眠り姫は目覚めた
プチトマト実る


 広い庭、木の根元。芝生の上に寝っころがる。初夏の風が吹き抜ける。プラッチックの小瓶に入れたコーヒーとミステリの文庫をお供に、昼下がりの自由時間。
 木漏れ日がキラキラ、キラキラ。とても綺麗。お昼寝もいいかもしれない。
 と、声がする。私に向かって。
「智子さん、庭なんかに出ちゃダメよ」
 研究所のマリアさんだ。24歳だと聞いた。アポロの宇宙飛行士のような服を頭からすっぽりかぶっている。
「屋外は紫外線と、環境ホルモンと、マラリア蚊と、スモッグがあるわ。何より暑いでしょ」
 私がほんの50年ばかり眠っているうちに、屋外というのは「有害な場所」になってしまったらしい。オゾン層は壊れ、気温は上がり、有毒物質がばら撒かれてしまったため。ほんの50年のうちに。
「そんなにクーラーをかけていたら、室外機で暑くなるのも当然じゃない」
「暑いのはそれが理由じゃないの」
 私の小さな反撃もさらっとかわされ、歴史学研究所の中に連れ戻されてしまう。
 屋内はクーラーが効いている。たくさんの機械も動いている。この時代に目を覚ましてからそんなに時間が経ってないので詳しくはないけど、それってこんなふうに電気を使いすぎだからなんじゃないの。
 研究所の所長がいたので話しかける。
「日本はどうなってしまったんですか」
「80年代の人から見てどう思います? 日本だけじゃなく、世界中がこんなふうになっているんです」
 私の時代では考えられない薄いコンピュータに、所長は私の言葉を打ち込んだ。
「私たちが、原因、だったんですか?」


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