ゲーム編



「……お願い、やめないで。もっと……もっと、強く抱いて」
「もうあなたのそばを離れません。……愛しています」
「あ……。そこは……、あっ。いやっ、く……ぅ」
「こんなに柔らかいんですね。あなたは……。すごく気持ちいい……」
「ああ、もうダメ……。着ているものを脱がせて。……私のすべてを触ってもらいたいの」
「きれいです。……まるで朝露をふくむ薔薇の花びらのようだ」
「そんなに見ないで。恥ずかしい。……あああっ! は……ぁん……」

「ええいっ!」
 若い男は、ヘッドフォンを床に叩きつけた。
「もう、我慢できません。不肖、木田勇人26歳、学生時代は成績優秀、品行方正。科学省に入ってからは、トップエリートとしてすべてのプロジェクトを落ち度なくこなしてきたのに、今回のこの、公園のデバガメのごとき屈辱的任務は一体なんなんです!
しかも、……しかも相手は、たかがロボットのくせして、すごい美人とこんなことやあんなことまで……。
人間様の私が、今まで一度も……」
「木田、おまえ童貞だったのか」
 やや年かさのほうが、傷口に塩を塗るような発言。
「武藤さん、それ言わないでください! 気にしてるのに。くそっ、うらやましすぎる。何で世の中はこんなに不公平なんだろう」
「まあ、ふたりから片時も注意をそらすなという柏さんの命令だ。あの人怖いからな。彼らに何かあったら、スマキにされて駿河湾だぞ」
「こんなロボットなんか、いっそ軍国主義者どもに売り渡してバラバラに分解させたらいいんです。ううう……」
「まあ、そうもいかんだろう。さあ、そろそろ代わってやる。
……。うわっ。すげえな、これは。ロボットってこんなことまでできるのか……」

 その頃、私は仕掛けられた盗聴器を前に、セフィロトと顔を見合わせて、くすくす笑っていた。
「さあ、もうエンドレス再生モードにしましたから、あとは放っておいても大丈夫ですよ」
「しかし、盗聴器を仕掛けるなんて科学省もバカよね。セフィにはするっとまるっと全部お見通しなのに。
ポルノ映画の音声とも知らずに、びっくりしてるわよ。いい気味」
「それにしても、【エリイ】の中にこんな映画が隠してあったなんて、びっくりしました」
「ふふっ。これはね。犬槙さんがいたずらで樹のファイルに紛れ込ませておいたらしいの。まだ結婚前のことよ」
「わたしもこれに似たのを、犬槙博士の家で見せていただいたことがあります」
「犬槙さんの趣味かしらね。愛の伝道師なんて言っちゃって」
「それはそうと、胡桃、質問があるのですが」
「なあに?」
「『朝露をふくむ薔薇の花びら』って、一体何のことですか?」
「やだっ。セフィのえっち!」
「え? え?」
「でも……」
 私は頬を上気させながら、セフィロトの首に腕を回した。
「いつか教えてあげる。セフィがもう少し大人になったらね」



 No.9「盗聴器エンディング」 ―― 初期化する?

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