「ねえ、今シチューを作ってるの」
妻は背中を向けたまま、扉から入ってきた俺に話しかけた。
「何の肉だか、当ててみて」
「……さあな」
「仔牛の肉よ、すごいでしょう。村の人が薬のお礼にってくれたの。帰ってきて、すぐ作り始めたんだけど、本当は長い時間煮込んだほうが美味しくなるわね」
「明日のほうが、もっと美味しいな」
「ええ、そう――」
振り向いた妻の口から、絶叫がほとばしった。
明日という日が、もし俺たちにあるのなら。
いや、そんなものはない。異端審問官と魔女に、そんなものが赦されるはずはない。
だが。
もし仮に赦されるなら。
俺は今、心から願う。
明日もカトリーネとともに、生きていくことを。
明日もふたりでテーブルに向かい、よく煮込んだシチューを分け合って食べよう。
「+創作家さんに10個のお題+」
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こんにちはー(*^_^*)
お題もの完結したんですねー。私も毎回楽しみに読ませていただいていました。どんなドラマでもアニメでもそうなのですが、連続ものは、最後から二番目のお話が私は一番好きです。なので、ここでコメントさせていただきます(笑)
謎と、シニカルでありながらコミカルな会話と、不安を隠した穏やかな日常、絶望的な事実と、救いとしての愛情、それぞれがキラキラした輝石のように連なった作品だと思いました。
特に「明日は美味しい」」での、約束されていない明日を願う悲壮感と幸せの象徴のような一晩寝かせたシチューが、鮮やかなコントラストを描いていて、泣けました。ううう。
心がフワリズシン(どっちも^^;きたー)とくるお話、ありがとうございました。
招夏さん、いらっしゃいませ。最後から二番目へのコメント、ありがとうございます。
そうそう、私も連ドラでは、最後から二番目が一番好きですね。最終回はどんな良作でも、やっぱりガッカリしてしまうというか寂しくなってしまうので。
お褒めの言葉、恐縮です。天然の妻と真面目なA型人間の夫のほのぼの生活は、書いていた私も楽しかったです。深く書き込めば、どんどん長く、サドなお話になっていくテーマなのですが、お題の明るさと、「掌編で10話」という縛りのおかげで、そうならずにすみました。
連載中は、シチューを食べたくて食べたくてたまらなかったです。一回作りましたが、BUTAPENN家には飢えた野獣が夜中に徘徊している(深夜バイト野郎)ので、朝起きたらなくなっていたのです。次の日まで寝かせたかったなあ。