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このところ、すっかりファンタジー専門サイトと化している拙サイトですが(少し前までは、SF専門サイトと言ってもよかったのに)、このところ「伯爵家の秘密」「魔王ゼファー」「新ティトス戦記」と更新を続けていて、ひとつ気づいたことがあります。
私の書くファンタジーのテーマは「王の資質」ということにあるのではないかと。
ルギドにしろ、ゼファーにしろ、エドゥアールにしろ(そして三神船長もそうかもしれませんが)、天才であり自由奔放のようでいて、絶えず臣下のことに気を配りながら、強靭な精神力で自分を律している男というのが私は好きなんだなあと、つくづく思ったのです。
で、大好きなローズマリー・サトクリフの「英雄アルキビアデスの物語」(上下巻)は、そんな私の萌え要素がてんこもりでした。
2500年前のエーゲ海の波涛、冒険物語顔負けの波瀾万丈の生涯を現実に生きた英雄アルキビアデス。類まれな美貌と才能、戦略と機知と決断力を備え、ペロポネソス戦争を閃光のように駆け抜けた英雄の生涯を生き生きと描く。(アマゾンの紹介文より引用)
古代ギリシアの政治家にして軍人(もちろん実在の人物)アルキビアデスの波乱万丈の物語なのですが、史実に基づきながら、等身大の人間ドラマに仕上げているところは、さすがサトクリフです。しかも、彼を取り巻く人々――航海長、漕手、遊び女、アテナイ市民などの目から交互に見た一人称小説の形を取っているので、当時の世界状況や主人公とその周囲の人間の性格が、より深く、立体的に描かれているのです。
さらに、歴史小説のようでいて、恋愛小説の要素もたっぷりでした。
もっとも女性の目から見れば、これほど恋人にすると難儀な男性もいないでしょう。とにかく美貌と活力に溢れたナイスガイ。ひとときもじっとしていることはなく、敵を作りやすく、女たらしで、笑いながら破滅に向かって突っ込んでいける。
祖国アテナイに裏切られ、スパルタに与し、またスパルタを見限ってアテナイに歓呼の声をもって迎えられ、スパルタとの戦争に惨敗し…という、とにかく目まぐるしい栄枯盛衰が描かれます。一時はすべてを失い、馬賊に身をやつすときもあるほどです。
その中で、少しずつ「老い」という強敵が彼を蝕み、時代は彼を見放し始めます。
彼に寵愛されたティマンドラという遊び女は、ずっと彼を待ち続けるのですが、落ち込んで抜け殻のようになったときだけ、彼女のそばに戻ってきて、歴史が彼を必要とするときは、見向きもされない。結局、彼はアテナイという祖国に魂を囚われているのだから、敵うわけはないと呟くところは、本当にせつないです。
人間の不慮の死を悲劇と呼ぶならば、これはまさしく悲劇の中に終わるお話なのですが、ひとりの人間の生涯のいさぎよさ、ひとつの輝かしい時代の終わりを感じさせる重厚な読後感は、決して暗いものではありませんでした。「王のしるし」を読んだときも思ったのですが、主人公の死という幕切れの小説を感動的に書ききるサトクリフは、やっぱりすごいや。
原題は「The Flowers of Adonis」と言います。アドニスの花とは、赤いアネモネのことです。一生を戦乱の中で血にまみれて生き、血にまみれて死んでいった、それでも神々に嫉妬されるほど愛される男だったアルキビアデスを象徴しているのでしょう。
こちらではお久しぶりです。おー、何だか面白そうだなあ。
butapennさんの好きポイント、なるほどと思いました。私も結構そういう部分の登場人物の関わり合いを楽しく読んでいるかもしれません。ティトス戦記はその傾向が顕著でしたね。
ファンタジー方面も楽しみにしております。こちらもラスト間近なので、負けずにがんばるぞ。
茶林さん、いらっしゃいませ。
BUTAPENNの萌えポイントがわかりましたか。
でも、こんな男、現実にはいないなあ。わが道を行くヤツは人の気持がわからないし、回りに優しいと優柔不断だし。まあ、せめてお話の中では思い切り夢が見たいです。
ファンタジーが続きますが、お付き合いください。
おおっ。「バブルダイバー」のラストが近づいているのですか。
今脳みそがすっかりSFから遠ざかっているので、SFマインドを補給しに、読みに行きます。