絵板合作 『κは地球を救う』
海仙 + 絵師

(これは絵描き掲示板に絵師の皆さんが独自のアピールを持って書いて
下さった絵の数々に対し、別のイマジネーションで即興物語を付けたものです。
絵は絵として、文は文としてお楽しみ下さい)



南極は宇宙への待合室。そこは将来の惑星基地のシミュレーションの場として、宇宙先進国が熱い目を注いでいる。そして、その南極の分厚い氷の下には、なんと湖や天然運河の存在する。つい近年になって分かった事だ。物語りは、この氷底湖と宇宙を舞台とする。



森沢翠 ●●● カッパハード4.0


 白い大陸の下の水系には河童族が長らく棲んでいた。いや、避難して来たと言った方が正しいかも知れない。というのも、長らく棲んでいた日中の水系に棲めなくなったからだ。表向きの理由は、乱開発や水質汚染だが、実は他にも理由があったのだ。それは河童族の秘密を嗅ぎ付けられる危険を感じたと言う事だ。その秘密とは、彼らが淡水を司る事によって、地球の運命を握っていたという事。つまり、河童を制する者は地球をも制するのだ。
 もちろん、まだ嗅ぎ付けられた訳ではない。だが、念には念を入れて、かれらは氷の下に引っ越した。河童暦53658年(西暦に直すと1970年あたりじゃないでしょうかねえ)の事である。氷の下といえども主食の魚はいる。だが、人がアルコール等の嗜好品なして生きて行けないのと同じく、河童も胡瓜なしには生きられない。だから、河童一族は、毎年優秀な工作員を日本や中国に派遣して胡瓜を拉致してきたのだ。そして、河童に取ってありがたい事に、胡瓜はオーストラリアにも進出して来た。そう、カッパ巻の材料としてである。

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 河童王国のジェン・ムー凡愚、工作員コード名00κは、オーストラリアの日本食店まで新鮮な胡瓜を探しに出かけていた。もちろん公務だ。女王様に献呈する為の最高品質の胡瓜を探す事が彼の使命だった。そうして、いかにも胡瓜のプリンスという風格を持った胡瓜を見つけた。それは、今にもカッパ巻の為に包丁で切られようとしている所だった。彼は板前の背中を濡れた手でなでて、その気持悪さに板前が後ろを振り返った隙に、前もって倉庫から盗んでおいた別の胡瓜と取り替えた。そうして、胡瓜のプリンスを見事に手に入れたのである。
 かくて第3748回胡瓜拉致作戦は全く秘密裏に実行されかのように思われたが、実はこれをこっそり見ていた者がいた。それは河童共和国の工作員・三鳥碧だ。チャイナドレスの似合う、可憐な乙女だった。彼女はその美貌で胡瓜を運ぶトラックの運転手をたぶらかして、運転手が朦朧としているうちに胡瓜をくすねるのだった。
 しかし、その時の運転手だけは違っていた。全くの堅物で隙を見いだせず、胡瓜はまんまと日本食店に納入されてしまったのだ。舌打ちをしているミドリが見かけたのが、ライバルの00κ、ボングだ。そこで彼女は身を潜めてポングを監視した。案の定、ボングは最高の胡瓜を盗み出した。それは、まさに彼女の欲しい胡瓜でもあった。ミドリは大統領に試食して貰うべき胡瓜を探していた。幸い、ボングはミドリに逢った事が無かった。というのも、ミドリはまさに売り出し中の工作員だからだ。
 さっそく、ミドリは女の魅力を使ってボングに接近した。帰りの南氷洋での事である。いったい、南氷洋への入り口は四六時中嵐が吹いているので、船のナンパの名所だが、それは同時に河童のナンパの名所でもあった。というのも、人間の数は急激に減るお陰で、河童がちらほら現れるからだ。ただし数が少ない。だから、河童知れず美童を口説くのに最適の場所であった。そんな場所でミドリがボングに仕掛けても、それは不思議な事ではない。なんせ、歴代00κは女に持てるいい河童と相場が決まっているのだ。
 そうして、いよいよ体を密着させて、胡瓜のありかをまさぐろうとしたら、
「ヘイ、ベイビー、君に胡瓜は百年早いよ」
とさっとかわされ、彼はしっかり胡瓜を握って外に出した。
 その時である。機械音声のような太い声で
「キューリーダー、キューリーダー、キューリーダー」  と聞こえたかと思うと、激しい水圧が2人を襲ってきた。それは、ペンギン星人の宇宙船『ペンギン号』だった。地球の河童王がこっそり隠し持っているコントローラーを奪いにやってきたのだ。
 そのコントローラーは、地球の淡水を自在にあやつる宝貝であり、長さ20センチ程の緑の瓜状物体であることが、ペンギン星人の極秘諜報員によって調べらされていた。しかし、ペンギン星人は現物を見た事がない。だから、極秘諜報員の説明にあう物体で、河童が大切にしているものは、全て奪取の対象だったのだ。
 しかし、そのような事情を2人は知らない。自分たちが襲われたと思ったボングはミドリに声を掛けた。
「俺に捕まれ!」
さすが00κ、敵であっても女なら見境無く助ける男だ。しっかと胡瓜を握って、彼は、得意のジェット足でバタバタさせた。これは、摩擦で水を一気に加熱沸騰させて、その沸騰膨張の勢いで空気銃の弾のように移動する秘密兵器、もちろん河童θの発明だ。かくて2人は仲良く逃げ出し、それぞれの国に帰ってペンギン星人との対決に備える事になった。



