拍手小話
第1章(1)
ルカ「来栖さんのうそつき! この秘密の小部屋に入れば、ご主人さまがおられるって言ってたのに、いないじゃないですか」
クルス「まだ、伯爵はお出ましになられたばかりです。あなたとまだ言葉もかわしておられませんゆえ」
ルカ「せっかく、本編に先取りして、いちゃいちゃできると思ってたのに…」
クルス「あなたは、なにか誤解しておられる。このお話は、絶対に結ばれないふたりを描いた悲劇なのですよ」
ルカ「うっそー。ご主人さまのベッドにもぐりこんだり、馬乗りになったり、あんなこともこんなこともできるハッピーエンドお約束のラブコメディだと聞いたのよ」
クルス「ははあ。佐渡作者にだまされましたね」
ルカ「そ、そんなーっ」
作者注: だましていませんぞ。たぶん。
第1章(2)
ルカ「あ、今日はちゃんとミハイロフさまがいらした」
レオン「クルスに言われて来たのだが、今からいったい何が始まる」
ルカ「ここは秘密の小部屋と言いまして、この中だけなら本編の進行に関係なく、裏話、ネタバレ、いちゃいちゃ、らぶらぶ、やり放題なんだそうです」
レオン「…ばかばかしい」
ルカ「あ、そんな。帰っちゃっていいんですか」
レオン「いかんのか」
ルカ「せっかくラブコメディと銘打っているのに、いつまで経ってもちっともラブでもコメディでもない展開が続くし、読者さまが痺れを切らして苦情が来たりしたら、どうするんです。ミハイロフ家の家名が泣きますよ」
レオン(ため息)「そなたの果てしないおしゃべりだけで、じゅうぶんコメディだと思うが」
ルカ「好きでやってるんじゃありません、いまだに50文字以上の台詞がないご主人さまと釣り合いをとるために、私も苦労してるんです。ものすごく練習しないと、台詞を噛むし」
レオン「……噛む」
ルカ「あ、そっちの噛むじゃありませんから。怖いから歯を見せないでください」
第1章(3)
ルカ「な、なんかいきなり、ご主人さまったら大胆にも、指を口に含まれるなんて(ぽっ)。これって次回は、一気にベッドで押し倒される展開?」
レオン「何を、おぞましいことをぶつぶつ言っている。そんなつもりは毛頭ない」
ルカ「せめて、この小部屋でくらい、ちょっとは夢を見させてくださいよ。はあ、リア充には程遠いな」
レオン「リア充とはなんだ」
ルカ「恋人がいる、リアルが充実した生活のことですよ。ご主人さまが引きこもってるあいだに、日本語はどんどん変わってるんです」
レオン「俺が日本へ来たころは、モボやモガということばが流行っていたものだがな」
ルカ「モボ・モガ? 聞いたことないけど、もなかの親戚ですか?」
作者注: もなかの親戚ではありません。大正時代の流行語です。
第1章(4)
ルカ「とうとう、ご主人さまの正体が明かされましたね。とは言え、読者にははじめからバレバレだったんですけど」
レオン「どのへんで、バレていた?」
ルカ「一番あからさまなのは、夕方起きて明け方眠るとか、そのあたりです」
レオン「では、世のヒッキーはすべて吸血鬼ということになるわけだ」
ルカ「ヒッキーなんて言葉を知ってるということは、ご主人さま、さてはテレビこっそり見てるでしょう」
レオン「そんなはずなかろう」
ルカ「こないだ、NHKの集金来てましたよ」
レオン「……」
第1章(5)
ルカ「やっと、本筋に入れますよ。導入が長いんだから」
レオン「まだ導入だったのか。これで完結でよいではないか」
ルカ「だめですーっ。まだ、らぶらぶも、いちゃいちゃもしてないんですよ」
レオン「どんなに長く続けても、そなたと、そういうことは永久にないと思うがな」
ルカ「作者を甘く見たら困ります。次章から続々と新たなキャラを出し、ドタバタと過去と現在が入り乱れ、糸がこんがらがっていくうちに、ふたりをくっつけちゃおうというセコい作戦なんだから」
レオン「……そういう話とは知らなかった」
ルカ「この秘密の小部屋にも、そのうち18禁指定の看板をかかげて、ふっふっふ。……あーっ。ご主人さま。立ち入り禁止の杭なんか持ってきて、ご自分が打たれちゃいますよ」
第2章(1)
レオン「何をしておる」
ルカ「あ、ご主人さま。携帯小説を読んでるんです」
