地球から月までの宇宙旅行と、日本からハンガリーへまでの所要時間がさほど変わらないというのは、どう考えても奇妙なことだ。 極限までの速さを求めてシップの開発競争を続けてきた宇宙航路とは違い、地球の成層圏でのフライトは、大気汚染防止のために速度を厳重に制限されている。 けれど、旅に時間をかけるのは、決して悪いことではない。 準備とそこに至る過程こそが旅の醍醐味であり、それはちょうど、劇場の幕前に奏でられるオペラの前奏曲が、観衆の心を蕩けるほどに酔わせるのと同じなのだ。 ある秋の金曜の朝。クシロ郊外の航空用ポートを飛び立ったレイ・三神夫妻の自家用スカイクラフトは、四時間の飛行を経てハンガリーのブダペストに着いた。 ユナにとって、初めて訪れる夫の母国だった。 観光用列車に乗って「ドナウのバラ」とたたえられるブダペストの街をあとにし、東へ向かう。ついで、陽光を映して鏡のようにゆったりと流れるティサ川に沿って、見渡すかぎりの大平原を丘陵地帯に向かって北上する。 レイの育った村は、小高い丘のふところに抱かれる小さな谷にあった。 白い漆喰と赤い屋根の家並み。広場の教会は黒ずんだ石造りで、豊かな緑に覆われた丘の上からは、中世に建てられた、ずんぐりと無骨な城が見下ろしている。 どこを見渡しても、コンピュータやロボットやエアカーが潜んでいそうな場所はない。 まるで、童話の世界に迷い込んだみたい。 興奮のあまり、そんな月並みな感想を口にすると、レイは微笑んだ。 「十九世紀に取り残されたような村だと言ったろう、お姫さま」 「誇張して言ってるんだと思ったの。まさか本当だったなんて」 村唯一のホテルにチェックインしたあと、あたりを散策した。二十三世紀の今なお舗装もされていない狭いメインストリートは、ブナの葉影が作り出した揺らめくレース飾りに縁取られている。 「あれは何?」 丘の中腹に、倉庫のような建物がずらりと並んでいるのが見えたので、ユナは訊ねた。 「ああ、ワインセラーだよ」 「あれが全部?」 「このへんは、葡萄の産地だからね。あの中は半地下まで掘られていて、木の樽が見渡すかぎり並んでいる」 舌なめずりせんばかりのレイの嬉しげな表情を見て、ユナは彼の腕をつねった。 「今晩はきっと、浴びるほどハンガリーワインを飲んで、へべれけに酔っぱらおうと思ってるんでしょう」 「しばらく、すべからく美酒を飲み、月に乗じて高台(こうだい)に酔うべし、さ」 李白の漢詩を引用して、ますます妻のご機嫌を損ねているうちに、レイは道ばたで唐突に足を止めた。 「そうそう、ここが僕の育った家だよ」 「ここが?」 家らしきものは何もなかった。元は裏庭だった場所に、赤く色づいたカエデの木と崩れかけたレンガの暖炉の跡が見える。 「五年前、取り壊してしまったんだ。もうかなり古かったし、誰も住む者がいないからね」 「でも、あなたが育った思い出の場所なのに」 ユナは、がっかりした表情をした。「ひとめ見たかったわ」 そのとき、道の向こうから大声が響いた。 『ミカミ・イシュトヴァーン!』 びっくりしたふたりが顔をめぐらすと、荷馬車の御者台から、ひとりの初老の男がレイをまじまじと見下ろしている。 『驚いた。何年ぶりだろう』 村人とレイは、しばらくハンガリー語で会話を交わした。きっと、なつかしい思い出話に花を咲かせているのだろう。穏やかな笑みをたたえた夫を見て、ユナは静かな喜びに包まれた。 結婚して三年。このごろ、レイのことを何も知らないのではないかという不安に、ふと囚われることがある。 もちろん、彼が何かを隠しているというのではない。