わりに消しゴムでペット瓶の輪郭を消した。瓢箪と違って、ペット筒は透明だから2次元世界では輪郭を消すだけで消滅するのだ。かくてペンギンの悟空は消しゴムで簡単に雪上に戻って来た。いよいよ、『シショウ品奪回作戦』の開始だ。
『じゃ、女将さん頑張って! 僕はこれから劇の入りますんで』

 さて、butapennの悟空、体がペンギンだからよたよたとしか歩かない。だからラビン髭の狐が先に銀丸のアジトに着いた。
『おい、孫よ、いるかね』
「これはこれはオジ様、むさ苦しい所へどうぞ」
『三蔵一味を捕まえたと聞いたが』
「はい、そこに縛って転がしているのがネタアザラシの八戒と不惑モルモットの悟浄です」
『悟空はどうした? 奴を捕まえないで、他の者を捕まえるのは危ないぞ』
「ああ、あの腐ペン子ですか? ペンギンならとっくにペット筒に・・・」
『その宝貝は何処にある?』
「重いから戦場に捨てておきましたが」
『なに!? つい今しがた、戦場跡らしき所を通ったが、ペット筒らしきものは無かったぞ』
「えええええ!」
『あの、したたかなbutapenn悟空の事だ、逃げたのではあるまいかな』
「・・・いや、あの美少年好きの腐ペン子に限って、そんな筈は・・・そっか、いや、それはウサギだ!」
『うさぎ???』
「ペットがウサギに戻ったに違いない・・・』
 どうやら銀丸は大きな勘違いをしているらしい。
『おいおい、ウサギは我々の食い物だぞ。そりゃ人間にはとってはウサギはペットかも知れんがペットはウサギに限らない』
「いえ、いえ、そうじゃなくて、ペット筒の事です。太上老君の話では、あのペット筒は、元は瓢箪ではなく、ウサギの革袋だったそうです。それに丹を入れるようになって皮が透けて筒が透明になり、それでペット筒と呼ぶようになったとか」
 支離滅裂だが、西遊記では有り得ない話ではない。
『はあ・・・』
「だから、ペット筒が脱兎の如く逃げたのであって、悟空が逃げた訳ではない筈・・・」

 そう銀丸が言った時、突然。
『シショウを返なさい!』
 という大きな声が聞こえて来た。悟空役のbutapennの声だ。


第51代くましろ ●●● てすと

「なぬ! いつの間に悟空が」
 そう驚く銀丸にラビン髭の九尾狐が涼しい顔で
『まあ、西遊記なら当然だな・・・ここはいよいよ幌金縄の登場だな』
 と答えた。銀丸が頷く。幌金縄は金角銀角の5つの宝貝の一つで、呪文で縛ったり緩めたりする、太上老君特製の腰紐だ。普段は九尾狐が管理している。
「女将さん、覚悟!』
 と言うなり、九尾狐が幌金縄をbutaペンギンの悟空に投げつけると、彼女は意外なものに絡み付けた
『そっちが幌金縄なら、あたしにはペン箍棒があってよ』
 そう、悟空の取り出しのは、モノ書き用のペンだった。ペンに消しゴム、これがbutapenn悟空の武器だ。そのペン箍棒で件の幌金縄を絡めるや、素早く消しゴムを取り出して、その縄を消した。
『どうだ!』
 ペンギンの悟空は鼻高々である。

 が、butapennと九尾狐のやり取りを見ていた銀丸はフンと鼻で笑った。
「やっぱりオジ様、抜けてらっしゃる」
 そう言いつつ銀丸はリモコンをがちゃがちゃ弄くっている。
『なんじゃ、それは?』
 そう九尾狐とペンギン悟空が聞き返した時には、既に模型飛行機が彼らの上空に飛んでいた。そうして、彼らが気付くか気付かないうちに、模型飛行機から別の投げ縄が投げ出されて、butapennをあっさり捕まえた。
「これぞ、幌泥縄の術!」
『幌泥縄?」
「そう、太上老君が1000年かけて改良した新しい腰紐」

