絵板合作 『掌編集』
二重虹+絵師

(これは絵描き掲示板に絵師の皆さんが独自のアピールを持って書いて下さった
絵の数々に対し、別のイマジネーションで絵のアップから数時間以内に
即興物語を付けたものです。絵は絵として、文は文としてお楽しみ下さい)




第51代くましろ ●●● 岩まっぷたつ

 その昔、地球の中心ついては、像に乗っているか蛇に乗っているか亀にのっているかの疑問があった。以来紆余曲折して、地震探査法とかいう新興宗教が覇権を握ったが、それでも地球の内部構造に関しては検証にほど遠く、実際、地球磁場の生成機構は未だに地学の最大の謎とされている。

 そこで俺は地球を割ってみた訳だ。どうだ! ノーベル賞くっらすだろう!!
 え、地球破壊? そんなこた知らんぜ。

 もっとも、中は日陰で何も見えなかったな。


夜野 月 ●●● リザウルス
リサイクル亜科:リザウルス
ペットボトルを主食としその糞はペレットとして再利用可能


第3代リザウルスより夜野絵師へ:
 こら、夜野君、間違いを覚えてはいけないぞ。吾輩の主食はペットボトルではない、ペットだ。ペットを喰らって、ペットの材料を排泄する。もちろんペットと名のつくものなら何でも食べて分解するから、ペットボトルもカーペットも例外ではないが、世にペットと云えば、犬猫鼠に決まっておるだろうが。
 ・・・そうだ、自然の食物連鎖から切り離された連中の事だ。食うか食われるかの闘いから脱落したからこそ、この吾輩が、連中をサバイバルというかリサイクルの輪に戻してやるべく食ってやっている訳だ、いやさすがに人は食えんがな・・・食える訳ないだろうが、あれだけ重金属化学物質人工添加物に汚染されているけがわらしい動物なぞ! 第一、人間はペットではないしな。
 ともかくだ、吾輩は、ペットがそのペットたる身分から目を覚まさすべく食べてやるのた、、いいかね食べるのでなく食べて「やる」のだよ。これぞ究極のリサイクルではないかね? だからイルカもクジラも食べて「やる」べきだと思っておる。ゴキブリは・・・いや、あれはペットでは無いであろう。
 なに? 夜野くんはゴキブリを飼っているのかね? それは困った話だ。


夜野 月 ●●● 夜見た景色のつもりがオカルト

 月、三つ。・・・あれっ?
 僕たちは戻って来たんじゃないのか? それとも此処は猿の惑星? もしくは異世界?
 相棒は驚くように通りを見た。それは通りというよりゴーストタウン。電線だけは地球の面影を残しているものの、家々は瓦に根付いた白カビに覆われて、そのカビは通りを覆うように胞子を垂らしている。

 閻魔王の許可を得て、50年ぶりに現世に戻って来た俺たちは、我が種族を絶滅に追いやった奴らに復讐するべく連中を探した。だが彼らは何処にもいない。自滅したのか、それとも、俺たちと同じように恨みを持つ者に滅ぼされたのか? 
 三つの月をよくよく見ると、それは月とは違う。もしもここが地球なら、これが噂に聞いた人工太陽だろうか? 確かに明るさも白さも、本物の太陽はおろか、月にすらほど遠い。

 それら三つの光が照らす世界に人影はなし。


夜野 月 ●●● 七夕


夜野 月 ●●● and so on


 いつの頃からか、彼女は白絹をまとうのを少しずつ止め、そうして、彼女の体は次第に露になった。それは、3分の2が海色、3分の1が緑野に染まっている。一部に白絹の残り布が引っかかってはいたが、それは彼女の裸の美しさを更に際立たせるに過ぎなかった。

 なぜ白絹をまとわなくなったのか? それほどに暑い?
 ・・・確かに暑かった。だが、太陽から膚を守る白絹を捨てては、もっと、もっと、暑く焼けてしまうだろう。

 なぜ白絹をまとわなくなったのか? もしかして絹が無くなった?
 ・・・確かに彼女は織る事を止めてしまった。近代化の嵐、機械化の嵐で、機織りは姿を消し、彼女もまた仕事を失った。だが、織る事を止めしまったら、七夕ですら逢瀬を禁じられてしまうだろう。

 否・・・禁じるも禁じないも、川はもはや渡れない。近代化が生んだ温暖化が、目の前の川を氾濫させて、もはや七夕ですら恋人に逢う事を不可能にしていた。一体、恋人に逢う望みを失って、機を織り続けられる織姫が何処にいよう。
 体は恋に燃え続け、高熱が続いている。体の色まで変わらなければ良いのだが。