訊ねれば、すべての質問に答えてくれる。 それでも、レイは自分のすべてを見せてくれているのではないと感じるときがあるのだ。 高校時代まで過ごした故郷の村に来れば、今まで知らなかったレイの姿が見られる。そんな期待を持って、ユナはこの旅に臨んでいた。 気がつけば、男はいつのまにかユナにじっと視線を定めていた。 『紹介するよ。隣にいるのは、僕の妻のユナ。こちらは村長のセケレシュ・イヴァーン』 翻訳装置を介してのなごやかな自己紹介がひととおり終わり、別れを告げると、 「ホテルに戻ろう」 レイは、やや硬い口調で提案した。 「もう? 日は高いし、まだ教会も見ていないわ」 「ここには、あと二日もいられるんだよ。今日は四時間のフライトとブダペストの観光で、きみも疲れているはずだ」 「とんでもない。世界一忙しい業務をこなしているクシロの管制官の体力を、あなたは見くびっているわ」 「ところが、無重力の宇宙暮らしですっかり体力が衰えた航宙士さまは、へとへとなんだよ。それに」 レイは妻の耳元で、いたずらっぽく囁いた。 「ホテルのあの豪華な天蓋つきのベッドで、試したいこともあるしね。今夜の美酒に酔いつぶれて、使い物にならなくなる前に」 「あ、あなたったら」 レイは疲れているとは思えない快活さで、顔を赤らめるユナの手を引っ張った。 その夜、ふたりは料理店も兼ねるワインセラーのひとつに足を運び、ハンガリーの名物料理に舌鼓を打った。 フォアグラのソテー。チキンパプリカ。海のないハンガリー特有の川魚のロースト。本場のグラーシュ。 そして、ワイン、ワイン、ワイン。 レンガ造りのドーム状の店内で奏でられるロマの民族音楽は、情熱的で、どこかもの悲しい。 「この国はどこか、アジアっぽいところがあるのね」 料理もワインも堪能し尽くしたユナは、半分夢の中にいる表情で楽団の演奏に耳を傾けた。 「そうだね。マジャール人にはモンゴロイドの血が混じっていると言われている」 「だから、日本人にも落ち着ける雰囲気があるんだわ」 「名前の呼び方も日本と同じで、姓が先で名前が後だ――もっとも、今は日本のほうが逆転してしまってるようだが」 「そういえば、さっき会った方があなたのことを、『ミカミ・イシュトヴァーン』と呼んでたわ。『イシュトヴァーン』って?」 「僕のハンガリー名だよ」 レイは、つまらなさそうに答えた。「10世紀のハンガリーの建国の父にちなんでいる。ここでは、ごくありふれた名前だよ」 「あなたにハンガリー名があったなんて、今の今まで全然知らなかったわ」 「言わなかったかな」 「ひどいわ。そんな大事なことを、妻の私に隠してるなんて」 「隠していたわけじゃないよ。ハンガリー人の母や祖母は、その名前で僕を呼んだ。だが日本人の父は僕を『レイ』と呼んだ。だから日本にいる限り『レイ』を使っている。それだけの話だ」 「いいえ、きっと他にも、たくさん隠していることがあるに違いないわ」 ぷんとふくれた顔をするユナに、彼は弱りきったように両手を上げた。 「形勢不利と判断し、早々に白旗を揚げるよ。どうしたら、赦してくれるのかな?」 「ホテルへの帰り道、ずっと腕を組んで」 ユナは、満面の照れ笑いを浮かべた。 「……実は、ワインのせいでさっきから膝が笑ってて、歩けそうもないの」 戸外に出たとき、ユナは空の降るような星に驚いた。 家の屋根や木の梢が夜の底を黒々と染め、満天の星は天蓋を白く染めているのだ。 一晩中煌々とライトが照らすクシロポート近辺に住んでいると、ほとんど星は見えない。 