頭蓋骨を捜せ(婆さんバージョン)
「頭蓋骨が消えています」
医師が婆さんのX線写真を指差して、
「最近多いんですよ」
と付け加えた。家族は動転して、
「どこに隠したのよ」
婆さんの跡には変な消失事件が多いのだ。
「知らん」
「何でも隠すんだから。こないだなんかクッキーの缶がトイレの棚から出てきたのよ」
「なんでわしだけが責められるんじゃ」
婆さんは泣き出した。
家族あげての大捜索が始まった。押し入れの奥を引っ張り出し、物置の段ボールをひっくり返し、箪笥、引き出し、挙げ句は垣根の中まで調べ尽くす。
「あ、へその緒だ」「誰の乳歯なの?」「ヤバい、通知表だ」「婚約指輪がこんなとこに」「きゃー!」
翌日、
「これ、預けておく」
婆さんの持ってきたのが、あれほど捜していた頭蓋骨だった。
「どこで見つけた?」「さあ」と埒があかない。
ともかく病院に持っていき、頭に埋め戻してもらった。
騒動を忘れかけたある日、婆さんは頭を指差しながら訴えた。
「これ、どうもわしのと違う。隣のキヨ婆さんのじゃ」
頭蓋骨を捜せ(ブラックホールバージョン)
銀河中心の巨大ブラックホールは、その周囲の異常でそれと知れる。とくに巨大X線源はいわば銀河の頭蓋骨。これを通して、我々は光すら出て来ない永遠の神秘を探る。
それに異変が見つかった。3ヶ月前に見えていた奴が奇麗に消えてしまっているのだ。ブラックホールが呑み込んだ? 大発見に興奮して、頭蓋骨の消失を家族に語った。
付き添いの娘は眉を吊り上げ、食ってかかる。
「どこに隠したの」
「な、何を言っているんだ?」
勘違いも甚だしい。
「何でも隠して失くすくせに。こないだなんかクッキーの缶がトイレの棚から出てきたのよ」
「ぬれぎぬだ!」
その日から、家族あげての大捜索が始まった。
娘は押し入れの奥を引っ張り出す。
「婚約指輪がこんなとこに」
鏡台の引き出しからは
「あ、へその緒だ」「この乳歯って誰のだったっけ?」
全然進まない。
孫娘は物置をのぞき回る。
「きゃー!」
息子は何故だか庭を発掘している。
「猫の頭!」
孫は海賊漫画を早めくりだ。ポロリと紙が落ちる。
「ヤバい、通知表だ」
まるで、わが家はタイムマシンだ。懐かしくて、うきうきしてくる。
気がつくと、俺の手に頭蓋骨が握られていた。
「どこで見つけたのよ?」
「さあ?」
無理矢理家族に連れられて病院に持って行くと、
「頭蓋骨消失症ですね、最近多いんですよ」
医師はそう言って、勝手に脳に埋め戻した。あの写真は銀河でなく俺の頭だったらしい。
騒動を忘れかけたある日、博物館から電話があった。標本室で見つかった頭蓋骨がDNA鑑定の結果俺のものだとわかったそうだ。
「それがですね、代わりに北京原人の頭蓋骨が消えているんですよ。心当たりありませんか」