前回の続きです。
義母の様子が何かおかしいなと感じ始めたのは、足の手術が終わって退院してから、しばらくしてからでした。
「委員をしていたときの書類やノートをまとめて、引継いでくれた人に渡さなければならない」
と、毎日せっせと整理をしている様子なのですが、書類の山がいっこうに減らないのです。いつ見ても押し入れやタンスをごそごそ探しています。
何回も同じ話をする、かかってきた電話の内容を覚えていない、今が何曜日かを失念するということも起こりました。しかし、ここまでは、年齢を召した人ならよくあることです。
決定的になったのは、三年前のこと。
財布がないと言いはじめたのです。そのたびに家族総出で探して見つけるのですが、それが箪笥の上であったり、カバンの中であったり、いつも置き場所が変わります。
そして、電話の内容はおろか、電話がかかってきたという事実も忘れてしまうようになったのです。
あれほど寸暇を惜しんでしていた趣味の刺繍も、いつのまにか、やらなくなっていました。
かかりつけの医師に相談し、脳神経科を紹介してもらって、MRIと認知症簡易診断を受けました。
認知症チェックシートについてのサイト
認知症診断は、「今は何年何月ですか」や、「住所、郵便番号、電話番号」と言った質問から始まり、はさみやシャーペン、眼鏡といった品々を三つ、目の前に置いて覚えてもらい、それをいったん隠します。
数分してから、さっき見たものが何だったかを尋ねるのです。
義母はみごとに、三つとも別のものの名前を答えていました。
日付も言えません。しかし、住所や電話番号は、きちんと覚えています。
人間には、短期記憶、中期記憶、長期記憶の三種類の記憶があると、私は学生時代に心理学で学びましたが、義母の場合は、この長期記憶はしっかりしているものの、他の記憶(特に中期記憶)に不具合が起こってきているようなのです。
医師はこのことを、だいたい次のように説明してくれました。
脳になんらかの障害が起こったとき、ある情報に至る回路が損なわれるということが起こる。しかし、普通は別の迂回路(シナプス)を作って、その情報に至る道を取り戻すことができる。けれど、義母の場合は、その迂回路を作る機能が衰えてきているのだと。
病名は、「脳血管性認知症」と診断されました。