03. 鳴らない

 鴉が増え、作物を荒らして困ると妻がこぼしている。
 俺はたくさんの板切れを紐に通して、畑の上に渡した。風で板切れがカラカラと鳴り、鴉が驚いて近寄れなくなるらしい。先人の知恵だ。
 これで一安心と思ったら、ある日突然、板きれが鳴らなくなった。
 不思議に思って近づくと、板切れの一枚一枚に何か書きつけてあった。
 一枚目は、「鴉さん、ごめんね」と書いてあった。
 二枚目は、「鴉さん、食べるものある?」とあった。
 三枚目は、「鴉さん、もしひもじくなったら少しだけ食べてもいいよ」とあった。以下、似たような文章が続く。
 こんな文字を書かれては、板切れが鳴るはずがない。
 妻よ。おまえは魔女なのだぞ。