レオン「そんな小さな機械で読書ができるのか」
ルカ「携帯小説ではヴァンパイアの登場するファンタジーがすごく多いんです。いろいろ研究させてもらおうと思って」
レオン「何の研究だ……待て、言うな。どうせ吸血鬼とラブラブになる方法に決まっている」
ルカ「違いますって。私の研究テーマは、『吸血鬼はトイレに行くか否か』です。お茶やスープを飲んでおられるんだから、絶対に出すものは出すはずですよね。ことによると大のほうも出してるとは思うんですけど、そういう描写が見つからないんです……ああ、ご主人さま、タブーに触れられたからって、いじけないでください」
第2章(2)
ルカ「きゃー。ピンチです、ご主人さま。私がイアニスさまの手に落ちようとする、まさにそのとき、ご主人さまが血相を変えて助けに来てくれるという展開だと思っていいですよね」
レオン「そなたは血の気が多すぎるから、少し抜いてもらったほうがよいのではないか」
ルカ「ひどい! 花をもあざむく美しき想い人が、あたら同族の毒牙にかかって散らされてもいいんですか」
レオン「美しき?(あたりを見回す)どこに」
ルカ「だあーっ。ここにいるじゃないですか。目の前に」
レオン「それらしきものは見あたらぬな」
ルカ「ご主人様ったら栄養不足で目まで悪くなっちゃったんですね。次の食事には、アントシアニンをたっぷりと摂っていただかなくては!」
第2章(3)
ルカ「で、本当のところはどうなんです?」
レオン「何がだ」
ルカ「庭を散歩した理由です。やっぱり、落ち込んでいる私を慰めるためなんでしょう。そしてあわよくば、月の光の中で、偶然を装って私の肩を抱き、そっと唇を寄せて…」
レオン「よくもそこまで、ありえない状況を勝手に脳内に作り上げられるな。感心する」
ルカ「じゃあ、なぜ私を散歩に連れ出したんですか」
レオン「本で読んだことがある。毎日散歩に連れ出さぬと、排泄がうまくいかずに病気になる者もいると。なるほど、それでそなたは元気がないのだなと」
ルカ「……私は、犬ですか!(怒)」
第2章(4)
ルカ「えーん、どうしていつも、私のピンチで「つづく」を迎えるんですか。今度こそは、ご主人さまが助けに来てくれますよね。来ないと主役をおろしますよ」
レオン「よく言う。『ご主人さまでなくても、まいっか。来栖さんで手を打とうかな♪』、などとスキップしていたのは誰だ」
ルカ「な、なぜ心の中のセリフを! ご主人さまは人の頭の中まで読めるんですか」
レオン「そなたほど、わかりやすい女はおらぬな」
ルカ「ふんだ。ご主人さまがあんまり冷たいからですよ。こうなったら、うんと魅力的な愛されヒロインになって、ご主人さまもイアニスさまも来栖さんも、ハートをわしづかみしてやる」
レオン「……なぜ、そこで鉄のフライパンに砂をいっぱい入れて手首を鍛える。わしづかみの意味が間違っておらぬか」
第2章(5)
イアニス「え、なんだ。この部屋は」
ルカ「うふふ。ご主人さまと私のひ・み・つの小部屋ですン」
イアニス「こんなところで隠れて、いちゃいちゃしてやがったのか」
ルカ「(照れて)ありゃあ、バレちゃったなあ」
レオン「(不機嫌に)そんなことは、毛の先ほどもありえぬ」
ルカ「それにしても、イアニスさまって、ただの捨てキャラだと思ったら、案外しぶとく生き残ってますね。めでたくレギュラー入りだそうですよ」
イアニス「俺の美貌と存在感なら当然だ」
ルカ「作者がこのごろ、こういうダメで情けない系の男がお気に入りなんだそうです。余談ですが『水妖精 〜ウンディーネ』という短編に出てくるラントも、そういうタイプらしいですよ」
イアニス「失礼な、俺はあれほど情けなくはない」
レオン「それなら、次章からイアニスとマユを主人公にした話に書き換えればよかろう」
イアニス「よっしゃ。その話乗った」
ルカ「なんでっ。せっかく『俺のもの』認定までこぎつけて、あともう一息で押し倒せるというのに!!」
レオン「……誰が誰を押し倒すのだ」
第3章(1)
ルカ「始末するって、どういうことですか。始末するって」
レオン「クルスとふたりの内密の話をどうして、そなたが知っている。一人称の掟やぶりではないか」
