ゲーム編



 私はセフィロトを自然と触れ合わせながら育てることにした。
 だって、こんなに観葉植物が好きなのだもの。樹もきっとそれを望んでいるにちがいない。
 世界中のあちこちの自然公園を見せてあげよう。いろんな珍しい植物の種を取り寄せて、育てさせてあげよう。
 そこから、生命をいつくしむ美しい心が育つはずだ。

 数ヶ月がたった。
「セフィ〜。どこにいるの?」
 私は家の中でまた、迷子になっていた。
 からみあい、重なり合う枝や葉にじゃまされて、ほんの数メートル歩くのもやっとだ。
 そう、セフィロトの植物好きが高じて、古洞家はジャングルと化していたのだ。
「セフィってばぁ」
「あ〜あ〜あ〜」
 雄たけびを上げながら、セフィロトが器用に枝から枝へと飛び移ってくる。
 上半身は裸で、動物の毛皮の腰巻き。すっかりターザンルックがお気に入りらしい。
「胡桃、おはようございます」
「セフィ、キッチンまで連れて行って。もう、どうして毎朝寝室から出るたびに家の様子がすっかり変わっているの?」
「すみません、みんなすくすく成長してくれるので、うれしい悲鳴を上げています」
 セフィロトに手を引かれて進んでいくうちに、クリーナーロボのクリンが蔓にからめとられて宙に浮いているのを発見、救出する。
「あ、胡桃、見てください。これが応用科学研究所の呉中博士と共同研究していた新種の広葉樹ですよ。来週学会に発表するつもりです。呉中博士がわたしの名前をつけてよいとのことでしたので、「セフィロト」という学名をつけました」
 彼はまるで恋人を愛撫するように、つややかな葉に頬擦りした。
「こいつはすごいんですよ。最小限の水と養分と日光で、一日で2メートルも枝を伸ばしていくんです。たぶん1ヶ月もすれば、このビルの外壁全体が緑の葉に覆われるはずです」
「そ、そ、そんなぁ。そんなことになったらこの家から追い出されちゃうじゃない」
「そうなったら、アマゾンに移住しましょう、胡桃。そうするのが夢だったんです」
「ひええ……」
 私はよろよろとダイニングテーブルにたどりつくと、疲労のあまりへたりこんだ。
 セフィロトは私にコーヒーを注ぎながら、
「すばらしいと思いませんか。こうして地球全体が緑に覆われれば、温暖化現象もすぐに解決します。地球はまた生命に満ちた星となるんですよ」
「そうね……」
 私は、香り高い液体を一口口に含むと、ゆったりした気持ちで頭上に生い茂る緑の樹木を見上げた。
 自然を破壊し、便利さだけを追い求めてきた今までの文明を捨て、人間とロボットが手を取り合って自然の中で生きる。それも素晴らしいことなのかもしれない。

 「セフィロト」の樹の下で、私はそんな未来を心に思い描いていた。



 No.3「ジャングルエンディング」 ―― 初期化する?

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