 蛇足ながら、噂では、恋人もまた恋いこがれて、毛むくじゃらになったとか。


夜野 月 ●●● How kill -- 殺しあってる場合じゃない

 某無人島リゾートで開かれていたG8レセプション。そこに据え付けられたモニターの画面が突然切り替わった。
『地球の諸君に告ぐ! 地球は最早、我々の人質になった!!』
 強引に割り込んだそのアナウンスは、しかしながら、
「また、映画の真似をする馬鹿がいるぜ」
 という類いの笑い声によって、その中身は完全に無視されていた。その様子は、さすがサミット、世界に向けて生中継されている。画面ジャックのリアクションもリアルタイムだった。
『あんたらねー。これを見なさい、これを・・・』
 そう女はいきまいてラッパを見せた。彼女の正面には雪山がそびえている。
『・・・古くはギリシャ神話の英雄やアラビアンナイトの英雄から伝わり、時代を下ってはウイリアムテルや巨人退治のジャックまで使ったという、目覚ましの、呪いのラッパ!』
 そう言いつつラッパを正面に持ち上げた。それを見た某国大統領は
「きみ、なかなか良い余興だよ」
 とホスト国の首相を褒めた。確かに演出効果は抜群だ。ただし、彼女が本気であるという肝心のメッセージは伝わらない。

 いつまでもマトモに相手にしてくれぬ首脳たちに腹を立てたらしく、彼女は
『聞くが良い、この音が何を起こすか!』
 と叫ぶやラッパをひと吹きした。
『ボー』
 その瞬間、モニター画面の雪山が雪崩を起こした。レセプション会場からは拍手が広がった。彼女は意気揚々と続ける。
『見たか、この威力!』
 だが、その瞬間、何処かの首相が
「ピストルの音でも雪崩を起こすんだよなあ・・・」
 と物知りげに解説する、
「・・・でも、見事なパフォーマンスだ」
 いくら褒めても水を差した事には変わりない。女は苛立ちの度を高めた。
『たわけ者め! 南半球は厳寒ぞ。音波に熱波を加えたこのラッパだからこそ、ひと吹きで雪崩を起こすのだ!』
 ようやく、G8のメンバーが興味を示し始めた。
「熱音波って、どこかで聞いた気がするが」
「ほら、究極の太陽光発電って言われてる宇宙発電所構想で使うマイクロ波電送の技術だよ」
「あ、あの夢のような話?」
「ああ、選挙民を喜ばすには良いプロジェクトだ」
「でも、あんな小型化、可能なのかい」
「いやいや、小型化どころか、基礎技術もあやふやだな」
「じゃあ、彼女の見せたラッパって、二酸化炭素削減の為のすごい特許ではないか」
「ああ、もしも本物なら、数兆ドルの価値はあるだろう」
 そうして、彼らはエネルギー問題を熱心に語り始めた。明らかに無視された彼女はついに切れて
『先進国の諸君に告ぐ、3日以内に10兆ユーロを用意せよ。さもなくば、月から地球に向けてこのラッパを鳴らすぞ!』
 再びレセプション参加者の注目が集まった瞬間、画面は移り変わり、月基地と思われる風景の背後に地球が見えた。CGにしてはなかなか良く出来ているが、何処かのパロディー映画に似ていない気がしないでもない。首脳たちが唖然として
「は???」
と、疑問符の洪水に呑まれている。それを無視するかの如く、彼女は嬉々として
『このラッパが鳴れば!冬半球や高山の雪が一気に溶け、地球の被害は10兆ユーロでは済むまい』
 と高らかに叫んだ。おそらくこのセリフが言いたかったに違いない。

 10秒程の沈黙のあと、同席した技術職員がボソっと言った。
「月と地球の間は真空なのに、どうしたらラッパの音がつたわるんやろ?」
 それを聞き取ったに違いない女、毒気を抜かれた表情で
「・・・」
 これまた10秒ほどの沈黙の後に
『え、そうなの?』
 技術職員は如何にも馬鹿にした表情で言い切った。
「常識ですね」
 女は手に持ったラッパをポロリと落とし、落ちたラッパは
『ボワー』
と音をたてて、画面は雪崩に呑み込まれた。

 フェーズアウト。


夜野 月 ●●● じじい! -- ウォッカでGo!

