絵板合作 『ペンギン先生の講義』
第37代筆吟+絵師

(これは絵描き掲示板に絵師の皆さんが独自のアピールを持って書いて下さった
絵の数々に対し、別のイマジネーションで絵のアップから数時間以内に
即興物語を付けたものです。絵は絵として、文は文としてお楽しみ下さい)


 新生南アフリカは、アフリカの中でも産業の進んだ国として知られている。アパルトヘイトを捨てて、虐げられる者たちの保護者という立場を鮮明に出した政府は、先住民の象徴であるペンギンをすら登用し、大学にペンギン講座を設けた。講師はアフリカンペンギンである。


篁頼征 ●●● Please save our eggs --- アフリカンペンギン。

 新入生諸君、準備は良いかね? では始めよう。

 まず、これを見給え・・・いや、卵ではない・・・ウェブカメラという奴だ。そうだ、地球の反対側の画像を瞬時に送って来る奴だ。このちっぱけなカメラでも、風景はおろか、オーロラだって撮れるのだぞ。
 なに、実際の画像を見ないと信じない? ・・・それは良い態度だ。云われた事を鵜呑みにする学生というのは、国が右と云ったら右、左と云ったら左、○○×が悪いと云ったら悪い、って単純に信じて、その結果、ベトナムやイラクでドンパチおっぱじめるような連中だから、学生としては失格だ。その点、君はよろしい。では、証拠に地球の反対側を見せてあげよう。
  (〜それにしても便利になったものだ。インターネットの
    リアルタイム画像を講義室で見せられるのだからな〜)
 諸君、これだ。白熊が氷の上に数頭見えるだろう。
 白熊は動物園でも見られるが、太陽直下の銀世界と白熊の組み合わせは北極圏でしかありえない。つまり、ここの反対側だ。納得したかな?

 そこで、今日の本題だ。
 『我々ペンギン族はクマとダチョウとアザラシのどれに近いか?』
この、アイデンティティーの問題を諸君と一緒に考えてみよう。
 云っておくが、毛なしサルの決めた「分類」というのは極めて主観的かつ一面的なものであって、ここでの議論の参考にはならない。大切なのは生態学的な類似と相違だ。
 なに、分からない? 君たちは毒されている!
 簡単な話、遠い将来・・・2億年後ぐらいかな・・・どの種が生き残るか考えて見給え。その時点で滅亡した種族には近いも遠いもない。例えばだ、2億年後に我々とネズミと魚とプランクトンしか生き残っていなかったとしたらどうなるか? そうなったら、生物のうちで一番近いのがネズミという事になろだろう? しかも我々の敵としてな。
 分かったようだな。そうだ、見かけの類似なぞどうでも良いのだ。
 では本題に戻ろう。我々ペンギン族が問題にしているのは、来るべきヒト属の滅亡を受けて、そのあとに地球を君臨するのが誰かという事だ。その時のライバルの可能性を諸君と議論しようではないか。

 ここで重要なのが知能の発達の可能性だ。異論はあるかも知れないが、これは前提と考えて貰いたい。
 まず、巷で信じられている俗説に、二本足が有利であるというのがある。この説に基づけば、先に上げた3者のうちではダチョウが我々に並んで有利に違いないと云う予想が数値シミュレーションで出ている。  なに? シミュレーションなぞしなくても分かるって? 馬鹿を云ってはいけない。いいかね、理解というのは他人を説得出来るようになって初めて使える言葉だ。政治家を説得するには、理詰めでなく、数値シミューレーションという有り難いブラックボックスを使わなければならないのだよ。大衆は理屈よりも結果を好む。そして結果を信じる為に権威付けを求める。権威さえあれば、途中の説明はブラックボックスの方が素人には余程有り難いのだ。権威付けられたブラックボックスのうち、一番わかり易いのが数値シミューレーションだ。だから、どんなに当たり前の論理であれ、結果は数値シミューレーションというブラックボックスを通さなければならないのだよ。
 次に、共同生活を営む種族が知能的に有利という理論を取り上げよう。それによると、アザラシが知能の上で我々に並ぶであろうという予想が数値シミュレーションの結果だ。
 最後に我々とクマだけに共通な「知的強み」というのは探してみよう、、、、無いな。少なくともシミュレーションは存在しないな。
 では、ダチョウとアザラシのどちらがライバル候補か、ちゃんと考えてみよう。
 そうだ。あの馬鹿なダチョウに、我々と張り合って陸地を支配する甲斐性がある筈は無い。こんな事は、学生諸君はおろか、ひよこでも分かるだろう。さりとて、もしも共同生活が有利なら、あの馬鹿なトナカイのほうが余程共同生活の度合いが高いから有利って事になるが、これは明らかに嘘だ。トナカイにしろ羊にしろ、連中は食われる為に自主的に集まるのだからな。支配本能ゼロ奴隷根性100%の羊・トナカイが支配者に知能的支配者になり得る筈が無かろう。
 そうだ。クマこそが最大のライバルなのだ。
 諸君、これが数値シミュレーションというものの実体だ。理論による嘘という奴だ。間違った仮定を一ヶ所でも入れれば、結果は嘘だが、ブラックボックス故に、どこが嘘だか分からない。政治家がシミュレーションを好む理由も分かるがろう?
 今日の授業は此処までだ。