ルカ「この作者に、掟なんてものはありません。美貌のヒロインを窮地に陥れるためなら、何でもありです、バーリ・トゥードです」
レオン「美貌のヒロイン……どこにそんなものが」
ルカ「ええい、ごまかすな! 私を亡き者にしようったって、そうは行きませんからね。ふふ、我は何度でもよみがえる。この世に愛がある限り」
レオン「魔王か、そなたは」
第3章(2)
ルカ「また登場人物が増える気配ですね。今度はルイ。どんな美形なんでしょう」
レオン「そなたも、気の多い性格だな。まあ俺はかまわんが」
ルカ「何を言ってるんですか。てんでそっけないご主人さまに少しでもヤキモチ妬かせる作戦に決まってるでしょう。そのへん把握してますか」
レオン(ぼそっと)「……把握してないのは、そなたのほうであろう」
ルカ「何か言いましたか」
レオン「何も」
ルカ「それはそうと、ルイ侯爵さまがすでに、このサイトに登場していると聞いたのですが、いくら探しても見つからないんですよね。そんなカッコいい男性がいたら、私の鼻がうごめかないはずはないんですけどねー」
*作者注:実は、ある部分が根本的に間違っているからです。
第3章(3)
レオン「ヴァンパイア・ハンターだと? そなたの妄想もここに極まれり、だな」
ルカ「(赤くなって)だって、いきなり神父さまが訪ねてくるなんて、てっきりご主人さまを滅ぼしに来たと思うじゃないですか」
レオン「十字架や聖水などで、俺が死ぬはずがなかろう」
ルカ「もうわかりましたって。貴柳司祭にもよくお詫びを言っておいたので、快く私の計画に協力してくれることになりました」
レオン「計画?」
ルカ「今度いらっしゃるときには、司式用の礼服を着て来てくれるそうです。指輪とドレスと婚姻証明書は私が準備しますので、あとはご主人さまの真っ白なタキシードですね」
レオン「……真っ白な灰になりそうだ」
第3章(4)
ルカ「天羽侯爵って、女性だったんですね。びっくりしました」
レオン「日本語は、男女の区別があいまいだからな」
ルカ「あ、そうか。英語とかなら、ヒーやシーの代名詞を使った時点で、すぐわかりますもんね」
レオン「そなたは、それでも気づかぬと思うがな」
ルカ「……もしかすると、私は気づいてないけど、ほかにも女性がいるってことですか。
まさか来栖さん……いやいや、けがの手当てをしたときに、シャツ一枚になったのを見てるし。
まさか貴柳神父……いやいや、仮にもバチカンの司祭に任ぜられてるくらいだから、女性はありえない。
まさか、まさか、ご主人さまが……。ご主人さまが女性というオチだったら、どうしよう。そりゃ見たことはないけれど……ううん、この美貌なら、ありうる。……なんとしても確かめなきゃ」
レオン(背筋に寒気を感じて)「……おい、何を考えておる」
ルカ(腕まくりをして)「さあ、いさぎよく脱いでもらいます!」
作者注: なんと、もうすぐルカの野望がかないますぞ。
第3章(5)
ルカ「あの秘密のバラ園なんですけど、ご主人さまがいらっしゃるときには現れるのに、それ以外は、いくら探しても見つからないのは、どういうわけなんですか」
レオン「さあ、そなたが単に粗忽なだけではないのか」
ルカ「そんなはずありません。絶対に何かのからくりがあるに決まってます」
レオン「それほど確信があるなら、自分で調べればよかろう」
ルカ「わかりました。今から調べさせていただきます」
レオン「で、なぜ、この部屋のじゅうたんや壁紙をはがし始める」
ルカ「バラ園全体を地下に格納するコントロールパネルが、きっとここにあるはず」
レオン「……そなたの脳みそを一度かちわって、どういう構造になっているのか調べたいものだな」
第3章(6)
ルカ「一族の仲間入りを果たすためには、迷ってはいけないのですね」
レオン「傷が、すぐふさがってしまうからな」
ルカ「一瞬のチャンスを逃さない。わかりました。流れ星に祈るときみたいに、いつも願っていることこそが勝利の秘訣なんですね」
レオン「……それにしても、こんなに四六時中、近くに寄られてはうっとうしい」
ルカ「ふっふっふ。ご主人さまが間違って怪我をするチャンスを見逃さないためです。たとえば、ヒゲを剃るとき……ああっ、ご主人さまはヒゲが伸びないんだった」