夜野 月 ●●● じじい2


 王国の諜報工作本部『みろく』に戻った00κことジェン・ムー凡愚、大切な胡瓜を上司に渡しながら、早速、彼が遭遇した不審ペンギンの報告をした。『みろく』が独自に集めていたUFO情報と照らし合わせて、不審ペンギンが実は潜水艦兼宇宙船であると結論づける。となれば、再びジェン・ムー凡愚の出番、さっそく出撃だ。水の中は河童のお手の物、超音速潜水艦で不審宇宙船を探し、わずか1時間、早速、敵艦に接着した。
 しかるに、いよいよ、宇宙船に乗り移ろうとしたその時、それに気付いたのか、ペンギン宇宙船は一気にロケットエンジンを吹かせて宇宙に飛び立のだ。ここで振り切られては00κファンの皆様に叱られる、と意識したのかどうか、そこはさすがに天下の00κ、河童モード全開で、スッポンのようにしっかりしがみついた。こうして真空の宇宙にやってきたが、心配無用、ちゃんと河童θの発明した宇宙服『G-SAN』着用で火の中真空の中。太郎マークのお守りもちゃんとあるのが、さすが河童の世界、これは、銀二郎より強いんだぞ、というシンボルであろう。
 さて、ボングは持っている金棒で宇宙船を打ち破ろうとしたが、 敵もさること、クチバシ部分で応戦するや、ボングの金棒を叩き折って、あわれボングは宇宙に放り出された。
 が、そこは河童θの特別金棒、只では折れない。折れた所が噴出ノズルとなって、その動力でペンギン宇宙船を追って行く。



時村 ●●● ねえ、どうしよう。


 我らが00κことジェン・ムー凡愚、ついにペンギン型宇宙船に追いついて、彼らの死角にしっかり張り付いて宇宙船にしがみついていると、やがて宇宙船は恒星間航海用の大型シップにドッキングした。さすがに大型の宇宙船だけあって、侵入ハッチもいくつかあり、ボングには簡単に中に入り込める。彼がたまたま入り込んだところは貨物室らしい。そこには、地球を研究する為なのか、あらゆるサンプル・・・動植物、果ては細菌真までも・・・が集められていて、ノアの箱船の様相を示していた。問題は河童の一般人も捕まっていた事だ。これは不味いとボングは直感した。河童の弱点を知られては、胡瓜の秘密まであと一歩、それをペンギン星人に知られてはならない。
 ボングは、先ず監視カメラの角度を確認した。予想通り、河童と人間の捕虜に向けられている。うっかり近づく事すら出来ない。しかし、そこはさすが00κである。河童θの発明したカメラ干渉装置で、一旦取り込んだ静止画像のみをモニターに流す。これで敵には気付かれない。ハイテク機械の弱点ではある。そうして、捕まっている人間と河童を救出し、先ほどのペンギン型宇宙船兼潜水艦へと向かった。

