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ギャラクシー・ジェネレーション 1
〜 Galaxy Generation 1 〜








 地球の自転が、絶対にやってきてほしくない朝を運んでくる。


「ユナ」
 レイの声が、やさしく耳元をくすぐった。
 もう大分前から、夫は目を覚ましている。遠足の朝を迎えた少年のように、彼は眠れないのだ。
 今日の朝、YX35便は火星に向かって旅立つ。
「ユナ」
 今度は夫の唇が、鎖骨のあたりに軽く触れた。そしてもう一度、挑むように強く。
「う……ん」
 思わず吐息が漏れる。
「起きているんだろう? きみは今日は朝勤シフトの日だ」
「ええ」
 パイロットや管制官のように不規則な業務に就いている者は、就寝時に睡眠コントロールシステムを装着することを義務付けられている。
 超低音波による睡眠誘導装置。耳たぶにピアスで留めるだけの小型のものだ。正常に作動すれば、勤務開始の三時間前には自然に覚醒することができる。
「それなのに、どうしていつまでも目を開けないんだ」
 永遠に朝が来てほしくないからよ、とは言えない。
「いい夢を見たから。目を開けると夢を忘れてしまうと言うでしょう」
「どんな?」
 二週間のめくるめくような夢。
 これだけ何年も結婚生活を送ってきたというのに、喜びが尽きないのが不思議だった。いつも新鮮な驚きの毎日。まるで初めて会った日のようなときめきを、夫は与えてくれる。
 新しい一日が来るたびに、ユナは彼に新しい恋をするのだった。
 それなのに、どうだろう。二週間の休暇の後半に入ると、レイはユナと過ごす時間の合間に、いそいそと火星航行への準備を始めてしまう。整備工場に日参し、クルーたちと頻繁に通信を交わし、まるで退屈な休暇など早く終わってほしいとでも願っているように。
 この幸せな日々が終わりを告げることを思って、ユナはこっそり涙ぐんでしまうというのに。旅立つ者と待つ者の立場とは、なんと不公平なことだろう。
 ユナが丹精こめた庭は季節ごとの色とりどりの花が咲き乱れ、土の豊かな香りをふりまいている。それなのに、彼の目はいつも空に向かってしまう。宇宙の女神に虜にされた男たちは、大地の女神の誘惑には惑わされないのだ。
 せつなさに身をよじりながら、
「どんな夢だか、忘れてしまったわ」
 少し頑なな調子でつぶやいて、ユナは目を開いた。
 陽光が差し込む朝の寝室は白く煙ったように見えた。
 かたわらに寄り添っている夫と目が合った。その薄い茶色の瞳は、このうえない優しさで彼女を温めるように覗きこんでいる。
「夢よりも現実を見るほうが、もっと素晴らしいと思わないか」
 魔法使いが呪文をかけるような仕草で、彼はユナの額をなでた。
「夢は目を閉じていても、やがて忘れてしまうが、現実は目を開けば開くほど、自分のものになってゆく」
「ええ。でも時には目をそむけたくなるほど、つらい現実もあるわ」
「そうだね。たとえばあと二時間で、僕らが別れなければならないこと?」
 ユナは仕方なくうなずいた。意志に反して、そのまなじりに大きな雫がふくらんでいく。
 レイは、哀しそうに微笑んだ。
「きみは残酷なことをする。僕の網膜にこの涙を焼きつけておいて、そのまま宇宙に行けというんだな」
「ごめんなさい。笑ってあなたにさよならを言えたら、本当は一番いいのだけれど」
 レイは何も答えずに妻の上に覆いかぶさり、水面に口をつけて渇きを満たそうとする獣のように、彼女の涙に唇を押し当てた。


 火星出航の日がこんなにも辛いのには、理由がある。
 三週間前、レイは地球への帰還の途上で、火星解放戦線のテロリストたちにシップを乗っ取られて、重傷を負ったのだ。
