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The Chronicles of Thitos
ティトス戦記

Chapter 25


「ルギド!」
 丘を下ろうとする彼を、ギュスターヴが長老の館の戸口から呼び止めた。
「……どこへ行くんだ?」
「アローテのところへ。この館の裏手にいると言っていたな」
「俺もいっしょに行く。いいだろ?」
 ギュスターヴはひきつれた表情を浮かべたまま、立ち止まっているルギドの横を通り抜けた。
「あたしたちも行こう。ジル!」
「しっ!」
 歓声をあげたリグを、アシュレイが口に人差し指を立て、たしなめた。「ふたりの邪魔をしてはいけない。……少し離れてついていくぞ」
 ルギドとギュスターヴはもの言わぬまま、並んで坂道を下る。
 なだらかな斜面には、緑が芽吹いたばかりの木々や色とりどりの花々の向こうに、ユツビ村の村人たちの眠る墓地が一面に広がっている。
 アシュレイに連れられて歩き出したジルとリグは、丘の頂から見下ろして、ぼう然と立ちすくんだ。
「墓地……」
 蒼白な顔色で、ジルは勇者に振り向いた。「まさか……。まさか、アローテは死んでしまったの?」
「え……?」
 一瞬、怪訝な表情で彼を見返していたアシュレイだったが、くすくすと笑い始めた。
「ああ……。ごめん、墓場だから。……違う、違うよ。アローテは死んでなんかいない」
「び、びっくりしたあ」
 ふたりの子どもはほうっと長い安堵のため息をつく。
「アローテはあそこにいるよ」
 白い花をつける白木蓮の木立のあいだを、妖精が飛び回るように、アローテが軽やかなステップを踏んで踊っていた。
 ギュスターヴは、彼女の歌声が聞こえるところまで歩を進め、立ち止まった。


  『  主よ
     わが愛する花婿の魂をみもとに送らん
     その生涯は絶え間なき戦い
     ひとときの安らぎもなき 血塗られた戦場(いくさば)なれば
     白き天女の指先に伝う 清き水もて
     彼を憩わせたまえ                            』


「アローテは、とうとう正気には戻らなかった」
 深くうなだれ、ほとんど聞き取れない低い声でギュスターヴがつぶやく。
「長老や、テアテラ国中の高位の魔導士が、彼女を診てくれた。
その甲斐あって、弱っていた体はすっかり元通りになった。しかし壊れてしまった心は、誰にも治せなかった……」
 深緑のローブにぽとぽとと熱い涙がしみこんでいく。
「今は毎日、日課のように墓地に来る。ああして花を摘んでは、墓という墓に供えて回る。花のない季節には、秋は枯葉を冬は雪を供えている。 そして、そのあいだずっと弔いの歌を歌い続ける。
……ルギド、おまえのことを弔う歌を!」
 彼は、頬をぬらしたまま、魔族をにらみつけた。
「俺がどんなにそばにいても、祈っても、アローテの心を取り戻すことはできなかった。彼女の心は、おまえがサルデスで処刑されようとした日のままで止まっているんだ。
どんなに愛しても、俺は彼女を幸せにできない。
俺じゃあ、一生かかったって……ダメなんだ!」
 すすり泣きの流れる中、ルギドは何も答えなかった。
 しばらくの時が経つと、心を決めたように、ゆっくりと閉じていた瞼を開く。
「ギュスターヴ。アローテをもらうぞ。……いいな?」
 返事を待つこともなく、彼は墓場の少女に向かって歩み始めた。


