新ティトス戦記 Chapter 40 |
翠石宮の広間に、ふたたび一同がまみえたのは、翌日の朝だった。 「昨日の続きだ」 「どこまで話したっけ」 「レイアさんが、【ルクラ】というところでバイヨウされて、テンイソウチで連れてこられたというところでした」 話の内容を理解できないまでも、ゼルは一言一句をしっかりと記憶していた。 「異世界の人間たちは、なぜティトスの歴史にそれほど影から関わろうとする?」 エリアルは、かねてからの疑問を口に上らせた。 「古代に人間が魔族との戦いで絶滅しかけたとき、彼らは魔法を教えて助けてくれたという。畏王がティトスを滅ぼそうとしたときも介入し、畏王を異世界に連れ去った。そして今度は、機械文明の発達により魔の力が弱っていくと、テアテラに味方をして帝国を滅ぼそうとした。彼らはまるで――」 「魔族と人間の均衡を望んでいるようです」 適切なことばが見つからずに絶句した皇女の後を、ジュスタンが引き継いだ。「魔族と人間のどちらかが弱って滅びてしまうことのないように、絶えず彼らは均衡を計って動いている」 そこまで口をつぐんできたユーグが、ようやくポツポツと語り始めた。 「ジョカルは、『魔と魔法の復活がなければティトスは滅びてしまう』と、わたしの父に言い、帝国と戦うよう焚きつけました。だが、いよいよテアテラが優勢になると、前触れもなく姿を消してしまったのです。父はそれを裏切りと感じ、ひどい衝撃を受けました。やはり異世界人は、本心から帝国を滅ぼすつもりはなかったのかもしれません」 聞いていたゼルが、とまどったように小首をかしげた。 「それって、おいらには悪い奴のしわざには思えないです。だって、ふたつの種族のことを公平に考えてくれてるんだから」 ジュスタンが、曖昧にうなずいた。 「見ようによっては、そうかもしれない。ティトスとは、彼らのことばで【牧場】だと聞きましたが、その意味では、彼らは家畜をうまく間引きながら飼育しているようだ」 「いや、むしろふたつの家畜を絶えず戦うように仕向け、競わせているのかも」 ラディクが他人事のように呟く。「より強い種族とならせるために」 エリアルは憤怒に拳を固めながら、顔を上げた。 「ジョカルとは、いったい何者だ。何の権利があって我々ティトスの民を、これほどまでにもてあそぶ」 「ジョカルとは」 ルギドは玉座に背を預け、銀の髪の先を物憂げに引っぱっていた。「人の名前ではない。【ルクラ】のことばで《管理者》という意味だ」 「【管理者】――」 「だから、ジョカルはひとりではない。俺の腕で死んだジョカルと、おまえたちがこの前会ったジョカルは同じ人間であり、違う個体だ」 誰かが身震いした。 同じ姿の異世界人たちが、ティトスの一万年の歴史のあちこちに出没して、折々に人間と魔族を助け、行く末を導いてきた。無知な古代の民には【神の使い】と見えたかもしれない。だが、今の彼らには想像を超えた不気味さが募るばかりだ。 「彼らの目的は何だ」 自分たちの歴史が、絶えず異世界の人間たちの干渉を受けてきたのだとしたら、その理由が知りたいというのは当然の欲求だろう。 「至高の生命体を創ることだと――父は言っていました」 ユーグがか細い声で答える。「ジョカルの同胞たちは、生殖能力をなくして滅びに瀕しているのだそうです。だから、ティトスという牧場において生命の実験をしていると」 「彼らの最終目的は魔族と人間の混血をティトスにおいて作り出し、増やすことなのか」 エリアルは非礼を承知で、まじまじとルギドとレイアを見つめた。 不老不死に近い生命体。強靭な体力と無限の魔力。彼のような存在ならば、まさしく新世界を統べるにふさわしい。 「そうじゃないわ」 顔を伏せて聞いていたレイアは、上目遣いに微笑んだ。