絵板合作 『南遊記ペンギン編』
その1
文字ゲリラ+絵師

(これは絵描き掲示板に絵師の皆さんが独自のアピールを持って書いて下さった
絵の数々に対し、別のイマジネーションで絵のアップから数時間以内に
即興物語を付けたものです。絵は絵として、文は文としてお楽しみ下さい)


 物語は、ラビン髭の男が、とっとの経営するネット文芸喫茶『吾眠』で
『南極雪上車が欲しいな』
 と呟いた所から始まる。



とっと ●●● 雪原踏破

 目を覚ませたbutapennはあたりの景色を見て驚いた。砂漠のように真っ白に太陽を反射する世界だ。
『ここどこ?』
 その言葉に反応したのか、彼女の横で、顔見知りの喫茶店オーナーとラビン髭の男が、にやりと笑って口々に云う。
「女将さん、お目覚めかな」
『此処がどこだか当てましょうや』
 一体何が起こったのか? butapennは最新の記憶をたぐり寄せた。

 それは、いつものように、例の喫茶『吾眠』でおでんとおにぎりを売っていた時だった。暑いのにおでんというのも変ではあるが、この季節はコンビニからおでんが撤退するので、数少ないおでん売り場として結構繁盛しているのだ。もちろん、喫茶店におでん屋が内在しているというのも確かに変だが・・・これはbutapennと『吾眠』の4年来の了解事なのだから深く詮索してはいけない。
 理由はともかく、夏のおでん屋である。これは作る方が身が持たない。しかも作っているのはbutapennである。知る人ぞ知る、冬型生命体である。だから、当然のように、
「涼しい所に行きたいわー!」
 と叫んだのだった。
 この叫びは何度となく喫茶『吾眠』で繰り返されているので、当然スルーされる筈だった。ところが今回だけは違った。なんと、ラビン髭の男が、
『じゃあ、かき氷でもおごってあげますよ、今日は夏至で目出たいし』
と云って、喫茶店のマスターに注文して、できたての氷を彼女に渡したのだ。
 ラビン髭の男がゲシゲシと騒いで小豆系の和菓子や氷菓をこの喫茶で食べるのは毎年の事だから不思議は無いが、このように他人に何かを奢るという事は有り得ない。彼がこの喫茶店に来るようになって3年半が経つが、少なくとも今回のような発言は一度も無かった。だからbutapennも
『気味悪いわあ』
 と云って、かき氷には手を付けずにいた。当然の反応である。それに対してラビン髭の男はこう答えた。
『だって江戸化で頑張るんでしょう? なら、せめてかき氷でなくちゃね。僕らも協力中だし、まあ、ペンフェス5000ヒットのお祝いって事で』
 なるほど、そういう事かと納得すると後は食いしん坊のbutapennの事である。納得すると、早速かき氷を一口食べた・・・と、そのまま意識を失ったのだ。その時、遠くで
『真夏の夢を楽しんでもら・・・』
 との声を聞こえた。

 そこまで回想したとき、喫茶店オーナーの声が割り込んだ。
「夢を叶えるのに、そりゃもう、大変だったんですよ」
 そう云って腰をさすりながらため息をついている。それに対してラビン髭の男は容赦がない。
『とっとさん、そりゃ運動不足ですよ、女将さんを持ち上げるだけでぎっくり腰になるなんて』
 どうやら拉致されたさしい。そう分かると話は早い。
『ちょっと、あなたたち、なんの真似! 私はいま。ペンフェスで忙しくて、拉致に付き合っている暇なんかないのよ!』
 さすが、いつもながらの説得力のある文句だ。すると、2人の男は口々に
『変だなあ、せっかく真夏の夜の夢を叶えてあげようと思ったのに』
「そうですよ、久しぶりの故郷の気分は如何です?」
 そう言いつつ、とっとは車の窓を開けた。その瞬間、冷たい空気が流れて来る。
「え、ここはもしかして?」
まさか、まさか・・・、でも、ここはペンフェス妄想会場だし・・・
 そうbutapennが思っているとラビン髭の男がこう云った
『南極って思いました? ハッズレー』
よくよく考えたら、南極は冬の夜の筈だ。では、ここは何処なのか?

