(C) Script by Miyake_kobo.
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この氷河を見るためだけに、私たちは3泊3日のカヤックの旅に出かけた。女性のリーダーが蛇行するフィヨルドを案内していく。
『水温は4度だから、もしも転落したら30秒で心臓麻痺よ』
日本では、そんなツアーなんか認可されないだろう。
1泊目の砂浜は氷河からほど遠い。狭い浜に半世紀前の津波で塩をかぶった木々が、あたらしく生えてきた木々と並んで立っている。寒さと塩ゆえにいつまでも腐らないのだ。北国の再生プロセスは人生よりも長く、孤独だ。
2日目、ようやく氷河が見えてくる。でも焦ってはいけない。時折、氷が崩れて、その度に海が波打つからだ。危険は他にもある。崩れ落ちた氷塊だ。それを縫うように漕ぎ、次第に氷河に近づく。
「あのう、今、ここで氷河が大崩壊したらどうなるんでしょう?」
『そりゃ、全員死ぬわ』
3日目、宿泊予定の最後の浜に近づく直前に強い風にあおられた。両側が切り立った崖で遮られているのに、海には白波がたっている。
「よかったなあ、この風が最後で」
1日目に同じ風が出ていたら、果たしてだれも転覆せず済んだかどうか。リーダー以外は皆初心者なのだ。
手軽には届かない自然。それが本来の姿だろう。地球を汚していく人々が、自然の遠さを知らないのではないかとふと思う。