新ティトス戦記 Chapter 23 |
「へんてこなローブを脱いだせいか、おまえずいぶん印象が変わったな」 ラディクはテーブルから飛び降りると、ジュスタンの前にすっくと立った。 「……そっちこそ」 ラディクは、今まで着ていた装飾の多い吟遊詩人の服の代わりに、暗色の戦士の装備を身につけていた。黒い髪を伸ばし、そして、紅い目を隠していた鍔広の帽子は、もうどこにもなかった。 ふたりの若者は、約三ヶ月ぶりに見る互いの姿を、不思議ななつかしさで見つめた。 「ルギドもいっしょなのか?」 「いや、俺はずっと、あいつとは別行動だ」 ラディクは肩をすくめる。 「ときたまゼルが伝令に来て、さんざんこき使われたけどな。今どこにいるかは、知らない」 「それで、テアテラとの戦闘はどんな状態なんだ」 「ああ、もう終わったよ」 「終わった?」 欠伸まじりで答えるラディクに、ジュスタンは噛みつかんばかりに叫んだ。 「終わったってどういう意味だ。だって、王都攻略はまだ始まったばかりで」 「一週間で、王都は陥落した」 「陥落……」 「ルギドは、二ヶ月も周到な準備に時間を割いて、いざ開戦となったら、たった一週間でテアテラ軍をほぼ壊滅させやがった」 ラディクの遠くを見つめる目は、かすかな畏敬の色がにじんでいた。 「奴の手で無駄に動かされる兵は、ひとりたりともいなかった。無為無策のいきあたりばったりで、兵の命を何とも思っていない奴だと思っていたら……まったく」 続くことばを失って口をつぐんだラディクに、我慢できなくなってジュスタンは尋ねた。 「それで、テアテラ女王は?」 「ああ。レイアは、摂政や親衛隊など、数百の供の者たちを連れて、船でテアテラを脱出した。まあ、わざと逃がしてやったと言ったほうがいいかもしれない。少なくとも、このエルド大陸にはもういない」 「どこへ?」 「水棲族たちが今、後をつけてる。報告では、ベアト海をサキニ大陸方面に向かってる途中らしい」 「そうか……」 ジュスタンは、がっくりと椅子に腰をおろした。 とうに捨てた祖国とは言え、複雑な心境だ。女王が亡命し、国を捨て、民を見捨てた。テアテラは国としての形を失ったのだ。 勝利の知らせに安堵する一方で、とても喜ぶ気にはなれなかった。まして、兄がまだレイアにぴったりと付き従っていることを思うと、心はことさらに波立った。 「こうしては、おれない」 思いを振り払うように、ジュスタンは立ち上がった。 「エリアルさまにお知らせしなければ。この大勝利は、選帝侯会議で、こちらの持ち札になるかもしれない」 「ちょっと待てよ」 ラディクは、去ろうとする彼の二の腕をつかんだ。 「こっちは、パロスの事情が何もわかっちゃいないんだ。今までにあったことを、はじめから全部説明してくれ」 話に邪魔が入らぬよう、ふたりが選んだのはルギドの居城、【翠石宮】だった。 濃緑の大理石の広間、主のいない玉座の階段に座り込んで、ジュスタンはこの数ヶ月にパロス宮殿で起こったことのあらましを、ラディクに語って聞かせた。 吟遊詩人は、食い入るごとくに彼の一語一語に耳を傾けていた。あとで叙事詩の題材にするつもりなのだろうか。 「で、要するに」 ラディクは、わざと大袈裟な吐息をついた。 「このままいけば、来週の会議で、エセルバートが次の皇帝に納まることが決定する。だがその条件は、摂政となるエリアルがフェルナンドと結婚することなんだな」 「ああ」 「よりによって、フェルナンドか」 茶化した調子で、ラディクは竪琴の弦をつまびいた。 「デルフィアを旅していたとき、あいつの噂はさんざん聞いた。