「あいつらの目的は、もっとその先よ」 「その先?」 「魔族と人間の混血の中から、【理想体】を創り出すこと――」 その場にいた者たちの目が、一斉にラディクに注がれた。 心のどこかで予想していたのかもしれない。ラディクは身じろぎもせず、ただ引きつったように唇を動かした。 「――俺?」 そのとき、翠石宮の大扉をどんどんと激しく叩く音がした。 エリアルの配下の騎士のひとりが、狼狽しながら広間に駆け込んできた。 「殿下、大至急お耳に入れたきことが」 「何用だ。今は見てのとおり忙しい」 「緊急事態でございます。皇帝陛下が――意識を取り戻されました!」 「なんだと?」 「気がつけば、自室の寝台の上にいた」 皇帝は考え深げな緑の瞳で、ひとりひとりの顔にはっきりと焦点を定めた。「テアテラとの戦場に赴いてより後の記憶が、まったくないのだ」 「兄上、よくぞ……戻ってきてくださいました」 エリアルは、へたりこみそうになるのを必死にこらえながら、臣下の礼を取る。 「すでに父上は崩御され、皇太子だったはずのわたしは皇帝に即位していたと聞く。まるで夢のような話だが、家臣たちの喜びようを見ると、冗談ではなさそうだ」 深くえぐれていた額の傷は、今や薄い痣となって、かろうじて残っているのみだ。 「エリアル。そなたには大変な苦労をかけたようだな。わたしが無様に眠っているあいだに、テアテラとの戦はわが帝国の大勝利に終わり、すでにテアテラとの間に和平も成ったという」 「とんでもない。皇族として、なすべきことをしたまでです」 顔を上げた拍子に、兄と同じ色の瞳から、抑えていた涙がはらと流れ落ちた。 「それにこれは、私の力ではありません。魔族の王ティエン・ルギド、ジュスタン、ラディク、ゼル。それから多くの魔族たちも、帝国のために働いてくれました」 皇帝は立ち上がった。臣下たちの制止を振り切って玉座の階段を降り、ルギドの前に片膝を折ると、深く頭を垂れた。 「礼を言います。あなたの声は闇の中に閉じこもっていた私の前に、勇気という扉を開いてくれた」 ルギドはただ黙って、微笑んだ。 「それに、ウサギ」 若き皇帝の視線は、今度は片隅にいたラディクに注がれた。 「わたしが目覚めることができたのは、そなたの呪文のおかげだ」 「え?」 夜中にラディクが皇帝の枕元に現われて、古の回復呪文を唱えたのだという。 「俺は絶対に、そんなことしてないからな」 ラディクは何度言われても、頑なに否んだ。「回復の白魔法を使えるのは、レイアただひとりに決まってるじゃないか」 「だが、レイアは翠石宮から一歩も出ていない。出入りしたのは、ラディク、おまえだけだ。外で警護をしていた私の騎士も、兄の護衛をしていた近衛兵たちも、そう証言しているのだ」 「レイアは姿を消して、壁だってすり抜けることができるんだ」 「頑固ね。事実を認めようとしないところは、紅い目のご先祖さまそっくりよ」 レイアは、楽しげに笑った。「いい? 昨日の夜、私の力をあなたに吸い取らせたの。皇帝のところへ行って、ちょちょいと治してあげなさいって」 「何だって……?」 「おかげで私は疲れ切って、今日一日この椅子から立ち上がることもできない有様だわ」 彼女がゆったりと腰かけているのは、魔族の王が座るべき翠石宮の玉座だ。ルギドがその隣で文句も言わずに立つ姿は、叙事詩の一場面を飾るべき前代未聞の光景だ。 だが、その詩を書き留めるべきラディクは、今それどころではない。 「ジョカルの求めた【理想体】の力とは、他の生命の持つ力を吸い取ること。畏王の膨大な魔力すら、レイアさまの魔法すら完全に吸収して、自分の力として使うことができる」 ユーグは表情を変えずに、言った。 