10. ルート3のおしまい

「平方根って?」
「たとえば、3ギアスの面積の正方形の土地があったとする。その一辺の長さが3の平方根だ」
 父は地面に指で描いて、息子に見せた。「もしおまえが大工や石切の棟梁になるのなら、この計算は大切だぞ」
「え、この数字、どこまで続くの」
「終わりはない」
 川のほとりで赤ん坊に乳を含ませていた妻が、おぶい紐を結んで立ち上がった。緑色の瞳が、満ち足りた様子でほほえむ。
「さあ、そろそろ出発しましょう」
「ああ」
 黒い瞳の夫は妻に笑みを返すと、大きな荷を肩に担い、小さな息子と手をつないだ。
 薬売りの一家は、次の村目指して歩き始める。

 彼らの旅に、終わりはない。




【Fin.】

この掌編集は、以前に書いた掌編を元ネタにして、三里アキラさんの「+創作家さんに10個のお題+」を使って書いたものです。 元ネタになった掌編「鳥かご」も合わせて収録してあります。下の「extra」からどうぞ。