 かくて『シショウ品』の弟子は3人とも雁首揃えて捕まった。喜んだのは斑猫アザラシの八戒である。いや、銀丸もきっと喜んだのだろうけど、それは筋書き通りの喜びであって、八戒が『縛られた悟空』に出会った時の喜びには敵わない。
「アネキー、捕っちゃったのー」
 と表面上は嘆いているが、やっと話し相手が近くに来た喜びは隠せない。なんせ、今までの相棒は退屈な真面目不惑悟浄で退屈していたのだ。いかに漫才ボケ役の名手・斑猫といえども、突っ込み役がいなくてはネタの出しようが無いという訳だ。
「それで、どうやって逃げるのー。逃げてもあたしをアザラシ鍋にするとか、耳を食べたいとか言わないでねえ、アザラシに耳たぶなんてないんだからー。それより、この暑さどうにかならないの? 雪の上の筈なのにどうしてこんなに暑いのー」
 とさっそく喋りまくる。


プチトマト ●●● ポーラベアのshi nn ji tsu

『銀丸、でかしたぞ。さすが孫だけの事はある』
「だてにペンギンを研究していないって事よ」
『それでは、さっそく八戒を食べようではないか』
「オジイ様って、食べる事しか頭にないの?」
『なんせ珍品だからな。それに八戒を実際に食べるってのは、西遊記でも出来なかったからスリリングではないか』
「それが、オジイ様、一つ問題があって・・・」
『なんだい』

 と、その時、ネタアザラシのわめく声が聞こえた
「ジンが飲みたいよう、タバコが切れたよう」

 銀丸が続ける
「ね、ちょっと食べられないでしょ?」
『食中毒になりそうだな。かと云って、悟空は煮ても焼いても食えないって噂だし』

 と、その時、今度はbutaペンギンのわめく声が聞こえた
「ちょっと、文字ゲリラさん、煮ても焼いても食えないって何よ!」
 それにラビン髭の九尾狐が答えようとする前に、不惑モルモットのとっとがぼそっと声を出した
「あのう、butapenn姉さん、確かに我々の書く、サドの塊のような長編中編って、煮ても焼いても食えないと思うんですが」
 ラビン髭が続ける
『そうですよ、女将さん。サドって読んでいるだけでも胃が痛くなるのに、そんな危険なモノの本尊なんぞ、食べたが最後、食あたりで大変じゃですか?』

 しかし、銀丸は違う意見だ。
「でもさあ、ペンギンって美味しそうだと思わない? だって、今はサド恋愛小説の作家ではなく、ペンギンなんでしょう!」
『そんなものかね?』
「ほら、オジイ様のお友達の、その連れ合いが食べたがっているって聞いたし」
『白雪の事か?』
「そう」
『ま、白雪って名前は奇麗だが、中身は熊だからな。んっ・・・ちょ、ちょっと待て、お前は共食いにならないのか?』
 そう、銀丸の元の姿はペンギン・筆の銀二郎だ。
「無門関!」
『なるほど!!』
 そう、大食道の仙人とは、共食いを辞さないのだ。それこそ悟りの境地。もっとも、ラビン髭の九尾狐は俗物なので、『狼兼熊』のプラカードを取り出して首に掲げ、白熊モードになってペンギンを食べる所を夢想した。



コハ ●●● ちわー せめてものにぎやかしに……ペンギン子

 そんな敵役2人の会話をよそに、縛られた3人は脱出の方法を探っている。西遊記と同じ手法が使えない事は明らかだから、ここは銀丸の正体を知る事が先決だ。ペンギン悟空曰く、
「ペンギンを研究しているって云ったわねえ」
 そう、銀丸の知識はbutapennを凌ぐ。アザラシ八戒曰く、
「変装も上手いし」
 ペンギンフェスタ界隈で、これだけのペンギンの知識を持った、変装の名人となれば、これはもう、ペンギン子でしか有り得ない。そう仮定して次は対策だ。モルモット悟浄曰く、
「出没絵板を特定して、その絵板に於ける言動から弱点を掴むべきですね」
 さすがネット管理のプロだ。
 ペンギン子と思しきキャラが良く出て来る場所は、マッチョ・美男子好きの集まる掲示板だ。となれば、マッチョか美男子かを味方に付ければ良い。
「それなら任せて」
 と云うなり、butapennの悟空は美男子に変身した。正確には変身ではない。等身大の美男子画像を彼女の前に掲げただけだ。美男子画像と来て斑猫アザラシの八戒が黙っている筈が無い?
「butapennさん、じゃ無かった、悟空の兄貴、それはいったいどうしたのです」
「さっき、ペット筒から脱出した時に、取ってきたの」
 そう、消しゴムはペット筒の輪郭だけを消して、中にいた数多くの美男子はそんまま画像として彼女の手に収まったのだ。それを隠れ蓑にして、彼女は叫んだ。
「助けてくれー」