 え、何か物足りないって? よし、それなら実践として宿題を残しておこう。
「ペンギンに一番近い種族が白熊である」という結論に導かれるような判断基準を探して来い!


夜野 月 ●●● ペンコ

 諸君、準備は良いかね。よろしい。

 今日は「卵の盗み方」について議論しよう。
 ・・・なに? 盗み方を覚える必然が分からないって? 良いかね、我々の子孫を盗人連中から守る為には、盗人連中の盗みのテクニークを知らねば始まらないではないか。敵を知ってこそ、我々は来るべき鼠族との地球覇権に向けた闘いに勝てるというものなのだよ。
 ・・・もちろんそうだ、我々が鼠の食べ方を覚えれば鼠は確実に減るだろう。しかしだ、人間が未だにゴキブリを食することが出来ないのと同じく、我々も未だに鼠を食することが出来ない。残念ながらそれが現実だ。分かったかな?

 ではまず文献を当たってみようではないか? 鼠の泥棒技術に関する文献は古今非常に少なく、かのトムとジェリーにも詳らかには記されていないが、幸い紅楼夢第19回にサトイモの盗み方が書かれてある。それによると、奇麗なお嬢さんに化けて、相手を安心させつつ盗むのか一番良い方法だと云われておる。この高等技術を我々の問題に応用するなら、連中はペンギンの姿に化けて我々に接近すると思われる。
 なに? 顔? そんなものはどうでもよろしい。鼠男であろうが、ぶりっ娘であろうが、敵は敵だ。騙されるでないぞ。連中は、皆、我々の卵を狙う悪い奴らなのだ。

 ・・・ん? 君、良い事を言ったな。そうだ、二重スパイとして我々が敵の姿に化ける方法もある。ただし誰も実践していない。というのも鼠相手には効果がないと思われているからだ。だが、我々の敵は卵泥棒だけではない。車の運転手もそうだ。連中は勝手に我々の縄張りに殺鳥道路を作って、次々にひき殺すの殺鳥犯だ。そこで、もしも君たちのうちで、可愛い女の子に化けて、人間の運転手をたぶらかして、我々の本拠を横切る道路に怪談話を作ってくれるものがおったら、喜んで今学期の単位を成績優で進呈しよう。
 誰か試す者はいないかな?


山仙 ●●● 体調が悪いので診察します

 諸君、準備は良いかね。よろしい。

 今日の講義は胃についてだ。画像は某有機体の健康時における胃の透視写真だ。
 胃というのは、ローマの詭弁に使われたように、栄養を一手に引き受ける器官だが、それと同時に、体の不調を、吐き気や食欲不審という形ですぐさま反映し、外部ストレス等に対しても覿面に反応する部位でもある。従って、胃を診断すれば、体全体の健康状態が分かる。例えばテキスト部門のプチトマト氏が指摘しているように、風邪を引くとエネルギー収支のバランスが崩れ、それによって体は高熱となるが、この時、胃は、体にひっきりなしに入ってくる余剰エネルギーを消化しきれなくなって、壁から液体を溢れさせる。それによる液体面上昇は生態系全体に大きな影響を及ぼすだろうという数値シミュレーションが出ている。ま、数値シミュレーションではあるがな。