   『  この世は 終わりなき 哀しみの国
      なれば 麗しき永遠(とわ)の園へ
      わが花婿を迎え入れたまえ        』


「アローテ」


   『  銀の髪 黒の剣(つるぎ)
      吾を守りし 力強き腕(かいな)
      そをすべて 主のみもとにささげまつれば   』


「アローテ。俺だ」
 ルギドは後ろから彼女を抱きすくめた。
 歌声が止み、細く華奢なその手から、摘んでいた花がはらはらと落ちた。
 彼の銀の髪が、アローテの肩に胸に腕に、柔らかく触れたとき、彼女の唇から、「あ……」といううめきが洩れた。
「アローテ。俺は死んでいない。おまえのもとに帰って来た」
 ルギドはそうつぶやくと、彼女のあごを手で支え、振り向かせると唇を重ねた。
 アシュレイはあわてて、ジルとリグの両目を手でふさいだ。
 ふたりの唇はようやく離れた。
 アローテの漆黒の瞳がおずおずと動く。ルギドは盲いた紅い瞳を強いて開き、彼女を見つめる。
「あ……あ」
 小さな叫びを残して、すとんと彼女は足元の墓石に腰を落とした。
 視線はまだ、どこかをたゆたっている。
 まだ、心は閉じられたまま。
 ルギドはひざまずくと、短くしかし荒っぽいキスを2度彼女に浴びせた。
 そして、ふたたび立ち上がり、深く息を吸い込んだ。
「この馬鹿! まだ俺がわからねえのか、どこに目をつけてやがる!」
 アローテがぴくりと動いた。
「いつまでそんな隅っこで震えてるつもりだ。出てきやがれ! おまえは俺が守るってのが、まだ信じられねえのか?」
 ギュスターヴは、ぽかんと口を開いた。「リュート……?」
「リュートだ……」
 離れた場所で、アシュレイが異口同音につぶやいていた。
「あーあ、またあんな言葉使って」
 ジルがその隣で肩をすくめている。
「ルギドったらこの頃、ときどきああなるんだ。サキニ大陸の放浪民族みたいなすごく下品な言葉を使うのって……、これ何なんだろう?」
 アローテは彼を見上げた。
 目の焦点が合わされた。
 太陽を背に、杉の木のように大きな男が彼女を見下ろして微笑んでいる。
「……リュート……」
 彼女の瞳から、どっと堰を切ったように涙があふれた。
「リュート! ……リュートおおお!」
 ルギドは、わあわあと泣きじゃくる彼女をしっかりと抱きしめて、髪をなでた。
「ちぇっ、しかたねえな」
 ギュスターヴは照れたような笑みをうかべ、丘を登り始めた。
「リュートが相手じゃ、アローテを譲ってやるしかないか……」