 叫び声を聞いて銀丸とラビン髭の九尾狐が振り返ると、そこには悟空な代わりに美男子が縛られて吊るされている。それを見て銀丸は
「きゃあ、好みー・・・」
 とすっ飛んで行った・・・ラビン髭の、それは罠ですよ、という警告も聞かずに。確かに銀丸はペンギン子かも知れない。もっとも、銀丸が飛びついた理由は美男子だからというより、続く
「・・・如何にも○○師匠の絵だー」
 という言葉の方が真相を現しているようだが。
 縄を解かれたペンギン悟空は、そのままえいやと武器のペン箍棒を振りかざした。慌てたのは銀丸、さっそく、絵描き用の色鉛筆で対抗する。

 ペンと色鉛筆の見事な闘いは30合ほど続いた。ペンギン悟空がサド的表現で攻撃に出るや、ペンギン子疑惑付き銀丸はギャル的受けでかわし、銀丸が不条理表現で攻撃に出るやbutaペンギンは母性ヒロイン的受けでかわす。余りの見事さに、ネタアザラシと不惑モルモットは縛られている事を忘れ、九尾狐はシショウ品を見張る事を忘れ、それぞれ闘いを見入ってしまった。
 先に正気に戻ったのは悟浄役の不惑モルモットである。
「しまった、喫茶店の小倉あんが古くなる!」
 筋と関係ないところで正気に戻るのは、この手の劇として不思議ではないが、よりによって、開店休業状態のホームを思い出すところがとっとである。さすが真面目なサラリーマンだ。
 とっとのこの言葉に即座に反応したのがラビン髭の九尾狐だ。
『ちょ、ちょっと、とっとさん、そんな大切な資源浪費をするもんじゃないですよ』
 彼の和菓子好きは、その界隈では有名だ。別の反応をしたのはbutaペンギンの悟空。銀丸の色鉛筆をペン箍棒で支えながら
「それより、この劇が初めてまだ1日も経たないわよ。それなのに古くなるって、いったいどんな餡をつかっているの?」
 とっとが答える前に銀丸が口を挟む。
「ふっふ、悟空は矢張り馬鹿だな、ここは天上界と同じく仮想空間、ここの1日が現実世界の1年に相当するって知るらないのか?」
 確かにこの劇が始まったのは北半球の夏至で、劇はそれから幾ばくも進んでいないが、この文章がアップされるのは秋分も立冬も過ぎて当時まで1ヶ月しかない時分だ。西遊記相対性原理は連載小説にも当てはまる。
 この指摘にペンギン悟空の力が抜けて一気に形勢が悪くなった所へ、今度はラビン髭の九尾狐が止めを刺した。
『あのう、それって、女将さんとこの連載が遅れている事への言い訳でしょうか?』
 butapenn悟空、完全に脱力して転倒した。転倒した所は雪の上、そのまま滑って、あっという間に視界から消える。しばらく追いかけた銀丸も、逃げ足の速さ、というかフリッパー重力滑走世界一の悟空に敵う筈も無く、
「ありゃりゃ、逃がしてしまった!」
 悔やむばかり。


プチトマト ●●●白黒ペンギン賞

 銀丸が悟空を追いかける間、何故か敵同士のモルモット悟浄とラビン髭九尾狐が密談をしていた。
『それで何時のあんこです?』
「3日前に作ったばかりだけど」
『あのう、少しぐらい古い餡子なら食べられますよ』
「でも、賞味期限はきれているんだよなあ」
『そんな、賞味期限って、アメリカの押し付けた概念ででしょ? 僕には意味ないですよ』
「いや、今の時勢、賞味期限はきちんと守らないと世間から叩かれるんでねえ」
『だからさあ、捨てるぐらいなら、僕が食べるって』
「それなら、この縄を解いて欲しいな」
『いや、それとこれとは話が別でしょう』
「じゃあ、餡子を捨てて良いと仰る? 私が縛られたままではそうなりますよ」
『でも、賞味期限切れなんでしょ?』
「さっきの発言は何です」
『それは建前。今のが本音』
「あのですねえ」
『だって、交換条件としてちょっと乏しいじゃないの』
「わかった、わかった。じゃあ、ここはお得意さんという事で、今度新しい餡子を作る時に、お萩と鶴饅頭をサービスしましょう」
『鶴饅頭? えっ、もしかして、あのプチトマト印の鶴饅頭!』
「そうですよ、どうです?」
『それはちょっと考えるなあ・・・でも、今の役を放棄する訳にも行かないしなあ』
「あれ、狐と言えば裏切るのが得意じゃありません」
『あ、そっか、なるほど。さすがとっとさん、その手の専門家だけの事はある』
「あのう、それって酷い情報捜査だと思いますが」
『えっ、そう。じゃあ、裏切らなくても良いと仰る』
「いやいや、背に腹は代えられない。じゃあ、契約成立ということで」
『いいでしょう』
「では、この縄を」
『とっとさん、何を勘違いしているんです。僕は裏切ると言っただけで、縄を解くとは言ってませんよ』
「詐欺だー」