 彼は何も言わないが、一時は死にかけるほど危険な状態が続いたとクルーに聞いた。ドクター・リノの適切な処置と最新のナノ治療マシンで、幸いなことに予後は順調で、地球に帰って最初の数日ベッドにいただけで、レイはすっかり回復した。
 しかし、その事件がユナに与えたショックは限りなく大きかった。
 宇宙には無数の危険が存在する。それは優れた航行技術だけでは防ぎきれないものも含んでいるのだ。
 もし、彼が死んでしまったら。
 ランドールの事故のとき管制交信中に味わった、あの無力感が彼女をすっぽりと包み、地面が崩れていくような恐怖に足がすくむ。
 次のフライトからレイが帰ってこないことを想像しただけで、酸素が肺に行き渡らないような息苦しさを覚えるのだ。
 ユナは、レイには内緒で管制ステーション付属のクリニックに行き、カウンセリングを受けたりもした。彼女の上司である生方(うぶかた)次席管制官にそのことを報告し、一時的に管制業務のシフトから外してもらうように願い出た。
「ひよこたちの面倒を見るほうが、実務よりよっぽど大変かもしれないがな」
 と生方次席は笑いながら、管制研修センターでの研修補助に回してくれたのだ。
 ユナは以前から、シフトの合間に研修生の実地訓練をときどきサポートしていた。
 【ギャラクシー・ヴォイス】の持ち主、ユナ・三神の存在は、航宙管制官を志す若者たちのあいだでは有名だ。彼女が研修を担当するだけで、彼ら――特に男性研修生――の士気が違うと、もっぱらの評判だった。
(今、レイは家を出て、ポートに向かうころね……)
 じくじくと鈍く痛む胸を抱えながら、ユナはそれを振り払うようにして、わざと快活に研修施設のドアをくぐった。
 彼女の今日の担当は、修了を間近に控えた二十歳の女性見習生だった。
 名前は、安永悠(やすなが ゆう)。
 カラスの濡れ羽色という形容詞がふさわしいほど、つややかでまっすぐな黒髪が印象的で、強い意志を現わした目は、光線の具合によっては藍色がかって見える。
 一年前にモントリオールにある国際航宙大学の管制科を卒業し、クシロの研修センターに配属された。
 彼女の基礎試験の成績を見せられたとき、ユナは目を疑った。
「すごい」
 航宙力学、シップ概論、宇宙気象学、通信術。どれをとってもトップの成績だったからだ。
 クシロに配属されてからも、悠はわずか二ヶ月で資格試験をパスした。
 正式な航宙管制官となってからは、宇宙ステーション、月、サテライト・ベースなどの各セクターを担当したあと、現在は火星宙域の訓練に臨んでいる。ユナ自身もたどったコースだ。
 火星宙域担当は最大の難関であり、他のエリアとは比べ物にならないくらい大変な訓練の連続だが、悠は淡々とそれらをこなしていた。任務ごとに異なる専門資格試験に片っぱしから合格し、合格するのが当たり前と言わんばかりに表情を崩すこともない。
 他の教官からは「生意気だ」と煙たがられ、同級生からもやっかみ半分の陰口を叩かれているが、本人は平気なものだ。
 ユナ・三神が担当だとわかったときも、まるでエジプトの女王のような落ち着きで、「よろしくお願いします」と頭を下げただけだ。他の訓練生たちだと、まるでスターに出会ったようにキャーキャー騒いで、挙句の果ては「キャプテン・ミカミってどんな方なんですか」と質問攻めにし、ユナをいいかげん辟易させてしまうのに、悠だけはそういう浮わついた冗談をひとことも口にしない。
 その超然とした態度を、ユナは好もしく思った。
(優秀な新人がどんどん育ってくる。私はすぐに追い抜かれてしまうのかも)
 そう思っても、焦りや嫉妬の気持は起こらなかった。
 次世代が育つのは、自分の世代がやがて去っていくということだ。気弱になっている今のユナには、与えられた責任を誰かに譲る日が来るという考えは、むしろほっと安堵するものだった。
「三神教官。与えられた課題を終わりました」
 悠の高く硬質な声がして、はっと我に返った。彼らはシュミレータの前で、レーダー計測練習を行なっていたのだ。