じっと見つめていると、まるで身体が浮き上がるよう。 『夜になると、まるで挑みかかってくるような星空が見えた』 ずっと以前にプラネタリウムに行ったときの、レイの寂しげな声が耳によみがえってくる。 『だから、僕は何年ものあいだ、夜は決して外に出なかった』 (この星空と、レイは長いあいだ戦ってきたんだわ) ユナは酔いのためによろけたようなふりをして、夫の腕にぎゅっとしがみついた。 そっと呼んでみる。 「イシュトヴァーン」 レイは、憮然とした様子でうめいた。 「やめてくれ。その名で呼ばれると、祖母に怒られている気分になる。逆らいたくとも逆らえないんだ」 「それは、いいことを聞いたわ」 ユナは、勝ち誇った声をあげた。 「イシュトヴァーン。隣にいる女性に、心をこめてキスをなさい」 ホテルのボーイの軽やかなノックで、ハンガリー二日目の朝は始まった。 ドアで応対する夫の声を聞きながら、ユナはベッドの上に起き上がって、こっそりこめかみを押さえた。 やがて、レイが戻ってきた。 「なんだか、おおごとになったよ」 困惑したように、ひらひらと封筒をかざす。 「今夜、村を挙げて僕たちの歓迎パーティをしてくれるそうだ」 「まあ、すてきじゃない」 「例の【磁気プラズマセイル計画】に参加したことが、知れ渡っていてね。この村の人間は宇宙なんかに関心がないと思ったのは、さすがに甘かった」 子どものころのレイを知っている村の人たちに会える。 ユナの胸は高鳴った。昨日のワインセラーのレストランは都会からの観光客向けで、地元の住人らしき人は、ほとんどいなかったのだ。 「でも、どうしよう。パーティ用のドレスを持ってきていないわ」 ユナの心配に、レイは笑った。 「ドレス? そんなもの要らないよ。この村でパーティと言えば、居酒屋だ。農作業の上っ張りとエプロンを脱ぎ捨てた足で、駆けつけるんだよ」 ホテルの庭で、時間をかけた優雅なブランチをすませると、レイはユナを散歩に誘った。 「少し歩くけど、いいね」 夫は意味ありげに念を押す。 「それに、運動したほうが二日酔いが早く抜ける」 「バ、バレてたの」 「さもないと、眉間のしわが永久に取れなくなるよ」 村を抜けて家並みが途切れると、あたりは急に視界が開け、右も左も見渡すかぎりのみずみずしい葡萄畑が広がった。 見下ろすのはクリームを垂らしたような雲の浮かぶ青空だけ。 しばらく歩いていると、レイは道を反れ、畑の縁に植えてある林檎の木から、小ぶりの実を 、ヒョイともいだ。 「レイ! 泥棒だわ」 「この村では、林檎泥棒は罪にならない」 彼は大股で歩きながら、平然と青い実にかぶりついた。「まして、これはエデンに生えている知識の実でもないからね」 レイは子どもの頃、いつもこうやって、この道を行き来していたんだわ。 ユナは、夫の横顔に浮かんでいる無邪気さを見て、つぶさに感じた。 宇宙で知らぬ者のいない名キャプテン、レイ・三神が、道ばたの林檎をかじりながら田舎道を歩いている。いったい誰が、こんな姿を想像するだろうか。 いつのまにか早足になった夫の後を急いでついていくと、やがて葡萄畑の向こうに、なだらかな牧草地が見えた。 何十頭という馬が放牧されている。 木造の小屋のそばに立っていた男が、レイがやってくるのに気づき、馬草を均していたフォークを放り出した。 『イシュトヴァーン』 彼は急いで駆け寄り、顔を笑い皺でいっぱいにして、レイを抱きしめた。 『話にたがわぬ別嬪の奥さんだな。うまいことやりおって』 『やめてくれ、ヤーノシュ。僕はもう子どもじゃない』 それでも、老人はレイの頭をぽんぽん叩くのをやめない。