 と、その時、銀丸が戻って来た。ラビン髭九尾狐、さっそく
『悟空なんかほっとけ、それより、八戒がアレなら、悟浄を食べようではないか』
 といいつつ、とっとモルモットを氷の天井から下ろした。それを見て八戒役の斑猫アザラシがほっと一息、
「わあ、助かった。これであたしは助かるって訳ね」
 対するモルモット悟浄は、
「ちょっと待って下さいよ、わたしゃ、不味いですよ」
 とあがいている。
『心配しなくても灰汁抜きして甘露煮にするから』
「オジイ様、それではモルモットの味が消えません?」
『小豆だって、そうするだろ? でも風味があるじゃないか』
「あれは穀類、こんな肉類と一緒にできません」
 銀丸と九尾狐の2人は料理の方法に夢中だ。悟浄は助かろうと、2人に割り入った
「あのう、料理って何処でするのでしょう? 一面雪で、竃も暖炉もありませんが?」
『あっちゃー』
 と九尾狐が困惑した顔をして、とっとがほっとしたのも束の間、横から斑猫アザラシが
「かまくらの要領で出来るでしょう?」
 と余分な入れ知恵をする。
『でも、燃やすものが無いんだなあ』
「とっとさんのモルモットが集めた海藻は?」
 さすが八戒役に徹している、というか自爆の大御所だけあって、味方に不利な事を平気で漏らす。
『さっきの三匹の子豚の劇の時に全部食べてしまったよ』
 これには銀丸も呆れて
「全く、オジイ様と来たら、食べる事ばかり」
 さすがの食仙も呆れている。
 竃が無いぐらいでへこたれるラビン髭ではない。食べる為ならいくらでも知恵が沸く。
『そうだ、太上老君の芭蕉扇を使えば』
 この芭蕉扇は八卦炉を燃え立たせるのに使うもので、全てを燃やすのだ。地球砂漠化の原因とすら言われている。
「それって危ないんじゃない?」
 熱風と雪の組み合わせが危険なのは常識だ。
『まあ、出してごらん』
 銀丸がためらいつつ出した芭蕉扇を、九尾狐は満面の笑みで受け取った。それを見て、モルモット悟浄は、焼かれる事を恐れおののき、一方のアザラシ八戒は縛られ吊るされながらも高みの見物を楽しんでいる。
「オジイ様、余り扇ぐと、雪洞が融けますからね」
『分かっているさ』
 そう言うと、九尾狐は、モルモットならぬネタアザラシに向けて、軽くひと扇ぎした。驚いたのは八戒だ、
「ちょ、ちょっと、熱いじゃないの!」
『こりゃ楽しいや』
 と更に九尾狐が扇ぐと、今度は、どーんという音とともに、アザラシ八戒が落ちて来た。吊るしていた縄も、その付け根も無事。どうやら、この半日、否、半年の空腹で、すっかり痩せて縄がゆるゆるになっていたらしい。
 理由はともかく、巨大なアザラシが落ちたのだから、その衝撃は激しい。
 どどどどどー。
 斑猫アザラシの地響きは、芭蕉扇で若干緩みかけた雪洞を破壊するに充分だった。


