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ゲームノベル
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「聖がいなくなったぁ?」 ディーターの説明を聞く恒輝の顔が、みるみるこわばる。 「何者かに誘拐されたっちゅう可能性もあるわけやな」 その答えも待たず、彼は単車から予備のヘルメットを取り出し、ディーターに放り投げた。 「うしろに乗れ。円香の大学まで、これで飛ばしたら5分で着く」 「……」 「あほッ。ぐずぐずするな。そいつは円香も狙ってくるかもしれへんのやろ!」 二人乗りの単車は、坂道をばく進した。 「ディーター、俺はほんまは仏教徒やけど」 恒輝が背中越しに怒鳴る。 「聖はちゃんと、神さんが守ってくれるってことは信じられる気がするんや。そやからおまえも信じろ!」 大学の校門前で、単車が金切り声をあげて止まったとき、ちょうど2コマ目の授業が終わる時間だった。 文学部の建物から、ぞろぞろと出てくるたくさんの学生たちに混じって、円香の姿が見えた。 「あ、ディーター。来てくれたんだ」 駆け寄る男たちに、笑顔で彼女は手を振った。 「今ちょうど、連絡入れようと思ってたところ。あれ、なんで恒輝がこんなところにおるん? ……どないした? ふたりとも怖い顔して」 「円香、聖が……」 「そやから聖はここにおるよ」 「は?」 「ごめん、そんなに心配しとったとは知らんかった」 放心して芝生の上に座り込むディーターと恒輝に、円香はバツが悪そうに言い訳した。 「マンションを出たところで、大学の友だちから携帯がかかったの。それで、その子の今日の午前の授業が休講になったって話になって。そのあいだ聖のめんどうを見てもええよって言ってくれたん。それですぐに部屋に引き返して聖を連れ出したんや。ディーターはちょうどシャワー浴びてるとこやったし、バスの時間は迫ってるしで、あとでメールしよと思ってそのまま……」 「どあほッ。なんでおまえはいつも、そう思いつきで行動すんのや!」 恒輝が、言いたいことをすべて代弁してくれるので助かる。 「俺ら、今日だけで3年は寿命が縮まったわ」 「そやかて、ディーター疲れてるみたいやったし。……だから、ごめん言うてるやろ」 「で、聖は?」 ディーターの問いに、 「あ、こっち。その友だちっていうのが絵画部の子やから、アトリエでめんどう見てもらってるんや」 円香の先導で、彼らはアトリエと呼ばれている美術室に案内された。 中に入ると、油絵の具の匂いが充満した室内では、7、8人の学生たちが聖を取り囲んでいた。 「円香」 子守を買って出てくれた友人らしき女の子が、近寄ってきた。 「聖くんにモデルになってもろてた。あんまり可愛いから、部長が全部員に緊急召集かけて、デッサン会やることにしてんよ」 「動いて、モデルなんかにならへんやろ?」 「そんなことない。おとなしかったよ。あやすと声をたてて笑ってくれるし」 「ふうん、赤ちゃん雑誌のモデルかなんかにさせるのも手か」 「それいいかも。素質あるよ。それより円香、入り口のところにいるの、旦那さま?」 「うん。会うのはじめてやったっけ」 「きゃああっ。すてき! 部長、来て来てっ」 彼女の騒ぎに、数人の部員がわらわらと集まってくる。その中からぶ厚い眼鏡の女性が一歩進み出た。 「はじめまして、私、部長の中川と申します」 目をキラキラさせて、がしっとディーターの手を握る。 「さっそくですが、ヌードモデルになってもらえませんか?」 「はあ?」 ディーターは、あんぐり口を開けた。 「今年度最後の展覧会が、3月にあるんです。実はそれに出品するヌードデッサンのモデルをずっと探して、見つけられずにおりました。あなたは私の求めていたイメージにぴったりです!」 「あ、あの……」 「部長は、これと決めたモデルはどこまでも追いかけて行く執念深さで有名なんよ」 友人が円香に耳打ちする。 「あはは、そやけど、ヌードモデルはいくらなんでも引き受けへんと思うよ」 「ただとは言わん。モデル料5万円でどう?」 「ご、5万円?」 円香は飛び上がった。 「よし売った!」 「ま、円香?」 「ディーター。いさぎよく脱いで。5万円と家族の幸せのために」 「そ、そんな……」 恒輝が横からポンとディーターの肩をたたいた。 「あきらめろ。5万円で亭主を売るような女と、結婚したおまえが悪い」 そして、ちょっぴり哀れみをこめた目つきで彼を見たのだった。 「俺、円香にふられて、つくづく幸せやったわ」 終 ―― ノーマルエンディング(4) もう一度最初から始める |
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