ゲーム編



 私は夫の遺志どおりに、セフィロトを自分で育てることにした。

 ところが、家に連れて帰ったセフィロトは、私の言うことをきかない。
 私をマスターと認めないと言うのだ。
 険悪な雰囲気に包まれる私たち。犬槙さんは初期化が必要かもしれないと言う。
 私は、それを聞いたときはじめて、セフィロトがかけがえのないひとつの人格であることに気づいた。
 そして、夫を亡くしたばかりの自分が、彼に心を開いて接していなかったことを思い知らされた。
 夫の樹が遺したバースデーカードに書かれた思いを知ることで、私はセフィロトをロボットではなく、樹と私の子どもとして心から愛そうと決心する。
 その次の日から、セフィロトは私をマスターとして認めてくれるようになった。

第2章 「彼のいる風景」

 私とセフィは、おだやかな日々を送り始めた。
 樹の遺した観葉植物をいつくしむセフィ。

 私はその後ろ姿を見ながら、犬槙さんのことばを思い出していた。
「彼がこれから、ものごとを自律的に判断する知能を発達させるためには、自分で感じる必要がある。たくさんのものに触れさせ、たくさんの場所に連れていって、いろいろな体験をさせてやってほしい」

 私は、セフィの成長のためにどんな体験をさせてあげるべきだろう。
 きちんとした教育方針のもとに綿密なスケジュールを立てて、彼を育てるべきだろうか。世界ではじめての自律改革型ロボットの育成。プロの教育者として、私に委ねられた責任は重い。
 あるいは。
 20世紀からこのかた破壊され続けた地球の自然。それを取り戻そうとする試みはまだ道半ばでゴールは遠い。
 ロボットと自然の調和。もしそんなことが可能だとしたら、それは地球の未来にとっても、セフィの将来にとっても、すばらしいものになるのではないか。
 それとも、私は私らしく、何の気負いもなく、日常の中でセフィを育て導くべきなのだろうか。

 私は悩んだすえ、決心した。


 胡桃の教育方針は
  自然と触れ合わせる。
  教育者として、自分の持てる知識のすべてを与える。
  特別なことはせず、普通の生活を体験させる。




TOP | HOME
Copyright (c) 2003-2004 BUTAPENN.