「……満点です。申し分ありません」
 ユナはデータを素早く解析して、合格のランプを点灯させた。
「シュミレーション訓練はこれで修了です。次の時間は、管制運行ルームで実地訓練に入りましょう」
 研修センターから管制ステーションへ向かう渡り廊下は、ガラスのドーム状になっている。ユナは、さりげなく空を見上げた。予定では、夫の乗り組むYX35便は昼前に出発したはずだ。
 想いを振り払うように、ユナは少しくだけた口調で後輩に話しかけた。
「安永さんの声は、よく通る澄んだ声ね。発音も正確だし」
「ありがとうございます」
「どこかで、発声の訓練を積んだの?」
 悠は濃色の瞳を細めて、微笑む。
「わたし、高校生の頃から芝居の勉強をずっとしていました」
「まあ、どんなお芝居を?」
「シェークスピア俳優になりたかったんです。でもあきらめました」
 ユナは、立ち止まった。悠の口調は巧妙ななにげなさを装っているが、その奥にはいいようのない悔しさがひそんでいることに気づいたのだ。ユナ自身も体質が災いして、シップアテンダントになる夢を捨てなければならなかった。そのときの絶望は四年経った今でもはっきり思い出せる。
 彼女に何があったのかは知らない。だが、悠が感じているだろう痛みは、まるで古い洋服の肌触りのように、ユナにもなじみのあるものだった。
「そうだったの。若い日の夢をあきらめるのはつらいことね」
 ぽつりとこぼした共感のことばに、悠はキッと前方を睨むように見据えた。
「つらくなどありません。管制官は、自分が決断して選んだ道ですから」
「そう」
「選ばなかった選択肢を、いつまでも惜しむような生き方はしていないつもりです」
「立派だわ」
「『私は、この世を、おのおのが一役ずつ何かを演じなければならない舞台だと思っている』」
「――それは、何かのことわざ?」
「『ハムレット』です」
 そんなことも知らないの、という表情を浮かべて、悠は管制ステーションの階段を駆け上がった。


 火星宙域担当のコンソールの前は、この時間帯にはめずらしく、慌しい動きがあった。
 入ってきたユナたちを見つけ、生方次席はすぐに手招きした。
「いいところに来たな。今朝のクシロポートは何かに呪われているらしくてね」
「いったい、どうしたんですか?」
「強風のために離脱延期が続いたと思ったら、今度は第2ゲートに進入した定期旅客便MS08が、燃料系統のトラブルを起こしたんだ」
「本当ですか?」
「そのため、ついさっきまで第2ゲートは閉鎖されて使えなくてね。ずっと待機していた後続のシップにようやく進入許可を出すところだ」
「お気の毒に」
 ユナは苦笑しながら、慰めのことばを口にした。この分では、生方以下、担当管制官たちは昼食も立って食べたにちがいない。
 調整席に座っていた北橋が、げんなりした様子でユナに手を振った。そして、その隣にいる悠を見て、うわっという顔をする。悠も負けずに、あからさまな嫌悪を顔に示した。
 先週、北橋は彼女に「タバコ臭い」と罵られて、大ゲンカになったばかりなのだ。全館禁煙のクシロポート、管制ステーションも例外ではない。北橋は家を出る前に一服しただけなのだが、極度のタバコアレルギーである悠には、そのかすかな匂いさえ我慢ならなかったらしい。
 立ち込める不穏な空気に、ユナは彼女を連れて別のコンソールに移ろうかと考えたが、メインモニター前の対空席がからっぽなのに気づいた。
「苗場さんは?」
 生方次席は、ことさらに大袈裟なため息をついた。
「腹をくだしたらしく、さっきからトイレにこもりきりなんだ」
「それが、呪いのきわめつけなんですね」
「もしよければ、三神くん、苗場くんが戻るまで、きみが対空席に入ってくれないか」
「ええ、でも……」
 ユナは悠のほうをちらりと見た。「研修中ですので」
「研修生も隣に座って見学するといい。責任者として許可を出そう」
