このコラムは、「ブログコラムス」で「BUTAPENNのTIPS for American Life」というタイトルで連載していたものです。「ブログコラムス」が現在休止中なので、今までの5回分(掲載4回、未掲載1回)を再録していきます。
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第一回「スーパーへ行こう!」
私がアメリカのカリフォルニア州トーレンス市に滞在したのは、今から10年以上前のことだ。
当時はバブル真っ最中。日本からアメリカへの駐在員家庭は非常に多かった。今はだいぶ減っているようだが、それでも何らかの形で、アメリカに旅行ではなく住んでみたいという日本人は多いと思う。
情報としてはやや古いので参考になるかどうかはわからないが、アメリカ生活のコツを、雰囲気だけでもお伝えできたらと願っている。
旅行者と生活者の体験はどこが違うかと問われれば、私は買い物をする場所だと答える。
旅行者向けの気取ったお土産店と違って、地元の人々が利用するスーパーは生活臭に満ちている。だから、旅行に行ったときに現地の生活をたっぷり味わうには、一度でいいから現地の人が日用品を買うスーパーをのぞいてみることだ。楽しい発見があることは保障する。
食料品スーパー、英語でいうグロサリーストアに行ってまず驚くのは、なにせ広々とした駐車場。どこからどう突っ込んでも駐車できてしまう。巨大なアメ車はもちろん、RVカー(キャンピング用)を普段の自家用車として乗り回す人もアメリカにはけっこう多い。広い代わり、混んでいるときは延々と歩かなければならないが。
スーパーの中に入っても、広さに圧倒されることは確実だ。
通路も広いが、商品の巨大さも半端じゃない。
飲み物の1リットルサイズを探してもなかなか見つからないのだ。牛乳は1ガロン(約3.8リットル)のプラスティックボトル、ジュースは同じく1ガロンボトルか、ハーフガロン(約1.9リットル)の紙パックが主流。
やっと牛乳の1リットル紙パックを見つけたと思って買って、家で飲んだら吐き出した。牛乳ではなくバターミルク(パンケーキに使用する)だったのだ。こんなの飲みきれるものかと、しぶしぶ大きいボトルを買うしかない。それでも数年経った頃には、楽々飲みきれるようになってしまった。アメリカ人が太るのは、このせいだろう。
シャンプーも缶スープもジャムも、その種類の豊富さに唖然とする。通路の端から端まで、50種類くらいのコーンフレークというのは信じられるだろうか。超ロングな冷凍庫にずらりと並んでいるのは、2パイントのアイスクリーム、サラ・リーの冷凍ケーキ、いくつかの惣菜がプラスティックトレイに詰まった、いわゆる「TVディナー」。
大人ひとり乗れるほどの巨大なカートがいっぱいになるくらい、みな一度にまとめ買いしている。果物や野菜は原則、量り売りだ。トレイに乗せてラップしてあるものは少ない。じゃがいももリンゴもトマトも自分で選って、ビニール袋に好きなだけ入れる。それをレジで重さで測ってくれるのだ。バナナ一本という買い方もでき、合理的である。
さて、アメリカの消費税、セールスタックスについて書いておこう。
セールスタックスは州ごとに違う。まったくノータックスという州もあるが(モンタナ、オレゴンなど)、カリフォルニアは8%前後だった。これが、けっこうすぐに変わるのだ。私の滞在当時、サンフランシスコ大地震が起こったのだが、その復興のために、期間限定でカリフォルニア州のセールスタックスが0.25%引き上げられたものだ。
もうひとつ日本と違うところは、アメリカの消費税は、生活に必要な基本的商品にはかからないシステムになっている。
たとえば、じゃがいもを買ってもタックスはかからないが、ポテトチップスを買うとタックスが課せられる。自動的にレジで判別してくれるのだ。これなどは、日本の消費税にもぜひ導入してほしい制度だ。ただしどこまでが生活必需品かを決定するのは、かなりむずかしい。
さて、アメリカのレジに並ぶと、「ハロー」の次にまず聞かれるのが、「Paper or Plastic?」
これをアメリカに行って最初に尋ねられたときは、困った。まったく聞き取れないのだ。英文科卒という自信ががらがらと音を立てて崩れた瞬間だ。
種明かしをすると、「紙袋にしますか、ビニール袋にしますか」と聞かれただけだった。
あちらでは、スーパーのレジに、買ったものを袋に詰める専任の人がいることが多い。そのときに入れる袋をこちらから指定できるのだ。紙にプラスティックのダブルバッグという我が儘も聞いてもらえる。
日本で自分で袋詰めするスーパーしか行ったことがなかった私は、その簡単な英語さえ理解できなかったのだ。つくづく語学には生活体験が伴わなければならないと思い知る。
支払いには現金やもちろんカードも使えるが、私はもっぱらチェック(小切手)を使った。私のような外国人の専業主婦でも、銀行に口座を持つなら、その州内では自分専用のチェックが使えるのだ。小額でもOKなので、小銭を探して財布を探る必要もないし、現金を下ろす必要もない。だから、10ドル程度の現金しか持たないという人が多い。慣れると、これなしではやっていけないほど便利。現に日本に帰ってきた直後、私は現金を持たずに家を出てしまう癖を直すのに苦労した。
ただしチェックを使用するには、身分証明として州の自動車免許証を提示した上、ライセンスナンバーを書き留められる。
チェックのもうひとつの便利さは、公共料金の支払い、子どもの習い事の授業料、慈善団体への寄付などにも、封筒に入れて郵送することができることだ。つまり、銀行へ行って振り込む手間要らず、手数料要らずなのである。ただし銀行の残高にはいつも注意が必要だ。
ときどき、フード・スタンプを使っている人を見た。いわゆる生活保護家庭に支給されるクーポンのようなものだが、使えるのは食料品に限られる。日本でこういうものを人前で使うのは勇気がいるだろうが、けっこう身ぎれいな老婦人なども堂々と使っているのは、文化の違いだなあと思った。
クーポンといえば、「ミール・クーポン」というのもある。こちらは現金の価値はまったくなくて、新聞やチラシなどについている「15?引き」「3つ買えばもうひとつおまけ」などの割引券である。けっこうこまめに貯めて使うと節約になるので、一家の主婦はせっせとはさみで切り取って、財布をぱんぱんに膨らせて持ち歩いている。
数日分の食糧を買い込むと、大きな紙袋4つか5つになる。それをカートに積んで、駐車場で車のトランクにどさっと乗せて、家に帰ると超大型冷蔵庫にずんと詰め込む。このパワフルな食糧事情に慣れると確実に太ってしまう。
日本人はやはり日本食だという人は、トーレンス市内・周辺には日本人御用達のスーパーもいくつかあった。しゃぶしゃぶ用の薄切り肉や刺身や日本のお菓子がほしくなると、ついついこっちのほうに足が向いてしまうのも確かだ。ただし、べらぼうに高い。それでついつい、日本から遊びに来るお客様に「海苔やふりかけ持ってきてね」と頼むことになる。
最後にひとつだけ、注意事項を。
スーパーの駐車場に着いたとき、連れの子どもが眠っていても、絶対に車に置いていってはならない。たとえ数分の買い物でもだ。アメリカ人は、子どもがひとりで車の中にいるのを発見すると即座に警察に通報する。容赦はない。私の滞在中、それで警察を呼ばれてしまい、大騒ぎを起こしてしまった日本人を知っている。
【おことわり】
この情報は十年ほど前のものであり、現在は変わっている場合もあります。また、アメリカは州によって大きく事情が違うので、その点ご了承ください。