ゲーム編



 イブの夜、セフィロトは北見さくらと【カジノシティ】を訪れた。
 食事のあと、ふたりは幻想的なキャンドルを模したホログラフィーが浮かぶ回廊をゆっくりと歩いていた。
「さくら先生、あの……これをどうぞ」
 セフィロトがおずおずと、小さなプレゼントの包みを差し出した。
「開けてみてください」
 さくらは、中を見た途端に素直な喜びを表わした。
「うわあ、なんてすてきなペンダント! ありがとう、セフィ」
「ほんとうは、わたしではなくて胡桃が用意してくれたものなんです」
「いいの、それでも。胡桃先輩が私のことを怒ってなくて、うれしい」
 彼女は、目をうるませて彼を見る。
「だって私、今日のデートのこと、強引に先輩にOKを言わせたの。胡桃先輩は、あなたのことを愛してるってわかってたのに」
「そんなことありません。プレゼントまで用意してくれたのですから、きっとわたしとさくらのことを認めて、応援してくれているに決まってます」
「よかった……。お願い、これ、セフィの手でつけてくれる?」
 セフィは、星を模したペンダントをそっと彼女の首にかけた。
「とても、綺麗です。さくら先生」
「先生はやめてってば。綺麗なのはペンダントなの? それとも……」
「もちろん、ペンダントをつけている女の子のほうです。さくら」
 セフィロトはそっと彼女を抱き寄せると、そのピンク色の唇にキスをした。

 セフィロトとさくらは、それからずっと付き合っている。
 つい昨日、彼は自分がロボットであることを告白した。真実を隠したまま付き合うことに耐えられなかったのだと思う。
 彼女はにっこり笑って、こう答えたそうだ。
「ロボットでも何でもいいの。私が好きなのはセフィという男の子だから」
 私はそれを聞いて、負けたと思った。さくらちゃんの純粋さ。真直ぐさに。
 第12ロット世代だった樹をあれだけひたむきに愛することができた若い頃の私は、そういう真直ぐさをたくさん持っていたのだろう。
 でもいつのまにか、なくしてしまった。悲しいできごとに会い、臆病になりすぎたせいなのかもしれない。
「樹。これでいいのよね」
 ベンチに座って、すずかけの木の梢を見上げながら、ひとりつぶやいた。
「あなたの遺言を破ってしまうけど、……私はもうセフィといっしょには暮らせない。
セフィはもう、さくらちゃんのもの。あのふたりならきっと、ロボットと人間という障害を乗り越えて、愛を育んでいくわ。
……ねえ、あなたも賛成してくれるわね。私といっしょに、ふたりのことをそっと見守っていましょうね」
 梢を渡る風が夫の返事のように聞こえて、一粒の涙が頬を伝う。
「樹。いつまでも、いつまでもあなただけを愛してるわ」




 No.8「さくらエンディング」 ―― 初期化する?

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