 笛や六弦、手風琴などが陽気で単調で、しかしどこかもの悲しい音楽を夜空に奏でている。
 村中の人々が広場に集い、篝火の周りで踊り、飲み、歌い、おおいに食らった。
 連夜の宴会で、祭り気分はいやが上にも高まっていた。さらにアローテの回復の報が、村人の喜びを最高潮に押し上げた。
 長老の隣の主賓席には、ルギド、ジル、リグが並び、その隣にはアシュレイ、ギュスターヴ、そして恥ずかしげに微笑むアローテの姿があった。
 彼女は墓地でルギドの手に抱かれながら、目まぐるしい感情の奔流に耐え切れずに昏倒し、彼の腕によって長老の館に運び込まれた。
 次に目覚めたときは、まるで長い眠りから覚めたばかりのように、ルギドの処刑のことも、彼と離れて過ごした日々のこともすべて忘れてしまって、いつもの穏やかで理知的で明るいアローテに戻っていた。
 ただ、心の隅のどこかにまだ本能的な恐怖が残っているらしく、ルギドが枕元から立ち去ろうとするたびに、子どものように半ば無意識に彼のローブの袖をつかんで、ギュスターヴとリグの不機嫌を誘った。
「ほっほっ、目出度い」
 小さな酒樽を小脇に抱えて、長老はルギドの杯に酒を注ぎ続ける。
「畏王の封印はもう為されたも同然。おまけに一年間病にあったアローテが、おぬしに一目会って、全快してしまうのじゃからのう。よいことづくめじゃ」
 ルギドは、目が見えないことを知られてアローテに大きなショックを与えたくないために、人々の踊りを見やるふりをしながら、注がれた酒を黙って次々と飲み干していく。
「ちぇっ。何だかつまんねえなあ」
 その近くでは、今晩は自棄酒に徹することに決めているらしいギュスターヴが、ぼやきながら杯を煽る。
「おい、ギュス。そんなに飲んでだいじょうぶか?」
「黙れ、アシュレイ。俺さまはもう13歳のときから酒を飲んでるんだ。おまえなんかとは年季が違うんだぞ」
「そうよ、そうよ。飲ませちゃいなさいよ」
 リグが、よっこらしょとアシュレイの膝を乗り越えて、ギュスターヴに酒を勧めた。
「うふん、今日はあたしも、すっごく飲みたい気分なのよ」
「おおっ。リグちゃん。酒の相手してくれるんだー」
「ち、ち、ちょっと待て! ふたりとも」
 アシュレイがリグを羽交い絞めにする。「リグ。まさかお酒飲んじゃったのか?」
 誰もがほろ酔い気分で、宴たけなわになった頃。
 ルギドはすっくと立ち上がって、長老の正面に進み出て、地面に片膝をつき、拝礼の姿勢をとった。
 主賓の取ったこの突飛な行動に、楽士たちも演奏をやめ、広場中の者が口をつぐんだ。
「長老よ。頼みがある」
「いったい何じゃ?」
「アローテの所有者である貴殿に、彼女と契約を交わすことをお許し願いたい」
 誰もが呆気にとられ、言葉を飲み込んだ。
「それは……」
 長老は、その垂れ下がった白い眉の下に隠れた小さな目をぱちくりと瞬かせた。
「結婚……という意味かな?」
「人間のことばで言えば、そうなる」
「な、な、何を言ってるんだ、いきなり!」
 ギュスターヴが、ろれつが回らぬ状態で立ち上がる。
「だいたい、何だよ。『アローテの所有者』ってのは! アローテはモノじゃねえんだぞ」
「この村では、長老が親のいないアローテの親代わりと聞いた」
 ルギドは落ち着きはらった視線を、かつての恋敵に向けた。
「それならば、長老がアローテの所有者だ」
「それに、今の話にいちばんびっくりしてるのは、アローテだぞ。おまえ、彼女に何も相談せずにこんなこと言ってるのか?」
 ギュスターヴの指の先にいるアローテは、彼の言ったとおり真っ赤に頬を染め、おろおろとルギドのほうを見ている。
「このことに彼女の意思は関係ない。所有者の許可さえ得れば、契約は成立する」
「て、てめえ、酔っ払ってやがるのか?」
「人間の酒などで酔うはずがなかろう」
「ギュスよ、座りなさい」
 長老が穏やかな口調で、弟子をたしなめた。
「ルギドは魔族の男として、正式なやり方で事を進めようとしているのじゃ。こうすることに意味がある。……そうじゃな、ルギド」
 彼はわが意を得たりと微笑んだ。
「魔族の王子ティエン・ルギドは、人間の娘アローテ・ルヴォアと契約を結ぶべく、彼女の所有者の許しを請う。
許可をいただけるか?」
「許可を与える前に、人間の風習に基づき、二つの条件を出す」
 長老も負けじと、厳かに言い放つ。
「一つ目は、次の質問に人間の男と同様に答えること。
おぬしは、アローテを愛しているか。アローテを一生愛し続ける覚悟はあるか」
 ルギドは、一瞬口ごもったが、はっきりとしたことばで答えた。
「俺はアローテを愛している。彼女を一生愛し続ける」
 広場のあちこちに、感嘆のため息が洩れた。
「ふたつめは」
 長老のふくよかな頬に、にやっと笑いが浮かぶ。「アローテのもとに行き、直接彼女の承諾を得てまいれ。そして、承諾を得られしとき、その唇に印のくちづけをすること。
これは、人間の部族にとって、欠くことのできぬ条件じゃ。これが満たされぬとき、わしも契約の許可は出せぬ」
「この……たぬき!」
「ホッホッホ」
 ルギドは立ち上がると、ぼうっとしているアローテの前にひざまずき、さすがにしばし躊躇ったあげく、まなざしを真直ぐ彼女に据えた。
「人間の娘、アローテ・ルヴォア。俺はおまえと契約を結びたい。……承諾するか?」
 消え入りそうな声で、彼女は答えた。「はい……」
 その声の発せられた唇をいとおしむように、彼は自らの唇を重ねた。
「ここに、魔族の男ルギドと、人間の娘アローテの結婚の契約が成立した。神のご加護がふたつの種族の上にあらんことを!」
 長老の宣言に、広場を揺るがす大歓声。花びらが、食べ物が、ありとあらゆるものが宙を舞い、人々はかがり火の周囲になだれこみ、踊り狂った。
 楽曲が空を割らんばかりに鳴り響く。
 額の汗を手の甲でぬぐったルギドは、目を潤ませて彼を見上げるアローテの肩をそっと抱いた。
 アシュレイとギュスターヴとジルとリグは、頬を紅潮させ、いまだに放心状態で座り込んでいた。
「おおい、みんな。生きてるか」
「お、驚いた。こんなに驚いたことは、生まれて初めてだ」
「ちっくしょう!」
 ついにギュスターヴが吼えた。「もう一度、自棄酒だああ!」