「ゆえに【理想体】とは、このティトスにとって最強の、もっとも危険な存在。だからわたしは、早いうちにあなたを殺すべきだと主張したのです」 ラディクは、何も答えなかった。 答えられないのだ。その瞬間、この傲岸不遜な吟遊詩人の瞳に浮かんでいたのは、明らかに自分に対する怯えだった。 その日からエセルバートは、驚くほど精力的に政務にこなした。 日の暮れぬうちに、テアテラ女王レイアと摂政ユーグを王の間に呼び寄せ、会談を行なった。テアテラと帝国の公式な和平調印を七日後に行なうことも決まった。 これ以降、テアテラは元通り帝国の領邦とみなされ、終身選帝侯のルギドと女王レイアが共同統治を行なうことになる。 そのほかにも帝国の財務状態、農産物の生産高、人口の流動など、ありとあらゆる最新資料を集めるように命じ、大臣たちは席を暖める暇もなかった。 あたかも、失った四年という時間を、わずかな日々で取り戻そうとするかのようだ。 「兄はもしかすると、意識を失っていた間のことを本当は覚えているのかもしれぬな」 エリアルは、兄を崇拝していた少女の頃に戻ったように、無邪気に顔をほころばせた。 「兄を小馬鹿にしていた大臣や従者たちを、心なしか遠ざけて冷遇しているように思えるのだ」 「赤子のような日々を送るうちに、人間の隠し持っている本性をつくづく学んだであろうな」 ルギドも同じことを考えているようだった。「あれは、立派な皇帝になるだろう」 「あなたにそう言ってもらえるとは、兄は幸せ者だ」 エリアルは、目を細めて遠くを見た。「これで、帝国の先行きは安泰だな」 その声は、ルギドの耳にはどこか寂しげに聞こえる。 それからも、皇女は内大臣とともに、多忙な日々を巧みに泳ぎ渡るように過ごした。 和平の調印式は、皇宮の大広間において、選帝侯はじめ帝国中の貴族たちの前で、厳粛に執り行われた。 レイアは戦犯としてではなく、一国の女王として丁重に扱われ、百数十年にわたる帝国からの非道な扱い、および【ガルバの虐殺】に代表される残虐な殺戮行為については、正式な謝罪を受けた。 テアテラと帝国の双方は、多数の相手国民に及ぼした損害を詫び、将来にわたる平和を誓い合った。 一切の装飾品をつけず、質素な白のドレスだけに身を包んだレイアは、華やかに飾り立てた候公爵夫人の誰よりも、神々しく光り輝いていた。 「あーあ。退屈な式。あくびを堪えるのに苦労したわ」 「不謹慎ですよ。レイアさま。わたしたちは敗戦国側なのですから」 すっかり健康を取り戻したユーグの声を聞きながら、ジュスタンは、兄の口調が以前のようではないのに気づいた。徐々に感情が戻って来ている。 そして、兄とレイアの並び歩く背中を見つめている自分が、いつのまにか微笑んでいる。 以前は、ふたりの姿を想像しただけで、我を忘れるほど逆上したのに。 すべてのものごとが、定められた場所に着地した。たとえカレル家の男たちが犯した罪が永劫に消えないとしても、少しだけその安息にひたることは赦されるだろうか。 かって味わったことがなかったような穏やかな気持で、ジュスタンは晩春の淡い青の空を見上げた。 「少しだけ待ってくれないか」 エリアルの声で、ジュスタンは我に返った。 「ラディクを呼んでくる」 「姫さま、わたしが行ってまいります。ここにいてください」 ラディクは、調印式には出席しなかった。「俺が出る意味なんて、ないだろう」と怒ったような声で言ったきり、寝台ですっぽりシーツをかぶったまま。 「やはり……つらいのだろうな」 あらゆる生物から吸収した力を自在に変容させて、強大な力に変えることができる異能力者。【理想体】と呼ばれる自分を創り出すためだけに、ティトスは存在したのだという。 ――そんなことを聞いて、平静でいられる者はいないだろう。 「おいら、とうていラディクがそんな恐ろしい存在には思えません」 ゼルが半分、泣きべそをかきながら訴える。 「ゼルの言うとおりだ」 エリアルも力強く同意する。「力というのは、使い方次第で善にも悪にもなる。力そのものが悪なのではない。ラディクなら、ティトスを破壊する方向に力を使うことなど、絶対にありえない」 「この世に、絶対というものはない」 ルギドは平板な声で言った。「人はきっかけさえあれば容易に、善から悪へと傾くものだ」 それは、単なる人生訓を超えた重みのある言葉だった。彼自身がティトスの民にとって、あるときは【破壊者】となり、あるときは【救世主】となった体験を持つゆえに。 「だが、ラディクは、トスコビの街で【勇者の剣】を使いこなした」 エリアルはそれでも、ラディクをかばい続けた。「剣は偽りを言わぬ。剣が光ったということはとりもなおさず、彼が聖なる勇者であると認められたことだ」 魔族の王は首を横に振った。 「それこそが、ラディクの恐るべき力だ。あれは、おまえの勇者としての力を瞬間的に吸収したにすぎなかった」 「わたしが……?」 「真の勇者と剣に認められたのはラディクではなく、エリアル、おまえだ」 「そんな……」 愕然とする。少し前なら狂喜したはずの事実も、今はむなしいばかりだ。 誰が勇者であろうとなかろうと、そんなことはどうでもいい。仲間が一つになり、ともに戦うことのできた日々のほうが、どれほどの喜びだっただろうか。 「エリアルさま!」 ラディクの部屋の扉がばたんと開き、ジュスタンがローブの裾をからげて飛び出てきた。彼がそれほど身も世もなく狼狽するのを、エリアルはまだ見たことがない。 「ラディクがいません!」 「なんだと!」 ラディクの部屋は、もぬけの殻だった。いらないものは部屋の片隅にぞんざいに積み上げられ、手荷物と竪琴だけがなくなっていた。 工業都市サルデスの港に、ラディクは立っていた。 思えば、彼らの最初の冒険はここから始まったのだ。 機関車工場での攻防。崩壊した工場の地下で、エリアルは【勇者の剣】を見つけたのだという。 (あいつが本当の勇者だと、なぜ俺は早く言ってやれなかったのかな) ラディクに剣を譲ろうとしたときの、エリアルの悔しげな表情を思い出す。 自分が彼女の勇者の力を盗んだだけであることくらい、とっくにわかっていた。 歌の師であるレヴァンは口を酸っぱくして言っていた。『力を使うな。その力は、心なき物には届くかもしれない、だが、心ある者には届かないぞ』 レヴァン親父は本能的に知っていたのだ。ラディクの力は、心なき物を変容させるが、心ある者からは奪い取る力であることを。 (やっぱり俺には、誰かと一緒に生きていく資格なんかない) ひとりで生きることには慣れていたはずなのに、パロスからサルデスまでのわずかな旅路でさえ、身を裂かれるようにつらい。 「馬鹿だな」 つぶやいて、竪琴を肩にかけ、乗ろうとしていた船に向かった。 だが、昇降台で船員は首を振った。 「デルフィア行きの船は、当分出ませんぜ」 「なんでだよ。予定では十時に出航だろう」 「それが、サルデス港から一隻たりとも出航するなとの、皇女エリアルさまの厳命が下されたんです」 「……エリアルだと?」 ラディクは、背筋に走ったイヤな予感に、思わず後ろを振り返った。 「嘘だろ……」 彼を睨みつけていたのは、旅装を調えた皇女エリアル、黒魔導士ジュスタン、飛行族ゼル、そして魔族の王ルギドと、テアテラ女王レイア、摂政ユーグの一行だったのだ。 「いい度胸だな。俺たちを置いて、のんびりひとり旅とは」 ルギドがすさまじい光を目に宿して、微笑んだ。「行き先は、デルフィアか。