「……で、どうして、そういうことをしたのかな、セディ」
ハウスキーピングチーフのトシュテンは、宙に浮くサッカーボールをにらみつけた。
いや、厳密に言えば、サッカーボールではない。【宇宙局】所属の補佐型人工知能【SEDI】。シップ内を自在に動き回り、コンピュータシステムの異常を発見し、必要に応じてクルーを助けるのが彼の役目だ。
「どうしたんだ?」
ロシア人の航宙士エーディクが、興味を引かれて寄ってきた。童顔のスウェーデン人が【SEDI】と向き合っている図は、サッカー少年のようで、なんとも微笑ましい。
「こいつ、クリーナーロボの通った後に、こっそりゴミを撒き散らしていたんだ」
「おやおや」
『ゴミを撒き散らすなんて、人聞きの悪い。シップ内の感知システムを調査していたと言ってくれるかな』
「クリーナーロボの稼働率を15%も上げやがって。それだけ寿命も短くなるんだぞ」
「そう言えば、あれも、きみのしわざだったのかい」
エーディクは笑いをかみ殺しながら、言った。「サービスロボが、ブリッジに唐辛子入り激辛ドリンクを運んできたんだよね。知らずに飲んだミゲルは、しばらくそこらじゅうを走り回って、そりゃあ悲惨なことになった」
『総務主任の脳波計データは、あのときレム睡眠の波形を描いていたんだもの。勤務中の眠気を覚ましてあげるのは、親切というものだろ?』
「親切ねえ……」
立ち話はそれっきりになったのだが、一週間もすると、問題はもっと広がり、もっと深刻になっていた。
クルーだけではなく、テクノロジストたちの中にも、【SEDI】の餌食になった者が続出したのだ。
「もう少しで、死ぬところだった」
だまされて唐辛子入りドリンクを飲んだ科学者たちは、悲痛な声で訴えた。
『だいじょうぶだよ。致死量までは入れてないから』
「致死量の唐辛子って、どんなんだ!」
なにせ【SEDI】は、統括コンピュータ・システム【ギー】を通さずに端末を直接操作するものだから、いたずらの防ぎようがない。
「スイッチを切ってしまえ」との声まで噴出し、保護者である内海少佐は、ほとほと弱り果ててしまった。
シップ最上層の天体観測ドームでは、給仕長のギュンターの気が向いたときだけ、夜に臨時のバーが出現する。そして、これまた気の向いたときだけ、音楽家のミケーレがふらりと現われ、居合わせた幸運な客は、電子ピアノの即興演奏が楽しめるのだ。
そのどちらもに恵まれた夜、レイと内海は、大望遠鏡の台座を利用したカウンターに隣り合って、グラスを打ち合わせた。
「きみには迷惑をかけっぱなしだな、キャプテン」
「迷惑なんてことは、ありません」
【SEDI】の処分についての議論はいったん保留になり、シップの責任者であるレイ・三神船長に一任されていた。
「セディは何十年もずっと、わたしの補佐として宇宙をめぐっていたんだ」
内海少佐と【SEDI】との出会いは、銀河連邦軍の適性テストの場だったというのは、シップ乗りのあいだでは有名な話だ。
ちなみに、この適性テストゆえに、レイ・三神は連邦軍パイロットという選択肢をあきらめ、商業航路の航宙士を選んだ。一ヶ月のあいだ音のない部屋に閉じ込められるという軍独自の過酷なテストは、幼少期に味わった脱出カプセルの恐怖を思い起こさせるものだったからだ。
「おかげで何ヶ月も誰ひとり会わぬような辺境の地でも、私は孤独を感じずに済んだ。暇さえあれば彼は冗談を言い、いたずらを仕掛けてくれたんだ」
内海の前に出されたカクテルは、内心の憂鬱を表わすように【ブルーハート】。日本酒とブルーキュラソーを合わせたものだ。
この【天空バー】では、オーダーする権利は客にはない。バーテンダーが客の心中を推し量りながら、持ち込んだ酒の中から出すカクテルを選ぶのだ。