とても、ひとりの奥方で満足するタイプの男じゃないな」 「ああ」 「それで、どうするつもりなんだ」 「今となっては、どうすることもできない」 ジュスタンは、血が出るほどきつく、唇を噛みしめた。 「選帝侯会議での決定は絶対だ。エリアルさまは従うほかない。テアテラでの勝利を材料に、せめて婚姻の時期を延ばしてくれるように交渉するのが、せいいっぱいだ」 「そうじゃなくて、おまえの気持はどうなんだ」 「なぜ、わたしの気持を訊く?」 驚いて、ジュスタンは問い返した。 「わたしの気持がどうしたというんだ。姫さまを、あんな下衆野郎と結婚させたくなんかない。あたりまえだろう」 「じゃあ、やめさせろよ」 「そんなことができたら、苦労はしない」 「おまえは帝国のためなら、エリアルが不幸になってもいいんだな」 火口からあふれだす溶岩のような瞳で、ラディクは真っ直ぐに睨みつけた。 ジュスタンは思わず身震いした。【翠石宮】のゆらめく緑の光の中での紅い目は、まるでルギドその人を思わせる。 「要するに、おまえがどれだけ本気かなんだよ」 「本気……?」 そこまで言って、ラディクはくしゃくしゃと黒髪をかきむしった。「ああ、自分でも何言ってんだか、よくわからない」 ジュスタンは視線を落として、床にさまよわせた。 「わたしは……、姫さまに幸せになっていただきたい。そのためならば、喜んで命を捨てる」 「そこまで想っているのに、何故――」 そのまま、ふたりは無言に落ちた。 ラディクは立ち上がった。大理石の上をかつかつという足音が響き、やがてティトスの地図の前で止まる。 「レイアに会った」 「……どこで?」 「ルギドの命令で、陥落前のテアテラ王都に潜入した。遠くから見ただけだがな。笑ってたよ。自軍の敗北が決定的だっていうのに、まったく関係のない高みから見下ろしているようだった」 「……」 ジュスタンは、ぐっと両の拳を握りしめた。 「魔性の美貌とは、ああいうのを言うんだろうな。おまえが狂うのも、わかるような気がする。けど」 ラディクは、真顔で振り向いた。 「いいかげん、どちらかに早く決めろ。おまえが選ぶのはレイアなのか、エリアルなのか」 「……なぜ、そんなことをおまえに指図されなきゃならない」 言い返したつもりだったが、喉がからからで、ほとんど声にならなかった。 ふたりは睨み合った。 「このままじゃ、あいつは生殺しだろう?」 庭を吹く風が、夏の名残のバラを揺らしている。 最初にこの宮殿の中庭を訪れてから、ちょうど一年が経つことになるのだ。この一年に自分の身を駆け抜けた風を思い起こしながら、ラディクは円形の噴水の縁に腰を落ち着け、竪琴を取り上げた。 秋の風が ひとひら ひとひら 墓石の上に 薔薇を散らす ひとりの兵士が ここに眠る 誰もおぼえていない 遠い憎しみのために 「悲しい歌だな」 指を止める。エリアルが彼のかたわらに立って、同じ花を見つめていた。 「続きを歌ってくれないか」 ラディクはうなずく代わりに、強く弦をはじいた。 熱い涙が ひとつぶ ひとつぶ 墓石の上に したたり落ちる ひとりの乙女が あした嫁ぐ 一度も見たことがない 遠くの男のもとへ 風に乱れる長い金髪を押さえながら、エリアルは言った。 「おまえが帰ってきたこと、ジュスタンから聞いた。元気そうで何よりだ」 「あんたに比べりゃ、どんな病人だって元気そうに見える」 エリアルはくすりと笑って、毛織のショールの前を掻き合わせた。 「ここは寒い。わたしの部屋に来てはくれぬか。いろいろと話すことがある」 「ああ」 エリアルの居室に入るのは、ラディクにとってはじめてだった。 