篁頼征 ●●●ありがとうございます

 ペンギン悟空が戻って来たのは丁度その時だった。みると、全てが雪に埋もれている。慌てた悟空は
『おシショウさまあ!』
 と叫ぶなり、シショウ品のありそうな場所をめがけてクチバシで掘り始めた。まず掘り当てたのはモルモット悟浄だった。未だに縛られている。ペンギン悟空は、
『ちょっと、わたしの作業を邪魔しないでよ』
 と言うなり、脇に避けるべく適当に蹴飛ばしそうとする
「あのう、女将さん、ここは味方を助けるのが筋じゃありません」
『でも、西遊記では、悟浄や八戒の縄を解くのは師匠を助けたあとってなっているわよ、西遊記の作者に文句をいいなさい』
 妙な所で西遊記に忠実である。
「でもさあ、この縄を解いたら、わたしもシショウ品探しを手伝えますよ」
「ダメダメ、それで悟浄が師匠を助けたら西遊記でなくなるでしょ? 師匠は常に悟空は助けるって決まっているのよ』
 またしても西遊記に忠実だ。そう喋りながらも、butaペンギンのクチバシは次の獲物を掘り当てた。八戒だ。
「なんで、こう役に立たないものばかり掘り当てる訳?』
「butapenn悟空のアネキ、敵の雪洞を破壊したのは私の功績なんですけど」
『そうね、じゃあ、「でかした八戒!」って言えばいいの? それでシショウ品は何処?』
 取りつく島も無い。 「少なくとも踏みつぶしてはいないと思う」
『じゃあ、探し続けて良い訳ね』
 そう言いつつ、butaペンギンのクチバシは3つ目の獲物を掘り当てた。気絶している九尾狐だ。横ではアザラシ八戒がモルモット悟浄の縄を解いている。
『また役立たずを、、、、あっ!』
 ペンギン悟空は九尾狐の手に芭蕉扇を見つけた。
『文字ゲリラさんがしっかり握っているからには宝物ね♪ 芭蕉扇って奴かしら』
 悟空はこの手の宝物が大好きだ。そして、それを、使ってみるのはもっと好きだ。butaペンギンもしかり。アザラシ八戒がモルモット悟浄が止める暇があらばこそ、ペンギン悟空は大きく扇いだ。
  もわー、どどどど。
 崩れた雪の塊が一気に融けて、大洪水となり、ペンギン悟空を始めとして、全員が1キロ程流された。

 洪水の冷水で目を覚ましたラビン髭の九尾狐が
『まったく、これだから、女将さんと劇をやるのはやばいんだよなあ』
 とぼやくと、とっとモルモットが
「あのう、自分の事は棚にあげていません?」
 と抗議する。
『そんなの、この界隈では当たり前じゃないか。爆弾は他人に投げつける為にあるものであって、どこかの誰かさん見たいに自爆をする為のものじゃあないんだよ』
「あのう、あなた方、言わせていれば勝手な事ばかり!」
 そう斑猫アザラシが文句を云えば
『ほらね、また自爆。僕は誰とも言っていないけど』
 いつもの平和な会話だ。その一方でペンギン悟空はせっせと駆け回ってシショウ品を探している。
『おシショウさまあ!』
 やがて、そのシショウ品を大事そうに抱えていて気絶している大きなペンギンとを見つけた。横に転がっている色鉛筆と幌泥縄から、銀丸に違いない。どうやら、高価なシショウ品を守る為に身を挺して本性を露したらしい。これを見たペンギン悟空、さっそく色鉛筆を拾うや、それを振り回してみる。butaペン悟空は、新しい宝貝に余念がない。その様子に、アザラシ八戒とモルモット悟浄もまた、色鉛筆を物欲しそうに見ている。もはやシショウは完全に忘れられた態だ。
 それを傍目に、ラビン髭の九尾狐が
『ふふふ、裏切りウラギリ』
 と呟きながらシショウ品の方にこっそり手を出した。というのも、このシショウ品にこそ、斑猫アザラシの未完成ファイルが入っているのだ。それを取り出して勝手にペンフェス会場に貼り出そうという魂胆だ。
 そうとは知らぬアザラシ八戒、
「ねえ、悟空のアネキ、ちょっとその色鉛筆使わせてくれない」
『ダーメ、その前に投稿して頂戴、もう締め切りを一ヶ月も過ぎているのよ!』
それはアザラシ八戒とモルモット悟浄の2匹を震え上がらせるに十分だった。慌てて、書きかけファイルの入っているシショウ品の方を見ると、いま、まさに九尾狐が盗もうとしている所だった。
「ちょっとちょっと、九尾狐が師匠を拉致するようなシナリオは、西遊記の何処にもないわよ!」
 とアザラシが叫ぶ。九尾狐は開き直って、
『でもシナリオ云々いうなら、金丸だって出てないじゃないですか。だから僕がその代わりに・・・』
『シャラップ!』
 いきなりペンギン悟空のサド専用ペン箍棒が飛んで来た。
『ひえー、お許しをー』
 と、ラビン髭の九尾狐が逃げ出す。もちろんシショウ品は置きっぱなしだ。