 こういう場面では、当然、この2人の捕まったいきさつが語られる。ペンギン星人の侵入の可能性については、この事件の少し前から河童王国で警告されており、一般の河童でも知っていた。とくに南極の外へ旅行・・・主に里帰りだが・・・する河童には、くれぐれもペンギン星人に気をつけるように周知徹底されいる。捕まった人間・・・可愛い女の子だ・・・が南米先端に観光に来ていたのは、そんな折だった。彼女はペンギンを見る事が出来て大喜びだった。無造作に近づいてくるペンギンに彼女がはしゃいでいると、その横から河童が飛び出した。
『逃げろ』
と河童は女の子に叫んだ。南極の下に棲む河童は、地球のペンギンをきちんと知っていて、ペンギン星人と見分けがつくのだ。しかし、人間の女の子にとっては、河童というのは気味の悪い妖怪であって、女の子はかえって河童から逃げるようにペンギンに近づいた。その時、ペンギンがいきなり彼女に飛びかかって海に追い落とし、海の下で待っていたペンギン星人が彼女を捕まえたのだ。彼女が海に落ちた時、河童もまた海に飛び込んだが、多勢に無勢なのと、下手に抵抗するよりも一緒に捕まって彼女の安全を図る方が良いと考えて、一緒に捕まった。
 捕まった後も、彼女は河童に心を開かなかった・・・まあ、河童とペンギンでは、普通はペンギンを選ぶだろう・・・が、いよいよこの宇宙船に運ばれて、始めて、この河童が彼女のナイトである事を知ったのだった。だから、ボングが救出に来た時、河童に全幅の信頼を置いていた彼女はまったく足手まといにならなかった。

 そんな物語りを聞きながら、ボングら3人は、いよいよペンギン型宇宙船の格納室の前まで来た。



夜野 月 ●●● どっかでみた


 『ペンギン号』による胡瓜強奪未遂より少し前、河童王国への潜入を試みる者がいた。もちろんペンギン星人の地上工作員だ。人間の面をかぶっているものの、その中身を見た者は誰もいない。工作隊は何故がアマゾンのジャングルにいた。というのも、胡瓜型コントローラーが1つではないという噂があるからだ。もしも1つでなければ、河童の生息地域全部を調べなければならない。だから、南極と共に、河童の生息が伝えられるアマゾンにやってきた。海底に秘密基地を作り、熱帯雨林を探しまわるのが、この工作隊の役割だ。
 彼らが探検を始めると、妙なものが多い事に気がついた。それは胡瓜のお化け・ヘチマだ。いったい、彼らに地球の植物の知識はないから、目の前にぶら下がる胡瓜のもののどれがコントローラーだか分からない。さりとて、機械で入り込めないこの秘境では、胡瓜を根こそぎ基地に持って行く訳にも行かなかった。
 彼らは、ただ呆然として、その胡瓜の山を眺めていた。近くに河童の監視がある事も知らずに。



夜野 月 ●●● シーホースー


 そう、ブラジルの諜報河童支部では、ペンギン星人の侵入に備えて警戒を怠っていなかったのだ。否、ブラジルだけではない、世界各地の諜報河童支部がペンギン星人の工作員の侵入を警戒していた。この地道な仕事こそ、碧の仕事でもあった。否、仕事ではなく、それは凡愚への愛の明かしだった。なんたって、彼女は河童界No1の凡愚ガールの筈なのだから。彼女はボングと胡瓜を奪い合う前からボングに目をつけていたのだ・・・ライバルと愛に落ちるというロマンを夢見て・・・これこそ00κに相応しい話ではないか!

