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ゲームノベル
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「何か隠してるんか? 水くさいで。言えよ」 「おまえには、関係ないことだ」 恒輝はそのことばを聞いて、一瞬悲しげな顔をした。 「そうか。……悪かったな」 ふたたび単車に乗り、去っていく恒輝の後姿を見て、ちくりと心が痛んだが、今はそんなことに拘泥している場合ではない。 これは、彼ひとりの問題なのだ。回りの者を巻き込むわけにいかない。 円香の大学に着き、文学部の教務掛の窓口をのぞきこむ。 「すみません、『工学心理学』の教室を知りたいんですが」 「あなたは、グリュンヴァルトさん?」 中にいた事務の女性は、目を見開いて問い返した。 「はい、そうですが」 「葺石さんなら、今出て行かれましたよ。お子さんの具合が悪いとかで」 「いつ?」 「本当についさっきなんです。15分前でしょうか。男の方が赤ちゃんを抱いてこちらに来られて、緊急だからと講義中の葺石さんを呼び出したんです。その方たちといっしょに病院に行くということで、もしあなたがいらしたらそう伝えるようにと」 「その方たち?」 「浅黒い肌の、外国の方たちでした」 そのとき、ディーターの携帯が鳴った。 あわてて外に飛び出して、オンにする。 「ディーター?」 円香の声だった。 「ごめん、心配してる?」 「円香。……無事なのか?」 「うん、無事。聖もいっしょ」 かすかなエンジン音。車内らしい。 「あなたを呼び出すようにって言われたの。行き先の場所の名を伝えろって脅かされたけど、どうせ日本語わかってへんみたいやから、教えたふりしてこのまま切るね」 「円香……何を言ってる。ちゃんと教えるんだ」 「いや。だって来たら、ディーター殺されちゃうよ」 おどけたような明るい声。 「でも、もし俺が行かなかったら、殺されるのは……」 「だいじょうぶ」 ことばをさえぎる。 「私と聖は死なへん。私がちゃんと聖を守るから。守ってみせるから。ディーターは来んといて」 「円香!」 「……愛してるよ」 あとは、通話の切れた単調な音が響くだけだった。 マンションに戻ったディーターは、クローゼットの奥からひそかに隠しておいた包みを取り出した。 数本のアーミーナイフ。 できたらこんなもの、永久に使いたくはなかった。 でも、どんなに願っても、そのときはいつか来たのだろう。自分の罪をすべて清算するときは。 武器を懐に差すと、彼は立ち上がった。 聞かなくても、おおよその場所の見当はついていた。 次へ |
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