 雷小僧が天上界の雷親爺に機嫌伺いに行くと、妙なものを持っている。
、 『これか? これは「自然還元のもと」と言ってな、大気汚染の特効薬じゃ。SO2でもNOXでも何でもござれ、全ての酸化物から酸素を取り除くんじゃからな・・・』
 有り難い、なんせ近頃は、大気も湖も酸化して、雷を鳴らすどころじゃ無かったものな。さすが雷の元締めだけはある。
『・・・じゃがな、副作用も当然ある・・・』
 まあ、それはしょうがないか。
『・・・酒も一気に還元するから、蓋を開けたら3分以内に飲み干さないと、すべてエタンと水と酸素になってしまうわけだ・・・』
 げ、酒が飲めねえ。
『・・・それからな、還元にはエネルギーを使わにゃならん・・・』
 ん?
『・・・そこで、そのエネルギー源に化石燃料を使っておる。もしかすると、NOXもSO2もCO2も今より多くなるかもな』
 意味ねえじゃん!


夜野 月 ●●● Rescue Me

 南海の観音は困っていた。というのも、普段乗っている雲が大気汚染で酸化して乗れなくなったからだ。もちろん雷親爺の「還元のもと」を使えば雲には一時的には乗れるが、あの雷親爺の製品では効果がどのくらい持つのか全然分からない。予告もなしに突然足下の雲が消えてしまうようではシャレにもならない。
 もちろん観音の移動手段は雲だけではなく、西遊記の第71回によると金毛狼という奴隷がいる。しかし、狼は絶滅が危惧される国際保護動物であり、彼女が子づくりに専念したいと観音に申し出た時に、彼女を引き止める正当な理由を観音は持たなかった。

 かくて観音は乗り物を失ったが、手をこまねいている訳にはいかない。観音の出張需要は相変わらず多いのだ。だから、新しい乗り物を至急見つけなければならなかった。しかし、そこは力ずく、計略ずくで動物を奴隷にした封神演技の時代と違い、交渉ならびに相互の合意によってサービスを確保する現代である。メイドや執事ですら、労働者として主人よりも法律上は偉い立場なのだ。だから動物の方が喜んで観音の乗り物になるような状況を作らなければならなかった。
 そこで思い出したのが虎や犬と結婚した女たちの物語(中国)であり、蟹に恩返ししてもらった女の物語(日本霊異記)である。そう、視覚的に魅力的な女に化ければ、乗り物候補の獲物は勝手に寄って来るのだ。幸い、観音は、昔から若い女や老婆に化けるのが好きでありまた得意であった。その化け技術は九尾の狐(岡本綺堂:玉藻の前)に引けを取らない。それは西遊記を見ればよく分かるだろう。

 こうして観音は若い女に化け
『私は一人娘で、温暖化で困っているお父さんお母さんを助けてくれたら、その方と結婚します』
 と写真付きでインターネットに流した。
 今どき、こんな文面は迷惑メール/迷惑書き込みとして無視され消されるのが常であるが、中には引っかかる者もいる。その男も引っかかった。温暖化=ジャングルと早合点した彼は、さっそくジャングル救出用のメカをデザインして観音の元に参上した・・・観音が女だと信じて。ああ、かわいそうに。

 契約を済ませた彼がよくよく目を凝らすと、裾の闇からふさふさした物がポロリと見えた・・・1つ、2つ、3つ、4つ・・・


夜野 月 ●●● やっチャイナ

 龍の仕事は雨を降らす事。とくに台風・竜巻は彼らの得意中の得意だ。

「最近、化学汚染がうざくてねえ」
『御意』
答えるや、大雨を降らして大気中の塵を落とす。

「ちょっと、なに、コンクリート」
『御意』
 答えるや、洪水を起こしてアスファルトを泥だけにする。

「あの家、ちょっと邪魔だけど」
『御意』
 答えるや、竜巻を起こして吹きとばす。

 それら災害をみて、女は
「自然のないがしろにするあんたらが悪いのよ」
 とにべもない。どうやら、環境原理主義者のようだ。アラーの神の代わりに雨の神を信奉していると見える。そして、どんな自然神も美人には甘い。

 その日も龍は控えていた。
『お嬢様、次のご命令を』
「そうね、せっかくの海開きというのに、3連休で車の排ガスが増えるのって嫌よね」
『御意』
 かくて、龍は大きく渦巻いて台風4号となった。


Copyright(c) 2007 Nijuniji, Kumashiro the 51th., Yoruno Tsuki.
Template by HY