 諜報河童の活動は地上でこそ活動は人間の目を憚って限られていたが、海の中は別だ。彼女は、水中バイク「竜の子」にまたがって、七つの海を疾走していた。最新情報によると、ペンギン星人は日本を狙っているという。しかし、これについては心配はいらなかった。というのも、ペンギン星人の工作員が日本に潜入組したところで、日本文化の複雑さと関西オバちゃんのパワーに・・・だから河童は大阪には住めまい・・・撤退を余儀なくされるに違いないからだ。だが、意外な情報が諜報本部からもたらされた。ボングと別れたミドリが共和国情報局κγβから聞かされた話は『アマゾンに侵入者あり』という緊急連絡だった。
 水中バイク「竜の子」を取り出したミドリはまっしぐらにアマゾンに向かった。彼女がローカル監視部隊と接触したと時、3人は基地に帰る所だった。そのまま尾行して基地を突き止め、そこで一気に基地を攻める緊急作戦に入った。
 ペンギン星人秘密基地はアマゾン川の水底にあった。まさに盲点だ、アマゾンの川底なら、たしかに人間の一切の探査の網から外れている。しかし、秘密基地を見つけたからには、あとは一網打尽。成功を脳裏に描いて碧はほくそ笑んだ・・・
『これでジェン・ムー凡愚に認められる!』
この御都合主義こそ、00κに相応しい話ではないか!!



夜野 月 ●●● こんな毎日


 ペンギン星人はしぶとかった。ミドリがアマゾンの海底基地を突き止めるや、はやくも宇宙へ逃げ出したのだ。ローカル部隊総出で総攻撃をかける寸前に宇宙船が飛び立ったのだ。
 それでも逃げ残った者もいた。どのような撤収であれ、それが諜報活動ならば残留組が存在する。碧は、この残留組の捕捉に円力を上げる事にした。海底基地に残った臭いから、微粒子探査器で逃げ残った者を追い求め、ついにペルーの火山に隠れている事を突き止めた。だが、そこは火山性有毒ガスの充満する土地で、それは微粒子探査器の効かない場所でもある。見た所、あたりには何も無い。岩の他には枯れ木だけの世界だ。
 しかし、そこは天下の諜報河童である。保護色の秘宝を知り尽くしている。手当たり次第に岩を叩いて回った。と、或る岩を叩いた所で、そのすぐ横の枯れ木をニョッと動いた。すわ、これが敵の本体だ! そう思って、一気に分銅を枯れ木に投げて、枯れ木が逃げる前に縛り付けた。果たして枯れ木と思ったのはペンギン星人だ。元のペンギン姿に戻って、観念しているようだった。抵抗しない所を見ると、恐らく雑魚だろう。もっとも罠かも知れない。そこで同行して来た現地諜報員に監視を任せ、碧は他に仲間がいないか10分程の探索に出かけた。諜報員は毒ガスマスクに身を固めて、初捕虜の監視に当たった。  だが、これこそが罠だったのだ。雑魚と思われたこのペンギン星人、実は3次元映写術なる技術で、ありとあらゆる姿を作り出してみせるのだ。ペンギン星人はニンゲンのオスの弱点を良く研究していた。そこで、さっそく、男の情欲をそそるような姿を、諜報員の前に現出したのである。河童といえども、男であれば人間の女をモノにしたがるのは、別にジェン・ムー=凡愚に限らない。そして現地諜報員も男であった。
 ミドリが見回りから帰って来たときは、初捕虜の姿は無かった。