大勢の侍女たちの出迎えを受けながら中に入ると、正面の壁に飾られた油絵にまず心を奪われ、近づいた。 「『ダフォデルの婚姻』の模写だな」 「ああ。つい自分の好きな題材ばかり描いてしまう」 エリアルは、彼のすぐ後ろに立つ。 「ここにある絵は全部、あんたが描いたのか」 「昔の手すさびだ。兄上が負傷なさるまでは、絵描きになろうと思っていたからな」 ラディクは、広い居間に掛かっている絵に、一枚ずつ丹念に芸術家の目を注いだ。 「そう言えば」 思い出したように、付け加える。 「女の子のひとりが、一枚の花の絵を持っていた。おまえが落書きしてやったものらしいな。大事そうにしまっていた」 「ユツビ村の子どもたちか」 エリアルは、ぱっと顔を輝かせた。 「どうしている? みんな元気か」 「ああ、【炎の頂】の火棲族の村で、小屋をいくつか建てて暮らしてる。食事の世話は、近所の人間の村の住民が来て、代わりにやってくれてる。魔族と人間とは、根本的に食べるものが違うからな」 「そうか――よかった」 「でも」 ラディクは表情をこわばらせた。 「今度の戦いでは、それ以上にたくさんの人間が死んだ。目の前にいるわずかな子どもを救ったと喜ぶのは、勝利者の偽善だ」 「……そうだな」 「だが、偽善でも、ないよりはマシなんだろう」 そう慰めるようにつぶやく彼の声は、いつもより優しい色を帯びているとエリアルには思えた。 「ラディク、おまえ背が伸びたな」 「は?」 「少し前までは、私より低いと思っていたのに……今は、ほら」 「そんなこと、どうでもいい」 ラディクは顔を赤らめて彼女から体を離し、それをごまかすために荒々しくソファに座った。 「それより、昨日の会議についてジュスタンから報告は受けたのか」 「……ああ」 「あいつ、なんと言っていた?」 「ただ、ずっと泣いていた」 エリアルは、睫毛をゆっくりと伏せた。「わたしの力が至らなくて、すみませんと」 「その他には?」 「特には」 「……あの、バカ!」 口汚く叫ぶと、ラディクは背もたれにぐったりと頭を預けた。 「ジュスタンが悪いのではない」 罵りの意味がわからなかったエリアルは、ラディクの隣に腰をおろし、取り成すように言った。 「たとえ父が存命で兄が健康なままであったとしても、皇女である私は、やはりどこかの有力貴族のもとに嫁いだだろう。結局は同じことなのだ。生まれ育ったパロスにいられるというだけで、まだ幸せなのかもしれない」 「全然好きでもない相手と、形だけの結婚をしてもか」 「普通のことだ。皇族には相手を選ぶ自由などない」 「それが、アシュレイとやらが目指してた、新ティトス帝国の理想の姿なのかよ」 ラディクは、吐き捨てるように言った。 「皇帝の座なんか、欲しい奴にくれちまえばいいんだ。そこまでして守るものじゃないだろ」 「私が守りたいのは、皇帝の座ではない。一億の民だ」 皇女は静かな信念をこめて返した。 「私には、この国を平和に治めるという命を懸けるべき仕事がある。今はそれしか考えられぬ。それだけで手いっぱいだ」 何もかもあきらめきった、涼やかな微笑だった。 「すべてが終われば、夫には生涯会わず、自室にこもって絵を描いて暮らしていくのもいい」 そして、ラディクの仏頂面を、からかうような眼差しで見つめた。 「そんな不機嫌な顔をするな。今日ここに呼んだのは、テアテラでのおまえの様子を聞かせてほしかったからだ」 「俺のことを聞いて、どうするんだよ」 「ただ、知りたいだけだ。この三ヶ月テアテラで何をしていた?」 「いやだね。話したくない」 「誰にでも請われるままに話を紡ぐのは、吟遊詩人の務めだろう。