02. 冷たい紅

 俺の妻は、魔女だ。
 いつも得体の知れない材料を集めてきては、薬を作っている。
 春の雪融けの頃になると、森の中で何時間も、白い雪を踏みながら捜している。雪の中から最初に顔を出す花の花弁が、ぜんそくの特効薬になるのだという。
 雪をかきわける彼女の指は、寒さのために真っ赤だ。
「やめろ、もういい」
 俺は駆け寄ると、妻を抱き寄せた。あかぎれで痛々しい指をぎゅっと握りしめる。
「でも、この薬ができれば、村の子どもたちが元気に走り回れるの」
 カトリーネは弱々しく微笑んだ。「あと少しなの。あと少し掘れば、きっと見つかる」
 彼女は時折、自分に罰をくだしているように見える。自分をいじめることで、何かの恐怖を忘れようとしている。
「そこにいろ。代わりに捜してやる」
 俺は、紅の花を求めて、雪を掘り始めた。
 あと少し。あと少し掘れば。
 いったい、どんな真実が見つかるのだろう。