「『人類の犯す罪の半分は、退屈が原因だ』というのがセディの決まり文句でね。『サビが機械を壊し、退屈が人間を殺す』というのもあったな。決して悪意があるわけじゃない」
「わかっていますよ」
レイはうなずくと、日本酒とライムを合わせた【サムライ・ロック】を口に含む。
「セディは、いたずらを仕掛ける相手と場所をきちんと選んでいる。たとえば、操縦中のパイロットは、決して狙わない。ものを壊したり、人を怪我をさせるような事態も、起こしていません」
「乗員たちの脳波、脈拍、体温を測定して、今が中だるみの危険な時期だと、彼なりに分析しているんだ」
少佐の言うことに心あたりのあるレイは、顎を持ち上げ、頭上の星空を見つめた。
実は、ドクター・リノとも同じ話をしたところだったのだ。子どもをふくめ乗員全員が定期的に受けている健康診断で、集中力のグラフは、この数週間、わずかずつ低下していた。とりたてて危険な数値ではないが、しかし無視することもできないレベルだという。
【第一次木星調査移民団】のアステロイド・ベルトにおける衝突事故も、まさに、これと同じ状況で起こったのだろう。
退屈と慣れから来る些細なミスの増加、疲労による注意力の散漫。その結果起こる、玉突きのような異常の連鎖。
それがもたらす危険性を、まっさきに機械である【SEDI】が気づいて、警告しているのだ。
「セディを罰する必要はないと皆に報告しましょう。むしろ表彰したいほどだと」
「そう言ってくれて、私も気が楽だ。なにしろ――」
少佐は端正な横顔を笑みに緩ませた。「あいつは、人間嫌いの私の、生涯でたったひとりの親友なのだから」
話がまとまったのを見計らって、ギュンターは緑の液体が入った新しいグラスをそれぞれの前に差し出した。
「どうぞ」
「ありがとう」
乾いた喉にごくりと酒を流し込んだふたりは、次の瞬間、止まり木の椅子から飛び降り、苦悶に体を折り曲げた。
「あ、言い忘れてました。今のはセディからおふたりへの奢りです」
すました顔で、ドイツ人のバーテンダーは言った。「致死量寸前の山葵がはいっています」
ミケーレが、【椿姫】の「乾杯の歌」を華々しい調子で弾き始めた。
しかし、それからまもなく、退屈などをかこっていられない珍事件が勃発した。
「間違いありません。【小惑星番号16】に赤外線反応です」
「プシケか」
アステロイド・ベルトの小惑星には、すべて番号がついている。発見者によって名がついているものもある。
プシケは、19世紀なかば十六番目に発見された小惑星で、純度の高い鉄やニッケルなどで構成されている。もともとの直径は253キロメートル。五十万個以上あると言われている小惑星帯の中でも、巨大な部類に入る。
22世紀後半、すでに枯渇しかけていた地球の資源を補うために、小惑星の鉱物採掘という壮大な計画が脚光を浴びた。プシケはその計画の目玉として、運搬用の定期航路までが開かれたのだ。
だが、23世紀初頭、誤った採掘計画により、プシケ本体に大きな亀裂が生じ、事業は中断。【小惑星資源開発公社】が巨額の累積赤字のために倒産し、プシケは急速に忘れ去られた存在となっていった。
その小惑星が今、【フロンティア号】のモニターに投影されている。直径約19キロメートル。開発前とは比べ物にならぬほどの小ささだ。
「プシケはいくつかに分裂して、その衝撃で、それぞれ軌道を変えてしまいました」
主任通信士のユナ・三神が、コンピュータのデータをすばやくチェックして、各セクションのコンソールに送る。「目の前にあるのは、その本体部分だと考えられます。当初よりかなり木星寄りの軌道になっています」
「赤外線反応があるということは、採掘が続いている?」
「採掘ロボットは約二百体いましたが、採掘中断とともに停止し、放置されているはずです」
「何らかの理由でロボットは停止せず、採掘作業が三十年後の今なお続けられているということか」