 胃を損ねる致命的な病気にどんなのがあるか、諸君は知っているかね?
 ・・・癌、それから?・・・潰瘍、よろしい。それらは最も有名だな。
 癌にせよ、潰瘍にせよ、昔は生活習慣病と看做されていた。つまり、数世紀に渡る、生活の「便利」「安易」を求める堕落が胃を蝕むのだという信じられていたのだ。だが、この説は、主に炭素と酸素で構成された某炭酸化合物・・・ピロリ菌の事だよ・・・の発見に基づく「持続可能な便利生活」という概念により否定されている。実際、グルメであっても、総合的健康に留意すれば病気にはならないし胃を傷める事も無いからな。
 しかしだ、諸君! これらの病気に関して、ピロリ菌のような炭酸化合物のみを責めるのは間違っている。
 いいかね、いかなる病気の根源にも、ストレスや過労や不摂生による免疫力の低下がある事ぐらい、太古以来の常識ではないか。いったい、ヒトは都合の良い原因が一つ見つかると、すぐに他の原因・・・そうだ、都合の悪い原因だ・・・それに目を背ける癖があるが、決して真似てはならない。一個の原因だけのせいにしてしいまうと、一個の病気は短期的に防げるかも知れないが、胃が本質的に不健康状態になる事を防ぐ事は出来ないからな。それどころか、以前よりも不健康な状態を続けてすら発病しにくくなる事から、慢性病が膏肓に入る可能性すらある。これが、現代の胃が病んでいる本当の原因だ。この事は花粉症にも当てはまる。睡眠不足や大気の化学汚染との相乗作用で花粉症は酷くも軽くもなるのだが、ヒトは寝る事を忘れて花粉症と闘っておる。馬鹿な種族だ。

 話が逸れたが、本題に戻ろう。
 現代問題になっている胃病は、体全体の病気・・永続的微熱である・・の一部として理解されておる。ただし、その影響がもっとも深刻に現れた部位が胃であった為に、胃の問題としても認識されているのだよ。健康を損なわせた重要要素として、原因物質と共に2つの要素、即ち、某炭酸化合物・・・いや、これはピロリ菌ではなく、しいおうつうと云うのだよ・・・それに対する免疫が弱くなっているという面と、太陽光を始めとする外部ストレスが増加している面を忘れてはいけない。その双方が病気を悪化させる方向に働いているからこそ、原因物質が問題となるのだ。そもそも、体が健康だったら、某炭酸化合物は免疫力を高める物質なのだ。そうだ、薬も毒も同じ物質なのだ。体の状態により毒にも薬にもなる。
 例えばスポーツの後のビールを思い浮かべて頂ければ良いだろう・・・炭酸の抜けたビールは考えられないな。炭酸はノーマルな体においては生命を活性化させる基本物質であって、忌み嫌うべきものでは決してない。というのも、そもそも生命は水素と窒素を含む炭酸化合物で構成されているからだ。ただただ、免疫の弱っている時に大量に体の中に入って来たから、蓄積して問題を起こしているのだ。これらを無視して、微熱の本質問題の議論なぞ到底出来ない。

 以上が、体全体の問題の一部としての胃病だが、それ以外に、胃そのものも別の意味で病気になりつつある。諸君わかるかね? ・・・そうだ、正解だ。細菌の急速な流入だ。
 もちろん、最近の全てが悪い訳ではない。多くは良い細菌なのだ。特にこの胃は、古来より特定の生物と共生関係にあった。共生生物については協賛リンクの篁氏の記述が詳しいから宿題にしておこう。また、どのようにして共生関係が構築されたかについては別の機会に譲ろう。
 話は戻って、一番厄介な細菌についてだ。これは19世紀より徐々に入ったきた。もちろん当初は微々たる量だったので胃の健康を損なう事はなかったが、それでも約50年前に世界初の胃カメラ検診が行われた時には若干の浸食痕がみられた。
 問題はそのあとだ。特にここ十年程、観光菌という性の悪い細菌が入り始めた事は、胃全体に大きな脅威をもたらしている。分類学的には、この観光菌は、以前の探検菌と同じ種類の細菌ではあるが、毒性と量が圧倒的に大きい。観光菌は、現在、写真上部の半島部分に主に現れている。
 細菌の流入以外の問題としては、胃が薄くなる事があげられよう。これは例の微熱問題とも関係していると噂されているが、現時点ではまだはっきりした因果関係は分かっていない。それどころか、はっきりした兆候すら見られていない。しかし、癌を始めとする致命的な病気は、透視写真で見られるようになっては手遅れの事が多い。このくらい諸君でも知っておるな。だから、今のうちの胃カメラを増やす必要があろう。この診断・観測が、国際極地年のいわれの一つとされているのだよ。


夜野 月 ●●● 秋の虫が

 君達、被子植物が何から生まれたかって知ってかな? 

