きのうは、なんばの大阪松竹座で、歌舞伎を見てきました。
なにを隠そう、これだけ何十年も生きてきて、私が歌舞伎に行ったのは実は初めて。それに比べてわが夫は学生時代の友人と歌舞伎に行くことが多く、大学のときは、大向こうのあの「成駒屋!」「音羽屋!」という掛け声を無謀にもやっちまったとか(あれは、はっきり言って一般人には無理だと思ふ)。きのうもその友人カップルのお誘いでした。
昨日の夜の部の演目は、「毛抜」、「仮名手本忠臣蔵」九段目「山科閑居」、踊り「藤娘」と「供奴」という、休憩も入れると全部で四時間の演目。
今回の舞台は、上方歌舞伎の坂田藤十郎と江戸歌舞伎の市川團十郎という東西の名跡が、歌舞伎史上初の競演をするのだと聞かされましたが、もちろんそのありがたさもわからぬド素人であります。
けれど、いいお席を取っていただいたこともあって、俳優さんの表情からその息遣いまで感じることのできる、勿体無いほど恵まれたひとときとなりました。
「毛抜」というのは、歌舞伎十八番の中のひとつだそうです。
で、ストーリーというのが、現代風に言うならばコミカルな探偵もの。
市川海老蔵扮する文屋家の家臣・弾正が、主の許嫁に決まっている小野家の姫のもとを訪れる。実は姫の輿入れがあまりに遅いので様子を探りに来たのだが、姫は髪の毛が逆立つという奇病に冒されていた。実はそれは家老のお家乗っ取りの陰謀の一環で、弾正はその陰謀を推理して見破る。
待たされている弾正が、若衆(♂)にちょっかい出したり、腰元を口説いたりのプレイボーイぶりを発揮するのですが、海老蔵が若くてハンサムで、見得を切るポーズなんか、まるでガンダムみたいにかっこいい(謎)。
「仮名手本忠臣蔵・山科閑居」は、主の切腹のためお家断絶になった家老・大星由良之介(團十郎)のわび住まいのもとに、息子の許嫁である娘と母(母役が藤十郎)が訪れる。ところが彼女の父・加古川本蔵は、主君が刃傷沙汰のときに引き止めた人物であり、主の本懐を遂げさせず他家の家老におさまった本蔵は、いわば由良之介にとって敵。由良之介の妻に離縁を申し渡された母娘は庭で自害して果てようとする。
その母娘の情愛の描写に続いて、由良之介と本蔵の武士としての気概と和解が描かれます。ふりしきる雪を背景として、娘の着る白無垢、母の着る赤、由良之介の妻の黒がくっきりときわだって、色彩的にも一幅の絵を見るような、しっとりと胸を打つ舞台でした。