レイは、ひとつの推論を組み立てた。「それなら、赤外線反応の謎も解ける」
「ロボットは、公社が倒産したことも、運搬航路が閉鎖されたことも知らずに、鉱物を掘っているんだな」
与えられた使命を黙々と果たす作業ロボットたち。いつの日か、自分たちの足元の地面さえ、粉々に割れて散らばっていくだろう。それといっしょにも彼らも永遠に宇宙をさまようことになる。
モニターを見ながら、クルーたちはしんと静まりかえった。思考力のない単純作業用のロボットたちとはいえ、その運命はあまりにも悲しかった。
「キャプテン」
コンソールに屈みこんで一心不乱にキーを叩いていたメカニック・チーフのコウ・スギタが、大きな声で叫んだ。「プシケに立ち寄り、採掘された鉱物をいただきましょう」
「なんだと」
「鉄やニッケルは、イオでの建築資材に有用です。プラチナ、チタンなどの希少金属も、喉から手が出るほどほしい。精錬済みならば、現地で施設建設に必要な期間が一気に数ヶ月縮まります」
「でも、そんなの泥棒じゃないんですか?」
と、アラブ人の保安係ニーザムが、心配げに尋ねた。
「いや、プシケは今は誰のものでもない。資源公社が持っていた独占利用の権利は、もう五十年の期限を過ぎています」
銀河法にくわしいミゲルが、代わりに答える。
「だが、そんな大量の資材を積み込む余裕はあるのか」
「積み込む必要はありません。木星まで誘導します」
さらにとんでもないことを言い出したスギタの顔を、人々は唖然として見つめる。「誘導だって!」
「今のプシケの軌道なら計算上は可能です。まずプシケの一地点に爆薬を仕掛け、爆発の反作用で木星の重力圏を通過する遷移軌道に乗せます。数機のブースターロケットを取りつけておいて、木星近くに来たときに、ふたたび軌道の修正をかければいいんです。その作業のためのシップ停止の時間および燃料ロスは、得られるものの価値に比べれば微々たるものです」
ブリッジは、隣のクルーの心臓の鼓動が聞こえるかと思うほど、しんと静まり返った。
キャプテン・三神は、主操縦席から立ち上がった。背中に指揮官としての苦悩がにじんでいる。成功すれば、移民計画全体にとって、すばらしい快挙だ。だが、失敗すれば?
航行計画にはない寄り道が、果たして移民団にどんな利益と損害をもたらすのか。もしかしてシップ全体を無用な危険に巻き込んでしまうのではないか。
やがて、彼は確信を得て顔を上げた。頭上のモニターには、太陽光を浴びて白く光る、いびつな球体が浮かんでいる。
「今より、小惑星プシケに向かって回頭する」
一片の迷いもない命令に、クルー一同は「イエッサー」と声をそろえて答えた。
プシケへ到着するまでの数日間で、メカニックチームは、大型ブースターロケットを六機整備した。
もともとは、エウロパやガニメデなどの木星の衛星から氷の塊を切り出して、輸送する目的で開発しておいたものを、小惑星のために改良したのだ。
スギタ、それにメカニッククルーのドミンゴとジュードの三人でプシケに降り立ち、【フロンティア】号から次々と投下されるブースターロケットを地表に設置する。最後に爆薬を地表にしかけてシップに戻るのだ。
二十歳年上の旧友の身を案じて、むっつりしているレイを振り返り、スギタは目配せした。「たまには、エヴァの前でいいところを見せる場を与えてくださいよ」
酸素タンクや工具の入った作業キットを背負い、減圧室に三人が入ろうとしたとき、するりと扉をすり抜けて何かが入ってきた。
『わたしも連れて行きなさい。役に立つから』
「セディ、何やってるんだ。おまえ」
「遊びじゃねえんだぞ」
球形の人工知能をつかまえようとする部下たちを、スギタが止めた。
「待て。これは内海少佐の命令か」