本当にうれしそうだった。 『久しぶりに馬に乗ってみるか』 『ああ、そのつもりで来た』 『いい馬がいる。おまえが世話をした栗毛の血統だ』 牧場主が馬の準備に向かうと、レイは妻に振り向いて、キスした。 「ちょっとだけ、いいかな」 「もちろんよ」 「もし、きみも乗りたいなら、二頭頼むけど」 「遠慮するわ。二日酔いの奥さんは、柵のところでおとなしく待ってます」 ヤーノシュが連れて来たのは、見事な雌馬だった。 レイは、その首筋に触れながら、まるで恋人に愛をささやくように顔を寄せていたが、次の瞬間あぶみに足をかけて馬上の人となった。全身がまるで、しなやかな鞭になったようだ。人馬は一体となり、たちまち牧草地を駆け抜けていってしまった。 「マジャール人というのは、騎馬民族でな。あんたのご主人はまさしく、生粋のマジャール人だよ」 ヤーノシュは英語で話しかけてきたので、翻訳装置を使う必要がなかった。 「ええ。とても楽しそう。あんな生き生きとした彼を見るのは、久しぶりですわ」 「宇宙シップを操縦するのは、荒馬を乗りこなすのと同じだと、以前話しておったよ」 たちまち豆粒ほどの点になってしまったレイの姿を目で追いながら、ハンガリー人の牧場主は、感慨深げにつぶやいた。 「あの子は、いつもひとりぼっちでね。高校までこの村にいたが、ろくに笑顔を見せたことがなかった」 「え……?」 「わたしは、あの子の死んだ祖母のイローナとは古い知り合いでね。唯一、あの子が笑うのは、イローナのそばにいるときと、馬に乗っているときだけだった」 彼は頭をめぐらせ、孫をいとおしむように彼女に笑いかけた。 「わしは、それを垣間見ることのできた貴重な証人、ということになるんだろうな」 ユナは、何も答えられなかった。 その夜、狭い居酒屋は、村じゅうの人たちであふれかえらんばかりだった。 彼らは、キャプテン三神の偉大な功績について声高に語り、村の誇りだと讃えた。 レイは誰彼となく会話を交わし、微笑を絶やさなかった。 けれどユナの目から見れば、それは本当のレイ・三神ではなかった。YX35便のクルーたちといるときの、あのすべてを包み込むような微笑とは、どこかが違っていたのだ。 「ねえ、今からお城に行きましょう」 パーティがお開きになると、ユナは彼の腕をなかば引っ張るようにして、丘への勾配をたどった。 「居酒屋のご主人が言ってたの。あのお城――出るんですって?」 「この世に、幽霊が出る噂のない城なんて、あるのかい?」 レイは、やれやれという口調で言った。 「ロマンチストのお姫様かと思っていたら、勇敢な冒険家だったとはね」 丘の頂上に立つと、黒々とした石造りの城はうずくまって眠る巨人のようだった。積まれた石からは、つんと湿った古い匂いがした。 ブナの木がざわざわと冷たい風に揺れ、眼下のティサ川は、月の光を受け、輝く真珠をちりばめた黒いビロードのリボンのようだ。 李白が『月に乗じて高台に酔うべし』と歌ったのと同じ情景が、時を経てユーラシア大陸の反対側で再現されている。 「ここに立って」 ユナは舞台演出家のように、腰に手を当てて指図した。 「あなたは、この城で生き残った最後の騎士なの。門に立ちふさがり、敵に向かって亡霊のように剣を振るい続けるのよ」 城砦に立つ夫の黒々としたシルエットに目を凝らすうちにユナは、本当に夫がそうなってしまったかのような、奇妙な哀しみに突かれた。 「で、きみの役は?」 「私は、城に四方から攻め登るオスマントルコ軍の将軍のひとり娘。敵のあなたを、それとは知らずに愛してしまうの」 「ハッピーエンド?」 