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公子Sの秘密                      第48代我輩


 男には妻や恋人にも知らせない秘密が最低7つある。そのうち2つは男どうし云々という類いのもので、2つは彼個人の事、残りは十人十色だ。秘密を守る最良の方法は、秘密があるという事自体を悟らせない事で、というのも秘密の存在をかすかに嗅ぎ付けられただけで、詮索好きの女どもはそれを執拗に尋ねて来るからだ・・・それが男の側にも女の側にも、そして第3者にも悪い結果しか残さないにしても。
『だが、女はまだマシだ、あの野郎に比べれば』
理想と、その理想を現実に近づける政治手腕・・・表裏両方・・・を持った公子Sはこう吐き捨てた。

 あの野郎とは公子Sに取っては従兄の孫にあたる。本来なら可愛い筈の存在だが、女にモテる全ての要素と、民衆に熱狂される全ての要素と、権力に一番近い地位にあるいう事実と、それでいて抜け目無く裏工作をするという、いわばナポレオンとヒットラーとケネディと坂本『竜』馬と管仲とショーンコネリーの良い所の全てを表裏共に兼ね備えたようなキザ野郎ゆえに全然可愛くない。それどころか、誰か目上の者が常に監視しないと、近い将来、才能に溺れて思い上り独裁者として国を破滅に導きかねないような奴だ。そう公子Sは真剣に心配した。実際、若くして国や世界に貢献した者ほど、40歳を過ぎると最大の弊害になり易い事は、異世界の物語・・・唐の玄宗皇帝やドイツのアインシュタインなど・・・に枚挙できるからだ。
 だからこそ、公子Sはこの男にだけは7つどころか17個の秘密を今でも持ち続けている。もしも、この万能野郎が妙な方向に走り出した時に、それを食い止める事が出来る者が近隣諸国に現時点で彼しかいないと自認しているからだ。これを自惚れと言うか、深謀遠慮というかは人によってさまざまだろうが、少なくとも公子Sが本気で国の行方を心配していたのは事実だった。そして、このような心配を持っているという事自体も17つの秘密の一つだ。
 類似の秘密に足長おじさん行為がある。金持ちなら、或いは権力を持っている者なら誰でも持つであろうチャリティー願望だ。公子Sの場合は母子家庭の子供への教育的援助だ。もっとも、金持ち商人ならいざ知らず、彼のような権勢家がそういうこっぱずかしい事をおおっぴらに行うと、口差がない人々が
『あの世で閻魔様に言い訳する為の心理的保険だ』
と騒ぐ事が目に見えているので、公子Sはある商人に私塾を開かせて、そこに母子家庭の子供が無償で行けるように影から手配している。

 3つ目の秘密は公子Sの父の名誉に関わる事で・・・なべて全ての男には人には言えない妙な癖や嗜好や思考回路や欲望があるものだ・・・これは墓場まで持って行かなければならない。4つ目は母親に関する事で、世間が思っているよりも公子Sの母親が遥かに傲慢な女だと言う事だが、父親ですら気付いていないらしい母親の内心である以上、これも墓場まで持って行かなければならない。母親というのは子供の前では、その子供が理解出来ない事を前提に独り言のように本音を言ってしまう事がある。でも子供と云うのは成長した後に母親の言葉を理解する事だってあるのだ。彼もその口で、それ以来、女が外面菩薩内面夜叉であり得る事を痛感したものだ。5つ目の秘密は公子Sの過去の友人関係に関するもので、偉ぶっている友人の本質が実は臆病で喧嘩もしきれないという内容だが、これも友人の将来の事を考えて黙っている。