【SEDI】は、体表の中央に並んでいるランプを、瞬きするようにせわしく点滅させた。『いいえ、わたしの独断だ』
「なぜ」
『捨て置かれたままのロボットたちの話を聞いて、不覚にも涙がこぼれそうになった。なんとかして彼らを助けたい』
「てめえのポンコツボディのどこから、涙がこぼれるってんだよ」
ジュードの悪態に、全ランプを真赤にして抗議する【SEDI】に、スギタは口元をゆるめた。
「わかった。同行を許可する。ついてきてくれ」
帆をたたんで速度を落とした【ギャラクシー・フロンティア】号から、メカニックチームはクルーザーに乗って飛び出した。
次第に高度を下げながら、小惑星のごつごつした白い表面をゆっくりと横断する。ドミンゴが【ギー】の端末を操作して、ブースターロケットを投下する最適の位置を計算し、地表に障害物がないかチェックしている。
『準備完了』
【SEDI】は、ボディをくるりと回して報告した。『第一弾、90秒後に発射』
【フロンティア】号に残ったバッジオの手によって発射ボタンが押され、ブースターロケットはプシケの地表に正確に投下された。
すぐにクルーザーが着陸し、三人のメカニックは、二階建ての家ほどもある巨大なロケットにふわりと飛び乗った。鉤型の先端がしっかりと岩盤にもぐり込んでいるのを確かめたうえで、後部ハッチを開く。黒々とした巨大な噴射口を点検し、角度を微修正した。【SEDI】は【ギー】と直接交信して、現場の様子を詳細に伝えている。
残る五機のブースターロケットの投下予定地点へと移動するため、クルーザーはふたたび空に舞い上がった。
「あ、あれは」
上空から、採掘現場が見えてきたのだ。深さ一キロにおよぶ巨大なクレーターが掘り抜かれている。
陽の届かぬ真っ暗な穴の底でチカチカと銀色に点滅するたくさんの光は、その中で働いている作業ロボットたちだ。
「これは、すごいな」
細かく砕かれた岩石は、溶鉱炉で精製され、純度の高い金属スレートとなって、高く積み上げられている。空から見ると、集積場はまさにピラミッドだった。
かつて、精製された金属は定期運搬船によって次々と運び出されていった、もう何十年も、運搬船は来ていない。だから、闇の中で働くロボットたちは自分たちの任務が誰にも必要とされていないことなど、まったく知らないのだ。
「セディ。やつらは何体いる?」
『およそ、百体。残りは故障して停止しているか、あるいは、小惑星の断裂とともに宇宙に吸い込まれたと考えたほうがいいね』
「なるほど。それでもなお、仲間の屍を乗り越えて、やつらはせっせと作業を続けていると」
スギタは自分のヘルメットの頭の部分をコツコツと叩いた。「資源公社は、停止命令を送信することさえ忘れているんだろう。まったく罪作りな連中だ」
『自分のすることに意味を見出せないと、人は生きていけないんだよ』
【SEDI】は、老人のしわがれた声になって、ひどく真剣な調子でつぶやいた。『それはロボットだって同じだと思う。誰かに認めてもらいたい。どんなちっぽけなものでも、何かを生み出し、何かの役に立ちたい。そうでないと、生きていくことは、ひどくつらいんだ』
彼自身が、そのつらさをずっと体験したきたのだと言っているようだった。
「そんなこと考える脳みそは、あいつらにはないぜ」
『機械にだって、喜びや悲しみに似たものはあるよ。人間の心とは構造が違うだけで』
【SEDI】とジュードの言い合いを聞きながら、スギタは「ううむ」とうなった。
「ロボットは停止させて、全部廃棄していこうと思っていたんだが」
ふりむいた【SEDI】は、まるで青ざめているように、ランプを青く明滅させた。『いっしょに木星に連れて行けないの?』
「必要な数の作業用ロボットはそろってる。連れていっても役には立たんぞ」
『お願い』
甘えた少女のような声を出す人工知能に、スギタは「はあ」と吐息をついた。