 ・・・butapennが訝しがっていると、突然目の前に湖が現れ、そこで雪上車は止まった。雪の上に湖が現れるのは、地球温暖化の際に起こる現象ではあるが、いやいや、ここはグリーンランドやスバルバードとは限らないから、自然でなく人工湖かも知れない。現に、湖の筈なのに。上には、流氷というか氷山と云うかそういったものが散り散りに浮かんでいる。
『どうです、悪くないロケ地でしょう?』
 と言いながらラビン髭の男は車を降りた。butapennも降りながら
「ははーん、また劇をやろうっていうのね? 今度は何? 三国志(注1)もシェークスピア(注2)もやったから、アラビアンナイトの王女役がいいわ」
 拉致された筈なのに早速はしゃぎ始めている。さすが関西鳥はタフだ。その一方でとっとは
『わたしゃ、くたくたですよ。ロケ地の設定をさせられた上に、運び屋までやらされるんだから』
 とぶつぶつ云いつつ車を降りて来る。車から降りて来たのはそれだけではなかった・・・

(注1:吾輩ハねこまつりの『吾眠は猫である』その10)
(注2:桜蘭さんのサイトの2周年記念ギフト)



篁頼征 ●●● ありがとな光景 --- キングペンギン。
(しまった。石が登場するならアデリーペンギンにすべきだった(痛恨))


「この石よ、この石、これじゃなくっちゃ!」
 けたたましく騒いでいる声はbutapennのものだが、その姿は何故が華麗なペンギンだ。嘴や足をせわしく動かして石を集めている。その横でモルモットがせっせと海藻を集め、向う側ではアザラシが絵を描きながら氷を集めている。
「まったく、なんで、この期に及んで家作りまでやらされるんだ?」
 そう語るモルモットの声はとっとのものである。とすれば、残ったアザラシはラビン髭の男かと思いきや
「ちょっとちょっと、どうして関係無い私まで借り出されなければならないのよ」
 女の声だ。その時、のそっと、雪山の頂上から
『そりゃー、ネタ師だからにー決まってますよー!』
 という声が聞こえた。これがラビン髭の声だ。相槌を打つようにペンギンになったbutapennが
「文字ゲリラさんの云う通りだわねえ。チョビ&被害者のコントはこの界隈では群を抜いていますからねえ」
 とのたまう。モルモットのとっとまで追い打ちをかける。
「あんなに素敵な絵をいの一番に投下して無事で済むと思っているんしょうか?」
「ちょっと待って。それって変じゃないの?」
 最後の抵抗に、3人が口を揃えて
『いえー、当然でーす!』
「アザラシ、なりたかったんじゃないの」
「斑猫さんは、こういうのが好きな方だと思いますがねえ」
 多勢に無勢だ。斑猫のアザラシは、諦めて集めた氷雪からかまくらを作り始めた。すると、今度はモルモットが再び愚痴る。
「女将さん、劇は散々やらされているから分かりますよ、でも、なんで三匹の子豚なんです?」

 事の始まりは、全員が雪上車から降りた所で、何故か雪に弱いbutapennが転倒したところに遡る。転んだbutapennは、そのまま全員を道連れに湖の落ちた。それが只の湖なら良かったのだが、なんせ、古典好きのラビン髭があつらえた湖故に、アラビアンナイトよろしく、全員が、その本性に相応しい動物になってしまったのだ。そこで、どうせ動物になったんなら、動物が主人公の学芸会をやろうという事になってしまった。言い出しっぺは、もちろんbutapennとラビン髭の男である。
『とっとさーん。そんな事ー、僕にー聞かないで欲しいなー。僕はー女将さんの希望にー忠実に従っているだけだからー』
「あたし、何も云っていないわよ。ただ、butapennの名前のうちのpennだけになってしまったから、butaが欲しいなって呟いただけよ」
 butapennのペンギンは無邪気なものだ。
「うーん、女将さんの呟きって、絶対命令だものなあ」
そう、とっとのモルモットが首を振るのを無視してラビン髭が遠くから続けた。
『とにかくでーす、ちゃーんと草と木と石の家を造って下さいよー、僕が後から食べに行くんだからー』
「あのう、木が無いので雪の家なんですけど」
 と斑猫のアザラシが恐る恐る尋ねると、ペンギンが答えた。
「いいの、いいの、そういう間違いをしてこそ斑猫さんの存在価値があるというものだから」
 誠に失礼なペンフェス主催者&後援者なのであった。