 6つ目と7つ目は彼自身の特異な女性関係だ。いや、女性無関係とでも言うべきか。男女の間には本人どうししか分からない、決して恋愛ではない微妙な感情が存在する。これは誰にも相談出来ない事だし親友や親兄弟にも決して分からない関係であり感情だ。そしてそれはたまにすれ違いによって問題化する事もある。数多くの女性と関係して来た公子Sには、当然ながら女性無関係の感情に近い相手も複数あるし、それを自覚もしている。だが、こういう微妙な感情と云うのは理解したからといって妥当に対処出来るとは限らない。だから、いかにドライな公子Sといえども、女性無関係の微妙な関係は余り得意ではないのだ。不惑の歳にでもなれば、そういった感情もきちんと処理出来るものだが。若い公子Sにそれは無理で、今の所は棚上げと云う形で秘密になっている。

 女性関係がらみでは、あと4つ秘密がある。その1つ目、全部で8つ目の秘密は、隣国のとある後家との関係だ。彼女の年齢と体重と不細工な顔ゆえに、そして彼女の冗談好き・ミステリー好きな性格ゆえに、たとい彼女が公言しても誰も信じないような関係だったから、公子Sは安心して彼女との関係を続ける事が出来た。もっとも、年齢が大きく離れているという以上に政略に長けた女だった故に、どんなに公子Sが頑張っても子供扱いで、要するに彼は頭が上がらなかった。それでも関係を秘密裏に続ける事に公子Sは意義を見いだしていた。彼女に大人扱いされるという目標がその一つであり、政略に優れているというのはもう一つの意義だ。前者は、傲慢さを上手くカモフラージュした母親から来た『したたかな女』のイメージと自ら闘う為に不可欠な事だった。後者に関しては、公子Sが安心して外交面で父を裏切る事が出来たという形で実を結んでいた。
 9つ目の秘密は、公子Sが多くの妾を持っている本当の理由だ。1人目の妾には2人目の所に行くと言い、2人目の妾には3人目の所に行くと言い、3人目の妾には4人目の所に行くと言う、そんな具合に女から完全に逃れる時の為の口実として複数妾は最適なのだ。更に用意周到にも、それぞれの妾に間男を自ら準備して、公子Sが別の妾の所に言っても嫉妬されないようにしている。間男達は恐らくは異国ファンタジー『金瓶梅』に出て来る使用人と同じく、公子Sを金蔓と看做しているに違いなく、その意味では全てに暗黙の了解がある。
 もっとも、この合意というのはまさに機密を要する事だから、当然ながら、あの金髪野郎にも隠している。奴に知られている事は、公子Sの妾の多くが間男を持っている外面的な事実だけだ。それで金髪野郎は彼に多少の同情をしているらしい。さては遠く東の島の平安とかいう都で起こっている物語とか西門慶という男の話とか読んだ事が無いのだろう。まあ、あれだけ色々調べかつ活動していたら、文学と云う遊びの世界を逍遙する時間がなくても仕方がないから、この点をもって金髪男を軽蔑する事は無かったが、それでもある種の優越感を感じていた。そう、実は公子Sは文学通なのだ。この事を金髪男は知らないが、しかし、これは秘密ではない。
 10個目の秘密は妃の叔母をこっそり支援しているという事だ。妃の出身国も、公子Sの国と同じくらいにドロドロした血縁・妾関係があり、妃の叔母も、その母親が東の砂漠から来た得体の知れない者と云う事で格が低くなっている。そして、この母親というのが、実は公子Sの祖母と姉妹らしいのだ。確証はない。だが、雰囲気から感ずるものがある。もしもこれが事実なら、姉妹揃って異なる国に妾として入った訳で、かなり高貴な者が政変から逃げて来たというシナリオが存在する。と同時に、悪くすれば砂漠の向うの大国からのスパイだったという可能性すらある。だから公子Sは、祖母の出自とともに、妃の叔母の母親の出自をもこっそり調査していた。もちろん、生存している叔母からも話を聞きたいと思って支援しているが、相手も宮殿の中で辛酸をなめただけあって、簡単には口を割らない。この件は非常にデリケートなので、知っている人間は少ない方が良く、彼にとっての上位の機密だった。