「わかった。キャプテンに蹴飛ばされるのを覚悟しておけよ」
『うれしい。頼んだよ』
【SEDI】はボディを固定していたシートベルトをはずして、宙に舞い上がった。『わたしをここで降ろしてほしい。ロボットたちを集めて、事情を説明してくる』
「俺もついていこう」
ジュードが立ち上がった。「チーフたちは、予定どおり残りのブースターと爆薬を設置してください。俺はこいつが余計なことをしないか監視しときます」
『余計なことってなんだよ』
「おまえの存在そのものが、余計なんだよ」
言い合いながら、後部のハッチに向かうふたりを苦笑しながら見送ると、スギタはさっそくブリッジに連絡を取った。
このプロジェクトが成功すれば、プシケは木星に向けての楕円軌道に入る。小惑星自身が運搬船となり、大量の資源を輸送するのだ。
彼らが木星に到着するのは、【ギャラクシー・フロンティア】号到着の数ヵ月後。ちょうど基地の本格的建設が始まる頃だ。
ブリッジのクルーたちは、スギタたちの作業を固唾を呑んで見守っている。
【第一次木星調査移民団】の団長、ハンガリー人のベッテルハイム博士が上から降りてきて、キャプテン・三神から事のあらましの説明を受けた。
「これだけの資源を確保すれば、イオに到着後の基地建設が格段に早まることになるね」
博士は白いひげを引っ張りながら、うれしそうに言った。「キャプテン。あの作業ロボットたちを有効利用したいと思う。エウロパやガニメデで氷を切り出す作業に使うというのは、どうかね」
「では、それぞれの衛星に、ロボットを常駐させると?」
「そうすれば、当初の計画よりもずっと早く大量の氷が運べる。水と酸素が安定供給されるというわけだ。ロボットたちのデータを取ってきてくれぬかな。そうだ。さっそくテクノロジストを召集して、ボディの改良とプログラムの組み替えを――」
口の中でぶつぶつ呟きながら、博士はエレベータの扉の向こうに、そそくさと消えた。
「スギタ、ロボットの詳細なデータを頼む」
『はい、キャプテン。そっちはセディとジュードにやらせてます』
交信が終わると、レイは主操縦席から後ろを振り返った。
「セディは、チームの一員としてうまくやっているようですよ」
「うん」
内海少佐は、プシケから送られてくる映像を、目を細めて見つめていた。
「あいつは、私が軍を引退してからというもの、自分の存在意義を見失っていたようだ。特に、このシップに乗り組んでからは、大勢の人間に囲まれて、どうふるまえばいいかもわからなかった」
「それは、あなたも同じだったのではありませんか?」
レイの答えに、少佐は、にやりと彼女らしい不敵な笑顔になった。「言ってくれたな、ひよっこ。だが、セディも私も、ようやくそれぞれの居場所を見つけたようだ。張り合う相手もな」
『へい、ブリッジ!』
スピーカーから、【SEDI】の声変わり前の少年に似た甲高い声が響いた。『今から送る楽譜データを誰かに演奏させてくれ。うんと景気よく!』
「なんですか。これは」
呼ばれたミケーレは、楽譜を見て目を白黒させながら、携帯電子ピアノを取り出し、力強く弾き始めた。
最初の数節を聞いただけで、驚いたことに、レイ、ユナ、内海、ドクター・ナクラなど、ブリッジにいた日系人クルーたちがお腹をかかえて笑い出した。
月が出た出た 月が出た
プシケ炭鉱のうえに出た
あんまり煙突が高いので
さぞやお月さんも 煙たかろう
サノヨイヨイ
『なんなんだ、この歌は。ロボットたちがみんな、輪になって踊り始めたっ!』
イギリス人のジュードの絶叫が、【SEDI】の歌声にかぶさって、スピーカーの向こうから聞こえる。
小惑星プシケは、その頭上はるかに木星を頂きながら、発進する時を静かに待っていた。
9/26、アドバイスを受けて、小惑星の輸送方法などを一部改稿しました。