 数時間して、3軒の家が出来たので、早速、ラビン髭の男が降りて来た。その姿は天然記念狼でも白熊でもなく九尾の狐だ。首から垂らしたプラカードに『狼兼熊』と書いている。まず、海藻の家に近づいた。さすがにとっとの作るものだけあって、立派なたたずまいをしている。
 とんとんとん。
『とっとさんのモルモットちゃん、可愛い子豚ちゃん、優しいお兄ちゃんが遊びに来たから開けて下さいな』
「そこに居るのは狐さんの狼でしょう? 食べられるのは嫌だから、開けませんよ」
『なんと失礼な。それなら、俺が食っても文句はないな!』
 そう云うなり、ラビン髭の狐は好物の海藻をむしゃむしゃ食べだした。家を食べられたとっとのモルモットは斑猫のかまくらに逃げ込んだ。
 とんとんとん。
『斑猫さんのアザラシちゃん、可愛い子豚ちゃん、優しいお兄ちゃんが遊びに来たから開けて下さいな』
「そこに居るのは狐さんの白熊でしょう? 食べられるのは嫌だから、開けませんよ」
『なんと失礼な。それなら、俺が食っても文句はないな!』
 そう云うなり、ラビン髭の狐は好物の小倉あんをレン乳を取り出すと、かまくらにぶっかけてむしゃむしゃ食べだした。家を食べられた斑猫のアザラシはとっとのモルモットと共にbutapennのペンギンの後ろに逃げ込んだ。しかるに肝心の石の家が見えない。
「ちょっと、女将さん、石の家はどれです?」
 そう尋ねるとっとに
「これよ・・・」
 とbutapennが指してみせたのは、まさしくペンギンの巣である。家も何もあったものじゃない。
「・・・これだけ簡素な家なら、地球環境にもいいでしょ!」
とbutapennは鼻高々だ。そう話をしていると、海藻とミルク金時で満腹になったラビン髭の狐がやってきた。
 とんとんとん?
 扉が無いので、狐は声でとんとんとんと挨拶した。
『butapennさんのペンギンちゃん、可愛い・・・まあ、可愛い事にしておこう・・・子豚ちゃん、優しいお兄ちゃんが遊びに来たから開けて・・・って開いてるよなあ・・・』
 そう彼が言い終わる前に石のつぶてがあられのように飛んで来て、ラビン髭の狐は
『これだから、女将さんの子豚だけは嫌だったんだー』
 と叫びながら雪山の上に帰って行った・・・とさ。



井上斑猫 ●●● うかれアザラシ、乱入

 九尾狐の熊狼を撃退した3人(3匹?)は、息つく暇も無く議論している。
「次は何にしようかしらね」
 というbutapennのペンギンに、残りの2人が、
「今度ぐらい良い目にあわせてくださいよ、せっかく苦労してセットを作ったんだから」
「それを言うなら、勝手に引っ張り出されたあたしでしょう?」
 と次々に答える。
「じゃあ、とっとさん、何がやりたいの?」
 鼠の童話で登場人物の多いのは驚くべき程少ない。
「何があったかなあ」
ととっとが悩んでいると、
「あ、分かった! 鼠の嫁入りだ!」
 と斑猫のアザラシが叫ぶ。
「あ、それいい」
 相槌を打つbutapennに、とっとが不安そうに疑問を出す。
「あのう、誰が太陽や雲や風や柱をやるんでしょう?」
「そりゃ、ぜんぶとっとさんが描くんでしょ?」
「あのう。それでは劇になりませんが、、」
「だって、あたしが仲人役で、斑猫さんが風よけの壁役で、文字ゲリラさんが鼠の紳士役をすれば劇になるわよ」
「それはちょっと・・・」
 とっとが難色を示していると、女将は斑猫のアザラシに矛を向けた。
「あ、そういえば、ネタ師のアザラシにピッタリの役があってよ! 鼠も出てくるわ」
「なになに」
無邪気に喜ぶ斑猫を尻目にとっとは不安そうな顔をしている。すると、雪山の向うからラビン髭の声が響いて来た。
『それはですねー、西遊記のー、地湧夫人の話でしょうー?』
一体、何時までもこの九尾狐が黙っている筈が無い。
 西遊記と聞いて斑猫がはしゃぐ。
「あ、ネタ師なら孫悟空だ!」
主役を張れると思ったらしい。だが、butapennが簡単に譲る筈がなかった。
「あのね、孫悟空は飛べなきゃダメなの。羽がなくっちゃダメなの」
「あのう、ペンギンは飛べませんが」
 というとっとの突っ込みに
「これでも数千万年前の昔は飛んでいたのよ。今だって海の中を奇麗に飛んでいるでしょう?」
 といいつつ、あの羽をバタバタさせた。これを聞いて斑猫は、
「ええっ? あたしには八戒?」
それに対して、間髪を入れずにラビン髭の狐が言う。
『そりゃあ、ネタ師ですからね。西遊記では八戒はコメディ要素担当って事になってますから』
 何時の間にか下に降りて来たらしい。
 こうして、ラビン髭以外の配役が決まりかかっていた所に、とんでもない敵が現れたのだった・・・


 その2につづく

Copyright(c) 2007 Mojiguerrilla, Totto, Yoriyuki Takamura, Hanmyou Inoue.
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