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ゲームノベル
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道場の入り口で、ぼう然とディーターは立ち尽くした。 そこは、いつもの古色蒼然とした道場ではなく、紙吹雪舞うダンスパーティの会場と化していた。 ダンス用の正装をしたたくさんの中高年の男女の中に、見知った者がいた。 葺石流古武道第13代目師範、円香の祖父・惣吉である。彼は胸に抱っこした聖をあやしながら、手を振った。 「おお、ディーター、やっと来よったか」 「じゃ、聖を連れ出したのは……」 「ん? わしやけど」 惣吉の説明はこうだった。 彼の所属している「社交ダンスクラブ」の月例パーティの会場に葺石の道場を貸すことになり、彼は円香に、クラッカーなどのパーティグッズの買出しをあれこれ頼んでいたのだった。円香から鍵を借りて、買ったものをマンションに取りに来た惣吉は、ついでにひ孫の顔を見たさにベビーベッドに近寄り、お目々をぱっちり開けていた聖を見て、思わず連れて来てしまったというのである。 「一応、声はかけたんやが」 爆睡していたディーターにはまったく聞こえなかったというわけだ。 「それに、円香から聞いとったやろ? 今日のメンバーに男性がひとり足りないから、きみに助っ人に来てくれと頼んどいたこと」 「今はじめて聞きました」 「なんや、円香のやつ。ちゃんと伝えてなかったんやな。まあええ。こうして来てくれたんやから怪我の功名やな」 怪我の功名? そうではない。むしろ聖を餌におびきよせられたのではないか、というイヤな予感がし始めた。 その予感は的中した。 「まあ、惣ちゃん、この方がお孫さんのドイツ人の旦那様?」 「すてきやわあ。こないに若いきれいな外人さんと踊れるなんて、ええ冥土のみやげになるわあ」 どぎつい化粧と派手な衣裳に身を包んだ70歳近い女性たちが、ディーターをわらわらと取り囲む。 「わたくしといっしょに、ワルツを踊ってくださらない?」 「あら、私が先!」 「先代、あ、あの……」 ディーターは助けを求めて惣吉を見たが、彼は聖と一緒にニコニコと笑顔を返すばかり。 神聖な道場をダンパ会場にしてしまったことは目をつぶるとして、この後の掃除をするのは、一体誰だと思ってるんだ。 麻痺してしまった頭の隅で、そんなどうでもいいことを考えながら、ディーターの悲惨な1日はまだ始まったばかりだった。 終 ―― ノーマルエンディング(3) もう一度最初から始める |
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