 2ヵ月後。
 魔王城への総攻撃を控えたあわただしい日々の中を縫うように、ユツビ村でアローテとルギドの結婚の儀が執り行われた。
 人間と魔族の正式な婚姻は、古代ティトス滅亡後の一万年の歴史の中で、かって記録に残されたことはなかった。
 テアテラの主だった高位の魔導士たち、サルデスのグウェンドーレン女王、スミルナのゼリク王などの錚々たる招待客とともに、北の森の元魔王軍兵士たちの代表も、式に列席した。
 テアテラの対魔族用の結界は、わずかその3日前に喧々囂々の議論の末、取り払われたばかりだった。
 参列者が道の両側を埋め尽くす中、ルギドとアローテは長老の館の扉から姿を現した。
 それは後世、画家たちの題材として長きに渡って好んで取り上げられたほど、美しい光景であった。
 ふたりは、古代ティトス帝国時代の結婚衣裳に身を包んでいた。ユツビ村の年老いた女性たちが、昔の書物を資料に何日もかけて縫い上げたものだ。
 ルギドの踝まで隠す細かいひだのある白いローブ、まばゆい黄金の糸を織り込んだ肩の飾り帯は、浅黒い肌と紅い水晶のような瞳によく映えた。
 頭には月桂樹の葉と白いダフォデルの花を編んだ冠をかぶり、脚まで伸びるまっすぐな銀の髪は、背中で純金の輪でまとめられていた。
 アローテのドレスは、長い裳裾を引く光沢のある布に、真珠が縫い取りでちりばめられている。
 大きく開いた胸元には、絹で造った色とりどりの花をあしらい、両耳の上の青いコサージュで留めた飾りヴェールが肩まで流れ落ちる。
 ウェーヴをかけた長い黒髪には、真珠と小花が編みこまれ、透き通るような白い肩と背中を愛撫するように広がっている。
 当惑したように少し開かれた口元には、ほんのりと朱を注し、かたわらの伴侶を恥らいながら見つめる大きな黒い瞳は、どんな高名な詩人の形容も色褪せたものとした。
 ルギドの差し出した左手に、アローテの右手が重なる。
 やはり白い衣裳に身を包んだジルとリグに裳裾を引かせて、ふたりははっかと肉桂と花びらの敷きつめられた道を踏み出した。
「そんな仏頂面の花婿はいないぞ、ルギド。もっと嬉しそうにしろ!」
 ゼリク王が大声で囃し立てる。
 広場には祭壇が設えられ、ふたりが進み出ると、その両側に介添え人役のグウェンドーレンとアシュレイがつき従った。
 祭壇の上には最高位魔導士であるテアテラ国王が司祭として立ち、副司祭役にはユツビ村長老とギュスターヴが侍った。
 式の進行は人間のことばでなされたが、誓詞は人間と魔族の両方のことばで読み上げられた。
 広場の会衆席も、人間と魔族のあいだには何の仕切りもなく混じり合い、この式が人間と魔族の種族同士の結合を象徴するものであってほしいとの、主催者たちの願いが形に表されたものとなった。
 式の後の祝宴は、正午から始まり、花火とかがり火と音楽と踊りは、夜を徹して続いた。