レオン「剣は模造だし、ここにはろくな刃物はないぞ。あきらめろ」
ルカ「ふん、料理人をなめちゃ困ります。今夜の晩餐は、ごつごつしたカラつきの牡蠣、食卓で肉切り包丁で切り分けるステーキ、歯の鋭いイシダイの姿造りに、生きたウツボ……」
レオン「待て」
第4章(1)
ルカ「いよいよ、待ちに待ったご主人さまとのデート。一歩一歩、着実に恋人への階段を上がっていますね」
レオン「どこがだ」
ルカ「ところで階段で思い出しましたが、ご主人さまはエレベータに乗るの初めてじゃなかったんですか」
レオン「あたりまえだ」
ルカ「百年間引きこもりだったのに?」
レオン「人力でウィンチを巻く原始的なものなら、紀元前からある。
ルイ15世の治世には、ベルサイユ宮殿にエレベータが設置された。1859年、アメリカのエリシャ・オーチスが発明した蒸気エレベータがニューヨークのブロードウェイのホテルに採用された。
1889年、パリのエッフェル塔に水圧式エレベータが、同じ年、ニューヨークに電動式エレベータが設置された。
さらに、日本で最初にエレベータが設置されたのは、明治23年の浅草・凌雲閣……」
ルカ「それって、ウィキペディアとかの丸写しですよねー」
レオン「……」
ルカ「素直に、乗ったことがないと白状すればいいのに」
第4章(2)
ルカ「楽しかったですね。メイド喫茶」
レオン「ああいう場所の存在意義がわからぬ」
ルカ「誰かにかしずかれたいという欲求は万人共通のものです。ご主人さまは、私がいるから、必要を感じないだけです」
レオン「俺は、そなたにかしずかれているつもりはないぞ」
ルカ「うそ、かしずいてるじゃないですか」
レオン「新しい料理のたびに、いちいち長々とうんちくを聞かされ、『え、食べないんですか。このアマンドタルトを作るのに、どれだけ時間がかかったと思ってるんです。食べてくれないと泣きますよ』などと脅し、無理やり食べることを強要する。それのどこが、かしずくなのだ」
ルカ「えへへ。菓子ずく、とか」
第4章(3)
ルカ「結局、予定していた会談は夜にずれこみましたね。無理して昼日中に秋葉原を歩く必要はなかったような」
レオン「だから、これはルイの陰謀だと言ったろう」
ルカ「さすがルイさま。うんとご主人さまを弱らせて、抵抗を封じておいて、腕ずくで言うことを聞かせる作戦ですね」
レオン「どこから、そういう考えになる」
ルカ「暴れる鯉の頭をたたいて、気絶させてから、ゆっくりと料理するのが料理人の職分ですから。ふっふっふ」
レオン「…そなたが言うと、とうてい比喩とは思えぬな」
第4章(4)
ルカ「きゃーっ。いきなりのディープキス! ご主人さまもやりますね」
レオン「…うるさい」
ルカ「それにしても、そのまま過去編に突入だなんて、心の準備も何もしてないじゃないですか。作者が一番ビビっているってほんとですか」
レオン「トランシルヴァニアの歴史も何も、まだ全然調べてないというからな」
ルカ「過去編のあいだ、私は存在をなくしちゃうんですよね。ヒロインなのに、しばらく出演場面がゼロだなんて、ひどい」
レオン「(喜)そうか、その手があった。過去編を延々長引かせて、現代に戻ってこなければよいのだ」
ルカ「ひい。そんな悪らつな。そっちがそのつもりなら、特別出演という手を使いますよ。ご主人さまのそばに意外な役で登場して、存在をアピールしますから」
レオン「意外な役…豚小屋の豚か?」
ルカ「ぶきーっ」
第4章(5)
ルカ「結局、今回私は一度も出てこないじゃないですか!」
レオン「あと二、三回、過去編が続けば、そなたは完全に読者に忘れ去られるな」
ルカ「いじけますよ、もう……。あんまり暇だったから、小部屋限定の新企画をぶち上げました。題して、『過去編でわかったご主人さまの新事実』! じゃじゃん」
レオン「なんだ、それは?」
ルカ「その1。やはりというか、ご幼少のころから、ご主人さまは女をたぶらかす名人でいらした」
レオン「……あれは、好きでやっていたわけではない」
ルカ「ほんとに? 楽しそうに見えましたけどね。その2。一族に加わったのは十八歳のときだから、今でも見た目年齢は十八のまま。わー。若く見えるとは思っていたけど、私より年下なんだ」