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夜野 月 ●●● タイフーン


 ジェンムー凡愚が捕虜2人を探し出し、三鳥碧がアンデスでペンギン星人を追っている傍らで、実はもう一人、秘密裏に活動している河童がいた。河童共和国の工作員・三鳥翠(midori)だ。三鳥碧(ミドリ)の双子の姉である。彼女は、別経路でペンギン星人の大型シップに潜入していた。
 ペンギン宇宙船の襲われたとの碧の報告を受けた共和国情報局κγβは、その秘密ネットワークに蓄積された情報と照らし合わせて、ペンギン宇宙船の母船にあたる大型シップの座標を独自に突き止めていた。いったい、独自の宇宙ロケットすら持たない河童王国と、スプートニクよりも前に人工衛星の打ち上げに成功していた河童共和国とでは、宇宙情報に関して格が違う。
 共和国の諜報クイーン・三鳥翠は、アマゾン調査を碧に任せ、自らステルスのスーパースーツに身を固めて、κ型ロケットに乗ってボングよりいち早くペンギン星人の大型シップに近づいた。そうして、ペンギン型宇宙船のドッキングの為にハッチを開いたそのタイミングを見計らって、大型ハッチから侵入したのだ。だから、ボングら3人がペンギン型宇宙船の格納室まで来た時、彼女は既に監視役のペンギンをノックダウンすべく、スーパースーツで監視室に忍び込んでいたのだ。
 河童は魚を主食とする。だから、スパイ達の行動食も最高級の寒冷魚の干物だ。そしてペンギンも魚を主食とする。そこでmidoriは干物を監視ペンギンの3メートルほど脇に向けて投げつけた。干物の臭いに、あたかもマタタビの猫状態に陥った監視ペンギン2名は、警報ベルを鳴らす事を思いつく余裕すらなく、あえなくmidoriに眠らされた。この監視室による監視の守備範囲・・・全艦規模なのか、ハッチだけなのか・・・それをチェックする為に監視カメラのパネルを見ると、彼女は驚いた。まさにライバルのボングがハッチ室に侵入しようとしている所だからだ。
 逆に言えば、ボングは、まさにmidoriのお陰で、監視ペンギンに見つかる事を免れた事になる。
『これは貸しだわね』
 と彼女がほくそ笑んだのも束の間、ボングの後ろに一匹の人間と一人の河童が控えているのを見て取った。
『チッ、あの女ったらしめが! 人間の女にまで手を出しやがって』
 とんでもない誤解だった。