夜野 月 ●●●そんな昼下がり

 狐を退治して、シショウ品を回収し、宝貝を手に入れたペンギン悟空
『そういえば、確かに金丸がいないねえ。何処にいるの?』
「出て来ないんじゃないの? そもそも、いい加減な劇だから」
「西遊記では、金角って何もしなくて、悟空との闘いは殆どが銀角なのですな」
 そう気楽に答えるアザラシ八戒とモルモット悟浄に、butaペンギンは、
「斑猫さんは知らないでしょうけど、文字ゲリラさんの一味は、そう言う省略をしない筈よ」
 と異論を出すと、そのタイミングで物騒な姫がのそっと出て来た。
「金○を出せー!」
 悟空と闘うのに必要な武器を背負っての登場だ。金丸に違いない。

「ええー、この期に及んで、また酷い目に会うんですかー?」
「劇はアキタ。それより、そろそろ人間に戻って、執筆したいよー」
 モルモット悟浄とアザラシ八戒の反応は極めて冷たい、というか投げやりだ。これに起こった、金丸姫、金太郎のまさかりで熊のように襲ってきた。狙いはアザラシ、彼女の書いたペンフェス小説のように食べてしまおうという魂胆だろう。
 この動きに、ペンギン悟空が
『そこの金丸、正体は読めたぞ!』
 と叫ぶと、金丸姫、
「しまった」
 勢い付いたペンギン悟空が、ペン箍棒でサド攻撃を始めようとした瞬間、金丸姫、さっと姿を消した。よくよく見ると、雪の上に赤い林檎がぽつんと転がっている。なんと、金丸の本性は動物ではなかったのだ。


夜野 月 ●●●トリオ

 理由、経緯はともかく、金丸・銀丸・九尾狐の退治は無事に終わり、一件落着。西遊記で残るのは、太上老君が宝貝を回収に来る場面のみだ。そして、そのタイミングに果たして色鉛筆の持ち主がやって来た。そう、じじい好きの夜野絵師だ。動物にも果物にもならずに、本人のままで登場出来るところが、さすがペンフェスきっての絵板の神様だ。いや、ここでは太上老君と言うべきか。
 その夜野絵師、ペンギン悟空を見るなり、
「ちょっと、オレッちの絵描き用具を返してくれないかな」
 と宣わる。せっかく手に入れた宝貝をbutaペン悟空が手放したがらないのは、西遊記のお決まり通り。先ずは相手のエラーを叩くのはサドの基本。
『あのう、どうして、妖怪の手に渡ったのです、管理不行き届きで首になりますよ』
 と悟空がごねると
「ペンフェスで絵を描くからって言って、追っ掛け弟子達が持っていったんだよ」
 これには、主催者のbutaペン悟空、反論できる筈が無い。
『じゃあ、せめて、銀丸の本性だけでも見せて下さい』
「かんたんさ」
 夜野絵師は、愛用の筆を取り出すなり、空中を描くようにぐるぐる回しながら、
「戻れ!」
 と呪文を唱えた。いや、唱える筈だった。そうして、その横に弟子を2人従える筈だった。

 その時遅く、かの時早く、邪魔者が駆け込んで来たのだ。
『わんわんわんわんわん』
 そう、縛られたアザラシ八戒の飼い犬『チョビ』だ。この犬、飼い主が困っているときは絶対に出て来ず、飼い主が危機を脱して初めて現れる、そして、人に注目されようとあらゆる事をしでかす。このときも、夜野絵師の気を引こうとしたのだろう。絵師の呪文の途中で彼にじゃれ付いた。その結果、呪文の効果に若干の狂いがでた。


井上斑猫 ●●●【創作コンテスト】「何ひとを盾にしてるんだあーっ!!」

 そう、斑猫氏を除く全員がペンギンになってしまったのだ。
 斑猫氏とチョビ髭のその後は誰も知らない。


ーーー取りあえず終りーーー

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