突発的に始めてしまったハロウィン小話、一夜明けた今日、海よりも深く反省しております(笑)。
しかしながら、こういう機会に本編を書く気になるということも、ひょっとしてあるやもしれず(←弱気)、ハロウィン当日まで、書けるだけ書いていこうと思います。
よろしければ、「このカップルを書いてほしい」とリクいただければ、優先することも稀にあるやも(←さらに弱気)
今日は、SF組からひとつ。(「続きを読む」をクリックしてください)
ユナが目を覚ますと、ベッドの上で野獣がじっと彼女を見下ろしていた。
「……あなた?」
「ガルル」
頭は、前世紀のアニメ映画に出てくる野獣のマスク。体は、プルシアン・ブルーの一級航宙士の制服にキャプテンの徽章。
どう考えても、キャプテン・レイ・三神である野獣は、何を尋ねても、「ガルル」としか答えてくれない。
朝食のためにメイン・ダイニングへ行くと、
「美女と野獣だ!」
居合わせた人々の拍手喝采を浴びた。
クロワッサンとカフェオレを取ってユナが席に着くと、かの野獣は向かいで、卵二個のスクランブルエッグとサラダを猛烈な勢いで食べ始めた。マスクをかぶったままなのに、実に器用だ。
クルーたちは、喜色満面の笑みを浮かべて、わらわら近寄ってきた。
「ユナさん、ベッドで野獣に噛みつかれませんでしたか」
「危険を感じたら、いつでも『おすわり』と命令したらいいですよ」
皆、キャプテンをからかうのが、楽しくてたまらない様子だ。
「……きさまら、覚えてろ。明日になったら非常用ハッチから宇宙に蹴り飛ばしてやる」
「ん? なんか言ったかい、野獣くん」
「……ガルル」
その日の主操縦席の担当は、ヨーゼフ・クリューガーだった。相変わらずプライベートではケンカの絶えない彼だが、ブリッジの中ではしっかりと任務を全うするようになった。
「で、いったい何があったの?」
通信席からデータのやりとりの合間に、ユナはドイツ人のパイロットにこっそり尋ねた。
「こないだキャプテンは、ミケーレと賭けブリッジの勝負をして、大負けしちまってね」
ヨーゼフの笑いをこらえた声が返ってくる。
ミケーレは、ユナに言い寄った経歴のある美貌のイタリア人ピアニストだ。レイとしては、それを根に持っていて、ついむきになって勝負の引き際を誤ったのだろう。
「それで、ミケーレの出した罰ゲームが、ハロウィンの今日いちにち、野獣のマスクをかぶって、会話も禁止、というものだったのさ」
「あきれた」
《ギャラクシー・フロンティア》号の中では、賭博は一切ご法度だ。そう定めたキャプテン自身が規律を破るなんて。
「同情の余地なしね」
その日じゅう、キャプテンは用もないのに野獣の姿で船内をうろついては、子どもたちを大喜びさせていた。
(案外、本人も楽しんでいるのかもしれないわ)
その夜に催された仮装パーティでは、思い思いの衣装を凝らしたメンバーたちが、メインダイニングをところ狭しと踊り回った。
野獣とユナが優雅なワルツを踊り始めると、人々は足を踏み鳴らして、大歓声をあげた。
「楽しい一日だったわ」
幸福な思いでベッドに入ると、明かりが消され、レイがシーツの下にすべりこんできた。
一日ぶりに見る、彼の素顔だ。
「あのマスクは?」
「たった今、十二時を過ぎた」
耳元で低くささやいた夫は、マスクを脱ぎ捨てた解放感にまかせて、情熱的なキスをユナの唇に、首筋に、鎖骨に落とした。
結局、夜が明けるまで、キャプテン三神は野獣のままだった。