春という季節は好きですが、4月半ばになると、今でも憂うつな思い出がよみがえります。
それは、この時期が、学校のPTA役員決めのある時期だからです。
実は私はアメリカやタイにいたときも、そして帰国後も、ほとんどPTAに関わっていました。自分から申し出たときも、くじ運が悪かったときもありましたが、専業主婦である私は、やれる人がやるべきことだと思って、そうしていました。
下の息子が高校在学中3年間は、PTA執行部にいました。1年生の母親がいきなり執行部というのは珍しいのですが、予定していた人が急にできなくなり、代わりに副会長になってほしいと電話がかかってきたのが、息子の合格発表の数日後だったのです。
PTAは総会から総会までが1年なので、卒業直後も含めて4回、クラス役員決めの光景を見てきたわけです。
入学式の後、何も知らない保護者がクラスに集まったところを、どっと乱入する。「今日中にこのクラスから役員をふたり出していただきたいのです。」 決まるまでこの部屋から一人たりとも出すものか、という気迫で有志を募るも、たいてい申し出る人は皆無。結局くじびきになります。2年と3年は別途くじびき会場を設けて、公平にくじびきします。
それから、くじにあたった方を説得するのですが、「私はフルタイムで働いているので、会議があっても絶対に出られない。一回たりとも、です」と怒鳴られたり、泣かれたり。
「とにかく、くじに当たられたのだから、やっていただきます。1年に一回だけでも出ていただければいいのですが、出る出ないはそちらの自由におまかせしますから」と、最後には言うしかありません。いったい私たちはなぜ怒られなければならないのだろう、何をやっているのだろうと、みじめな気持ちで痛む胃を抱えながら受話器を置くことになるのです。
相互リンクをしている「Crystal Cafe」のくりすさんが、日記にPTA役員決めに関して、フルタイムで仕事をしていらっしゃる母親の立場で、こう書いておられます。
「私が腹が立つのは、なかなか理解などしてくれないお母様方へではなく、6年間に一度はしないといけない、というルールそのものです。
フルタイムで働く母親が、役員の集まりで会社を休んだり早退をする。 職場の上司や同僚に気を遣い、下手をすると場合によってはリストラや くびになる、というのもきっと現実だと思うんですよ。
……現代社会の現実と昔ながらの学校側の体質が合ってないと思います。」
私はこの文章を読んで、自分もPTAをしながら同じ疑問を抱いていたことを思い出しました。
今の日本は、いまだに女性が家庭にいることを前提として、社会のシステムが動いている。うちの近所のゴミ出し当番などもそのひとつなのですが、そのシステムの最たるものがPTAなのだと。
高校生の母親ともなると、私のような専業主婦を探すほうがむずかしいのです。みんな働いています。そうでなければ、自宅に介護の必要な年寄りがいます。
その中から、クラス役員になって、年に4、5回バスに乗って往復一時間かけて学校に来て、数時間を割いてもいいよと言ってくれる人を数十人探し出すのは、不可能なのです。
PTAに関わっているとき、私は冗談で、「PTA代行業って始めたら、流行ると思わない? 役員になったけど、どうしても出られない保護者になりすまして、プロの代行業者が出席するの」と言ったことがあります。出席者全員、子どもたちとは何の関係もない代行業者であったりしたら、笑えます。
PTAが不必要だと言っているのではありません。
私の知っている限りでは年間1000万を越える予算を扱わなければならないPTA。責任も使命もあります。子どもたちの部活動や図書などの備品を充実させる大切な役目もありますし、教師や生徒たちの支援のために、すべきことは山ほどあるのです(しばしば、会議のための会議みたいな不必要なこともたくさんありますが)。しかしそれを、一部の人の善意と犠牲と半強制的な押し付けによって運営する時代では、もうないということです。
また、PTAというのは毎年人がごっそり入れ替わります。毎年、同じようなところでつまづき、あたふたします。その結果として、過去に先輩たちが試行錯誤のすえに残したマニュアルどおりにやるのが一番効率的ということになり、新しさの全然ない、魅力のない作業になりかねません。
子どもの卒業とともにようやくPTA生活から縁が切れた私が、あくまでも無責任に提唱したいのは、地域拡充型のPTAと、役員の有給化です。
現役の保護者、卒業生OBまたはその保護者、地域の住民、そして現場の教師の四者からなる機関を設立する(いわゆるPTCA)。教師以外はすべて、PTA予算の中からパートの時給程度の賃金を保証する。そうすることで参加できるようになる人がいるかもしれません。
また、毎年入れ替えになる従来の執行部と違って、同じ人が長く担当することによって、五年、十年単位の視野を持った、効率的で実りあるPTAのあり方を示していけると思うのです。
最大の問題は、数百万程度の賃金をあらたにどう捻出するかと、プロ集団化した一部の人が、PTAを私物化する場合の弊害です。
とにかく早くなんらかの対策を打たないと、PTAが崩壊する時期はもうすぐ来てしまいます。