それとも今日を限りに廃業する気か」 強く挑むような皇女の口調に、ラディクは「ふ」と口元をゆるめた。 「――それを言われると断れないな」 「教えてくれ。私が皇宮で無様に泣き暮らしているあいだに、おまえは大地を駆け巡って、どんな冒険をしてきた?」 エリアルは居住まいを整えて、ひととき何もかも忘れさせてくれる歌を待った。 ラディクは竪琴を構え、魔法のような指さばきで速いアルペジオを弾いた。そしてそのリズムに乗せて、歌い始める。 「ウサギはテアテラの山河を跳ねて回った。 四つの魔族の村を順番に ひたすらタダ飯を食らうために。 まず手始めにミワナ炭鉱。 地底族の村で出された生肉を全部たいらげ ウサギは腹を壊して三日間寝込んだ」 「なんて無茶なことを」 「お次にウサギが向かったのは 水棲族のケナの入り江。 ぬめぬめした洞窟の中で 寝ているあいだに満潮になり 海草の寝床は水浸し。 ウサギは風邪を引いて四日間寝込んだ」 「あはは」 「そのまた次は飛行族のザンテ山。 急峻な山には平地なんてものはなく 寝床と言えば、枝を組んで 岩肌にゆらゆらぶらさげただけ。 寝相が悪くて転げ落ち、 ウサギは怪我で五日間寝込んだ」 エリアルは久しぶりに、心の底から笑った。 「最後に、瀕死のウサギがたどりついたのは 火棲族の炎の頂の村。 あこぎな族長にこきつかわれ、 小悪魔のような四十四人の子どもたちに 四十四曲の子守唄をせがまれて ウサギは一週間逃がしてもらえなかった」 ラディクは、そこで弦をはじいていた指を止めた。 竪琴をソファの上に残すと、もう一度、あの『ダフォデルの婚姻』の絵の前に立った。 千年前の、ルギドとアローテの結婚。そして彼らからジークとアデルが生まれ、ノエルとグレーテが生まれ――魔族の血が流れているせいか、彼らの子孫は、ほかの人間たちよりずっと少産だった。今リヒターの名を名乗るのは、世界中でラディクひとり。 「ウサギが魔族の村を巡ったのは」 ゆったりとしたコーダを続ける。 「仲間にさんざん爪弾きにされていたから。仲間と巣穴にいるよりも、魔族の村のほうがずっと居心地がいい。けれど、そこの魔族と同じものを食べ、同じ寝床に寝ても、やっぱり何かが、どこかが違う」 エグラ族長は、魔力とは生命力だと教えてくれた。自然界の四つのエレメントのいずれかに属し、自然と共鳴するエネルギーなのだと。 だから、自然を操ることはできても、自然を変質させることはできないのだと。そうだとすれば、俺の歌の力は、魔力ではない。 封印の塔の壁を消滅させ、湖の水を氷ならぬ固体に変え、火薬を石英の粉に変質させる力。古代の夢想家が【錬金術】と呼んだ力。 人間でもない、魔族でもない、異質な生き物。 ルギドは、何かまったく別の存在のように呼んでいた。【リソウタイ】と――。 ラディクは、絵のそばの壁をがんと拳で叩いた。 エリアルは、はっと息を詰めた。 そこにいたのは、いつも世の中を皮肉げに見ている吟遊詩人ではなく、まるで途方に暮れた幼子だった。 「俺は、いったい何なんだ」 六百年ぶりの選帝侯会議に、帝都の住民たちは湧き立った。 通りには市が立ち、手風琴が奏でられ、宮殿正面の屋根を見晴らせる建物という建物のバルコニーは、人々で鈴なりになった。 まるでお祭りだ。 もし皇帝が決まれば、屋根に緑の旗が上がる。その歴史的瞬間を収めようと、発明されたばかりの銀板式カメラが飛ぶように売れた。 噂では、皇太子エセルバートが皇帝に、皇女エリアルが摂政になることはすでに決まっており、選帝侯会議はすぐに終了するだろうとの大方の予想だった。 