「そういうことなら、了解しました」
 悠に、北橋と反対側の席に座るよう促して、自らも着席する。メインモニターに目を走らせたユナは、はっとした。
 待機中の後続機とは、YX35便だったのだ。
 生方が、そのことに気づいていないはずはない。もしかすると、苗場の体調不良というのも、彼女をレイと交信させるためのとっさの配慮なのかもしれないと、ユナは思った。
 上司の心遣いに感謝しつつも、同時にかすかな不安を覚えながら対空席のヘッドセットを耳にかけようとした。
「三神教官」
 突然、悠のよく通る声が、さえぎるように響いた。
「お願いします。進入シップとの交信を、わたしにやらせていただけませんか?」
 その瞳は、たぎるような挑戦心に蒼く輝いている。
 モニターに映るYX35便のコールサインだけでは、それがユナの夫レイ・三神のシップだとは、彼女にはわからないのだ。そう思いながら、ユナの心には怒りが芽生えるどころか、逆に大きな安堵に支配された。
 宇宙に出航する夫と冷静に対応できる自信がないというのが、今の正直な気持だった。
「わかったわ。やってみて」
 ヘッドセットを取り出し、悠に差し出す。北橋が「えっ」と小さく叫んだが、ユナはそれを遮るように生方に言った。
「生方さん。安永研修生の交信訓練許可をいただけますか」
「よろしい。許可しよう」
「安永さん、急いで気象データ照合。天候、風向、気圧、地磁気確認。離脱経路と座標確認」
「はい」
 ふたりの女性は、ピアニストのような手つきで、コンソールボードのキーを叩く。
「確認が終わったら、YX35便に送信して」
「はい」
 悠は通信回路を開くと、確信にあふれた声で呼びかけた。
「YX35便、こちら管制ステーション、安永管制官です」
 やや間を置いて、スピーカーから涙が出るほどなつかしい声が響いてきた。
『こちら、YX35便』
 毎夜耳元を愛撫するレイの声。体内にまるで小動物を飼ってでもいるように、ユナのみぞおちがトクンと跳ねる。
「ただいま、気象と離脱経路のデータを送信しました」
『受理した』
「それでは、確認のために読み上げます。送信内容と照合願います。クシロ上空、現在の天候は曇り、北北東の風毎時9ノット。気圧982hPa。磁気嵐は北向きベクトルやや弱し。CF電流は毎分50.3LA。離脱経路はB2828a、座標Z12を選択してください」
『了解』
 キャプテン・三神は、長い時間待機中だったせいか、ことさらに不機嫌な様子で答えている。
 そう言えば、ユナが最初に彼と交信したときも、こんな不機嫌な声だった。挙句の果ては、思いっきり怒鳴られたんだっけ。
『声が小せえ。何言ってるかわからん。もう一度やり直せ。ほかの奴に交替しろ』って。
 まさか、あんなイヤな相手と結婚するなんて、あのときは想像もしていなかった。
 だが、さすがのレイも、今日はおとなしい。悠の指示が完璧で非の打ちどころがないのだろう。しくじってばかりだった私とは大違いだわ、とユナが感慨にふけっていたとき。
「リードバック(復唱してください)」
 悠が険のある声を張り上げた。
「航宙法施工規則では、『パイロットは、航宙管制に関する重要な通報を受信した時は、それを復唱する』と定められています。規則にしたがって復唱してください」
 管制ステーション内の空気が、瞬間冷却で凍りついた。
『なんだとぅ』
 レイ・三神の声が一瞬にして、スピーカーを震わせるほどの凄みを帯びた。
『それは、法令上の義務じゃねえ。自主規定だ』
「ですが、数等の正確な受信を確認する必要がある場合は、管制官はパイロットに復唱を要求することができるとの追記があります」
『俺が了解と言ってるんだ。間違えるわけはねえ』
「なぜ、根拠もなく、そんなことが言い切れるんですか」
『言い切れる! シップの中では、俺が法律だからだ!』
