悲惨な事故のニュース画面から放たれる光を片頬に浴びながら、私は必死で夫にメールしていた。
あそこにいるかも。まさか。でも。でも、通じない。
最後に交わした言葉。今朝、彼が玄関で靴を履いてから「マフラー忘れた。とってきて」と言われたのだ。
何よ。自分で取りに行けば。あからさまに不機嫌な顔でマフラーを渡し、彼を送り出した。
どうして、にっこり笑えなかったんだろう。どうして、今日にかぎって、あんな別れ方をしたんだろう。あなたの網膜に焼きついているのは、私のどんな顔?
突然、携帯の画面が切り替わって、レモン色の光があふれる。
「あなたのメッセージをお届けします」
送付先アドレス、タイトル。メッセージ。
そして一番最後にあったのは、【希望送付時刻】という欄。「過去にも送れます?」
私は、震える指で文字を打った。
「さっきはごめんね。愛してるよ。早く帰ってきて」
そして、夫の出勤した時刻を入れ、OKボタンを押した。
携帯をにぎりしめ、突っ伏している私に、どこからか夫のやさしい声が聞こえてきた。
「どうしたの?」
「あなたにもう一度会いたい」
「うん。だから早めに帰ってきた」
ふわりと空気が動いて、コロンの匂い。私は彼のコートの襟をつかみ、マフラーの温もりに懸命にすがりついた。
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とても魅力的な記事でした!!
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ありがとうございます。。