 満月が西の空に大きく傾くころ、しきたり通りに花婿と花嫁は、彼らのために用意された村はずれの森に近い小さな家に入った。
 ルギドは窓べりに腰掛け、遠くの広場から今なお飽かず聞こえてくる楽の音と、洩れてくる松明の灯りに、祝宴の様子を思い出し、しのび笑った。
「まったく、あの爺さんたちは、一週間だって樽を小脇に飲んでいそうだな」
「50年来の付き合いなのよ」
 アローテはふたりの着ていた礼服を寝台の上で丁寧に畳んでいる。
「きっと、あなたもギュスやアッシュといっしょに、50年後にああやって酒を酌み交わして思い出話をするんだと思うわ」
「想像もできんな」
「そうなれたら、いいわね」
 彼女は畳み終えた服を胸に抱き、ふと立ち止まった。
「ルギド、今日は本当にありがとう」
「え?」
「あなたは、こんな形の盛大な結婚式など、嫌うはずの人なのに。何も言わずに、私や村の人たちに合わせてくれたわ。ごめんなさい。……でも、私とてもうれしかった」
 ルギドは窓枠にもたれながら、微笑んだ。
「俺は、そんなにつまらなさそうな顔をしていたか? 今日一日」
「い、いえ。そういうわけじゃないの」
 そそくさと服を棚に置くと、アローテは恥ずかしそうに目を伏せた。
「私、今日はあなたの顔をちゃんと見ていないの。夢の中を歩いているみたいで。ぼうっとしてしまって」
「そうだな。実際のところ、俺も今日何をしたのか、ほとんど忘れてしまった」
「あなたも、そんなに緊張していたの?」
「情けないが、どうもそのようだ」
 彼はアローテの前に立つと、いきなり彼女の両の手首をつかんだ。
「もう一度、ここで式をやり直そう」
「え?」
「古の書物に書かれていた、男女の契約の儀式。種族により無数にある儀式の中のひとつだ」
 有無を言わせることなく、ルギドは彼女の夜着の前をはだけると、その乳房を唇でまさぐった。
「あっ」
 アローテが小さな悲鳴をあげた。彼の鋭い牙が、左の乳房に小さな噛み傷をつけたのだ。
 次いで、彼は爪で自分の左胸を掻き裂き、そこからしみ出る血を指で彼女の唇に塗る。
[我らここに、血の契約を交わす]
 風が木の葉をこするような響きを持つ古代ティトスの言葉。
[この契約を守りし者の魂は、死を越えてひとつに結び合わされん]
 誓詞を唱えながら、ルギドは赤い血で染まった唇を、黒い血で濡れたアローテの唇に重ねた。
 ふたりは、契約の効力を強めるかのように、何度も何度も口づけする。
「愛している。アローテ」
 彼女を寝台に横たえると、深い吐息をその首筋に洩らした。
「俺はやっと、リュートのときからの約束を果たすことができた」
「もう離れないわ」
 アローテは愛する夫の頭を狂おしくその胸に掻き抱きながら、呪文のようにつぶやいた。
「運命がどんなに私たちを引き離そうとしても……、黄泉を越えても時を越えても、私はあなたから離れない。
愛しているわ。ルギド……」


 

Chapter 25 End


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