 11個目の秘密は別の隣国の職人の娘だ。こっちは下心も何も無い純粋な関係だった。本国での公子Sは王室に繋がるプリンスと云う事で常に誰かに監視されている。しかも公子Sは有名人で、国内でのお忍びは殆ど不可能だ。だが隣国は違う、もちろんそこでも監視はあるが、それはあくまで伴の者の監視であって、本国のように民衆に見張られている緊張はない。だから彼が羽を伸ばせるのは、皮肉な事にあの野郎と密談している時であり・・・これは12個目の秘密だ・・・隣国に出た時の伴の目をかすめて街にお忍びで繰り出す時だった。そして、そいいうリラックスの中でも一番のリラックスは、この少女の無邪気な話を聞いて相槌を打つ時だった。初めてこの娘と出会った時、彼女はまだ4つか5つだった。その隣国で初めてのお忍びの日、面白そうな事はないだろうかと思って目だけをきょろきょろしていたのを見咎められて
「おにいちゃん、なに捜しているの」
と聞かれた時に、それが余りに不意であまりに自然だったから
「面白そうなこと」
と答えてしまったのだ。人間、初めての経験と云うのは忘れ難い。そして、そのままずるずると、
『いつも面白そうな事を捜している面白そうなお兄ちゃん』
というレッテルを彼女に貼られ、そういう子供心を傷つけないようにと、公子Sもそういう演技を続けた。人生にはこういうまったりした時間も必要だろう。

 お忍びと云えば、そのお陰で遠く離れた異文化の第3王子と友誼を結んだ事がある。その関係は或る商人を通じで今でも続いており、これが13個目の秘密だ。なんでも王子の本国の前身にあたる国は、400年程前の最盛時に公子Sの国の近くまで遠征した事があり、国王の系統が変わって国名の変わった今でも、当時の国王は英雄扱いされているそうだ。そのくらいの歴史をもつ国だから、科学や学問も盛んで、公子Sの国には有り得ない程の大きな図書館もあるという。そして、王子の方は三男という事もあって政治よりはそういう学問の方に興味を覚え、それに王族遺伝の冒険心によって、公子Sの隣国までお忍びで旅行に来たそうだ。
 高貴な者はどんなお忍びでも雰囲気が違う。だから、たとい普通の者の目は誤摩化せても、自ら変装している者の目は誤摩化せない。その時の公子Sと王子とがお互いにそういう関係にあった。道ですれ違った時にお互いに気付き、後はお互いに誘い誘われるように人の少ない居酒屋に入って、腹の探り合いの後に自己紹介したのだ。そして、王子も公子Sも同じ趣味・・・図書館で非実用書を読む事・・・を持っている事がわかるや意気投合した。それは政治的な立場を一切抜きにした友人関係であり、お互いに政治の話は一切しないと云う暗黙の了解がある。だから商人が携える品物も殆どが奇書の類いであり、たまに楽器とか絵とかも交換している。それら貴重な品々は、公子Sと父親しかしか知らない秘密の部屋にこっそり保管されている。父親の方は政治に忙しいので、秘密の部屋に来る事が全く無い。だから、事実上、公子Sだけの秘密だ。もちろん、彼にしてみれば王子の国にある図書館に行ってみたい気持はあるものの、己の立場を考えれば、趣味の為に国を数ヶ月あけて危険な外国に出るなぞ到底出来ない事だと諦めている。そんな事をしたら留守の間にあの金髪野郎がどんなに妙な政策を始めないとも分からない。
 一方、仲介役の商人としては、個人的な趣味品でなく、もっと利益の出るもの、例えば香辛料や貝殻・宝石のように軽くても高価なものの貿易で利益を上げれば良いのに、と思うものの、秘密保持が優先されて、そういう方向には話は進んでいない。それどころか、商人がその手の商売を国内や隣国でする事すら禁じられているのだ。その代わりの報酬が十分に出るとは云え、勿体ない話だと商人は思っている。もっとも、その手の商売を始めたら最後、直ぐに噂が広まって道中に盗賊とかに狙われる可能性が出て来るから、身の安全を考えれば現状の秘密文通が無難とは言えよう。
