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ゲームノベル
ひじり失踪事件」


「おう、ディーター」
 戸外を歩いてきた者には、薄暗がりと見える広い道場。そこにただひとりで、葺石流第14代師範・鹿島康平が素振りをしていた。
 もうかなり、長い時間そうしていたのだろう。底冷えのするくらいの寒さなのに、彼の額からは汗が伝い落ちている。
 この男には敵わないと思う。
 技や力はいつか追いつけるかもしれない。だが、その広い海原のような精神力と包容力には敵うべくもない。
 彼を見るたび、身体の芯のどこかが熱く燃える。嫉妬で狂いそうになる。
 そして、たぶん彼も同じだ。ときおりディーターをそんな目で見ているのに気づく。
「康平」
 道場の床を歩き始めたディーターの足がぴたりと止まった。
 彼に、聖の居場所を聞いたところで意味がないような気がする。彼は厳密には、葺石家の家族ではない。
 もちろん、彼に聖の失踪のことを話せば、顔色を変えていっしょに探してくれるだろう。考えうる限りのあらゆる手段を尽くして。そういう意味では、一番頼りになる男だ。
 しかし、もし今回のことが、ディーターのひそかに一番恐れている展開になるとすれば。
 康平は深入りしただけ、最も危険な位置に自分の命をさらすことになる。
 彼にこのことを言うべきか。
 



言う
言わない

     
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