レオン「そのようなことの、どこが面白いのだ」
ルカ「最後に、その3。ご主人さまの初恋は、リュドミラさま、つまりルイさまでした!」
レオン「な、何を証拠にそのようなことを」
ルカ「ふふふ、バレバレじゃないですか。さりげなく唇を交わしていたくせに。あ、貴柳神父。気持ちはわかりますけど、大きな十字架を手に持ったりしちゃダメですよ。いくら腹が立つからってダメですってば、十字架を持ったままご主人さまに近づいたりして。きゃー、手がすべって思わず背中を押しちゃった」
レオン「……そなたが一番、腹を立てているな」
第4章(6)
ルカ「過去編、終わっちゃいましたね。結局、ローゼマリーさまのことは、あんまり謎は解けないままでした」
レオン「そなたが、さっさと俺を置いて夢から逃げ出すからだ」
ルカ「えーん。……だって、作者が歴史を調べながら書くのは、二倍時間がかかるからって、途中で投げ出しちゃうんですもの」
レオン「……そういう理由だったのか」
ルカ「もし、あとで歴史考証にほころびが出てきたら、夢の中だからと誤魔化すって言ってました」
レオン「ううむ、極悪だな」
ルカ「そうやって時間稼ぎをすることで、連載を長〜く引き延ばすって言ってましたよ。当初の予定では第5章で終わるつもりだったけど、第6章からは、ご主人さまと私のラブ甘なシーンをふんだんに出すそうです」
レオン「…作者のやつ、寿命の短い人間のくせに、何を考えている。とっとと終わらせろ(怒)」
作者「いやあ、ほんとに歳を考えろと自分でも思うんですけどねえ」
第5章(1)
ルカ「ぷはあ、もう少し遅かったら、私、窒息死してました」
レオン「ち、数秒早かったか」
ルカ「なにか?」
レオン「ほんの戯言だ。気にするな」
ルカ「でも、いよいよアレクサンドルさまとの対決ですね。あの方がご主人さまを憎む気持ちが、ようやくわかりました」
レオン「どうわかったのだ」
ルカ「だって、ローゼマリーさまを無理やり略奪して日本に逃げた挙句、死なせてしまうし」
レオン「それに関しては、いろいろ誤解が……」
ルカ「五回も逃げるなんて、そりゃ赦せません」
レオン「……さすがに、そのオチは無理やり過ぎるだろう」
第5章(2)
ルカ「うう、なんだか元気がでない」
レオン「どうした、鼻が乾いておるのか」
ルカ「だーっ。私は犬じゃありません! 本編でようやくご主人さまと両想いになれたと思ったのに、絶不調なんです」
レオン「そなたと両想いになったつもりなどないが」
ルカ「『もう、そなたをひとりにはせぬ』というのは、グーグル翻訳すれば『アイラブユー』です」
レオン「嘘をつくな」
ルカ「本願成就して、かえって気が抜けちゃったんでしょうか。恋は片思いのうちが花なんですかねえ」
レオン「それなら、そなたの回復のために、あの言葉は撤回しよう」
ルカ「だめ、それはだめです!」
レオン「そなたのようなわがままな女は見たことがないな。つくづく愛想が尽きた。もう顔を見たくもない」
ルカ「あ、なんか元気が出てきた。やっぱり罵倒されてるほうが元気が出るみたい」
レオン「世に言う『ツンデレ』『クーデレ』と呼ばれる種族のつらさが少しわかったような気がする……(ため息)」
第5章(3)
ルカ「しーっ、静かにしてください」
レオン「ほう。そんな小さな機械でテレビとやらを見られるのか」
ルカ「このごろ、料理人が主役のドラマが多いんです。後学のために見ておかないと」
レオン「おのれとのあまりの格差に、失望せねばよいがな」
ルカ「そうですよ。どんな美味なものを作っても、『うまい』のひとこともなく、労いの言葉すらくれない主人のために日夜料理し続ける、私ほど苦労しているコックは、ドラマの中にはいませんから」
レオン「……そなたの辞書に、失望の二文字はなかったか」
ルカ「ん。なんか言いました?」
レオン「何も。ほら画面を見よ。食事が始まったようだぞ」
ルカ「ああ、俳優のへたくそ。噛みもしないで、『うまい!』はない。噛んで喉を通ったときに、初めてわかる微妙な風味でしょう。あ、そのフォークの使い方もひどい」