 もっとも、その文通からヒントを得て生まれた事業がいくつかある。先の妾秘密下賜作戦だって、王子から送られた一連の異世界ファンタジー集『中華物語』『黄金国物語』の中の話からヒントを得たものだし、同じく『中華物語』の列伝の中の『食客三千人』の真似て、食客30人を試した事・・・全然成果は上がらなかった・・・もある。『中華物語』は彼の愛読シリーズの一つであり、その影響で公子といえども自ら山賊になっても構わないと思うようになってしまっている。実際、自国だけでなく隣国のうちの2つの国の山賊とも気脈を通じている。あの金髪キザ野郎が海賊派なら、彼は山賊派って訳だ。そして、もしも金髪野郎が国を誤るような場合の秘密兵器として温存している。これが14個目の秘密だ。もっとも気脈といっても山賊の首領と副首領しか知らない話であり、支援は当然していない。それどころか、一般人に対する殺人があったらしっかり追究する。ただただ、普段の取り締まりを緩くして、連絡しなくとも相手が取り締まりの場所を前もって知る事が出来るようにしている程度だ。いわば、『黄金国物語』に出て来る岡っ引き・下っ引きと同心の関係のようなものだ。

 15個目の秘密はある窃盗事件に関する事だ。公子Sはこの時に捕まった男A・・・公子Sの工作員の一人・・・がこの事件に関しては無実である事を知っている。そればかりか真犯人Bも知っていた。なぜ公子Sがこの冤罪事件を知っていたかというと、元々のお金が真犯人Bのもので、それを医療詐欺まがいで奪ったのが被害者Cだったからだ。しかも、その金はBの母親の治療費として、Bがあちこちから借り集めた金だった。Bは貴族に名前を連ねるとは云え、貧乏だった。だから、公子Sもまた金をサプライズで提供しようと、こっそりBの家を訪れた。それがたまたま犯行の晩だったらしく、Bが走って家に入って行くのを見かけたのだが、後から思えばそれが犯行直後だったらしい。金は廻り廻って、利子がついて元の持ち主に戻った。その事は翌々日の支払いからも分かった。でも窃盗は窃盗だ。だから情状酌量の為の弁護に立つ覚悟を決めた上で、公子Sは真実を申告しようとした。
 ところが、事件の3日後に警察に連絡を取ると、警察は既に男Aを捕まえて自供まで取っているという。しかも男Aが自供した場所は、公子Sの秘密工作資金の隠し場所の一つで・・・男Aがどういうつもりで自供したのかどうか公子Sには今でも分からない・・・、そこには窃盗された被害額と殆ど同額の金貨が隠されていた。更に真犯人Bが卒中でぽっくり逝ってしまい、その金が無いとBの母親はおろか子供達まで大変な事になるのは目に見えている。情状としては男Aに罪をかぶせるしかない状況だ。問題は金貨1キロ以上盗んだ者が死罪になるという法律だった。このままでは公子Sが真相を知る前に男Aが処刑されてしまう。そして、公子Sはかような形で己に突きつけられた秘密が、秘密のまま闇に葬られるのが一番嫌だった。だが、証拠も自供もすべて揃っている事件に対して司法の下す決定を変える事は公子Sの力を持ってしても不可能だ。
 幸い、民衆が黙っていなかった。というのも、男Aが窃盗の動機について、被害者の詐欺まがいの手法への憤りだと公言して、民衆が男Aを英雄と看做したからだ。公子Sは政治的に全てを丸く納める為、男Aを恩赦で開放した。それは民衆からも歓迎される効果と同時に、男Aの新たな忠誠という効果ももたらした。この事件を思う度に、為政者の難しさを感じる。
 16個目の秘密は、この裏金に関する事業だ。公子Sとその父親が現在ほどの政治力を持つに至った理由は、その出自・・・そこには誤摩かしもあるが・・・だけではない。寧ろ、その経済力にある。当然ながら、領地からの利益や私税から得た金だけで、政治に必要な金を確保するのは無理だ。しかも、その手の金は執事とかがきちんと把握しているから、秘密に使うにはちょっと不便だ。これを解決したのが、父親の代から始めた鉱山事業だ。鉱山はいずれも王家の管轄下にある。そして、鉱山は掘る距離が伸びるほど、生産性が落ちて事故も増える。それでなくとも、この手の国有施設は生産性が低下する事はあっても向上する事はない。
