妻のユエは僕の様子を見ながら周りをくるくる回っている。
「ねえ、あなた。最近どうかしたのかしら。熱っぽそうよ」
「ああ」
　僕は応える。確かに最近微熱が続いている。
「大丈夫だよ、このくらいならちゃんと治るから」
　サピエンスという細菌による感染症だ。症状は風邪とそんなに変わらない。消耗が激しくなり、結果として熱が出て、さらに消耗する。
「高校生物で習わなかったかい？　ホメオスタシスって言葉。身体は安定する方向に進むんだ」
　彼女を安心させるために言った。
「ただ、治るためには負のフィードバックって言って、つまりこんな場合は熱が出るんだ。前にも同じような症状が出たときがあったろ？」
　そのときはディノサウルという細菌だった。
「大丈夫だよ、すぐに熱は下がるさ」
　単純なのか単細胞なのか身体だけは丈夫な彼女は、僕の周りをくるくる回りながら話を聞いている。少し、安心したようだ。