レオン「……この女の前で毎日ものを食べさせられる、俺ほど苦労している主人はおらぬな(ため息)」
第5章(4)
ルカ「あの。耳元でささやいた言葉は、結局なんだったんですか?」
レオン「あれが聞こえなかったのか。そなたは耳が悪いのではないか」
ルカ「ご主人さまがいきなり耳元に唇を寄せたりするから失神寸前だったんですよお。お願いだから、もう一度言ってください」
レオン「あんな言葉を口にするのは一度でたくさんだ」
ルカ「それほど超強力な最上級呪文だったんですか。メガンテ並みですね」
レオン「何を言ってるかわからぬが、要するに、知らなくとも大筋には変化がないということだ」
ルカ「いいえ、物語のキモは枝葉末節にこそあるんです。教えてください」
レオン「いやだ」
ルカ「教えてったら教えて」
レオン「言わぬと言ったら言わぬ」
ルカ「そこまで強情を張るということは、もしや……作者は何も考えていないんですね」
レオン「……そのようだな」
作者:そのときは考えてたんですけどねえ。2年のブランクの間に忘れちゃいました。
第5章(5)
レオン「本当なのか」
ルカ「なにがですか?」
レオン「アレクサンドルの言ったことだ。
そなたは俺のために料理を作っていたとき、俺のことしか考えていなかったのか。俺のことを誰よりも近くから見つめ、俺の欲しているものを探り求め、俺の心の奥底までを極めようとしていたのか」
ルカ「あたりまえじゃないですか、私の頭の中は、いつもご主人さまのことでいっぱいなんですから」
レオン「……ほんとうか?
『こうやってじーっと立ってるのも疲れるな。オーブンを見に行くふりをして書斎のソファで少し寝ころがってこようかな』
『今度お給料が出たら、最新式のマッサージチェアを買っちゃおうと。足りない分はご主人さまの食費が足りないと言って、来栖さんから追加でもらえばいいよね』
『あ、そうだ。昨日お取り寄せしておいたリーフパイがあったんだ。楽しみー。これが終わったら、ご主人さまのとっておきの紅茶を入れて、ひとりでこっそり食べようっと』
……などとは、みじんも考えておらぬということだな」
ルカ「ご、ご、ご主人さま。なぜ私の考えが一字一句わかるんです」
レオン「俺のほうが、よほどそなたの心の奥底までさぐり極めておるな(ため息)」
第5章(6)
ルカ「とうとうご主人さまは、元通りレオニード大公を名乗ることになったのですね」
レオン「こうなっては、しかたあるまい」
ルカ「ミハイロフ伯爵夫人という名前にもようやくなじんだところだったのに、レオニード大公夫人という新しい名前に慣れなきゃいけないのかー」
レオン「そなたにその称号を与えた事実など一度たりともないと思うが」
ルカ「まあ脳内だけの話ですけどね」
レオン「そなたほど、その手の呼称が似合わぬ女もそういないな。まるでハロウィーンの仮装大会のようだ」
ルカ「むきーっ」
レオン「大公夫人は『むきーっ』などという奇声は死んでも発せぬと思うが」
ルカ「……ですよね。自分でも似合わないなと思ってはいたんです」
レオン「ずいぶん素直に認めるのだな」
ルカ「やっぱり私は、ご主人さまの料理人と呼ばれるのが一番うれしいです。うん、それが一番。これから私の呼び名は『世界に冠たる永遠の一族の長レオニード大公の唯一無二、空前絶後、八面六臂、一騎当千、電光石火、完全無欠、不言実行の料理人』にしてください!」
レオン「……やはり怒っておるのか」
第5章(7)
ルカ「ローゼマリーさまの死の真相をお聞きするのは本当につらいです……」
レオン「これを話さねば、俺は前に進むことができないのだ」
ルカ「それでは私も黙っているわけにはいきませんね……」
レオン「ルカ。そなたに限って、たいした隠し事があるとも思えぬが」
ルカ「わかりました。ご主人さまと私のあいだに秘密はありません。すべてを包み隠さず告白します」
レオン「なんだ?」
ルカ「昨日のシチュ―ですが、実はほんの少し八丁味噌を入れてあるんです。ああ、こんな秘密ご主人さまだからこそ打ち明けるんですよ」
レオン「……ただの隠し味ではないか」
ウェブ拍手していただくと、毎回このような小話を更新しています。励みになりますので、ぜひ拍手お願いします。ご感想なども大歓迎。