「もちろん、悲恋よ。ふたりはトルコ兵の一本の槍に刺し貫かれるの。こんな風に」 ユナは彼の胸に勢いよく、飛び込んだ。 戯れの芝居だということを忘れ、ふたりは瀕死の恋人たちのように固くお互いを抱きしめ、唇を合わせた。 まるでその地の住民になったようだと、心と体がくつろぎ始めたとき、旅はひとつの完成を見る。 次の日の午前中は、特筆すべきこともなく、ゆったりと過ぎていった。 花が咲き乱れるホテルの庭に椅子を出して本を読んだり、スケッチをしたり、ハンガリー名物の温泉に入ったり、ティータイム後の散歩がてら、買い物に出かけたり。 散歩の帰り道、レイは村の広場の教会にユナを導いた。 ミサが終わったあとの無人のチャペルは、ステンドグラスが夕焼けを映して、燃えるように赤く染まっていた。 礼拝堂の一番隅の固いベンチに斜交いに座ると、レイはぽつりとつぶやいた。 「日曜のたびに僕は祖母に連れられて、この席に座ったんだ」 ユナはベンチのかたわらに立ち、よそいきの上着を着て座るひとりの少年の姿を、頭に思い描いた。 「神父はある日講壇に立って、こう説教した。『原初に神は天と地を創り、被造物を地の上に置きたもうた』と。僕はそれを聞いて、心の中でひどく動揺したんだよ。神の創りたもうた地とは、この地球のことに違いない。それでは、僕は神の創られたものではないのだろうか」 レイは、くつくつと笑った。 「今から考えれば、笑い話だ。けれど、5歳のバカな男の子は本気で思い込んでしまった――木星のちっぽけな星で生まれた僕は、絶対に彼らの仲間には入れないのだと。この地球上には、あのちっぽけな祖母の家以外に、僕の居場所はないのだと」 彼は不安定な身体を支えようとするかのように、ベンチの聖書台を掴んだ。 「だから祖母が亡くなったあと、僕はここに帰ってくる勇気がなかった」 「あなた」 ユナは隣に腰を下ろすと、彼の手を自分の手で覆った。 夫は、微笑んだ。 「ユナ。今でも、きみがいなければ僕が地球にいる理由はどこにもないんだ」 「でも、あなたはこうして地球にいて、私のそばにいてくれる」 彼の肩にそっと頭をもたせかける。 「私、あなたの故郷に来ることができて、とても幸せだわ。この旅のことは一生忘れない」 「僕もだよ。生きている限り、どこにいても思い出すだろう」 「なんだか」 ユナはぷっと吹き出した。 「私たち、もう二度とここに来られないみたいな悲壮な話し方をしてるわね」 「そうかな」 「また来ましょうね。来年のこの季節でもいいし……。いっそのこと、バカンスのあいだにもう一度来るというのはどう? この村で過ごすクリスマスは最高でしょうね」 「ああ」 レイは、妻の髪をいとおしげに撫でた。 「また来よう」 クシロのレジデンスに帰り着き、なつかしいわが家の匂いを胸いっぱいに吸い込むと、あれほどハンガリーを立ち去りがたかった気持もすっかり吹き飛び、ユナは心からの安堵に全身をひたした。 「あそこの温泉もよかったけど、やっぱり家のお風呂が一番落ち着くわ」 頬を上気させてバスルームから出てくると、夫がコンピュータの【アルパード】の端末のそばで立ち尽くしているのに気づいた。 留守のあいだに溜まっていたメールをチェックしていたのだ。 「ユナ」 レイの蒼ざめた顔は、まるで氷の空気に包まれているようだった。 「すまないが、バカンスは今日で終わりだ」 「……いったい、どうしたの?」 ユナは、急激に喉にこみあげてくる大きな塊を飲み込もうとした。 「【火星開発機構】が、YX35便を廃船にすることを、きのう決定した」 |