夜野 月 ●●● エコスーツ


 ジェンムー凡愚の浮気と勘違いした三鳥翠(midori)は、いきなりボングの前に飛び出して
「この浮気者!」
 と云うなり彼のほっぺたをひっぱたいた。
『おう、これはこれは、我が愛しの・・・』
「浮気者め! 人間の女にまで手を広げるとは・・・」
 再びびんたが見舞う。その手を押しとどめてボングが釈明した。
『まさか、まさか、彼女のナイトは、そこにいる勇敢な同胞・・・』
 そう言って、無名の旅行中河童の姿を指した。彼こそは確かに人間の彼女を安全を最大に気遣っている様子だった。
『・・・にこそ相応しい。僕の心は、いつも貴女のそばにあるんだ』
 パシっ。3度目の平手打ちだ。
「アホンダラ! 現にこうして他の女を口説いているじゃないか、、、」
『???』
「こんな男に妹も可愛そうに、、、』
『えっ? じゃ、貴女はお姉さま?』
「あんたんとこの情報部は何調べているんだい? ライバルとして嘆かわしい」
『変だなあ? もしかして弥勒のボスの野郎・・・あっ!』
「!!」
『ご明察の通り。君の存在を僕に知られるのを恐れていたんだな。確かにそれだけの魅力的女性だ』
 パシっ。
 パシっ。
 パシっ。
 これを愛の鞭と取るか怒りの現れと取るかは読者の自由であるが、それが判明する前に新たな事態が出現した。そう、宇宙艦全体にサイレンが鳴り響いたのだ。そのサイレンがボング&midori(姉)の侵入の対するものである確証は無かったが、熟練諜報員としては即座の対応を迫られていた。翠は無名河童と人間の女の子を連れて素早くペンギン型宇宙船に侵入し、彼らを運転室に送り込むや、自動航行モードに設置して脱出準備を急ぐ。ハッチ自体は、翠がボング達の前に現れる前に、出航スタンバイにしてある。そのあいだ、外であたりの様子を伺うのはボングの役目だ。ライバルどうしながら呼吸があっているのは、さすが、凡愚ガールの双子の姉だけある。
 翠が自動航行モードを設定している間に遠くから足音が聞こえた。足音は、管制室を遠く迂回しながら、管制室の裏を通って倉庫に向かっていた。どうやら、ボングのカメラ干渉装置の細工がバレたらしくサイレンの音が変わった。新たな足音が遠くに聞こえ事態は危急を告げる。
 自動航行モードを設定し終えた翠は、ボングに呼ばれるままに、管制室に向かって宇宙船出港のボタンを押し、その間にボングは新たな足音・・・明らかに管制室とハッチに向かっていた・・・にむかっでダッシュした。出航までの時間稼ぎという訳だ。
 ボングがダッシュした出会い頭、いきなり奇妙な姿のペンギンの姿が現れた。殆ど人間の裸に近かった。
『な、なんだ、その姿は・・・? ペンギンではないのか!』
そうボングが叫ぶのに応えるように、ペンギン星人から答えがあった。
「私たちは皆ペンギンよ! 地上で使っているのは宇宙服かつ潜水服」
 それは女の、否、メスの声だった。そうなのだ、ペンギン星人は哺乳類というか地球動物ではないから、ずんぐりした紳士体型で判断してはいけないのだ。え、じゃあ、どうして声で分かるかって? そこは女たらしの名手ボングである。彼に女の見分けのつかない筈がない。そして、当然ながら、彼は女に手を上げない主義でもあった。だから、ボングは困ってしまった。
『ちょっと待った。ここは話し合いと行こうぜ。闘いは話が決裂してからにしよう』
 今必要なのは時間稼ぎだ。
「私たちもそうしたい所だけど、この音は何?」
 それは宇宙船が点火してまさに出発しようとする音だ。ペンギン星人たちは左右から彼の隙間をくぐり抜けようとした。ボングは
『それは拉致された同胞を救出する為のものだ』
 と言いつつ、体でブロックする。それで充分だ。というのも相手も火器を持たないのだ。そもそも宇宙艦で銃刀類を使おうものなら、それこそ宇宙艦そのものを傷付けかねないから禁物なのだ。宇宙艦での闘いは素手が基本だ。相手はくぐり抜けるのをあきらめで、今度はボングに抱きついて来た。2人が抱きつく間に他の者がくぐり抜けようという訳だ。
『や。ヤバい』
 女に抱きつかれるのがボングの唯一の弱点であることは、00κの読者なら容易に想像できよう。
 だが、ボングを救った者がいた。
「この売女ペンギン! この女たらしは妹のものだ!」
 そう、翠が当然のように乱入して来たのだ。こうして闘いが膠着していくうちに、拉致人質の一人と一匹を乗せた宇宙船潜水艦はtake offした。2人の河童は時間稼ぎに成功したのだった。



夜野 月 ●●● マフラー


 離陸して行くペンギン型宇宙潜水艦を呆然と見ながら、ペンギン星人達はボング達と闘うのを止めた。
「そこの女、この始末、どうしてくれる!」
 そう問いつめるペンギン星人に、三鳥翠(midori)は
「この始末って、拉致するあんたらが悪いんじゃないの! 彼に抱きつくあんたらが悪いんじゃないの!!」
 と容赦もない。話がなんとなくmidoriとペンギン星人たちの女同士の闘いにずれて行っているような恐怖を感じたボングは・・・そう、いくら女たらしの00κとはいえ、女同士の闘いに巻き込まれるのは紳士の常として御免だった・・・話題を本筋に戻すべく
『ところで、地球の動植物を全て集めているのかね』
 と疑問を投げかける。さすが、冷静な諜報員だけの事はある。