 この問題を解決したのが子供の頃の公子Sだった。氷河の削り肌に露出している平凡な岩や石に、力強い何かを感じて、旅行の旅に、そういう所で休憩するように親にねだっていた彼は、既に9歳の頃には岩石の硬さの違いから岩盤の違い、ひいては地層の向きと崩落の向きの関係に経験的に気がついて、それで、ある王立鉱山の支柱の数本が無駄な方向に無造作に立てかけられている事に気がついたのだ。大人と違って子供は、
「そういうものだろう」
と簡単に納得はしない。将来、金髪男と議論出来るようになる
『疑問を疑問として言葉に出す』
素質はこの頃からあったのだ。
 この時の質問は、数年後に件の支柱が崩れて落盤を起こすという事件によって、鉱山の労働者や監督から注目を浴びた。なんせ普通の子供の疑問ではなく、公子が口に出した疑問なのだ。しかも公子Sは落盤事故に当たって、数年前の疑問をきちんと覚えていた。もっとも、これが表沙汰になると無用な処分者を出す事から、全ては秘密のうちに処理されて、その時以来、公子Sは王立鉱山に置ける影のアドバイザーとして、安全性と生産性を向上させる代わりの金を受け取るようになった。その際に、金を直接でなく幽霊コンサルタントを通じてプールするようにアレンジしたのが彼の父親だ。正当な報酬ではあっても、それを表に出さずに裏金として使う。それが壮年盛りの父親の手管だった。要するに金髪男が農業問題の専門家なら、公子Sは鉱山問題の専門家という訳だ。事が王立鉱山に関係している事から、金髪男の提唱する小麦と違って、これを公表する事は出来ない。
 鉱山で発揮された公子Sの才能は、他の強度建造物にも発揮された。その一つが橋だ。U字谷の多い公子Sの国では、交通の便を良くするにはトンネルか橋が必要だが、谷の狭いV字谷と違ってU字谷は谷が広く、それ故に橋には向いていないとされて来た。だからこそ、ライバルの金髪キザ男はトンネル事業に力を入れるようになったのだが、不幸な事にU字谷とは柔らかい土が削り取られた残りだから岩盤が異常に硬く簡単に掘り進める事が出来ない。更に国防を考えれば見晴らしの良い残丘どおしを橋で結ぶ事を悪い方法ではない。そこで、公子Sは橋について密かにプロジェクトを立ち上げて、実際に吊り橋を造る計画もある。それが出来た暁には、隣国に余計な警戒を与えるであろうという程の橋だ。当然ながら、敵を欺くには味方からという事で、このプロジェクトも秘密となっている。もっとも、いつかはバレる予定の秘密であるから、これは17個の重大秘密には勘定されない。
 最後の秘密は野いちごの原野の場所だ。美味しい自家製ジャムやケーキ、リキュール、隠し味の材料として野いちごはこの地方に欠かせない食品であり、その善し悪しが全ての味に効いて来る。日当たり、気温、風、湿度、水はけ、残雪、そういった全ての要素が野いちごの味を決めるから、美味しい野いちごの出来る場所は限られて来る。大抵の貴族がそういう場所を領内に持っているが、領地は遠い。そこで王家の山々・・・王都の近くにあり一般の人々にも開放されている・・・の中で美味しい野いちごの採れる場所にスポットライトがあたる。となれば、それは秘密の場所だ。そして、彼もそういう秘密の場所を持っていた。大の大人の、しかも騎士クラスの人間でないと行けないような崖に囲まれた所にあるそれは、もちろん彼だけの秘密だ。しかも、そのスポットに行く為に横切らなければならない崖には、当然ながら崖特有の珍しい花も数多く咲いているというおまけ付きだ。この花々は妾達の機嫌を取る為に大いに役立っている。17個の秘密の中で、野いちごスポットが最も神聖で重要な秘密である事は言うまでもない。


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