【ベアトの大海戦】の勝利以来、帝国軍は優勢で、テアテラが降伏するのも時間の問題だと言われている。 何も心配する必要はない。 民衆は平和と繁栄に酔っていた。その影でひとりの皇女の未来が踏みにじられようとしているのも知らず。 【円卓の間】の扉は固く閉じられたまま、会議の終了まで開くことはない。 中に入ったのは、五人の選帝侯と、会議を司る最高文官たち。それ以外の者は何人たりとも入ることを許されない。 控えの間でジュスタンは、じりじりと時間の過ぎるのをただ待っていた。ラディクも従者のお仕着せの服に着替えて、同じ部屋にいた。何ができるわけでもない。ときどき扉に張りつき、中の様子にじっと耳をすませるのが関の山だった。 「デルフィア案が可決されたら、おまえどうするんだよ」 今日の太陽が昇ってから、もう何度目かの問いだった。 そして、ジュスタンも何度目かの黙殺をした。 「フェルナンド父子に、いいようにさせるつもりか」 「うるさいな。ちょっとは黙っててくれ!」 苛立ちの頂点に達し、ジュスタンは怒鳴った。 「エリアルさまが、それを望んでいるんだ。新ティトス帝国の繁栄のために」 「おまえが何も言わないからだろう」 「何を言えというんだ。選帝侯会議の決定は絶対で、覆すことは不可能だ。わたしにいったい、何ができる」 「さらっちまえば、いいじゃないか!」 ラディクは、ばんと卓を叩いて立ち上がった。 「こんな都にいるから、意に染まぬ政略結婚をしなきゃならないんだ。あいつを連れて、どこか遠くに逃げようって考えは起きないのか」 「そんなことができるものか」 ジュスタンも負けずに立ち上がった。 「エリアルさまは生まれついての皇女だ。レイアのように国を捨てるなどという安易な道を、あの方は絶対に選んだりしない!」 「選ぶさ。おまえさえ、来いと言えば」 「なんだと?」 「おまえが、ついてこいと言えば、あいつは皇女の座なんか惜しげもなく捨てる」 「そんな……」 ジュスタンはがっくりと座り込む。 「言えない――そんなこと。わたしごときが」 「じゃあ、エリアルがどうなってもいいのか」 「……」 「あの、フェルナンドの野郎と結婚しちまうんだぞ」 唇を噛む。首を振る。ジュスタンは我知らず叫んでいた。 「いやだ。エリアルさまを、あの女たらしになど渡したくない!」 ラディクは、にやりと笑った。 「そんなら、選帝侯会議をぶっつぶしに行くぜ」 ジュスタンはためらいながらも、コクリとうなずいた。「でも、どうやって?」 「それを今から相談するのさ」 ふたりが頭を寄せ合ったとき、けたたましいラッパの音が宮殿内に響き渡った。 「なんだ?」 「敵襲?」 控えの間を飛び出す。他の部屋の扉も次々と開き、廊下はまたたくまに人の群れで埋まった。 屋上に駆け上がって、四方を見渡した。 「あれは!」 皇都パロスは、なだらかな丘の上に建っている。 その丘から見下ろす北側の田園地帯。線路と併走して、金色の実りの平野を南北に貫く公道を、もうもうたる砂煙が近づいてくる。 日の光にきらめく槍や長斧。ひるがえる旗印。戦車を引く馬のいななき。地を揺るがす雄たけび。そしていなごのように空を埋め尽くす群れ。 「信じ……られない」 ふたりの若者はぼうぜんと、異口同音につぶやいた。 テアテラで王都を攻めていたはずの魔族軍だった。火棲族が、地底族が、飛行族が、水棲族が、数千数万の異形の軍隊が、パロスに向かって突進してくるのだ。 そして、軍を率いて先頭を駆けるは、駿馬にまたがり、伝説の漆黒の鎧をまとい、銀の髪をなびかせた男。 まさに風。まさに炎。 誰あろう、魔族の王ティエン・ルギドだった。 |