「非常識な。冗談ではなく本気で言っているとしたら、なんて傲慢な人間なの?」
『そのセリフ、そっくりそのまま、てめえに返してやる』
「『ヘンリー六世』に、逆賊どもが図々しくなるのは政令が寛大すぎるからだ、とあるのは本当ね」
『「ヘンリー四世」には、法律とは、俺たちの勇気を挫くための道化爺の錆びついた馬衡(はみ)だ、という一節があるぜ』
「勝手な引用をしないでよ。最悪だわ!」
『「最悪だ」などと言える間は、まだまだ本当のどん底ではない、てのは「リア王」だ』
 ぽかんとふたりのやりとりを聞いていた管制ルームの中で、突然、ユナ・三神の楽しそうな笑い声が響いた。
(ほんとうにすごい。後生畏るべし、だわ)
 あらためて同じ事を思った。だが、先ほどの思いはまったくの弱気から出ていたのだが、今は正反対の意味で、そう思ったのだ。
 クルーたちが憂いなく宇宙に向かうために全力を尽くすのが、管制官の使命。それなのに、自分はそのことを忘れかけていた。
 初心を貫けないまま、若い世代に負けて去っていきたくない。
「安永さん、あとは私が引き継ぐわ」
 自席のヘッドセットをコンソールから引き出した。
「YX35便。交信を交替します」
 声に笑いの名残を含みながら、ユナは愛情をこめて呼びかけた。
「復唱の規則に確かに強制力はありません。けれど、航行するシップの安全のために、クシロ管制ステーションでは重要項目のリードバックを推奨いたします。過去に、進入経路記号の『a』と『c』を読み間違えた、とんでもない管制官がいたことをご存じでしょう?」
 レイはしばらく押し黙っていたが、やがて答えを返してきた。やはり、楽しさを隠しきれない声だった。
『了解。以後、復唱を励行する――俺の気がむけばな』
「ありがとうございます」
『さっきの管制官によろしく伝えてくれ。おかげで、今朝まで泣いていた俺の妻が、元気を取り戻したようだ。感謝する、とな』
「伝えておきます」
『それともうひとつ。どこかで聞いている妻に伝えてくれ。愛してる、ユナ』
 生方が咳払いをし、隣の北橋が、たまらないといった調子でヒューと口笛を吹いた。
「私語は慎んでください、三神船長」
 ユナは知らず知らず口元の緩むのを感じて、無理に恐い声を出した。
「離脱許可前の最終確認を行います。データ照合願います」


 YX35便は、雲間の光に銀色の機体を鈍くきらめかせながら、第2ゲートを出発し、円筒形の軌道エレベータの中をゆっくりと昇っていく。
 そして、ブースターの轟音とともに一気に加速し、みるみるうちに大気圏を離脱した。
「ボン・ボヤージュ(よい旅を)」
 ユナは窓の外を見上げながら、漆黒の宇宙(そら)に向かって旅立って行った夫に呼びかけるように、もう一度つぶやいた。
 視線を室内に戻すと、安永悠が呆けたような表情で、まじまじとモニターを見つめていた。
「あれが、キャプテン・レイ・三神だったなんて――」
 シップのコールサインをクリックするだけで表示されるキャプテン名を、今の今まで見落としていたらしい。冷静沈着に見えても、彼女は彼女なりに、ひどく緊張していたのだろう。
 ユナはぽんと彼女の肩を叩いた。
「お疲れさま、安永さん。よくやったわ」
「――すてき」
「は?」
 悠は自分が何を口走ったかに気づくと、あわてふためいて両手を振った。
「あ、あの、ち、違います。三神船長がすてきだなんて、そんな意味じゃっ!」
 言葉と裏腹に、耳たぶまで真っ赤に染めている。
 ユナはそんな彼女を見て、また心から楽しげに笑い出すのだった。
   






悠さんの60万ヒットのキリリクです。「当サイトの小説いずれかへの出演権」というリクで、性格や「シェークスピア俳優志望」などの設定は、悠さんご自身がしてくださいました。

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