 その昔、我々の祖先に・・・いや先祖と云うより、大叔父ぐらいと言うべきかな・・・恐竜という者がおった。われわれの祖先も、空を飛ぶ恐竜だったと言われておる・・・ここで、海でないのが不思議だと思った者は見込みがあるぞ!
 その時代、地球は温暖で南極すら木が生えていたのだ。裸子植物という奴だ。ソテツみたいな奴だと思えばよい。何故、そのころ地球が温暖だったかと言うと、これは色々な説があるが、かなり有力なのに銀河説と大陸分布説というのがある。
 我々の銀河というか天の川に沢山の腕があるのは知っておるな。そうだ、アンドロメダとかで見える渦巻き模様だ。この腕が何本も渦巻いているから渦巻き銀河と呼ばれるのだ。天の川もそうだ。
 この腕の部分は、新星が沢山生まれるところで、面白いのは、この腕が銀河を回る速さと、星が銀河を回る速さは違うんだ。だから、普通の星は、その一生のうちに、何度も、この腕の部分を通過するのだよ。太陽系だって例外ではない。つまり、太陽系が銀河系を公転する際に、何億年かに一度、銀河の腕に入ったり出たりするのだ。
 我々は天の川をかなり良く知っておるから、過去に太陽系が銀河の腕に入ったり出たりした時期も概ね知っておる。そして、驚く巻かれ、太陽系が銀河の腕に入った時期と、地球が寒冷期に入った時期が見事に重なっているのだ。デンマークの人がたまたま見つけた話だ。何とも壮大な話だな。
 大陸分布説の方はと言うと、南極大陸が南極に無くて、それで南極に氷が出来なかったという話だ。実際、地球の陸と海の関係が海流を決め、海流が偏西風の位置と強さを決め、この偏西風が赤道から北極への熱の流れをコントロールしているから、ありえない話ではないらしい。他に、地球がより太陽に近かった為だとか、まあいろいろあるな。二酸化炭素? 諸君、馬鹿の一つ覚えみたいに二酸化炭素二酸化炭素と騒ぐのは止め給え。恐竜の現れた時代は、その前の時代よりも暖かくなっているが、それは二酸化炭素のせいである筈がないからな。
 おっと、話が完全に逸れてしまった。今日はそんな下らない話をするのではない。
 ともかくだ、そんな訳で、南極すら木が生えていたのだ。そして、恐竜っでのがあちこちを徘徊してソテツを食っていた訳だ。

 そころが、その地球を突然の寒波が襲たんだよ。銀河の腕の効果でない寒波がな。そうそう、例の大隕石衝突って奴だ。その時、大叔父の一人が健気にも我が身を土壌として新しい植物を生み出す事に最後の力を振り絞ったんだな。それが被子植物って訳だ。・・・なに。荒唐無稽だって? 当たり前だ、神話時代の話だからな。だが、その神話から真実を見つけるのが歴史学の仕事だ。というも、全ての歴史は、徐々に書き換えられて、いつしか神話程度の信憑性しか無くなるというのが、歴史の示す所だからな。
 それにだ、我々は動植物の生命力の差という事への答えを知らない。その答えの一つがこの話にあるのかも知れないのだよ。いいかね、土壌というのは動物の死骸は排泄物によって豊かになるのだ。それなら、動物から生命力の強い植物が生まれるって話も、あながち間違いでもないかもしれないだろが。実際、この手の神話は、世の東西を越えてあるんだな。身身近な話では孫悟空が五行山に押し込まれて500年たった跡に頭に雑草が生えていたという話があろう・・・いや、これはちょっと違うか。
 そもかくだ、そんな訳で、我が大叔父の恐竜もその知性の限りを尽くして、次世代の為に被子植物を作り出したんだ。

 やがて、再び温暖な時代が戻って来て、動植物が地球上に再び広がった。大叔父はといえば、すでに土と同化している。土は海と違った、非常に熱くなる。ところが大叔父は恐竜だから汗をかかない。つまり、犬と同じく舌を出し続けるしかないんだよ。土壌が生命力の源であるのも、こういう大叔父たちの苦しみの上に乗っかっているのだ。それは舌に象徴されるな。

 そうこうする内に、それが舌だと気付かない人間がやって来て、ロダンの真似をするようになったらしい。考える人ではない、考える振りをする人って訳さ。だから、連中はいつも無配慮なことをやって、あとから辻褄あわせばかりしているのだ。


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