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Galaxy Gallery





絵をクリックすると640*480の解像度でご覧いただけます(使用ソフト:DOGA-Lシリーズ)。

上段は、火星の大渓谷を飛ぶYX35便
中段は宇宙空間を飛ぶYX35便(左・中央)と、爆発する木星探査船と脱出カプセル(右)。
下段はクシロ航宙ポート上空のYX35便。



     ギャラクシー・デイト
      〜 Galaxy Date 〜



『火星にようこそ。
こちら、クリュス航宙ポート管制ステーション。ステラ管制官です』
 通信回線の向こうから、事務的な女の声が聞こえてくる。  キャプテンが、罵詈雑言まじりのイライラした声で応答した。
「こちら、YX35便。ポートへの誘導を要請する」
『了解しました。進入航路を確認いたします』
 ポートまでの誘導路のように4000km続く『マリネリス大峡谷』。その赤茶けた岩肌をはるか眼下に、YX35はゆっくりと降下していく。


 管制ステーションの誘導にしたがって、貨物シップはドッキングトンネルに進入した。
 牽引用のタグアームにからめとられ、吸い寄せられるように船体はロックされる。衝撃はほとんどない。
 ドッキングのあいだ、一度も姿勢制御用ロケットを噴射しなかった。キャプテンの操船術は相変わらず神業だ。これほどの腕を持つ彼が、内宇宙一周クルーズ用の豪華客船の船長や、銀河連邦軍の将校にならなかったのは、訳がある。
 ポートスタッフによる外壁の放射線洗浄が終了し、貨物の搬出が始まったあとも、キャプテンはじっと席に座ったまま、操縦レバーから手を離さない。
 いや、離せないと言ったほうがいい。こわばった手の指がレバーに貼りついてしまっているのだ。


  航宙大学の教官が宇宙一のパイロットだと口を極めて誉めるレイ・三神船長。僕が彼にあこがれて、卒業後すぐ彼の貨物シップに新米操縦士として雇ってもらったのは2年前だった。
 乗船しているときのキャプテンはいつもハイテンションで、あたりの者を罵りまくり怒鳴りまくり、女と見れば尻を触りまくる、どうしようもない俺様男だった。なのに、いったんシップを降りると口数の少ない理知的な男に変貌するのは何故なのか。
 やがて、見習い時代から彼のことを知っているという古参のエンジニアの爺さんが、その訳をこっそり教えてくれた。
「やっこさんはな、宇宙が恐くて恐くてたまらないんだよ」


 30年前、木星系から帰還する途中の調査移民船が隕石に巻き込まれて爆発した。彼はそのただひとりの生き残りだったのだ。暗黒に対する極度の恐怖心から、それから何年もの間、心理治療を受けなければならなかったという。
 それなのに、どうして航宙士という職業を選んだのか、僕にはわからない。だが今でもキャプテンは、宇宙と、そして自分と戦っているのだと思う。僕たちクルーは、そんなキャプテンに心底ほれちまったヤツらの集団だった。


 ポートから地上へ降りるエレベーターの中で、僕たちは2ヶ月ぶりの火星の夜の街に繰り出す相談で、大騒ぎしていた。
「キャプテン、ユナちゃんが一億キロの彼方だからって、浮気しちゃだめですよ〜」
 シップの上で言ったら瞬殺されそうなセリフも、船を降りた今なら平気で言える。
 白鳥ユナは、クシロ航宙ポートの管制官で、キャプテンの恋人。たぐいまれなる『ギャラクシー・ヴォイス』の持ち主だ。
 彼女の「ようこそ地球へ」という声が聞こえると、僕たちはまるでずっと息を殺して待っていた子どもみたいに、ほうっとふるさとへ帰った喜びに包まれるのだった。
 彼女に出会ってからのキャプテンは、少し変わったと思う。地球との交信中、いつもの下品な口調で彼女をからかいながらも、ときおり安堵した無邪気な表情を浮かべるときがある。
 キャプテンはもうひとりで戦わなくてもよくなったのかもしれない。
「そう言えば、今度帰ったとき、ユナちゃんを膝の上に乗っけて、宇宙を見せてやるって約束してましたよね」
「月までのデートなんかいかがですか? 近いから、宇宙貧血に弱いユナちゃんにも楽だし」
「これがほんとの『ハネムーン』、だなんてねっ」
「あ、そういえば静かの海に新しくできた「クリスタル・チャペル」で式をあげるのが、今女の子たちのあいだであこがれみたいですよ」
 黙って苦笑しているキャプテンをいいことに、僕たちはしゃべりまくった。


 まさか、その冗談が本当になるとはつゆ知らず。


  *  *  *  *  *  *  *  *  *


 半年後。


「地球にようこそ。こちら、クシロ航宙ポート管制ステーション。三神管制官です」

 ポートへのドッキングの順番を待つのももどかしげに接近してくる宇宙貨物船に、三神ユナはゆっくりとした口調で語りかける。型通りの挨拶しかしないが、ユナにはそれが誰だかコンピュータに照会するまでもなくわかっていた。

「ユナちゃん、ただいま! 今帰ったよ〜」

オープンされた通信回線から聞こえてくる懐かしい声。管制室でその声を聞くと彼女はいつもホッとする。けれどそれはクスクスと周囲からの忍び笑いをいつも誘うことともなる。

「三神船長、入港中の私語厳禁です。現在クシロの状況をお伝えします。上空はやや霧が発生。南南東の風5ノット。気圧1024hPa。磁気の乱れはありません。念のためレーザー誘導を行いますので、指示にしたがって下さい」
「ユナちゃん、冷たいんだ。それが二カ月ぶりに帰って来た旦那様に対する仕打ち?」
「三神船長、この回線は他の管制官たちにもオープンされています。またわたしが笑われるんですよ!」
「ほっとけ、そんなの。いいかげん、いつもみたいにレイって呼んでよ」

 周囲の失笑に顔を真っ赤にしながらユナは夫の乗船する貨物船、YX35便をポートへと誘導する。

「ほっとけません! 誘導レーザー照射。確認してください。これ以上おしゃべりしていてポートドッキングに失敗しても知りませんからね」
「オッケー、オッケー、とりあえずここは引き下がるよ。レーザー確認。以後誘導に従う」
「誘導レーザー受信、確認しました。気をつけてどうぞ」
「了解! ユナちゃんもすっかりベテラン管制官の仲間入りだな。その調子で今晩もしっかり俺をユナちゃんの中に誘導してくれよ!」

 三神船長の言葉に管制室が一気に沸き上がった。皆、笑いを堪えきれなくなったのだ。ひとりユナだけが真っ赤な顔をしてまなじりを決している。

「三神船長! 何度も言うようですがこの回線は」
「「他の管制官たちにもオープンされています!」」
「だろ」

 見事に重なった二人の声に、さらに笑い声が大きくなる。ユナは溜息をつきながらも心の中でそっとつぶやいた。

「お帰りなさい、レイ」




とっとさんから、サイト2周年記念に拙作「ギャラクシーシリーズ」のCGを9枚もいただきました。
おまけ短編は、とっとさんとBUTAPENNとの合作です。
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