フェルナンド父子に世話になった挨拶でもするつもりか」 口をぱくぱくさせていると、ジュスタンが珍しく激昂して、彼の襟首をつかんだ。 「いったい、どういうつもりだ。ひとことも言わずに出て行くなんて、何を考えてる」 「俺に関わらないほうが、おまえらの身のためなんじゃないか」 「なんだと」 ジュスタンの手がゆるむと、ラディクは顔をそむけた。 「俺はティトスの破壊者になるっていうんだろ。ならばティトスにいないほうがいい」 ルギドは、じっと彼を見つめた。 「【ルクラ】に行くつもりか」 「……」 図星をつかれて、目を伏せる。 「【ルクラ】で直接、ジョカルと対決するつもりだな」 「……わかんねえよ、先のことは」 ラディクはすねた子どものように、言葉を吐き出した。「けど、このままでは俺の気持が一歩も進まないんだ。【ルクラ】に行って、この目で確かめる。俺がすべきことは何なのか、すべきでないことは何なのか。自分自身で結論を出したい」 「そういうことなら」 エリアルが、彼の前に進み出た。「なぜ、私たちについてきてくれと言わない?」 「ついてくる?」 「これは、おまえひとりの問題ではない。ティトス全土の運命にかかわる問題だ。帝国の第一皇女として、私にはすべてを見届ける責務がある」 「……」 「それに」 エリアルは彼の腕を掴んで引き寄せた。その声に、ひそやかな響きが混じる。 「ずっと私のそばにいてくれると約束したではないか。逆も同じだ」 瞳の中の緑の湖面が、涙で揺れている。「【ルクラ】にともに行こう」 「しかし、なぜわざわざラダイ大陸に?」 ジュスタンは解せないというように、眉を寄せる。 「転移装置だ」 「あ……」 ルギドのそっけない答えに、忘れていた大切なことに思い当たる。四つの大陸にひとつずつ配置されているという転移装置。残るひとつが、まだラダイ大陸にあるはずではないか。 「ですが、そんなものが存在する遺跡の話は聞いたことがありません」 「俺は、その場所を知ってるんだ」 皇女の腕をふりほどくと、ラディクは首に巻いているスカーフに顎を埋めた。 「スミルナに、俺の生まれた村がある。山の中腹の祠(ほこら)――その奥にあったのが、たぶん転移装置だ」 一同、あまりの偶然にものも言えない。 だが。 偶然――それは果たして偶然だったのか。 すべては、誰かによって仕組まれた必然なのではないか。 「しかし、困ったな。山のような政務を残しているのだが……」 腕組みをして考え込むふりをするエリアルの顔には、いたずらっぽい笑みが浮かんでいる。 「まあ、四年間たっぷり休んだ兄上に任せても、バチは当たるまい」 「テアテラの復興についても当面は大丈夫です。火棲族のエグラとオブラたちが全力を尽くすと請け合ってくれました」 「やったー。また旅に出られる」 彼らの声は合わさって、次第に浮き立つような調子を帯びてきた。 「私は残る。【ルクラ】などに行く気はない」 ひとりレイアだけが気色ばんで叫んだが、あっけなく黙殺される。 「そう言えば、あわてて出てきたので、長旅の準備をしてこなかったな」 「物資の手配は、フェルナンド父子にやらせればよい」 ルギドは涼しい顔で言ってのける。「きっと思い切り働いてくれるだろう」 くすりと誰かが笑った。どの顔にも晴れやかな表情が広がる。 ゼルは、嬉しそうに彼らの頭上をくるくると舞った。 新ティトス暦1000年春。ようやく平和の訪れたティトスの地を離れ、歴史上初めて、外世界への冒険の旅が始まろうとしている。 目的地の名は【ルクラ】。彼らを待ち受ける地は、想像を絶するほど広大だった。 一万年の間、世界のすべてだと信じていたティトスが、ほんの片隅の辺境の地だと納得できる日は、すぐに来る。 第三部 終 |