ゲーム編



「私には自信がないわ。お願い、もう少しだけ犬槙さんが育ててください。私もそのあいだにいろいろ考えたいんです」
「わかった、今のところは僕が面倒を見ることにしよう。しかし……」
 犬槙さんは、ため息をついた。
「ほんとうに、だいじょうぶかなあ」

 あれからまた、三ヶ月が過ぎた。
 私も夫の遺したロボット関係の資料を読んだりして、自分なりに「自律改革型」ロボットの育て方を研究した。
 そろそろ、セフィロトを引き取ろう。それが樹が望んでいたことなんだもの。
 そう決意して、応用科学研究所の犬槙さんの研究室を訪ねたのだ。
「あ、胡桃さん」
 ドアのところで出迎えてくれたのは、なんとセフィロトだった。
「お久しぶりです」
「あ、あ、久しぶり。犬槙さんはお留守?」
「はい、でもすぐにお戻りになります。どうぞ」
 招じ入れられて、私はどぎまぎしてしまった。セフィロトってば何だか見違えるほどカッコよくなっている。透き通るような光沢のある素材のシャツも流行の先端だし。髪もさらさらで、軽く流した素敵なヘアスタイル……。
 あ、あれ?
 私は気がつくと彼の腕の中に抱かれていた。
「どんなにあなたに会いたかったか。胡桃。僕のかわいい人」
「はえ? ふぎゃっ、むぐぐ……」
 驚きの叫びも、あとのほうは彼の唇にふさがれてしまう。
 しかし、なんでこんなにキスが巧いの? 脳みそが溶け出していってしまいそうなほど優しい舌使い。
「たくさんの女性に会いましたが、あなたほど美しい方はいなかった」
「あ……はん……っ」
 熱をおびた私の耳たぶを、彼は甘噛みしながら低くささやく。
「今晩は、三人とデートする予定でしたが、全部キャンセルします。最上階のスイートで東京ベイの夜景を見ながら、僕のものになってください」
「い、い、い……」
「いいんですね?」
「犬槙さああぁぁんっ。これは一体どういうことなの!」

 稀代の女たらし、犬槙魁人。彼にセフィロトを長く預ければこういう結果になることを、予想しなかった私が悪かったのか。
 天国にいる樹に何と言えばいいの?
 頭の片隅ではげしく後悔しながらも、私の肉体は陥落寸前だった。
 


 No.2「女たらしエンディング」 ――  初期化する?

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