 それに応じて、リーダーらしきペンギン星人が現れた。何故リーダーだと分かるかというと、人の目を惹き付ける姿をしていたからだ。それはボングを喜ばせる姿ではあったが、同時にmidoriを緊張させる姿でもあった。
「お答えしましょう。実は地球はシステム不全に陥りかかっているのです。近い将来、生態系は完全に破壊され、不毛の状態になります。その前に、現在の主な種を確保して、将来、地球システムがリセットした時に、出来るだけはやく元の姿に戻る手伝いをしようというのです」
 さすが、ほろりとさせる答えを用意しているではないか。しかし、そこは諜報のプロ、我らが00κとmidoriだ。簡単には丸め込まれない。
『ほう、それなら、どうして我々に攻撃を仕掛けて来たのかな』
「それは何かの間違いでしょう。私たちペンギン星人は平和と対話を大切にします」
「ふん。その間違いって何なの? 間違いで無かったら宇宙潜水艦で妹達に何をするつもりだったの? 全てお見通しよ!」
 今度はmidoriだ。
「私たちの調べた情報では、河童族は好戦的だという事でした。実際、そのようですが」
 これは対話と云う名の挑発だ。そう感じたジェンムー凡愚は皮肉まじりに
『なるほど、他人の水域に勝手に侵入して、ちょっとでも抵抗されると好戦的というレッテルを張るのは、残念ながら、貴方がたも人間と変わりませんな。そういう者が『地球の破壊から人間を守る』と主張しても、それは人間が『テロから一般市民を守る』と言うのと同じにしか聞こえない訳ですよ』
「それこそ、好戦的な者の言い分ですね」
『他人を好戦的と言う者より好戦的な者はいないと我々は習っております』
 河童とペンギン星人の問答は緊張の度を高めるばかりだ。しかしここで先に手を出したら、議論の負けを認める事になる。しかも敵の本拠、決して有利とは言えない。

 と、その時である。ハッチが開いて、宇宙船が到着して来た。ボングが身構えると、ペンギン星人も同じく身構える。
『ありゃ、なんじゃ?』
「なんじゃ、って、あれはお前らのものでは無いのか?」
『知らんぞ。おい、midori、知っているか?』
「知らないわ」
 その宇宙船はペンギン星人のものではなく、さりとて河童共和国のものでもなかった。そして、ハッチに着陸するや、
「無駄な抵抗は止めて、さっさと全艦を引き渡せ!」
 という放送が宇宙船から流れた。

 中から出て来たのは、大熊星人だった。ペンギン星人の宿敵らしく、ペンギン星人は防衛に入ったが、しょせん、大熊星人に敵う筈がない。貧弱なペンギン星人はばたばたと倒されていく。これを見て、我らが00κとmidoriは考えた、ここは、恩を売るべきであると。
 そこで出したのが唐辛子とワサビである。日本や中国を故郷とする河童にとって、唐辛子やワサビは胡瓜を美味しく食べる為の香辛料に過ぎないが、猛獣にとっては劇物以外のなにものでもない。それを彼らは経験で知っていた。だから、ボングらは、それを、猛獣の勢いを持つ大熊星人の口と鼻にめがけて投げつけたのだ。
 それらを口に入れた大熊星人、さすがに食べ慣れないと見えて
『ぎゃあー』
 と叫びながら宇宙船にのって逃げ帰った。

 助かったペンギンリーダー、
「いや、助かりました。貴方がたが、平和と対話を愛する種族ということが良く分かりました」
 掌を返すとはこの事だが、そのくらいで憤っていてはスパイ稼業は務まらない。
『分かって頂いて光栄です』
「貴方がたが信頼出来る方だと分かった上での相談ですが」
 相談?・・・ここで相手の意図を先に汲み取れば一気に優位に立つ筈だ。そう思ったボングは頭をフル回転させた・・・地球への侵略に続く、今度は大熊星人からの攻撃、そして相談、それらを考え合わせると、もしかすると・・・
 ボングは一か八か、こう口に出した
『もしかして、亡命先を探しているのではありません』
「なんと素晴らしい頭の持ち主なの! 実はそうなのです」
 ビンゴ! これで彼らは敵から味方になる!!
『なるほどな、それなら、人間に紛れ込む方法がある』
「あの危険な種族ですか?」
 さすが、良く知っている。
「あのう、ペンギンではダメでしょうか? その為にペンギンそっくりの地上服も開発しましたのに」
『心配いらない、君達の容貌をもってすれば、人間の中でも美人美男子として通るから、迫害される心配は無い』

 かくて地上には「隠れペンギン子」が住むようになりましたとさ。


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